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第1章~呪いの勇者降臨~

1-8 呪いのスキルの真実を引寄せた

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「着いた――」

 日が沈みかけた頃、僕達は遂にビッグマウンテン山の頂上に辿り着いた。

 頂上の風景は道中と変わらない大きな岩だらけ。辺りを見渡すと、岩しかない頂上にポツンと1つだけ小さな小屋が建っていた。

 あそこに大賢者イェルメスが……。
 自然と小屋へと近付く僕達4人。

「本当にこんな所に住んでるのかしら」
「それかないだろ。逆にこんな所に家が建ってるんだからよ」

 ルルカとミラーナ、どちらの意見も正しい。
 未だにこんな所に住んでいるなんて信じ難い反面、僕達の目の前に家らしき小屋が建っているのもまた事実だ。

 明らかにこの小屋の存在だけ異質。
 しかも何か気配を感じるのは僕だけだろうか。

「御免下さい。大賢者様いらっしゃいますか――?」

 ええッ⁉ いきなり⁉

 驚き過ぎて僕は声が出なかった。まさかレベッカが待ったなしで小屋を開けるなんて。もし大賢者イェルメスが小屋に罠でも仕掛けていたらどうすッ……と、僕が危惧した刹那、突如小屋が淡く輝き出した。

「これは魔法陣……⁉」

 よく見ると淡い光は小屋からではなく更に下の大地から。僕達の足元には魔法陣と思われる模様が浮かび輝いている。

 そしてレベッカが小屋の扉を開けた先。
 その奥には暗闇から不気味に瞳を光らせる謎の影があった。

「モンスターだッ!」
「逃げろレベッカ!」

 ルルカの声が響いたと同時に僕達は反射的に戦闘態勢に入る。レベッカも咄嗟に走って僕の傍に来た。

『グルルルッ』

 暗闇から唸り声を上げて出てきたのは、狼の様な姿をした1体のモンスターだった。そのモンスターの体はユラユラと青い炎に纏われている。

「なんだあのモンスターは……」
「見た事無いモンスターね。もしかするとあれは“召喚獣”かもしれないわ」
「召喚獣だって? だとしたら“術者”がいる筈だ」

 そう。
 召喚獣はモンスターとはまた違う存在。召喚獣ならそれを発動させている術者が必ずいる。そしてその術者は恐らく――。

「皆、僕に任せて!」

 ここまで来られたのは皆のお陰。レベッカが空間魔法で大量の荷物を運び、ルルカとミラーナがここぞという時に皆を運んでくれた。だからこそ僕は頂上まで辿り着けたんだ。疲労が溜まっている皆にこれ以上負担は掛けたくない。

 僕は『無効』のスキルを発動させ、横一閃で召喚獣を真っ二つ斬った。

 ――シュゥゥ……ン。
「よし」

 やっぱり『無効』スキルが通じたぞ。
 斬られた召喚獣はユラユラと揺らめきながら跡形も無く消えていった。

「やりましたね、ジーク様!」
「他に召喚獣はいないみたいだね」
「大した強さではなかったわね。近くにいるんじゃないかしら」

 ミラーナの言葉で僕達はふと辺りを見渡した。
 恐らく近くに術者がいる。しかもこんな所にいるなんてきっと――。

 そう思っていた次の瞬間、突如大きな岩の陰から声が聞こえてきた。

「ハッハッハッ、まさか本当にここまで来るとはね――」
「「……!」」

 声がした方向へと振り向くと、そこには深緑色のローブを纏った白髪の男の人がいた。年齢は60代ぐらいだろうか。白い無精髭も蓄えたその男の人は何とも言えない不思議な雰囲気を醸し出していた。

「あ、あの、もしかして貴方が大賢者イェルメスさん……ですか?」
「如何にも。大賢者なんて呼び名は言い過ぎだがね」

 本当にいた。
 この人が勇者と共に魔王を倒した伝説の1人。

「凄ぇ……! マジで大賢者イェルメス本人なのかよ。生きてたって言うか何と言うか、思った以上に若い気が」
「そうね。もっと歩くのもやっとの老人をイメージしてたわ私」

 確かに。僕も同じ事を思った。なにせ魔王を倒したのはもう80年以上前の話なのに、目の前のイェルメスさんは若々しい。

「失礼ですよ2人共」
「アハハハハ! 構わんよ。ストレスなく余生を生きているお陰かな。まぁどう見られているのかは分からんが、私だって体中にガタがきている一般的な“99歳”の老人と変わらぬよ」
「きゅ、99歳……⁉ その若さで⁉」

 見た目と年齢のギャップに僕達は驚く事しか出来ない。だってどう見てもその歳だとは思えないよ。

「私の事などどうでもいい。それよりこんな場所にまで訪れ、わざわざ私に“聞きたい事”とは何かね」
「え、僕達が来た理由を知っているんですか?」
「ああ。君達がクラフト村を出た後に村長から一報があったからね」

 なんだ、そうだったのか。村長が連絡してくれていたなんて知らなかった。

 ん? でも待てよ。

「あのー、イェルメスさん。お言葉ですが、僕達が来ることを知っていたのなら何故召喚獣なんかを……」
「ああ、それは久々の来客で最近の若者がどのぐらい強いのかふと気になってな。まぁ思いつきだ」

 大賢者イェルメスはそう言いながらくしゃりと笑っていた。

「何よそれ。じゃあただ貴方の暇つぶしに付き合わされたって事じゃない」
「こら。相手はあの大賢者イェルメスだぞ」
「関係ないわよ。こっちはここに来るまで苦労してるんだから」
「アハハハ、悪かったね。兎も角話は中で聞こうか。飲み物を入れてあげよう」

 僕達はイェルメスさんに促されるまま小屋の中に入り、用意された飲み物を一口飲むと、再びイェルメスさんが口を開いた。

「それで、私に聞きたい事とは何かな?」

 落ち着いたトーンでそう言われた僕は袋から赤い結晶を取り出し、ずっと気になっている事を聞いた。

「イェルメスさんにお伺いしたいのはこの結晶の事なんですが……」

 僕がテーブルの上に赤い結晶を置いたと同時、イェルメスさんは予想外の方向に反応を示した。

「ジ、ジーク君……! 君のその腕輪――」

 腕輪?

 イェルメスさんは僕の出した赤い結晶の方ではなく、何故か僕のブロンズの腕輪に食いついてきた。それも目を見開いて明らかに驚いた表情で。

「あの~、この腕輪が何か……」
「アッハッハッハッ! そうかそうか! 遂に“現れた”か」

 驚きの表情から一変。イェルメスさんは突如大きな声で笑い出した。全く状況が把握出来ない。

「ジーク君、君は自分のその腕輪について何を知っているかね」
「何を知っているって……モンスターや災いを引寄せてしまう呪いのスキルという事しか……」

 それ以上もそれ以下もない。
 だってこれは誰もが知っている呪いのスキルだから。

「呪いだって? ハハハハッ、そりゃまたどういう訳でそうなったのかね。私が山で暮らしている間に、随分とややこしい世界になったものだ」

 僕だけでなくレベッカ達もきょとんとした表情を浮かべている。イェルメスさんの言っている事に誰もピンときていないんだ。そんな僕達を見たイェルメスさんは「その様子だと本当に何も知らない様だね」と笑いながら言い、話を続けたのだった。

「いいかいジーク君。君のその腕輪は、ありとあらゆるスキルを引寄せる“最強のスキル”なんだよ。かつて魔王を倒した勇者と“同じスキル”である――」
「「ッ……!」」

 余りに予想外の展開過ぎて言葉が出ない。

 僕のこのスキルが最強……?
 あの勇者と同じ……?
 考えれば考える程理解が追い付かない。

「勇者と同じスキルって、それヤバくないかジーク!」
「あら、流石私の王子様ね。強いとは分かっていたけどまさか勇者レベルなんて!」
「す、凄いですよジーク様! 決してミラーナさんの王子様ではありませんが、やっぱりジーク様には人を救う使命があるんですよ!」

 僕よりも先に皆が盛り上がりを見せた。
 だけどそんな事を矢継ぎ早に言われてもまるで実感がない。

「フフフ、呪いのスキルか……成程。確かに力の無い者にその『引寄せ』スキルが与えられたらそうなるか。さっきジーク君が言った様に、引寄せは少なからずモンスターも引寄せてしまうからね。

だがそのスキルは間違いなく本物。呪いどころか、そのスキルは世界を救う真の勇者にしか与えられない代物。
引寄せに選ばれたという事は、ジーク君にはそれ相応の実力と使命……いや、世界を救う勇者としての“運命”に選ばれたのだよ――」

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