上 下
44 / 45
最終章~真の勇者~

5-4 本当の決着と平和を引寄せ

しおりを挟む
「お、魔力が消えていくんよ」
「倒したのね、ジーク」

 グレイが地面に倒れたと同時、レベッカ達を拘束していた魔力の手も消滅した。グレイからはもう殺意も魔力も感じられない。多分だけどもう戦える状態ではない。

 やっと終わったみたいだ。

「ジーク様ぁ!」
「レベッカ……皆」

 拘束が解かれた皆が僕の所に駆け寄って来る。
 幸い皆も大きな怪我をしていないみたいでなによりだ。良かった。
 
「アイツはどうなった?」
「うん、核を破壊しただけだから多分生きていると思うけど……」

 自分でそう口にしながら、僕はグレイの安否を確かめる為に彼の元へ近づく。すると、意識を失って倒れていたグレイはゆっくりと瞼を開いて僕を見てきた。

「どうやら俺の負けだな……。さっさと殺せよ」

 開き直ったようにそう言ったグレイの表情は今までと違い、何処かスッキリとした表情になっていた。

「僕は人殺しじゃない。命を奪うつもりなんてないよ」
「また綺麗事か。俺はもう全てを失ったんだ。行く場所もなければ生きる目的もない。何もないんだよ俺は……」
「甘ったれるな」

 僕の言葉が意外だったのか、グレイは目を見開きながら再び僕に視線を向ける。

「僕だって1度全てを失った。あの時の事は今思い返しても辛いけど、でもあの日が僕の新たな始まりでもあったんだ。
僕は失ったからこそ本当に大切なものを手に入れられたと思っているよグレイ」

 これが今の僕の正直な思い。
 お前の犯した罪は決して許せないし直ぐに許そうとも思えない。だけど今のグレイなら以前よりは僕の言葉に耳を傾けてくれる。なんとなくそう思えた。

「ふん……。相変わらずの綺麗事だな。聞いているこっちが恥ずかしくなる」
「ハハハ。確かに。改めて突っ込まれると恥ずかしいかも」
「まだ終わってないぞ――」
「え?」

 グレイが静かに呟いたその一言で、僕は全身がまたピンと張り詰めた感覚に襲われた。

 グレイの言葉の意味。
 刹那、その意味が“成すもの”の方へと僕とグレイの視線は向けられていた――。

「……ヒッヒッヒッヒッ」
「奴がまだ残っているぞジーク君」

 静かな場に響いた不気味な笑い声。
 イェルメスさんもまた彼の方向を見て真剣な面持ちを浮かべている。

 そう。
 僕達の視線の先には、全ての元凶とも言えるゲノム・サー・エリデルの姿があった。

「惜しかったですね。まさか魔王様の力を上回るとは。流石忌々しい引寄せの力と言ったところですね。さて、どうしましょうか」
「ジーク君、今度こそ奴を確実に仕留めねばいかん」
「はい。でも一体どうやってアイツを倒せば……」

 何十年も前にもイェルメスさん達が倒し、この間クラフト村でも1度奴を倒している。だがゲノムはこうして不気味に何度も姿を現してくるんだ。どうすれば奴を倒せる?

「仕方ありません。こうなれば“スタンピード”を使う他ないでしょう――」
「なんだって……⁉ モンスター達ならもう全て倒しているぞ」
「ヒヒヒヒ。勿論分かっておりますよ。でも貴方達を倒すにはやはりスタンピードを使わなくてはなりません」

 不敵な笑みを浮かべながら言うゲノムの言葉を直ぐには理解が出来なかった。

 どういう意味だ……。
 まさかまだ他にもモンスターの群れがあるというのか。
 最悪の考えが頭を過った次の瞬間、運が良くか悪くか、その最悪とは別の展開が訪れた。

「さぁ、集えスタンピードよ!」

 ゲノムがそう言って両手を天に掲げると、奴の体から黒い魔力がどんどんと溢れ出てくる。

 そして直後、周囲に倒れていたモンスター達の屍がゲノムに吸い寄せられるかの様に集まっていくと、無数の屍は黒い魔力に包まれ次の瞬間なんとも荒々しい魔力を纏った1体の巨大なモンスターへと生まれ変わってしまった。

「これはッ……⁉」
「ヒーヒッヒッヒッヒッ! 本当なら5万の屍が欲しかったところですが、貴方達を倒すには十分な力でしょう。これが私の黒魔術最高にして最強の技。“アンデット・エンペラー”です――!」

 数十メートルはあろうかと言う真っ黒な巨体に全身を纏う無数の眼の数々。ゲノムと一体化したそのモンスターから溢れ出る魔力はさっきのグレイよりも不気味で得体が知れない。見た事もないその異形なモンスターは、ただそこにいるだけで危険だと本能が訴えかけていた。

「折角の魔王復活が台無しですよ。私は前線で戦うのがあまり好きではありませんが、今度こそ完全なる魔王を復活させる為にここで貴方達には消えてもらいましょう」
「おいおい、何だこのバケモンは」
「気持ち悪いわねぇ」
「ジーク様……」

 レベッカ達もどうしていいのか分からず、ただ茫然と巨大なモンスターを見上げている。

 僕も皆と全く同じ心境でモンスターを見上げていると、地面に倒れているグレイが静かに口を開いた。

「おい……。ゲノムの野郎は核やら結晶やらを自在にコントロールする力を持っている。だから奴本体も核が1つじゃない。ゲノムを倒したければ“全ての核”を破壊しろ」
「グレイ……」

 まさかのグレイからの助言に、この場にいた僕達は皆が驚いた。

「アンタ急になんなのよ。散々好き勝手やっていたアンタの言う事を今更信じろって言うの?」
「別にどっちでも構わない。ただそれが事実だ」
「全ての核って言ってもよ、どうやってやるんよそれ」
「そんな事まで知るか。自分達で考えるんだな」

 態度や口調は相変わらずだが、これまでの嫌味だけのグレイとは明らかに雰囲気が違った。皆がどう思っているかは分からないけど、少なからず僕にはそう感じる事が出来た。

「分かったよグレイ。教えてくれてありがとう」

 僕がそう言うと、グレイはダルそうにそっぽを向いた。

「皆、一瞬でいい。あのモンスターの動きを一瞬でいいから抑えてほしい」
「そんな言い方するって事は、アレを倒す策があるって事でいいんだよな?」

 ルルカからの問いに僕は頷いた。

 何故だろう……。
 目の前のモンスターはとても強大な存在なのに、何故だか僕にはコイツに“勝てる”という確信を抱いていた――。

「そういう事なら幾らでも手を貸そう」
「当然だわ。ジークにそんな事頼まれたら断れないわよ私」
「でもヤバそうだから本当に一瞬で頼むんよジーク」
「ありがとう皆」
「気を付けて下さいねジーク様」
「ああ」

 毎度毎度レベッカは僕の事を心配してくれる。きっと誰よりも恐怖を感じているだろうに。

 覚悟を決めた僕達はアンデット・エンペラーと対峙する。

 そして。

 レベッカ、ルルカ、ミラーナ、イェルメスさんが力を合わせてアンデット・エンペラーの注意を引いた。

 僕はその僅か一瞬の隙を見逃さず、『神速』と『倍増』で瞬く間にアンデット・エンペラーの頂点に位置するゲノムの元まで飛び上がると、更にここから『連鎖』と『必中』スキルも発動させゲノムの体を一刀両断した――。 

「なッ……⁉」

 ――パキィン……パキン、パキン、パキン、パキン、パキン。
 僕の攻撃は見事ゲノムの核を砕き、そして『連鎖』と『倍増』スキルの効果で一気に全ての核を破壊。

 核を破壊されたアンデット・エンペラーはみるみるうちに消滅していくと、最後は立ち上がるのもやっとなゲノムの体だけが残った。

「ぐはッ……! ハァ……ハァ……ハァ……ま、まさかここまでの力とは……!」

 フラフラになりながらも鋭い視線を飛ばしてくるゲノム。

 だが。

「これで終わりだゲノム!」

 僕はゲノムの最後の一撃を放つと、最後の核を砕かれたゲノムは断末魔の叫びと共に体が塵の如く消えていってしまった――。

「やった……。遂に倒した……ぞ」

 ――ドサ。
「ジーク様!」

 保っていた緊張の糸が切れたのか、どっと疲れが押し寄せた僕はそこで記憶が途絶えた。

♢♦♢

~王都~

 目を開けると、そこにはレベッカがいた。

「ジ、ジーク様!」
「おー、やっと起きたか?」

 僕は眠ってしまっていたのだろうか。
 目が覚めると、そこは見覚えのある王都の街並みと慌ただしく動く騎士団員の人達の姿が。

「やあ、目が覚めた様だねジーク君」
「イェルメスさん……。あ、そうだ、ゲノムは! アイツはどうなった⁉」

 状況を思い出した僕は反射的にそう聞いていた。

 そうだ。
 僕は確かゲノムとの戦いで力を使い果たしてそれで……。

「ハハハ。大丈夫だよ。君のお陰で皆無事さ。勿論ゲノムも倒してね」

 戦いが終わって既に数時間は経っているのだろう。
 慌てていたのは僕だけ。皆は既に一段落した様な落ち着きだった。

「そ、そうですか。あ~良かった。ゲノムは倒せていたんですね。……そういえばグレイは?」
「ああ。彼はあそこだよ」

 そう言われてイェルメスさんが指差す方向を見ると、そこには騎士団員に連行されていくグレイの姿があった。

「彼が犯した罪は決して軽くない。だが今の彼ならばちゃんと償えるだろう」
「そうだといいんですけど……」
「さて、それじゃあ君の目が覚めた事だし、皆で国王様の所に報酬でも貰いに行くとするかね?」

 イェルメスさんがそんな冗談を言いながら、僕達とゲノムの激闘は無事に幕を下ろしたのだった――。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

勇者パーティーを追放された俺は辺境の地で魔王に拾われて後継者として育てられる~魔王から教わった美学でメロメロにしてスローライフを満喫する~

一ノ瀬 彩音
ファンタジー
主人公は、勇者パーティーを追放されて辺境の地へと追放される。 そこで出会った魔族の少女と仲良くなり、彼女と共にスローライフを送ることになる。 しかし、ある日突然現れた魔王によって、俺は後継者として育てられることになる。 そして、俺の元には次々と美少女達が集まってくるのだった……。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

起きるとそこは、森の中。可愛いトラさんが涎を垂らして、こっちをチラ見!もふもふ生活開始の気配(原題.真説・森の獣

ゆうた
ファンタジー
 起きると、そこは森の中。パニックになって、 周りを見渡すと暗くてなんも見えない。  特殊能力も付与されず、原生林でどうするの。 誰か助けて。 遠くから、獣の遠吠えが聞こえてくる。 これって、やばいんじゃない。

良家で才能溢れる新人が加入するので、お前は要らないと追放された後、偶然お金を落とした穴が実はガチャで全財産突っ込んだら最強になりました

ぽいづん
ファンタジー
ウェブ・ステイは剣士としてパーティに加入しそこそこ活躍する日々を過ごしていた。 そんなある日、パーティリーダーからいい話と悪い話があると言われ、いい話は新メンバー、剣士ワット・ファフナーの加入。悪い話は……ウェブ・ステイの追放だった…… 失意のウェブは気がつくと街外れをフラフラと歩き、石に躓いて転んだ。その拍子にポケットの中の銅貨1枚がコロコロと転がり、小さな穴に落ちていった。 その時、彼の目の前に銅貨3枚でガチャが引けます。という文字が現れたのだった。 ※小説家になろうにも投稿しています。

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

処理中です...