上 下
9 / 73

第9召喚 憧れの勇者と因縁

しおりを挟む
「バット……」

 アーサーにとって最も見たくない顔、聞きたくない声の主がそこにはいた。

「おいおい、お前みたいなクソ底辺ハンターがこんな店で何やってんだよ!」

 店や周囲の他の客などへの配慮は微塵もなし。開口一番からアーサーを蔑む罵声が店内に響き渡った。

「関係ないだろ。料理屋なんだからただご飯を食べているだけだ」

 バットと目も合わせずに淡々と答えたアーサー。だがそんな彼の態度がバットの癇に障ったようだ。

「あぁ? お前如きが何偉そうな態度取ってんだボケッ!」

 バットは再び暴言を吐くと同時に不快感を表情一杯に出す。更にアーサーとエレインが食事しているテーブルをガンッと強く蹴った。

「ちょ、ちょっと、何ですか急に!? やめて下さい!」
「関わるなエレイン。放っておけ」
「いつまでもふざけた態度取ってんじゃねぇぞ無能のアーサー君。お前何様のつもりッ……「早く行きましょう――」

 今にも暴れ出しそうなバットの言葉を遮った1つの声。
 その声は荒立つバットは真逆の透き通るような綺麗な声だった。

 場にいたアーサーとエレイン、それにバットと一緒にいた『黒の終焉』メンバー数人も一斉にその声の方向へと振り向く。

「なんだよ“シェリル”。まさかコイツの肩を持つ気か?」

 綺麗なのは声だけではない。
 艶のある美しい銀色の髪を靡かせ、男女関係なく見る者達の視線を簡単に奪うであろう端正な顔立ち。加えて上品さと凛々しさまでをも醸し出す“少女”は国中――いや、世界中で有名なハンター。

 アーサーが最も憧れを抱く“勇者”の姿がそこにあった。

「いいえ。こんなのは時間の無駄だと思っているだけです」

 世界一美しいハンター。またの名を“白銀のシェリル”――。
 淡々と冷静に言葉を返すシェリルによって、場の空気は一変。彼女の登場で場がしらけたと言わんばかりに溜息をついたバットは最後に舌打ちを吐き捨てそのまま店を出て行くと、それに伴って他のメンバー達もバットの後を追って次々に店を出て行くのだった。

「失礼しました」

 銀髪の少女、シェリルだけが去る直前にアーサーに一言だけそう告げると、彼女もまたそのまま静かに店を後にしてしまった。

「綺麗……」

 シェリルの美しさに思わず同性のエレインも目を奪われていた。

(白銀のシェリル……。そういえば『黒の終焉』にいた時も1度も彼女と話す機会がなかったな。向こうは僕の事を認識してくれているのだろうか……? というか助けてくれた……んだよね今)

 アーサーはそんな疑問を抱きながら、シェリルが去った場所をじっと見つめていた。

「って、何なのよあの人達。お兄ちゃん大丈夫? それよりさっきの本物のシェリルだよね!? やばくない!? めちゃくちゃ綺麗だし生で見ちゃった! っていうかお兄ちゃん知り合いなの? あのシェリルと? どういう世界線なのこれ」

 運が良くか悪くか。
 エレインは見ず知らずのバット達の態度より、有名なシェリルに気持ちを持っていかれていたようだ。

 アーサーにとってはラッキー。妹に余計な心配を掛けたくない。そう思っていた彼はそのまま適当な言葉でエレインに話を合わせてそのまま上手い具合に話題を切り替える。折角の楽しい時間を潰されたくない。

 それにいくらギルドから追放されたといえ、アーサーがバットと会うのは“何時もの事”。何故ならアーサーとバット達は同じアカデミーに通っている同期生なのだから。バットの事など微塵も考えたくはなかったが、アーサーは彼がこのまま大人しくしているかどうか一抹の不安が残った。

(何だかんだ、奴と出会ってもう1年は経つのか――)

♢♦♢

~イーストリバーアカデミー~

 1年前――。
 アーサーはイーストリバーアカデミーに108期生として入学。

「俺の名前はバット・エディング。宜しくな」
「アーサー・リルガーデン。こちらこそ宜しく」

 これがアーサーとバットの出会い。
 入学の初日に多くの者達が自然と交わすであろう最初のコミュニケーション。そしてここからどんな方向に話が広がるかは、どちらかの何気ない一言によって決まる。

 アーサーとバットにとってのそれは、ハンターの話となった。

「お前もハンター登録してるのか?」
「ああ、まぁね。登録してるって言ってもつい昨日の話なんだけど」
「そうなのか。何かいいスキル手に入れた?」
「いいスキルかどうか分からないけど、一応『召喚士』というやつを」
「へぇ~。(召喚士って確かモンスターを出せるスキルだったな。しかもまだ人数が少ない珍しいスキル。どっかのギルドでこの召喚士はかなり使えるとか言っていたから、まぁとりあえずキープしておくか)」

 バットは一瞬だけニヤリと不敵な笑みを浮かべると、心なしか愛想が良くなったような表情に。そしてバットはアーサーを自分のギルドへと勧誘する。

「勿論これからハンターとしてやっていくんだよな? だったら俺のギルドに入らねぇか? 仲間探してるんだ」

 アーサーは思いがけない勧誘を受けて素直に嬉しかった。
 しかもゆくゆくバットの話を聞いてみると、彼はこの国で最も有名なあの『エディング装備商会』の御曹司だった。

 もう100年近くも前の話。
 突如世界にダンジョンとアーティファクトが出現したばかりの頃、真っ先にハンターの手助けになろうと思い立ったバットの祖父が立ち上げたのが今のエディング装備商会である。

 エディング装備商会は立ち上げからハンター達の心強いバックアップとして成り立ち、一気に商会としても利益を生み出し瞬く間に大商会となった。

 バットはこのエディング装備商会の御曹司であり、自らもハンター活動をしている。同じ歳、同じハンターであるアーサーとバットであったが、2人には到底埋める事の出来ない圧倒的な“財力”という差が存在していた――。

 バットがマスターを務める『黒の終焉』は新設されてまだ日が浅いにもかかわらず、その財力で手に入れた優秀なハンター達の力で自他共に認める程勢いあるギルドとなっていた。

 言い方を変えれば金の力。

 スキルとアーティファクトの強さが物を言うダンジョンで、バットは新米ハンターながらに全ての装備がCランクアーティファクトで揃えられていた。それもCランクの中で最上物――モンスターネームが入った“オーガ”のアーティファクトだ。

 オーガアーティファクトのフル装備は金額にすれば優に30,000,000Gを超える値段。更にバットのスキルは『騎士』というハンターの中でも1,2を争う当たりスキル。

 後に最弱無能と分かるアーサーの召喚士とは違い、騎士は基礎能力値が初めから高く習得するスキルも強い。その上スキルのレベルを上げればそこから更に能力値も上昇していくという贅沢三昧スキル。

 実力がない人間でも簡単にある程度の強さを手に入れられる超当たりスキル+金の力でバットはハンターとして既にフロア40まで上り詰めていた。

「僕なんかが君のギルドに入っていいのかな……」
「当然だろ。召喚士は貴重な戦力だ。兎に角まずは参加してみろって」

 こうして、アーサーはバット率いる『黒の終焉』に入った。
 アーサーは初めてのギルドに胸を踊らせたが、そんな彼の心を更に奪ったのは美しき白銀の少女の存在。

 その名も“シェリル・ローライン”。

 銀色の髪を靡かせた彼女はその見た目も然ることながら、ハンターとして“その世代に1人しか生まれない”と謳われる『勇者』のスキルを手にした本物の選ばれし人間。そして彼女のその実力は既に世界中のハンターから認められている。

 若くして英雄と称えられる白銀の少女は、他ならないアーサー・リルガーデンがハンターを目指すきっかけともなった憧れの存在であった――。

 だがしかし。

 アーサーが黒の終焉に入った半年後……。



「お前使えないからもうクビな。追放――」



 アーサー・リルガーデンは追放されるのだった。

「え?」

しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

俺だけ展開できる聖域《ワークショップ》~ガチャで手に入れたスキルで美少女達を救う配信がバズってしまい、追放した奴らへざまあして人生大逆転~

椿紅颯
ファンタジー
鍛誠 一心(たんせい いっしん)は、生ける伝説に憧憬の念を抱く駆け出しの鍛冶師である。 探索者となり、同時期に新米探索者になったメンバーとパーティを組んで2カ月が経過したそんなある日、追放宣言を言い放たれてしまった。 このことからショックを受けてしまうも、生活するために受付嬢の幼馴染に相談すると「自らの価値を高めるためにはスキルガチャを回してみるのはどうか」、という提案を受け、更にはそのスキルが希少性のあるものであれば"配信者"として活動するのもいいのではと助言をされた。 自身の戦闘力が低いことからパーティを追放されてしまったことから、一か八かで全て実行に移す。 ガチャを回した結果、【聖域】という性能はそこそこであったが見た目は派手な方のスキルを手に入れる。 しかし、スキルの使い方は自分で模索するしかなかった。 その後、試行錯誤している時にダンジョンで少女達を助けることになるのだが……その少女達は、まさかの配信者であり芸能人であることを後々から知ることに。 まだまだ驚愕的な事実があり、なんとその少女達は自身の配信チャンネルで配信をしていた! そして、その美少女達とパーティを組むことにも! パーティを追放され、戦闘力もほとんどない鍛冶師がひょんなことから有名になり、間接的に元パーティメンバーをざまあしつつ躍進を繰り広げていく! 泥臭く努力もしつつ、実はチート級なスキルを是非ご覧ください!

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。

夜兎ましろ
ファンタジー
 高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。  ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。  バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

【悲報】人気ゲーム配信者、身に覚えのない大炎上で引退。~新たに探索者となり、ダンジョン配信して最速で成り上がります~

椿紅颯
ファンタジー
目標である登録者3万人の夢を叶えた葭谷和昌こと活動名【カズマ】。 しかし次の日、身に覚えのない大炎上を経験してしまい、SNSと活動アカウントが大量の通報の後に削除されてしまう。 タイミング良くアルバイトもやめてしまい、完全に収入が途絶えてしまったことから探索者になることを決める。 数日間が経過し、とある都市伝説を友人から聞いて実践することに。 すると、聞いていた内容とは異なるものの、レアドロップ&レアスキルを手に入れてしまう! 手に入れたものを活かすため、一度は去った配信業界へと戻ることを決める。 そんな矢先、ダンジョンで狩りをしていると少女達の危機的状況を助け、しかも一部始終が配信されていてバズってしまう。 無名にまで落ちてしまったが、一躍時の人となり、その少女らとパーティを組むことになった。 和昌は次々と偉業を成し遂げ、底辺から最速で成り上がっていく。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

無名のレベル1高校生、覚醒して最強無双

絢乃
ファンタジー
無類の強さを誇る高校二年生・ヤスヒコ。 彼の日課は、毎週水曜日にレベル1のダンジョンを攻略すること。 そこで手に入れた魔石を売ることで生活費を立てていた。 ある日、彼の学校にTVの企画でアイドルのレイナが来る。 そこでレイナに一目惚れしたヤスヒコは、なんと生放送中に告白。 だが、レイナは最強の男にしか興味がないと言って断る。 彼女の言う最強とは、誰よりもレベルが高いことを意味していた。 レイナと付き合いたいヤスヒコはレベル上げを開始。 多くの女子と仲良くなりながら、着実にレベルを上げていく。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

処理中です...