上 下
36 / 45
第4章~奴隷商会~

4-5 グレイとの決闘を引寄せ

しおりを挟む
~王都~
 
 決闘当日――。

 グレイが指定した場所まで行くと、そこには見た事もない大きな闘技場が建設されていた。しかもどうやって呼び込んだのか、モンスター討伐会にも引けを取らない大勢の人達が僕とグレイの決闘を観戦しに来ているではないか。

「凄い人の数ね」
「これもレオハルト家の力ってやつか? 大層暇と金を持て余してるんよジークの弟は」
「恐らくグレイ様はこの決闘で、王都中に自分の方がジーク様より上だと証明したいのです」
「成程ね。自分が負けるなんて微塵も思ってないなこれは。もし負けたら取り返しがつかなくなるんよ」

 ルルカの言う通り、きっとグレイも今日全てのケリを着けようとしているんだろう。こんな事をしても無駄だとまだ分かっていないみたいだなグレイ。

「おお! モンスター討伐会優勝者のジーク君だぞ!」
「本当だ、ジークさんサイン下さい!」
「今日も絶対に勝って下さいね! 応援していますから」
「Sランク冒険者の実力を間近で見られる凄い機会だよな!」

 僕が歩いていると、大勢の人達に声を掛けられ声援を送ってもらった。まさかこんな事態になっているとは想像だにしていなかったな。

 僕とグレイの正式な決闘――。
 きっと大半の人がレオハルト家で何が起こっているのか興味津々といったところか。

 呪いのスキルと勇者スキル。
 追放者と跡継ぎ。
 兄と弟。

 皆はそういった様々な要因が絡んだこの決闘にとても関心を抱いている様子だ。

 闘技場は真ん中に広くスペースが設けられており、その周りを取り囲む様に客席がある。言わずもがなあの真ん中が僕とグレイの決闘の場。

「じゃあ行ってくるよ」
「ジーク様なら問題ないと思いますが、気を付けて下さいね」
「まぁ一瞬で片付くだろ」
「早く終わらせてまた美味しいものが食べたいわ」

 闘技場に突如響いたアナウンスによって皆はどんどん客席に移動し、僕は闘技場へと向かう為に一旦レベッカ達と別れた。

 僕はそのまま皆の視線が注がれる中央の闘技場へ。

 そして。

「お久しぶりですね……父上――」
「逃げずに来た様だな」

 闘技場の真ん中に立つ父上とグレイ。
 父は僕と一瞬だけ目を合わせた後、そのまま無言で場を後にした。

「お前の悪運も今日で終わりだ。俺が勝って真の勇者が誰かという事を全員に証明してやる!」
「勇者は自分から証明したり力を誇示する者じゃない。なるべくしてなるんだ。グレイ、もし僕が勝ったら1つだけ要求を聞いてくれないか?」
「どこまで舐めてんだテメェ! お前如きが勇者を語るな! それにもし勝ったら要求を呑めだと? ふざけるのも大概にしろよクソがッ!」
「……!」

 次の瞬間、話し合う余地もなくグレイは剣を抜いて僕に斬りかかって来た。

 ――シュバン。
 何とか反応した僕はサイドステップでグレイの攻撃を躱す。

「さぁ、さっさとお前も剣を取れ。俺はお前と呑気に話し合いをしに来た訳じゃねぇからな!」
「グレイ……。分かったよ。だったら僕も遠慮はしない。勝って無理矢理にでも僕の話を聞いてもらう」
「ハッハッハッハッ! だからテメェと話す事なんてないって言ってんだろう馬鹿が! 死ねッ!」

 殺意を全面に出したグレイは怒涛の連続攻撃を放つ。

「うらあああッ!」

 ――シュバン、シュバン、シュバン、シュバン!
 血相変えたグレイは高速で剣を振るいまくる。

「おお! 凄い剣術だ」
「流石は勇者スキルを授かったレオハルト一族」

 グレイの実力を垣間見た客席からは歓声が上がっていた。
 幼少の頃から一緒に特訓をしてきた僕には分かる。グレイには剣術の才能もあって実力が高いという事を。更に勇者スキルを手にしたグレイはきっと、僕が思っている以上に実力を伸ばしている。

 そう思った。
 いや、確かにそう思っていた筈。

 だが。

「うらうらうらうらぁぁぁ!」

 何だ……この攻撃の“遅さ”は――?

 僕を騙す為の作戦なのか? 
 はたまた何かのスキルの効果か?

 それにしても何の意味があってこんなに攻撃が遅いんだ……。全部余裕で躱せてしまう。

 ――シュバン、シュバン、シュバン!
「ちっ、ちょろちょろ逃げてるんじゃねぇ! 死ねやジークッ!」

 作戦……ではないとするなら、やはりスキルの効果か。
 グレイのゴールドの腕輪が光っているから何かしらのスキルを発動しているんだ。

 だが、これは一体何のスキルだ。

 わざわざ自分のスピードを遅くするスキル? 仮にそうだとしても戦闘で使うスキルではない。だったらこれは何のスキルなんだ。

 僕はグレイの遅い攻撃を躱しながら色々と考えを巡らせていると、ある1つの結論に辿り着いた。

 もしかして……グレイは“スキルを使ってこの速さ”なのか――?

 想定外の仮説に辿り着いた僕は、グレイからのフェイントやカウンター、魔法攻撃等を考慮しながら試しに動いてみた。すると僕の仮説は真実に近付く。

 これはグレイの作戦でもなければ特殊なスキルでも何かを狙っている訳でもない。これがスキルを駆使したグレイの実力なんだ。

「うらぁぁぁ!」

 とても信じ難い結論であったが、僕は全てを確かめる為にスキルも剣も何も使わずただただ空いていた左腕でパンチを放った。

 これでハッキリする。

 グレイが何か切り札を隠しているのならその正体がッ……『ドガッ!』

「え?」
「ゔがッ……!」

 僕の左拳は全く遮られる事無くグレイの脇腹にヒット。
 食らったグレイは悶絶の表情で動きが止まった挙句、余程具合が悪くなる位置に入ったのだろうか、そのまま脇腹を抑えたまま崩れる様に地面に片膝を着いた。

「「うおぉぉぉぉ!!」」
「え……グレイ?」

 決闘に動きが見られた事により、客席は大いに盛り上がりを見せる。

「ぐッ……く、くそがッ! たまたま一撃入れたからって調子に乗るんじゃねぇぞ……! ゲホッゲホッ!」 

 歯を食いしばりながら僕を睨みつけるグレイ。

 ちょっと待て。なんだこの“弱さ”は。
 それとも僕がいつの間にか強くなっているのか?

「畜生、まさかこんなに早く使う事になるとは思わなかったが仕方ねぇ……!」
「――⁉」

 グレイが怒号交じりにそう言い放った瞬間、突如僕の足元に魔法陣が浮かび上がってきた。

「消し飛べ!」

 何が起こるかは分からなかったが、直感で避けた方がいいと思った僕が『神速』スキルを発動して足元の魔法陣から距離を取る。

 すると次の瞬間、魔法陣は強い光と共に激しい爆発を巻き起こした。

「なッ⁉ あ、あそこから躱しただと……⁉」

 今の攻撃はもしかしてグレイにとって重要だったのかな。
 何か企んでいるとは思っていたけど、その切り札がこれなら余りにお粗末だぞ。

 そんな事を思いながらも、僕はそのまま神速のスキルを駆使して一瞬でグレイとの距離を詰める。そしてそのまま剣の切っ先を顔面ギリギリの所まで突きつけた。

「あ……ああッ……」

 僕の攻撃に恐怖を覚えたのか、グレイは震えながら剣を落とすと、糸が切れた人形の如く地面に項垂れてしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界の約束:追放者の再興〜外れギフト【光】を授り侯爵家を追い出されたけど本当はチート持ちなので幸せに生きて見返してやります!〜

KeyBow
ファンタジー
 主人公の井野口 孝志は交通事故により死亡し、異世界へ転生した。  そこは剣と魔法の王道的なファンタジー世界。  転生した先は侯爵家の子息。  妾の子として家督相続とは無縁のはずだったが、兄の全てが事故により死亡し嫡男に。  女神により魔王討伐を受ける者は記憶を持ったまま転生させる事が出来ると言われ、主人公はゲームで遊んだ世界に転生した。  ゲームと言ってもその世界を模したゲームで、手を打たなければこうなる【if】の世界だった。  理不尽な死を迎えるモブ以下のヒロインを救いたく、転生した先で14歳の時にギフトを得られる信託の儀の後に追放されるが、その時に備えストーリーを変えてしまう。  メイヤと言うゲームでは犯され、絶望から自殺した少女をそのルートから外す事を幼少期より決めていた。  しかしそう簡単な話ではない。  女神の意図とは違う生き様と、ゲームで救えなかった少女を救う。  2人で逃げて何処かで畑でも耕しながら生きようとしていたが、計画が狂い何故か闘技場でハッスルする未来が待ち受けているとは物語がスタートした時はまだ知らない・・・  多くの者と出会い、誤解されたり頼られたり、理不尽な目に遭ったりと、平穏な生活を求める主人公の思いとは裏腹に波乱万丈な未来が待ち受けている。  しかし、主人公補正からかメインストリートから逃げられない予感。  信託の儀の後に侯爵家から追放されるところから物語はスタートする。  いつしか追放した侯爵家にザマアをし、経済的にも見返し謝罪させる事を当面の目標とする事へと、物語の早々に変化していく。  孤児達と出会い自活と脱却を手伝ったりお人好しだ。  また、貴族ではあるが、多くの貴族が好んでするが自分は奴隷を性的に抱かないとのポリシーが行動に規制を掛ける。  果たして幸せを掴む事が出来るのか?魔王討伐から逃げられるのか?・・・

【毎日投稿】力に覚醒した村人に嵌められて処刑された元最強勇者ですが転生したので隠しダンジョンでパワーアップし最強の座に返り咲こうと思います

キヌギヌノフミ
ファンタジー
ハルデンベルグは無双を誇った勇者であった。 その力は、比類するものすらいない正に無敵。 しかし、彼はあまりにも長く最強の座に居ることに飽いていた。 人柄は独善的かつ高慢になり、振る舞いは腐敗堕落の極致である。 そんな彼に天罰が下された。 散々馬鹿にしてきた、薄汚い血の流れる平民。 底辺を這い回る弱者だと思っていた、彼らに敗北することになる。 勇者に虐げられてきた平民たちは屈辱を味わい、泥をすすってでも復讐を果たすと誓って、それを実行したのだ! あぁ、なんということだろう。 かつて絶頂を極め、ただ一人の最強勇者として君臨したハルデンベルグ! 彼は自らの愚かさのために身を滅ぼした……。 このとき彼は、生まれて初めて悔しさを知った。 屈辱を知った。 何より敗者の気持ちを知ったのだ。 立場も後ろ盾も失ったハルデンベルグは処刑された。 彼は惨めに首を刎ねられ、その人生を終える。 胸にはただただ後悔を遺して。 「願わくば次があるなら……俺はもう……傲らない……」

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

召喚出来ない『召喚士』は既に召喚している~ドラゴンの王を召喚したが誰にも信用されず追放されたので、ちょっと思い知らせてやるわ~

きょろ
ファンタジー
この世界では冒険者として適性を受けた瞬間に、自身の魔力の強さによってランクが定められる。 それ以降は鍛錬や経験値によって少しは魔力値が伸びるものの、全ては最初の適性で冒険者としての運命が大きく左右される――。 主人公ルカ・リルガーデンは冒険者の中で最も低いFランクであり、召喚士の適性を受けたものの下級モンスターのスライム1体召喚出来ない無能冒険者であった。 幼馴染のグレイにパーティに入れてもらっていたルカであったが、念願のSランクパーティに上がった途端「役立たずのお前はもう要らない」と遂にパーティから追放されてしまった。 ランクはF。おまけに召喚士なのにモンスターを何も召喚出来ないと信じていた仲間達から馬鹿にされ虐げられたルカであったが、彼が伝説のモンスター……“竜神王ジークリート”を召喚していた事を誰も知らなかったのだ――。 「そっちがその気ならもういい。お前らがSランクまで上がれたのは、俺が徹底して後方からサポートしてあげていたからだけどな――」 こうして、追放されたルカはその身に宿るジークリートの力で自由に生き抜く事を決めた――。

[完結:1話 1分読書]幼馴染を勇者に寝取られた不遇職の躍進

無責任
ファンタジー
<毎日更新 1分読書> 愛する幼馴染を失った不遇職の少年の物語 ユキムラは神託により不遇職となってしまう。 愛するエリスは、聖女となり、勇者のもとに行く事に・・・。 引き裂かれた関係をもがき苦しむ少年、少女の物語である。 アルファポリス版は、各ページに人物紹介などはありません。 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』 この物語の世界は、15歳が成年となる世界観の為、現実の日本社会とは異なる部分もあります。

自分が作ったSSSランクパーティから追放されたおっさんは、自分の幸せを求めて彷徨い歩く。〜十数年酷使した体は最強になっていたようです〜

ねっとり
ファンタジー
世界一強いと言われているSSSランクの冒険者パーティ。 その一員であるケイド。 スーパーサブとしてずっと同行していたが、パーティメンバーからはただのパシリとして使われていた。 戦闘は役立たず。荷物持ちにしかならないお荷物だと。 それでも彼はこのパーティでやって来ていた。 彼がスカウトしたメンバーと一緒に冒険をしたかったからだ。 ある日仲間のミスをケイドのせいにされ、そのままパーティを追い出される。 途方にくれ、なんの目的も持たずにふらふらする日々。 だが、彼自身が気付いていない能力があった。 ずっと荷物持ちやパシリをして来たケイドは、筋力も敏捷も凄まじく成長していた。 その事実をとあるきっかけで知り、喜んだ。 自分は戦闘もできる。 もう荷物持ちだけではないのだと。 見捨てられたパーティがどうなろうと知ったこっちゃない。 むしろもう自分を卑下する必要もない。 我慢しなくていいのだ。 ケイドは自分の幸せを探すために旅へと出る。 ※小説家になろう様でも連載中

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

勇者のハーレムパーティを追放された男が『実は別にヒロインが居るから気にしないで生活する』ような物語(仮)

石のやっさん
ファンタジー
主人公のリヒトは勇者パーティを追放されるが 別に気にも留めていなかった。 元から時期が来たら自分から出て行く予定だったし、彼には時期的にやりたい事があったからだ。 リヒトのやりたかった事、それは、元勇者のレイラが奴隷オークションに出されると聞き、それに参加する事だった。 この作品の主人公は転生者ですが、精神的に大人なだけでチートは知識も含んでありません。 勿論ヒロインもチートはありません。 そんな二人がどうやって生きていくか…それがテーマです。 他のライトノベルや漫画じゃ主人公になれない筈の二人が主人公、そんな物語です。 最近、感想欄から『人間臭さ』について書いて下さった方がいました。 確かに自分の原点はそこの様な気がしますので書き始めました。 タイトルが実はしっくりこないので、途中で代えるかも知れません。

処理中です...