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第2章~獣人国と刺客~

レオハルト家の破滅 ③

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♢♦♢

~王都・レオハルト家~

「くそがッ! ふざけんじゃねぇ! 俺は絶対に認めねぇぞそんなの――!」

 静かなレオハルト家の一室で、グレイは腸が煮えくり返る程の怒りを露にしていた。

 ――コンコンコン。
「失礼致します。グレイ様、こちらのお洋服はクローゼットにお入れしておきッ……「うるさいぞッ! そんなもんいちいち聞かずに勝手にやっておけ!」
「か、かしこまりました……! 申し訳ございませんッ!」
「いちいち謝るんじゃねぇ! 用が済んだなら出て行け!」

 グレイに罵声を浴びせられた使用人はバツが悪そうにそそくさとグレイの部屋から出て行く。彼が荒れているのは他でもない、さっき新た入ったばかりのジークの情報についてだった。

 ジークの状況や詳しい事の経緯を調べようとしたグレイは密かに諜報員を雇って調べさせ、今しがたその結果を聞いたグレイは遂に怒りが抑えられずに爆発していたのだ。

「畜生……絶対に有り得ないだろうがよそんな事……ッ!」

 どれだけ悔しがろうと、認めたくなかろうと、グレイが聞いた事は変わらない。諜報員からの情報では確かにジークは冒険者となり、これまでに報告されていた事は全て事実だと告げられた。

 ギガントゴブリンを倒した事。
 冒険者ギルドで揉めたBランクの実力者を圧倒した事。
 村を困らせていたベヒーモスを倒して従えさせた事。
 突如村を襲った災いから全ての村人達の命を救った事。
 そしてあの大賢者イェルメスがジークを推薦した事。

 そんな事絶対に有り得ないと思っていた事が、全て事実であったのだ――。

(ふざけんな、ふざけんな、ふざけんなッ、ふざけんなッ!
何でブロンズの腕輪のアイツが……しかも呪いのスキルを引き当てたアイツの何処にそんな実力があるっていうんだよ! 普通に有り得ねぇ!)

 グレイはつい昨日父キャバルが漏らした言葉が頭を過る。

『――もし万が一ジークの事が本当であったとしても、今はまだ疑問を抱く者も多いだろうが、今後同じ事が起こった際には最早言い逃れ出来ん。そうなれば我々レオハルト家が王国中の笑い者だろう――』

 何度もリピートされる父の言葉を脳内で消し去るグレイ。沸点まで達した怒りが徐々に冷まされていき、朧げな瞳で一点を見つめていた彼に突如閃きが訪れた。

「そうだ……。これはもう呑気に兄さんの動向を伺っている場合じゃない。ピンチはチャンス。この状況を1発でひっくり返せる手があるじゃねぇか」

 急に生気が戻ったグレイはそのまま足早に部屋を後にし、彼はその足で一直線に父キャバルの部屋へ向かい扉をノックした。

「失礼します、父上――」

 部屋の扉を開けたグレイの視界に真っ先に飛び込んで聞いたのはキャバルの険しい顔。ジークにやり場のない怒りを向けているのはグレイだけではなかった。

「奴の情報は聞いたな? これで完全にジークを無視出来なくなったぞ。どんなカラクリか定かではないが、“その事実がある”という事がもう大問題。今すぐに手を打たねばならぬ」

 キャバルがわざわざ説明をしなくてもグレイも既に気持ちは同じである。父が言いたい事も分かっていた。だからこそそれを踏まえた上でグレイは父の元に来たのだ。

 全てはジークを潰す為に。

「勿論です。俺に考えがあります父上」
「ほお。その考えとは」
「はい。それは来たるモンスター討伐会に兄さんを誘い込むのです。討伐会ならば卑怯な手を使う事も出来ませんし、完全に己の強さのみを証明出来ます。そうすれば奴のメッキも一瞬で剥がれる挙句、俺が本当の選ばれし勇者である事を王国中に見せつける事が可能です」

 キャバルにそう告げるグレイからは並々ならぬ気迫が零れ出ている。

「分かっていると思うが、失敗など言語道断だ。地位も名声も力も全て貴様に懸かっていると承知であろうな」
「当たり前です。俺が絶対に1位となり証明をしてみせます」

 グレイは力強くそう言うと、父の部屋を後にするのだった。

 毎年年に1度開かれるこのモンスター討伐会は、王国でも最大規模の催し物でもある。そこで見事1位に輝いた者は全国民からその実力を認められることは勿論、他でもない“国王様”と直に会う機会まで得られる。

 そうなれば国王や王族直属の依頼を任され、多くの富や名声も得られるのである。

(見ていろよ兄さん……! 俺は真に選ばれた最強の勇者なんだ。そうだ。俺とアイツの実力は天と地程の差がある。呪いのスキルを引き当てた落ちこぼれの奴なんかに俺が負ける理由など微塵も存在しない。
必ず討伐会で俺が1位となって、レオハルト家の名を更に轟かせてやる――)

 決意を新たに固めたグレイは早速行動に移し、ジークがいるであろうクラフト村にモンスター討伐会への勧誘の手紙を書き始める。

 グレイはシンプルに用件だけを伝えるつもりであったが、いざペンを握り文字を綴ると、これまでのジークに対する怒りと憎悪がそのまま混じりっ気なしの文言となって紙に綴られた。

 そして思いの丈を全て書き出したグレイは少し憑き物が落ちた様な表情で、書き終えた手紙を「出しておけ」と使用人に乱暴に渡すのであった――。
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