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第39召喚 密かに託された想い

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「イヴさんの言いたい事は分かりましたけど、何で急にギルドが必要なんですか?」

 アーサーの率直な疑問。だがこれは話を聞いていたエレインも同じ事を思っている。イヴと初対面のモルナはそんな話よりもご飯に夢中だ。

「これも昨日話したと思うが、私が魔眼で視たのは“魔王”の誕生と世界の終末。そしてそれを救えるのは勇者であるシェリルなのさ。だからこそシェリルには仲間とギルドが必要。いくらあの子が強くても、1人では魔王を倒すどころかそこまで辿り着けないからねぇ」

 ツインマウンテンでの出会いからアーサーがイヴに対して分かっている事。それはイヴという人物が100歳を超えているのに滅茶苦茶元気――いや、それどころか全く歳を感じさせない50そこそこに見える外見と、基本的に口が悪くせっかち気味であるという事。

 逆を言えばアーサーはまだイヴの事を全然知らないのだが、今目の前で話す彼女の思念体は間違いなく微塵の冗談も言っていない。アーサーはそう感じていた。

「話は分かりましたよ。でも僕も昨日言ったと思うんですけど、決してイヴさんを疑っているという訳じゃありません。ただ話が余りに突拍子過ぎて、正直実感がまるで湧かないんでよ……。
ダンジョンには魔王が存在するって事ですよね? その魔王が世界を滅ぼすと。そしてそれを救えるのがシェリルだと」
「ああ、そうさ。まだ私を疑っているとは、どこまで馬鹿者なんだいアンタは」
「いえ、だから疑っている訳じゃないですって! そもそも何でイヴさんは僕なんかに世界を救うシェリルを任せているんですか? ギルドだって僕ではなく、ジャックさんに頼んで精霊の宴会に入れてもらった方が絶対にいいと思いますけど……」

 客観的に見てもアーサーの言う事が正しいだろう。
 世界最強のハンターであるジャックが率いる精霊の宴会。このギルドが世界一なのは間違いない。ならばそれ相応の実力があるであろうシェリルもそこに入るのが最も良いと考えるのが普通だ。

 しかし。

(話はそんなに単純じゃないのさ。強いだけでは解決にならない。世界を――そしてシェリルを救えるのは“アンタしかいない”んだよアーサー)

 イヴは1人そう思いながら静かにアーサーを見つめていたのだった。

「それじゃダメだからアンタに言ってるんだよ馬鹿者。シェリルは元々“奴隷”でねぇ。そんな彼女の才能を買ったのが他でもない、エディング装備商会のトップであるオーバト・エディング。更に奴は自分にメリットしかない安い契約をシェリルに結ばせ、都合良く彼女を使っていたのさ。

だから私はシェリルと共にその契約を破棄するべく動いていた。
オーバト本人は確かに隙が無い男だったが、息子のバット・エディングは面白い程単純でアホな男。アンタも知っているだろう?
これまで息子の悪事を揉み消していたオーバトに、私はついこの間“ある証拠”を叩きつけてやったのさ。

この証拠を世に出さない代わりにシェリルを渡しなとね。
そして結果はこれ。
オーバトは私が思っていた以上に息子に手を焼いていた様だねぇ。その証拠と他にも諸々突きつけてやったらシェリルとの契約を破棄したのさ」

 一気に衝撃の事実を聞かされたアーサー。
 彼は戸惑いあたふたしながらも懸命に今の情報を整理した。

「私の他に世界の未来を知るのはジャックのみ。奴は内からオーバトの情報を得る為に水面下で動いていに過ぎない。勿論同時にダンジョン攻略も本気で目指しているから、結果的にエディング装備商会の力はジャック達にもかなり役立った。肝心なのはその力をしかと理解して利用出来ているのかどうかさ。

運良くシェリルを奪い返せた上に、私がジャック達と繋がっている事も悟られずに済んだのは大きいねぇ。だからシェリルを精霊の宴会に入れるのは簡単だが、それでは折角のアドバンテージをみすみす棒に振るようなものだ。馬鹿でもこれぐらい分かるだろう? ヒッヒッヒッ」

 事の経緯を話すイヴは不敵な笑みを浮かべていた。
 これではどっちが悪者か分からないと思ったアーサーであったが、当然そんな事は口にしなかった。

 差し詰まるところ、このままイヴとジャック達の関係がバレないよう、且ついい感じに目くらましをする為にもギルドを建てろと言う事だ。イヴからの目に見えない圧力を感じ取ったアーサーは最早ただ頷く事しか出来なかった。

「ギルドを建てればアンタにだってメリットしかない。実力を認められればもっと稼げるようになるからねぇ。それこそエディング装備商会と契約でもすれば、奴から大金を奪えるだろうねぇ。ヒッヒッヒッ!」

 イヴのこの何気ない一言は、アーサーをその気にさせたのだった――。
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