上 下
23 / 45
第3章~モンスター討伐会~

3-1 赤き想いと討伐会を引寄せる

しおりを挟む
♢♦♢

~クラフト村~

「よし。それじゃあそろそろ行こうか――」

 グレイから凄い手紙を貰って早1ヵ月。
 遂に王都で開かれるモンスター討伐会を2日後に控えた僕達は、討伐会に参加する為に久しぶりに王都へと向かうつもりだ。

 支度を済ませ、町長さんやサラさんに「行ってきます」と伝える僕の横にはレベッカがいる。それと最早当たり前と化したルルカとミラーナも一緒だ。

「ジーク君なら必ずや優勝出来ますな! お祝いの準備をして待っていますよ」
「ハハハ、それは気が早過ぎますよ町長さん。でも精一杯頑張ってきます」
「王都に行くのは久しぶりですね、ジーク様」

 クラフトを村を出る最後にそんなやり取りをしていると、突如イェルメスさんが大きな声で僕の名を呼びながら駆け寄って来た。

「ジーク君、良かった良かった間に合って」
「そんなに慌ててどうしたんですかイェルメスさん」
「いや“コレ”を君にと思ってな。想定よりだいぶ造るのに時間が掛かってしまってギリギリになったけどね」

 そう言いながらイェルメスさんは手にしていた一振りの剣を僕をくれた。戸惑いながらも鞘に収まる剣をゆっくり抜くと、僕の視界に飛び込んできたのは綺麗な赤い輝きを放つ、何とも神秘的で珍しい刃が施された剣だった。

「こ、これは……」
「ああ。ジーク君に貰ったあの赤い結晶で造った物だよ。あれはゲノムの様な黒魔術でしか生まれない特殊な素材でもあってな。滅多に手に入らない挙句に練成に時間が掛かってしまって、間に合うかヒヤヒヤしたよ」

 イェルメスさんから貰った剣は驚くぐらい手に馴染んだ。しかも今までに感じた事の無い様な力が剣から伝わってくる。

「村で錬成のスキルを持った者達にも手伝ってもらったお陰で今さっき完成する事が出来たんだよ。皆君に恩返しがしたいらしくてね、ジーク君の為ならと率先して手を貸してくれた訳さ」

 優しく微笑みながら言うイェルメスさん。僕はその言葉と皆の思いに思わず涙が出そうになった。

 ここまでしてもらったら絶対に悪い成績は残せないな。

「イェルメスさんも皆さんも、本当にありがとうございます! どこまで出来るか分からないけど、頑張ってこの剣で優勝を目指してきます!」 

 僕はグッと力強く剣を握り締め、レベッカとルルカとミラーナと共に王都へと旅立った。

♢♦♢

~王都~

「うっは~、久々に来たんよ王都。やっぱ人多いな」

 クラフト村を出た翌日。
 前はレベッカとずっと歩きだったから時間が掛かったけど、今回は途中でミラーナに乗せてもらった事もあってかなり早く着く事が出来た。

「それよりジーク、私はベヒーモス化で体力を使ってお腹が空きましたわ」
「ハハハ、そうだよね。ここまでありがとうミラーナ。そうしたら皆で何か食べようか」

 そんな会話をしながら、僕達は王都にある冒険者ギルドに向かって歩き出した。今日泊まる予定の宿もギルドから近いし、何より王都のギルドは規模がかなり大きいから色々な商店が入っている。勿論料理屋も。

 昔2、3度だけ僕も王都のギルドに来た事があったけど、まさか自分がちゃんと冒険者となってここに来るとは思ってもみなかったな。

 王都は明日のモンスター討伐会に向けとても賑わっているし、冒険者ギルドにも凄い人数の人が出入りし盛り上がりを見せている。年に1度のお祭りみたいなものだから当然と言えば当然かもね。

「なぁ、アレもしかしてレオハルト家の……」
「ん? 本当だ。彼はレオハルト家の長男であるジーク・レオハルトだ」
「あれ、でも確か彼は洗礼の儀で呪いのスキルを出したとかで一族を追い出されたんじゃなかったか?」
「何を言ってるんだよ馬鹿! お前この間の冒険者ニュース見ていないのか。彼はついこの間EランクからいきなりAランクに上がった実力者らしいぞ! しかも推薦人はあの大賢者イェルメスだ」

 冒険者ギルドに入るになり、僕達には様々な視線や言葉が四方八方から浴びせられた。いや、正確には僕達ではなくて“僕”だな。間違いなく。なんだか思った以上に注目を浴びてしまっている様だが、幸い予想していた最悪なイメージよりも酷くなくて安心した。これもイェルメスさんの名の効果かな……。

「どんな噂が立っているかと正直心配でしたが、やはりジーク様の素晴らしさは分かる人にはちゃんと伝わっている様ですね。少なからず懐疑な視線も感じますが、ルルカさんみたいにいきなり絡んで来る人がいないだけマシですねジーク様」
「ヒャハハ、相変わらず手厳しいんよレベッカちゃんは。あれも今となってはいい思い出だな」

 そんな会話をしながら既に空腹で元気がないミラーナの為に、僕達は早々に料理を注文した。運ばれて来るなりミラーナは勢いよく食べ始め、「美味美味!」と満足そうにあっという間に全てを平らげたのだった。

「ん~! とても美味しかったわ。ご馳走様」
「元気になってくれて良かったよ。おかわりは大丈夫かミラーナ」
「幾ら美味しくても一気にそんなに食べられないわ。でもまぁジークが優勝したらそのお祝いでまた食べに来るのもアリね」

 ミラーナが何気なくそう言った次の瞬間……。

「ハッ、誰が優勝だって? 余りの戯言に自分の耳を疑ったぞ俺は――」

 突如背後から響いた声。
 僕は確かに聞き覚えのあるその声の方向へ無意識に振り返っていた。

「……グレイ」

 そこにいたのは他の誰でもない弟のグレイ。
 見るのは家を出たあの日以来か。
 彼はまるで落ちているゴミでも見るかの様な蔑んだ瞳で僕に視線を飛ばしてくる。

「レオハルト家の面汚しが偉く調子に乗っているじゃねぇか。たかが冒険者レベルでAランクになったからって勘違いするなよ。お前にそんな実力が無い事も卑怯な手を使った事も、俺には全て分かっているからなクソが!」

 グレイは怒号交じりに僕にそう言ってきた。

「ちょっと、何なのよアンタ。急に出てきて偉そうね」
「ふん。三流とは違って本当に偉いレオハルト家の勇者だからな俺は。お前と同じ立場で物を言うな」
「おいグレイ。僕の事は構わないが、ミラーナの事を悪く言うのは許さないぞ」

 僕がグッとグレイを睨むと、それがまた気に入らないのかグレイは舌打ちをしながら悪態をついてくる。

「ちっ、本当にいちいち癇に障る野郎だな。お前のそうやって優等生ぶってるのが昔から気に入らなかったんだよ。せこい冒険者などに落ちやがって。何処まで一族の面を汚せば気が済むんだよ」
「同じ事を言わせるなグレイ。僕の事はどれだけ馬鹿にしようが構わないけど、冒険者の人達まで馬鹿にするんじゃない。冒険者はグレイが思っている以上に勇敢で偉大な存在なんだ」

 レオハルト家や他の貴族達はクラフト村に目も向けなかった。きっと他にも王都から離れた小さな村や町の依頼も無視しているんだろうお前達は。

「ヒャハハ。元とは言えレオハルト家出身のジークの前では少し気が引けるが、アンタら貴族は偉そうに高みの見物してるだけで実際何もしてないんよ。
俺らにとってはそんな貴族よりも目の前の人を救ってるジークの方がよっぽど勇者に相応しいね」
「なんだとッ……! さっきからお前ら誰に物を言ってッ「その通りだ――!」

 次の瞬間、僕達の会話を聞いていた他の冒険者がグレイの言葉を遮った。

「レオハルト家だか勇者スキルだか知らねぇが、黙って聞いてりゃ随分な事言ってくれてるじゃねぇか坊主!」
「そうだぞお坊ちゃんよぉ! お前ん家の事情なんか知らないが、この兄ちゃんが冒険者としてクラフト村を救ったのは本当の事だろう!」
「俺達冒険者がせこい落ちぶれだと? いい加減にしろよお前」

 ギルド内にいた他の冒険者達が矢継ぎ早にグレイに怒号を飛ばす。自分でも思いがけない事態にグレイは苦虫を嚙み潰したような表情をしながら1歩足を退かせた。

「ぐ、なんだコイツらッ……! 三流共が群れて粋がりやがって。お前達がそんな威圧的な態度を取ろうが、俺は選ばれし勇者だ! その事実は変わらん。お前ら程度じゃどう足掻いても俺には敵わなんだよ!」
「いい加減にしろグレイ。スキルや実力だけが全てじゃない。僕は家を追い出されて冒険者になった事で、そんな当たり前を改めて実感したんだ。お前の求めている強さは本当の強さじゃない」
「黙れ! そんなのは反吐が出る程の綺麗事だな。その強さが存在しないからお前は一族を追放されたんだろうが馬鹿が!」

 全く聞き耳を持たないグレイ。
 まぁこのプライドの高さは今に始まった事じゃないから、相手にするだけこっちが嫌な気持ちになるだけだ。

 グレイをもう無視しようとした瞬間、次に口を開いたのはレベッカだった。

「グレイ様、お言葉ですがジーク様は“強い”ですよ。貴方が思っている以上に。確かにジーク様とグレイ様では求める強さが違うかとは思いますが、貴方にはない強さをジーク様は持っております」

 レベッカ……。

「ふん、負け犬に飼われている使用人の分際が偉そうに。俺はお前の事も昔から気に食わなかったんだよ」
「そうですか。でも私はもうレオハルト家の使用人ではありませんので」
「相変わらず癇に障るな。だがまぁいい。これまでの事も含め、全てはモンスター討伐会で証明してやる。誰が本当に強い勇者であるのかをお前達全員にな。そこで身の程を知るがいい負け犬共! ハッハッハッハッ!」

 グレイは吐き捨てる様にそう言い残すと、そのままギルドを出て行った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

追放された美少女を助けた底辺おっさんが、実は元”特級冒険者”だった件について。

いちまる
ファンタジー
【毎週木曜日更新!】 採取クエストしか受けない地味なおっさん冒険者、ダンテ。 ある日彼は、ひょんなことからA級冒険者のパーティーを追放された猫耳族の少女、セレナとリンの面倒を見る羽目になってしまう。 最初は乗り気でなかったダンテだが、ふたりの夢を聞き、彼女達の力になると決意した。 ――そして、『特級冒険者』としての実力を隠すのをやめた。 おっさんの正体は戦闘と殺戮のプロ! しかも猫耳少女達も実は才能の塊だった!? モンスターと悪党を物理でぶちのめす、王道冒険譚が始まる――! ※本作はカクヨム、小説家になろうでも掲載しています。

自分が作ったSSSランクパーティから追放されたおっさんは、自分の幸せを求めて彷徨い歩く。〜十数年酷使した体は最強になっていたようです〜

ねっとり
ファンタジー
世界一強いと言われているSSSランクの冒険者パーティ。 その一員であるケイド。 スーパーサブとしてずっと同行していたが、パーティメンバーからはただのパシリとして使われていた。 戦闘は役立たず。荷物持ちにしかならないお荷物だと。 それでも彼はこのパーティでやって来ていた。 彼がスカウトしたメンバーと一緒に冒険をしたかったからだ。 ある日仲間のミスをケイドのせいにされ、そのままパーティを追い出される。 途方にくれ、なんの目的も持たずにふらふらする日々。 だが、彼自身が気付いていない能力があった。 ずっと荷物持ちやパシリをして来たケイドは、筋力も敏捷も凄まじく成長していた。 その事実をとあるきっかけで知り、喜んだ。 自分は戦闘もできる。 もう荷物持ちだけではないのだと。 見捨てられたパーティがどうなろうと知ったこっちゃない。 むしろもう自分を卑下する必要もない。 我慢しなくていいのだ。 ケイドは自分の幸せを探すために旅へと出る。 ※小説家になろう様でも連載中

勇者のハーレムパーティを追放された男が『実は別にヒロインが居るから気にしないで生活する』ような物語(仮)

石のやっさん
ファンタジー
主人公のリヒトは勇者パーティを追放されるが 別に気にも留めていなかった。 元から時期が来たら自分から出て行く予定だったし、彼には時期的にやりたい事があったからだ。 リヒトのやりたかった事、それは、元勇者のレイラが奴隷オークションに出されると聞き、それに参加する事だった。 この作品の主人公は転生者ですが、精神的に大人なだけでチートは知識も含んでありません。 勿論ヒロインもチートはありません。 そんな二人がどうやって生きていくか…それがテーマです。 他のライトノベルや漫画じゃ主人公になれない筈の二人が主人公、そんな物語です。 最近、感想欄から『人間臭さ』について書いて下さった方がいました。 確かに自分の原点はそこの様な気がしますので書き始めました。 タイトルが実はしっくりこないので、途中で代えるかも知れません。

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

処理中です...