裏切り者扱いされた氷の魔術師、仲良くなった魔族と共に暮らします!

きょろ

文字の大きさ
上 下
12 / 52

第12話 騒ぎ出す水面下

しおりを挟む
 ラシェッドの配下になったとは言え、いきなり人間を皆殺しにせよと命じられる訳ではなかった。基本的な仕事は古書の整理や翻訳。地下牢時代と大差は無かった。
 人間と接触したら再度裏切るとでも思われているのだろうか。腕を買われて引き抜かれたのだから、他にやる事はないのものかとラシェッドに相談したところ、

「君がここに居るというだけで、勇者共は手が出しにくくなっているだろう」

 と言って、新たな仕事を割り振ろうとはしなかった。魔族の幹部や魔王にも対抗し得る存在である勇者パーティ、その四分の一が人類側から魔族へと移ったのだ、戦力差の変動はかなり大きい。
 引き抜きが成功した時点で、ラシェッドは大戦果を挙げた事になり、無理にアッシュに何かさせなければならないという訳でもなかった。
 ラシェッドから預かった古書はどれも王都では見た事のないものであり、これを整理する作業は正直、とても楽しい。

 人間、特にかつての仲間達と戦わずに済むことに安堵する一方、なんとしても国王の首だけは切り落としてやりたいという憎しみも胸の内に渦巻き、なんとも複雑な気分であった。
 たまにラシェッドに呼び出され、話し相手になるという習慣もそのまま。以前は当たり障りのない雑談しか出来なかったが、今はどんな情報を流そうが問題はない。寧ろ自分の知っている事で役立てるのであれば、ありがたいとすら思っていた。

 ある日、ラシェッドに招かれ私室へ向かうと、幹部格であるアードラーも同席していた。アッシュを塔から逃がしてくれた張本人。特に苦手意識などはないが、彼がここに居る意味は何だろうかと考えてしまう。

「君達が死んで、復活するという流れを聞きたい」

 ラシェッドの質問に対して隠す所など何もないが、逆に話す事がなさすぎて少々戸惑ってしまった。命尽きれば王都へ送られ、再び蘇生で目を覚ます、ただそれだけだ。

「どんな細かい事でもいいから話してくれ。どこに勇者族を抑える糸口があるか分からないのでな」

 強敵を倒してもまたすぐに復活し、鍛え直してまた襲ってくる。魔王軍にとってこれほど厄介な事はない。勇者一行の復活システムをどうにかしなければならない、と考えるのは当然だろう。
 アッシュは記憶を辿りながら、出来るだけ細かく正確に話し始めた。あまり楽しい思い出ではないが、これも役目だ。

「……それで、復活した直後は後遺症に悩まされる事になります。首を斬られて死んだならば首に鋭い痛みが、そして焼け死んだのであれば全身に熱さと痛みが。そうした後遺症が三日三晩続いてようやく治まるのです」

 ラシェッドもアードラーも興味深く聞いている。ラシェッドは復活時の苦しみを思い出し、口にするのも辛いが、彼らがしっかり聞いてくれるのであれば、と気力を奮い立たせていた。

「例えばラシェッド様はあの戦士……、ロイという名ですが、彼をどうやって殺したか覚えておられますか?」
「ふむ、確か頭を掴んで握り潰したのだったかな」
「すると彼は頭部を握り潰される様な痛みと、脳みそを直接かき混ぜられるような悪寒を味わっていたのでしょうね。三日間ずっと」
「それは悪い事をしてしまったな」

 ラシェッドは冗談めかして笑った。アッシュも場に合わせて微笑みを浮かべようとしたが、唇の端が引きつった。ロイの味わった苦しみが理解出来るだけに、他人事として笑う事が出来なかった。

「すると、彼らを倒しても結局、三日でまた活動可能になるという事か」

「後遺症自体は三日で治まりますが、身体が上手く動かないので、それが治るまでに約一週間。合計十日程かかってようやく完全復活です」
「十日、か。それを長いと言うべきか短いと言うべきか……」

 ラシェッドは顎を摩りながら唸った。勇者質を一度倒せば、十日間は動けないという保証がある。どういった場面で活かせる情報だろうかと考え込んでいた。

「ちょいと嘴を挟んでいいかな」

 と、アードラーが聞いて、アッシュは頷いて見せた。

「お前らが死んで送られる場所って、その王都の教会のみなのか?」
「さあ、どうだろうな。送られるのは別の場所で、目を覚ます時に教会に運ばれているだけかも」
「なんだ、自分の事なのに分かんねぇのかよ」
「しょうがないだろ。その時僕は死んでるし……」
「うん、まあ、そりゃそうだな」

 会話が途切れ、空白の時間が出来た。今日のところはこんなものかと、ラシェッドがアッシュを帰そうとした時、

「あ……」

 と、アッシュが呟いた。

「もしかしてアレかな?」
「アレ、とは」
「王都の城の地下に、確か小さい神殿がありまして。女神像が置いてあるだけの、本当に小さな場所なんですけど。死体が転送されるならあそこかもしれないな、と」

 ラシェッドとアードラーが揃って真剣な目を向けている。並の者ならその迫力だけで気絶してしまいそうだ。アッシュも今更「少し気になっただけです」とは言えなくなってしまった。

「神殿自体は小さいけれど、女神像は神秘的な雰囲気が漂っていて、かなりの値打ち物じゃないかと思います。僕達も旅立ちの日に一度だけ入って、儀式を行っただけなので記憶は曖昧ですが……」
「その儀式とは?」

「司祭のつまらない話を聞きながら女神像に触れるだけの、本当にささやかな儀式でしたよ。触れた時に像が光って、何の意味があったのかと、仲間達と首を捻っていたものです」

 神秘的な神殿。光る女神像。司祭の言葉は旅の無事を祈るようなものではなく、聞き慣れぬ言語であった様に思う。

 あれは勇者族が祝福の力を得るための儀式、いわば“証明”みたいなものだったのではなかろうか。当然両親と妹も勇者族、魔術師の血を引いている筈だが、死体は送られずに晒されていた。あの儀式を行っていないからだと考えれば、仮説だが筋は通る。

(そういえば、僕は復活の儀式がどのようなものかも知らないな……)

 何故か今まで深く考えようともしなかった。旅立ちの日の記憶も曖昧だ。何か思考を制限する様な、そんな魔術でもかけられていたのかもしれない。

「転送場所がその神殿だとして……」

 ラシェッドが唸りながら聞いた。

「女神像とやらを破壊すれば、勇者の復活を止めることが出来るのか?」
「可能性はあるかと思います」
「可能性、か。絶対とは言ってくれないのだな」
「申し訳ありません。そうした儀式関連の情報は、全て王族が握っているもので……」
「いや、こちらこそ無理を言って済まない。今までの話だけでも十分に役立ったよ。下がって宜しい。また何か思い出す事があったら聞かせてくれたまえ」

 復活のシステムを破壊する事は、魔族の悲願でもあり、アッシュの話が役立ったというのは、彼に対する慰めではなく本心であった。王都の城内にあるという事で、今すぐ対処出来る訳には当然いかないが、方向だけでも定まった気がする。アッシュは背筋を伸ばし、一礼して立ち去った。
 期待の新人が扉を閉めるのを見届けると、ラシェッドの身体から怒気が漏れ出した。怒鳴り散らしたり暴れたりする訳ではないが、緊張感で周辺の空気が震えてしまいそうであった。

「アードラー、君の兵から話は聞いていなかったのか?」
「悪いな若、今の女神やら神殿やらは初耳だ。なんたって奴とは直接顔を合わせてお喋り、って訳にはいかないもんでな。あんまり細かい事は聞けねぇな。あるいは……」

 と、アードラーは言葉を区切り考え込んだ。顔いっぱいに不信感が広がっている。

「肝心な情報は押さえたままで、主導権を握ったつもりなのかもな」

 金と安全を求めて通じたスパイに、忠誠心などというものを期待するのが無駄なのかもしれない。内通者の小賢しさを不快に思いつつ、ラシェッドは気持ちを切り替え様とした。

「そろそろ本格的にこちらから攻めてみようか」
「へぇ、遂にやる気かい若」
「ああ。王都への大進行を始めよう――」
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

処理中です...