上 下
51 / 73

第51召喚 ゆったりとした時間

しおりを挟む
♢♦♢

~病院~

 目を開けたアーサー。
 彼の視界に最初に飛び込んできたのは真っ白な天井だった。

「ここは……。痛ッててて……!」

 寝ている体を起こそうとしたアーサーは痛みで顔を歪める。
 よく見ると自分の体は包帯だらけ。それに腕には針が刺さり、そこから細い管が伸びていた。

「そうだ、確かジャックさんと話している時に僕は――」

 痛む横っ腹を押さえながら、アーサーは自分が負った傷やジャック達の事を徐々に思い出す。

「あ、目が覚めたんだねお兄ちゃん!」
「アーサー様!」
「ご気分はどうですかアーサー」

 アーサーが起きたタイミングで丁度エレイン達が病室に入って来た。

 どうやらはアーサーは倒れた後直ぐに病院に運ばれ処置を受け、そのまま丸1日眠っていたらしい。目を覚ました事でエレイン達にも安堵が生まれていた。

「一応大事には至らなかったみたいだから、検査して問題なければ退院出来るって。良かったねお兄ちゃん。もう心配掛けないでよね」
「そうなんだ。ハハハ、ごめんごめん」
「心配しないでアーサー様! 帰った後もモルナがお世話してあげるから☆」
「私も何でもさせていただきます」
(お世話……。何でも……)

 そう言ったシェリルとモルナの言葉がいかがわしく聞こえたのは勿論アーサーだけであった。これが男の性か。怪我が感知していないこの状況でその発想になるのなら大丈夫だろう。

「アハハハ! これはこれは。少し見ない間に随分とまぁ立派な御身分になっているねぇ、アーサーや」
「え!? か、母さんッ!?」

 アーサーの向かいから突如聞こえた母親の声。
 なんと彼が寝ている部屋は母親と同じ病室だった。
 ベッドの周りがカーテンで囲われていたせいでアーサーは全く気が付いていなかったのだ。

「何時からこんな可愛い女の子をたぶらかす男になったんだい、アンタは」
「い、いや、僕はそんな事してない……! ってそんな事より何でここにいるの!?」
「何言ってるのよ。病人が病院にいるのは当たり前でしょ。寧ろアンタが後からこの病室に来たんだよアーサー。先輩の私を敬いな」

 アーサーとは違って強くパワフルな印象の母。恐らくこの性格はエレインに受け継がれたのだろう。母親の社交的な性格もあってか、既にシェリルもモルナもアーサーのお母さんととても仲良くなっていた。アーサーだけが現状に置いてけぼりだ。

「じゃあ私達は帰るね、お兄ちゃん。また明日来るから」

 エレインはそう言って帰り支度をする。
 アーサーも無事に目を覚まし、彼ほど怪我も負っていないシェリルとモルナも一緒に帰る様だ。

「シェリルとモルナは大丈夫なのか?」
「モルナは獣人族だからね。アーサー様とはフィジカルの強さが違うって☆」
「私は勇者なのでアーサーよりも防御力が上です。だからそんなにダメージではないです」
「あ……そうなんですね……」

 勿論2人に悪気など一切ない。思った事を直接言っただけ。
 だがそれは確かに手負いのアーサーに更なるダメージを与えていたのだった。

 情けない気持ちになるアーサー。
 そしてそんなアーサーを他所に、エレイン達は元気よく手を振りながら帰って行った。

「アッハッハッハッハッ!」
「笑うんじゃないよ。息子が情けなくなっているのに」
「あの子達が一緒ならもう心配ないね!」
「それはごもっともだ……」

 久しぶりに母親とゆっくり会話をするアーサー。お見舞いには何度も来ていたが、生活の為いつも時間に追われていたアーサーは、こうして話をするのは久しぶりである。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

俺だけ展開できる聖域《ワークショップ》~ガチャで手に入れたスキルで美少女達を救う配信がバズってしまい、追放した奴らへざまあして人生大逆転~

椿紅颯
ファンタジー
鍛誠 一心(たんせい いっしん)は、生ける伝説に憧憬の念を抱く駆け出しの鍛冶師である。 探索者となり、同時期に新米探索者になったメンバーとパーティを組んで2カ月が経過したそんなある日、追放宣言を言い放たれてしまった。 このことからショックを受けてしまうも、生活するために受付嬢の幼馴染に相談すると「自らの価値を高めるためにはスキルガチャを回してみるのはどうか」、という提案を受け、更にはそのスキルが希少性のあるものであれば"配信者"として活動するのもいいのではと助言をされた。 自身の戦闘力が低いことからパーティを追放されてしまったことから、一か八かで全て実行に移す。 ガチャを回した結果、【聖域】という性能はそこそこであったが見た目は派手な方のスキルを手に入れる。 しかし、スキルの使い方は自分で模索するしかなかった。 その後、試行錯誤している時にダンジョンで少女達を助けることになるのだが……その少女達は、まさかの配信者であり芸能人であることを後々から知ることに。 まだまだ驚愕的な事実があり、なんとその少女達は自身の配信チャンネルで配信をしていた! そして、その美少女達とパーティを組むことにも! パーティを追放され、戦闘力もほとんどない鍛冶師がひょんなことから有名になり、間接的に元パーティメンバーをざまあしつつ躍進を繰り広げていく! 泥臭く努力もしつつ、実はチート級なスキルを是非ご覧ください!

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。

夜兎ましろ
ファンタジー
 高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。  ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。  バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

【悲報】人気ゲーム配信者、身に覚えのない大炎上で引退。~新たに探索者となり、ダンジョン配信して最速で成り上がります~

椿紅颯
ファンタジー
目標である登録者3万人の夢を叶えた葭谷和昌こと活動名【カズマ】。 しかし次の日、身に覚えのない大炎上を経験してしまい、SNSと活動アカウントが大量の通報の後に削除されてしまう。 タイミング良くアルバイトもやめてしまい、完全に収入が途絶えてしまったことから探索者になることを決める。 数日間が経過し、とある都市伝説を友人から聞いて実践することに。 すると、聞いていた内容とは異なるものの、レアドロップ&レアスキルを手に入れてしまう! 手に入れたものを活かすため、一度は去った配信業界へと戻ることを決める。 そんな矢先、ダンジョンで狩りをしていると少女達の危機的状況を助け、しかも一部始終が配信されていてバズってしまう。 無名にまで落ちてしまったが、一躍時の人となり、その少女らとパーティを組むことになった。 和昌は次々と偉業を成し遂げ、底辺から最速で成り上がっていく。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

無名のレベル1高校生、覚醒して最強無双

絢乃
ファンタジー
無類の強さを誇る高校二年生・ヤスヒコ。 彼の日課は、毎週水曜日にレベル1のダンジョンを攻略すること。 そこで手に入れた魔石を売ることで生活費を立てていた。 ある日、彼の学校にTVの企画でアイドルのレイナが来る。 そこでレイナに一目惚れしたヤスヒコは、なんと生放送中に告白。 だが、レイナは最強の男にしか興味がないと言って断る。 彼女の言う最強とは、誰よりもレベルが高いことを意味していた。 レイナと付き合いたいヤスヒコはレベル上げを開始。 多くの女子と仲良くなりながら、着実にレベルを上げていく。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜

むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。 幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。 そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。 故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。 自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。 だが、エアルは知らない。 ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。 遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。 これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。

処理中です...