裏切り者扱いされた氷の魔術師、仲良くなった魔族と共に暮らします!

きょろ

文字の大きさ
上 下
48 / 52

第48話 戦場に戻る英雄

しおりを挟む
 アッシュはテントの中で目を覚ました。
 心配そうに顔を覗き込むヴェロニカがいて、ゴリンとブリンも控えていた。

「戦局はどうなっている?」
「へい、後は城を残すのみ。ラシェッド様自ら兵を率いてご出陣でさぁ」

 ゴリンの報告を聞きながら、アッシュはゆっくりと立ち上がった。フラつく身体をヴェロニカが支えてくれた。

「間に合った、と言うべきなのかな」

 ここまでずっと付いてきてくれた三人の顔を見回しながら、アッシュは感慨に浸っていた。

「僕も出るぞ。ヴェロニカ、マントを頼む」
「はい……」

 俯いたままヴェロニカは、掛けてあったマントを取り、アッシュの背後に回った。
 ゴリンが少し躊躇う様にしながら前へと進み出る。

「旦那、もういいじゃないですか」
「何だって?」
「旦那の仕事は城壁を越えさせた時点で終わっているんです。そんなフラフラの身体で無理に戦う事はないじゃあないですか」
「ゴリン……」
「今日だけじゃない、魔力を全放出する様な術を、何度も何度も使っているからすっかり弱っちまった。侵攻を始める前に比べて、かなり痩せこけているって、気付いていますかい?」

 ゴリンの指摘にアッシュは驚いていた。多少疲れているな、くらいの自覚しかなかった。指で頬をなぞる、少し痩せているかもしれない。

「やるべき事はやったんです、誰も文句なぞ言いやしません。後はもうここでのんびり茶でも飲みながら吉報を待ちましょうや」

 正直な所、少し迷った。しかし、直ぐにアッシュは見えない何かに背を押される様に決意した。

「……自惚れている様な事を言わせてもらうが、これは僕が始めた戦いだ。僕がラシェッド軍に寝返らなければ、起きなかったかもしれない戦いなんだ」
「でも、それは旦那のご家族がアホ国王に処刑されたからであって……」
「事情も都合も言いたい事も、皆それぞれにあるだろう。それでも、やはり深く関わった者としての責任がある。自分の知らない所で国王が倒されたというのも、何かスッキリしないものが残りそうだしね。国王の首だけは自分の手で取りたいんだ」
「かつてのお仲間、勇者パーティがまだ生きておりやすぜ。旦那の前に立ち塞がるかもしれやせん」

 ブリンも進み出て言った。アッシュの身が危険に晒される事、心情的にも暗い影を落とすであろう事を思っての事だ。

「それも含めて、この身に纏わりついた因縁さ」

 と、アッシュは笑いを浮かべて見せた。本当に覚悟を決めて、全てを受け入れた者の顔だ。ゴブリン達は何も言えなくなった。主を止める言葉はもう尽きてしまった。
 レイチェルがマントを着け終えると、アッシュは振り返り、ヴェロニカの身体を抱き寄せた。

「それじゃあ、行ってくるよ。全てを終わらせてくる」
「無事のお帰りをお待ちしております」
「仇を討って、そして僕と新しい家族になって欲しい。愛しているよ、ヴェロニカ」
「はい、アッシュ様……」

 ヴェロニカの声は震えていた。アッシュには泣いている女を慰める方法が、強く抱き締める以外に思い付かなかった。
 それから数分もして、名残惜しそうに身を放す。

「もう、よろしいので?」

 ブリンが居心地悪そうに言った。

「体力を消耗する様な事をして、最後の決戦に間に合いませんでした。じゃあ笑い話にもならないだろう。アードラーに一生馬鹿にされる」

 そう言いながら笑った後、アッシュは表情を引き締めた。

「ヴェロニカと子供の事、よろしく頼むよ」
「まだ産まれてもいませんぜ」

 背筋を伸ばし、アッシュは堂々とテントを出て行った。その姿は、正に英雄と呼ぶに相応しいものであった。

 ゴリンは勇者族であり、魔族の将軍でもある男の去ったテントの出入り口、厚い布の揺れが収まるまでジッと見ていた。

「なあブリン。おめぇ、魔術の修行は続けているか?」

 ゴリンは指先に火を灯し、軽く振って消して見せた。アッシュに基礎を教わり、使える様になった魔法である。

「手を使わずに泥団子を作れる様になった」
「……それは凄い事なのか?」
「旦那は誉めて下さったよ。確実に一歩進んだって。まぁ、強くなった実感があるかと聞かれりゃ全くないけどな」
「土属性は根気よく、だな。そういう俺だって、火は出せるが戦闘で使える程じゃないからなぁ」
「兎や鼠を脅かすくらいは出来るだろう?」
「それを自慢していたらただの馬鹿だ」

 二人は顔を見合わせて笑ったが、それはどこか寂しげな笑いでもあった。

「今日程、俺が最底辺の弱っちいゴブリンである事を呪った事はないぜ」
「そうだな。旦那に付いて行きたかった。それで死んでも構わなかった。でもな、足手まといにゃなっちゃいけねぇんだ」
「強くなろうぜ、相棒」

 ブリンは頷き、それから身動ぎしないヴェロニカに声をかけた。

「元気な子供を産んでくれよ。その子が大きくなる頃には、俺たちもビッグになっているからよ!」
「ブリン、ビッグになるっていうのは要するに、何の目標も立っていないという事よ。そんな曖昧で無責任な者に、アッシュ様の御血筋を任せられないわ」
「お、おぅ、そうだな。じゃあ俺はゴブリンメイジになるぞ。土魔法のエキスパートになる」
「俺は魔法剣士でも目指すかな。剣に炎を纏わせて戦う、ゴブリンマジックナイトだ。カッコいいだろう?」

 どうだ、とばかりに胸を張るゴブリン達に対して、ヴェロニカは呆れた様に首を振った。

「……期待しないで待っているわ」

 ひでぇ、あんまりだ、と叫ぶゴブリン達を無視し、ヴェロニカはまだ目立たぬ腹をさすっていた。

「アッシュ様、貴方には幸せになる権利があります。そうでなければ、世界の方が間違っている」

 無事に帰って来た男を温かく迎え、共に子を育てたい。それが今のヴェロニカの望みであった。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草

ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)  10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。  親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。  同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……── ※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました! ※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※ ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

処理中です...