呪われた勇者~呪いのスキル『引寄せ』を授かった俺は、災いを引寄せると一族を追放。だが気が付けば災いどころか最強スキルばかり引寄せて最強に~

きょろ

文字の大きさ
上 下
25 / 45
第3章~モンスター討伐会~

剣姫エミリ・エスぺランズ(エミリ視点)

しおりを挟む


~王都・城壁の上~

 余りに突然の出来事に、私は自分の目を疑ってしまった――。

 こうしてモンスター討伐会を開いて大勢の前で自分の名を言うのは、私にとっても毎年恒例となっている。今年も王都は凄い熱気と歓声に包まれているわね。

 そんな事を思いながら集まってくれた人達を見渡していた瞬間、私は胸の高鳴りと共にある1人の男の人に目が留まった。

 “ジーク・レオハルト”――。

 間違いない。不意の出来事に思わず驚いてしまったけど、私が彼を見間違える筈ないわ。今の私があるのも彼のお陰。だって貴方は私の原点であり、私が憧れる強い人間なんだから。

「どうかされました? エミリ様」
「いえ。今年もこれだけ多くの方が参加してくれて、何だか感慨深いなと」

 挨拶を終えて椅子に座った後も尚、私は無意識に彼を見てしまっていた。

 ジーク・レオハルト……彼の名前を初めて知ったのは、もう何年も話になるわね。

♢♦♢

~王都・数年前~

 まだ私が幼少の頃、まだこの王都は今程豊かではく安定しているとは言えない国だった。

 私はそんな時、偶然ある男の子と出会った――。
 商会をしていたお父さんとこの王都まで足を運んでいたあの日、あの日は雲1つ無い快晴の天気だった事を今でもよく覚えている。

「……さあさあ! 今日は珍しく“上玉”が入荷した! 滅多に手に入らない代物だぜ! 買った買った!」

 青空の下、辺り一帯によく通る声で髭を生やした男が商売をしていた。彼が売っているのは“人”。いわゆる奴隷商というやつだ。

 男が上玉と言って売ろうとしていたのは子供の私よりも更に2~3歳年が幼いであろう1人の女の子。髪はボサボサで服もお世辞にも綺麗とは言えない装いだったけれど、その女の子は幼いながらに顔立ちが可愛く、綺麗な“桜色”の髪をしていたのが印象的。

 私は子供ながらに下品さを感じていた。
 売る男も勿論そうだけど、そこで足を止めてたり買おうと寄って来る貴族やお金持ち達の視線や感覚が、子供ながらにとても嫌だと思った。

 とは言っても、私なんかがそんな事を思っていたとしても目の前の現実は微塵も変わる事無く、ただただ当たり前に過ぎていくだけ。奴隷となる人生は絶対に自由など与えられないのだろうと理解も出来ていた。

 子供の私なんて無力。
 でも私は純粋にあの女の子を助けたいと思った。

「お父さん、あの女の子助けたい! 奴隷って大変なんだよね?」

 私はお父さん服の裾を掴んで懸命に訴え掛けたけれど、お父さんは困った様な顔をしながら「それは出来ない」と静かに呟いた。

 幼いながらも何となく理由は察する事が出来た。
 あの女の子を助けるには言わずもがなお金が必要になる。しかもその場で払って終わりじゃない。当然その先も。

 でも当時の私達にはそもそもそんな余裕もない上に、まだ名もないエスぺランズ商会がこれから王都で大事な基盤を築いていくという時に奴隷商との取引は出来ないとお父さんが言った。

 私もそこまで馬鹿ではない。お父さんが言っている事の意味も理解出来たし、改めて自分は何1つ出来ない人間なんだと実感させられるには十分だった。

 どうしようも出来ない。

 私は自分の無力を噛み締めながら何度も何度も言い聞かせるように心の中で繰り返し、自分よりも幼い女の子に手を差し伸べてあげる事すら出来ない虚無感から逃げようとその場を後にした。

 と、その次の瞬間。

「すみません! 僕がその子を引き取らせてもらいます――!」

 己の無力から目を背けたと同時、私の後ろからその声が響いた。

 反射的に振り返った私の視線の先には、高価そうな装いに身を包んだ1人の男の子。奴隷となっている桜色の髪の女の子と同じぐらいの歳だろうか。多分私よりも年下。

 しかもその男の子は明らかに場違い。
 奴隷の女の子を買おうと集まる大人達の最前列に出て堂々と手を挙げて言い放つ彼は、戸惑う周りの大人達の反応見る限り恐らくその子の単独の行動だ。

 子供の悪戯とはいえ周りの目も冷ややか。

 しかし、当の本人は一切濁りのない透き通った瞳で奴隷の女の子に目をやり、更に何の躊躇もなく真っ直ぐ彼女に手を差し伸べる。ニコリと屈託のない笑顔を見せる彼に、気が付けば奴隷の女の子も自然と差し伸べられた手を掴んでいた。

 私にはその光景が女の子なら誰でも1度は思い描くであろう、悩めるお姫様を颯爽と助ける“王子様”に見えたのだ――。

 後にも先にも私の人生でこの瞬間程自分が無力だと思った事は無かった。後悔した。

 だからこそ、私はこの時の悔しさを胸に頑張ろうと決意した。何時かお父さんに頼る事も無く、自らの意志で行動を起こし責任を取る。そして自分に堂々と嘘を付くことなく生きられる強い人間になろうと。

 あの少年の様に。

 それから暫くして、あの少年がレオハルト家という勇者一族出身で、“ジーク・レオハルト”という名である事を知れた――。

「まさかこんなところでお会いできるとは」
「ん? 何か仰られましたかエミリ様」
「いえ、何でもありませんよ」

 モンスター討伐会が終わったら彼と話してみたいわ。
 私の人生を変えるきっかけを作った、ジーク・レオハルトと。

 そんな事を思いながらモンスター討伐会を見守る事数十分――。

 討伐会も終わりが近づいてきた頃、突如妙な気配を感じた。

 何でしょう……この気配は。

「どうしましたか、エミリ様」

 突然椅子から立ち上がった私に、周りの皆も不思議そうな視線を向ける。けれど今はそれどころじゃない。

 何? 向こうから何か嫌な感じが――。

 そう思った次の瞬間、森の奥から勢いよくこちらに近付いてくるモンスターを見つけた。

「あれは……“グリムリーパー”⁉」

 黒いモヤモヤとした瘴気の体に骸骨の頭。不気味に伸びる骨だけの腕には巨大な鎌を持っている。

「なッ、何故グリムリーパーなんかが⁉」
「有り得ません! 我々がおびき寄せているのはスライムやゴブリン程度の下級モンスターのみです! グリムリーパーなんて“Aランクモンスター”をおびき寄せるなんて不可能ですよッ……!」

 突然の事態に場は一瞬で物々しい雰囲気に。

 グリムリーパーはAランクモンスターの中でも攻撃力が高くて危険。大勢人が集まっているこの場で暴れられたら大変だわ。

「皆を安全な場所に避難させて! 私がグリムリーパーを引きつけッ……『――ズガァァン!』

 刹那、一瞬で距離を詰めてきたグリムリーパーは手にする巨大鎌で城壁を破壊してきた。

「「うわぁぁぁぁッ⁉」」

 グリムリーパーの一撃によって辺りに轟音と地響きが起こり、場は瞬く間にパニックとなってしまった。

「皆さん落ち着いて! 私が食い止めるからその間に貴方達は早急に避難させて!」
「はいッ!」 

 私は剣を取り城壁から飛び降りる。
 グリムリーパーはその身をユラユラと揺らめかせながら骸骨の頭を私に向けてきた。

 これ以上暴れさせない為にもここで倒す。
 手にする剣に力を込めた私はそのままグリムリーパーに突っ込みを剣を振るった。

 ――ガキィン!
「くッ、重い……!」

 しかし私の攻撃は簡単に奴の鎌に弾き返されてしまう。その後も連続で攻撃を繰り出したけれど全て防がれてしまった。更に今度はグリムリーパーが巨大鎌を私目掛けて振るってきた。

 やばいッ!

 ――ガキィン!
「ぐッ!」

 凄まじい巨大鎌の一振りに私は辛うじて剣で身を守ったものの、奴の強烈な攻撃によって勢いよく体を飛ばされ城壁に叩きつけられてしまった。

 衝撃で一瞬息が詰まる。
 けれど幸いな事に致命的なダメージはない。

 私は自分の体のダメージを確かめながらゆっくりと立ち上がり、再び剣を構えてグリムリーパーと対峙する。

 だが次の瞬間、私が反応出来ない程の速さで間合いに入って来た奴は既に巨大鎌を振り下ろしており、奴の巨大鎌の切っ先が私の眼前まで迫っていた。



 あ。死ぬ――。





「危ない!」

 ――ガキィィィィン!
 私が死を悟って目を瞑った刹那、突如誰かの声が響いたと同時に、何かと何かがぶつかる衝突音が轟いた。

「ふう、間に合って良かったぁ。大丈夫ですか?」

 ゆっくりと目を開けると、そこにはあの時の王子様……私の人生を変えた“ヒーロー”の姿があった。

「ジーク……レオハルト――」

しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?

桜井正宗
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」  その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。  影響するステータスは『運』。  聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。  第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。  すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。  より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!  真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。 【簡単な流れ】 勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ 【原題】 『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』

『おっさんの元勇者』~Sランクの冒険者はギルドから戦力外通告を言い渡される~

川嶋マサヒロ
ファンタジー
 ダンジョン攻略のために作られた冒険者の街、サン・サヴァン。  かつて勇者とも呼ばれたベテラン冒険者のベルナールは、ある日ギルドマスターから戦力外通告を言い渡される。  それはギルド上層部による改革――、方針転換であった。  現役のまま一生を終えようとしていた一人の男は途方にくれる。  引退後の予定は無し。備えて金を貯めていた訳でも無し。  あげく冒険者のヘルプとして、弟子を手伝いスライム退治や、食肉業者の狩りの手伝いなどに精をだしていた。  そして、昔の仲間との再会――。それは新たな戦いへの幕開けだった。 イラストは ジュエルセイバーFREE 様です。 URL:http://www.jewel-s.jp/

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

婚約破棄追追放 神与スキルが謎のブリーダーだったので、王女から婚約破棄され公爵家から追放されました

克全
ファンタジー
小国の公爵家長男で王女の婿になるはずだったが……

職業・遊び人となったら追放されたけれど、追放先で覚醒し無双しちゃいました!

よっしぃ
ファンタジー
この物語は、通常1つの職業を選定する所を、一つ目で遊び人を選定してしまい何とか別の職業を、と思い3つとも遊び人を選定してしまったデルクが、成長して無双する話。 10歳を過ぎると皆教会へ赴き、自身の職業を選定してもらうが、デルク・コーネインはここでまさかの遊び人になってしまう。最高3つの職業を選べるが、その分成長速度が遅くなるも、2つ目を選定。 ここでも前代未聞の遊び人。止められるも3度目の正直で挑むも結果は遊び人。 同年代の連中は皆良い職業を選定してもらい、どんどん成長していく。 皆に馬鹿にされ、蔑まれ、馬鹿にされ、それでも何とかレベル上げを行うデルク。 こんな中2年ほど経って、12歳になった頃、1歳年下の11歳の1人の少女セシル・ヴァウテルスと出会う。凄い職業を得たが、成長が遅すぎると見捨てられた彼女。そんな2人がダンジョンで出会い、脱出不可能といわれているダンジョン下層からの脱出を、2人で成長していく事で不可能を可能にしていく。 そんな中2人を馬鹿にし、死地に追い込んだ同年代の連中や年上の冒険者は、中層への攻略を急ぐあまり、成長速度の遅い上位職を得たデルクの幼馴染の2人をダンジョンの大穴に突き落とし排除してしまう。 しかし奇跡的にもデルクはこの2人の命を救う事ができ、セシルを含めた4人で辛うじてダンジョンを脱出。 その後自分達をこんな所に追い込んだ連中と対峙する事になるが、ダンジョン下層で成長した4人にかなう冒険者はおらず、自らの愚かな行為に自滅してしまう。 そして、成長した遊び人の職業、実は成長すればどんな職業へもジョブチェンジできる最高の職業でした! 更に未だかつて同じ職業を3つ引いた人物がいなかったために、その結果がどうなるかわかっていなかった事もあり、その結果がとんでもない事になる。 これはのちに伝説となる4人を中心とする成長物語。 ダンジョン脱出までは辛抱の連続ですが、その後はざまぁな展開が待っています。

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

処理中です...