上 下
22 / 73

第22召喚 お前には一切容赦しない①

しおりを挟む
「おいバット……。お前まさかエレインに何かしたんじゃないだろうな」

 アーサーはこの瞬間ほど人生で殺意が込み上げてきた事はない。
 エレインの現状を一刻も早く知りたいと思うと同時に、バットがエレインに何をしたのか正直聞きたくないという気持ちも生じていた。

 僅か数秒の沈黙が永遠の長さに感じる。
 次の言葉が聞きたいが聞きたくない。
 一瞬で様々な事が脳裏を駆け巡ったアーサーであったが、そんなアーサーを無視するかの如く、バットはモニター越しに不愉快な高笑いを響かせた。

<ギャーハッハッハッハッ! そうそう! それだよそれッ! お前のその絶望するアホ面を見たかったんだよ俺は! ハッハッハッハッ!>
「おい! いい加減にしろよお前! エレインに何かしたら殺すからな!」
<殺すぅ? お前如きか俺を? ギャーハッハッハッ、強がるんじゃねぇよボケが。無能召喚士のスキルしかねぇ最弱のお前じゃ100%無理だよそんな事! そんなに俺に歯向かいたいなら口だけじゃなくて行動で示してみろ。哀れなクソ兄貴よ!>

 そう言ったバットが突然モニターから顔を消すと、次の瞬間、そこに映し出されたのは手足を縛られ椅子に拘束されたエレインの姿だった。

「ッ……! エレイン!?」
<ん゛ん゛んーッ!>

 モニターの向こうで拘束されているエレインと友達のサラ。猿ぐつわを付けられたエレインは言葉を発せなかったが、アーサーにはしっかりと「お兄ちゃんッ!」と助けを求めるエレインの言葉が聞き取れた。

「何してんだよお前ッ! 早くエレイン達を解放しろッ!」
<ハッハッハッハッ! 奇遇だな。俺もそろそろ彼女達を解放してやろうと思っていたんだがな、他の連中がお前の妹達に完全に興奮しちまって抑えられねぇみたいなんだよ。
だからいっその事これから皆で楽しもうかなと思ってな! 一応兄貴に乱交許可もらおうと思って連絡したんだわ! ギャハハハハハ!>

 余程体を震わせてバカ笑いしているのだろうか、バットのモニター画面は激しく揺れている。奥からは助けを求めるエレイン達の声とバットの連れ達の下衆な笑い声も聞こえ、ウォッチから発せられるその無機質な音声は今しがた、アーサーの中の“何か”をキレさせた――。

<おいアーサー! 俺達が何処にいるかはもう分かっているな? 妹の体をこれ以上露出させたくなかったら今すぐ来い! 今までのふざけた態度を反省して俺に詫びを入れに来やがれッ! 
土下座で靴でも舐めたら大事な妹達を返してやるよ。ギャーハッハッハッ! じゃあそういう事だからよ。待たせるんじゃねぇぞボケカス!>

 こうして、バットとの通話は突如終わった。

 ウォッチから発せられる音が消え、辺りは耳鳴りが聞こえる程の静寂に包まれる。

 居ても立っても居られない激しい怒りを抱いているアーサー。
 だが彼はそれに反するぐらいの妙な落ち着きと冷静さも抱いていた。

 嵐の前の静けさ――。

 今の状況を表す言葉はこれ以外にないだろう。

(エレイン……バット……)

 グッと握り締めた拳を解き、大きく深呼吸をしたアーサーは直ぐにダンジョンを出た。

 そして彼は向かう。
 場所は勿論、バットがエレイン達を拘束している『黒の終焉』のギルド。 

 アーサーが黒の終焉に行くのは追放されたあの日以来。だが今のアーサーは微塵も当時の事など思い出していなかった。今の彼の心に宿るはバット達への凄まじい怒りのみ。一心不乱に走るアーサーは瞬く間に黒の終焉ギルドへと辿り着く。

**

~ギルド・黒の終焉~

「あ~面白かった! 久々にアイツのアホ面を拝めたぜ。ハッハッハッ」
「バット君。アーサーのやつ来るかな?」
「ああ。あの無能は必ず来るよ。だって無能だからな」
「ヒヒヒヒ! 何だその意味分からない理由は」
「なぁ、俺もう我慢出来ねぇんだけど! 先ヤッていい?」

 ウォッチでの通話をし終えた後でも、黒の終焉ではバット達の下衆な会話が続いていた。拘束するエレインとサラに我慢が出来ない様子の男達はどんどんエレイン達に寄っていく。

「おい! 手ぇ出すんじゃねぇぞお前ら!」
「何でだよ。別にもういいだろ。減るもんじゃないし」

 バットはそう言って他の男達を止めた。
 当然これは彼の優しさなんかではない。寧ろバット自身がもっと状況を楽しみたいだけであった。

「そう慌てるんじゃねぇよ。楽しみは何処にも逃げないんだ。まぁ見てろって。アイツをボコボコにしたら、奴の前で皆で楽しもうじゃねぇか!」

 冷酷な表情から一転、再び不敵な笑みを浮かべたバット。

「うっわ~、流石バット。考えが最低だな。アーサーが詫び入れても許す気ないじゃん」
「ハッハッハッハッ。当たり前だろうが。最近の奴の態度は余りにもふざけてやがったからな。ただボコるだけじゃ俺の気が済まねぇ。徹底的に追い詰めてやる」

 そう宣言したバットは徐にエレインの元へと近付き、彼女の顎をクイっと持ち上げた。

「クハハハ、待ってろよ。後でたっぷり楽しもうぜ」
「ん゛ん゛ん゛ーッ!」

 ――ドガァァァァァンッ。
「「……!?」」

 次の瞬間、ギルド内の下衆な空気を一掃するかの如く、凄まじい衝撃音と共にギルドの出入口の扉がバット達の足元に勢いよく吹き飛んでくる。

 そして。

 砂埃が舞う向こうから、鬼の形相を浮かべたアーサーがバット達の前に姿を現した。

「全員僕の前に跪け。土下座で靴を舐めたら全殺しで許してやる――」

しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

無能スキルと言われ追放されたが実は防御無視の最強スキルだった

さくらはい
ファンタジー
 主人公の不動颯太は勇者としてクラスメイト達と共に異世界に召喚された。だが、【アスポート】という使えないスキルを獲得してしまったばかりに、一人だけ城を追放されてしまった。この【アスポート】は対象物を1mだけ瞬間移動させるという単純な効果を持つが、実はどんな物質でも一撃で破壊できる攻撃特化超火力スキルだったのだ―― 【不定期更新】 1話あたり2000~3000文字くらいで短めです。 性的な表現はありませんが、ややグロテスクな表現や過激な思想が含まれます。 良ければ感想ください。誤字脱字誤用報告も歓迎です。

俺だけ展開できる聖域《ワークショップ》~ガチャで手に入れたスキルで美少女達を救う配信がバズってしまい、追放した奴らへざまあして人生大逆転~

椿紅颯
ファンタジー
鍛誠 一心(たんせい いっしん)は、生ける伝説に憧憬の念を抱く駆け出しの鍛冶師である。 探索者となり、同時期に新米探索者になったメンバーとパーティを組んで2カ月が経過したそんなある日、追放宣言を言い放たれてしまった。 このことからショックを受けてしまうも、生活するために受付嬢の幼馴染に相談すると「自らの価値を高めるためにはスキルガチャを回してみるのはどうか」、という提案を受け、更にはそのスキルが希少性のあるものであれば"配信者"として活動するのもいいのではと助言をされた。 自身の戦闘力が低いことからパーティを追放されてしまったことから、一か八かで全て実行に移す。 ガチャを回した結果、【聖域】という性能はそこそこであったが見た目は派手な方のスキルを手に入れる。 しかし、スキルの使い方は自分で模索するしかなかった。 その後、試行錯誤している時にダンジョンで少女達を助けることになるのだが……その少女達は、まさかの配信者であり芸能人であることを後々から知ることに。 まだまだ驚愕的な事実があり、なんとその少女達は自身の配信チャンネルで配信をしていた! そして、その美少女達とパーティを組むことにも! パーティを追放され、戦闘力もほとんどない鍛冶師がひょんなことから有名になり、間接的に元パーティメンバーをざまあしつつ躍進を繰り広げていく! 泥臭く努力もしつつ、実はチート級なスキルを是非ご覧ください!

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

【悲報】人気ゲーム配信者、身に覚えのない大炎上で引退。~新たに探索者となり、ダンジョン配信して最速で成り上がります~

椿紅颯
ファンタジー
目標である登録者3万人の夢を叶えた葭谷和昌こと活動名【カズマ】。 しかし次の日、身に覚えのない大炎上を経験してしまい、SNSと活動アカウントが大量の通報の後に削除されてしまう。 タイミング良くアルバイトもやめてしまい、完全に収入が途絶えてしまったことから探索者になることを決める。 数日間が経過し、とある都市伝説を友人から聞いて実践することに。 すると、聞いていた内容とは異なるものの、レアドロップ&レアスキルを手に入れてしまう! 手に入れたものを活かすため、一度は去った配信業界へと戻ることを決める。 そんな矢先、ダンジョンで狩りをしていると少女達の危機的状況を助け、しかも一部始終が配信されていてバズってしまう。 無名にまで落ちてしまったが、一躍時の人となり、その少女らとパーティを組むことになった。 和昌は次々と偉業を成し遂げ、底辺から最速で成り上がっていく。

えっ、能力なしでパーティ追放された俺が全属性魔法使い!? ~最強のオールラウンダー目指して謙虚に頑張ります~

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
コミカライズ10/19(水)開始! 2024/2/21小説本編完結! 旧題:えっ能力なしでパーティー追放された俺が全属性能力者!? 最強のオールラウンダーに成り上がりますが、本人は至って謙虚です ※ 書籍化に伴い、一部範囲のみの公開に切り替えられています。 ※ 書籍化に伴う変更点については、近況ボードを確認ください。 生まれつき、一人一人に魔法属性が付与され、一定の年齢になると使うことができるようになる世界。  伝説の冒険者の息子、タイラー・ソリス(17歳)は、なぜか無属性。 勤勉で真面目な彼はなぜか報われておらず、魔法を使用することができなかった。  代わりに、父親から教わった戦術や、体術を駆使して、パーティーの中でも重要な役割を担っていたが…………。 リーダーからは無能だと疎まれ、パーティーを追放されてしまう。  ダンジョンの中、モンスターを前にして見捨てられたタイラー。ピンチに陥る中で、その血に流れる伝説の冒険者の能力がついに覚醒する。  タイラーは、全属性の魔法をつかいこなせる最強のオールラウンダーだったのだ! その能力のあまりの高さから、あらわれるのが、人より少し遅いだけだった。  タイラーは、その圧倒的な力で、危機を回避。  そこから敵を次々になぎ倒し、最強の冒険者への道を、駆け足で登り出す。  なにせ、初の強モンスターを倒した時点では、まだレベル1だったのだ。 レベルが上がれば最強無双することは約束されていた。 いつか彼は血をも超えていくーー。  さらには、天下一の美女たちに、これでもかと愛されまくることになり、モフモフにゃんにゃんの桃色デイズ。  一方、タイラーを追放したパーティーメンバーはというと。 彼を失ったことにより、チームは瓦解。元々大した力もないのに、タイラーのおかげで過大評価されていたパーティーリーダーは、どんどんと落ちぶれていく。 コメントやお気に入りなど、大変励みになっています。お気軽にお寄せくださいませ! ・12/27〜29 HOTランキング 2位 記録、維持 ・12/28 ハイファンランキング 3位

処理中です...