上 下
6 / 45
第1章~呪いの勇者降臨~

1-6 クラフト村で宴を引寄せ

しおりを挟む
♢♦♢

~クラフト村~

「ジークさん――!」
「おお、無事であったか!」

 村から離れた所に避難していた皆を、レベッカが呼び戻してくれた。心配してくれていたであろうサラさんや村長さんは、僕達を見るなりとても安堵していた。他の村人達も皆お礼を言ってくれている。

「まぁまぁ落ち着けよ皆。兎も角ベヒーモスはこのジークが討伐してくれた! もう襲ってくる不安もねぇから安心していいんよ」
「おおー、なんて事だ! まさかあのベヒーモスを倒しただって⁉」
「信じられん……。Sランクのモンスターなんて倒すどころか遭遇するのも珍しい伝説のモンスター。それを倒してしまうなんて……!」

 村の皆は感謝と共に驚きも生まれていた。
 まだ皆がざわつく中、村長さんが1歩前に出て僕に話し掛けてくる。

「ジーク君、本当にありがとう! いやはやこれは何とお礼を言ったらいいか」
「そんなの気にしないで下さいよ。皆が無事で僕もホッとしました」 
「いやいや、こんなのでは私の気が済みません! 大事なクラフト村を守っていただいたんですから。王都への要請が何の音沙汰も無いので、私はここ数日間ずっと気が気がじゃなかったんですよ」

 話す町長さんからこれまでの不安と感謝がこれでもかと伝わってくる。ここまで感謝される事でもないけど、王都の奴らが要請を無視しているのは本当に許せない。

「皆さんに喜んでもらえたなら僕も嬉しいです。自分が出来る事をしたまでなので。それと町長さん……実は1つご報告がありまして」
「はて、何かまだ問題がありましたか?」
「ほらミラーナ。ちゃんと言わないと――」

 断りを入れた僕は皆の前に出る様ミラーナを促す。
 彼女は恥ずかしそうに不安な顔をしながらもゆっくりと口を開いた。

「ま、まぁ、小さな村にしては野菜が新鮮で美味であったわ……。私の口でも満足出来る物だったわよ」
「それは……ありがとうございます……?」
「こらこら、違うだろミラーナ。言う事はそこじゃない」

 ミラーナは「分かってるわよ! もー!」と何故か僕に文句を言った後、町長さんと村の皆に勢いよく頭を垂らした。 

「村の畑を荒らして、皆を怖がらせてしまってごめんなさいッ! もう絶対にしないわ。って言うか、私だって好きでやったんじゃないかわよ」

 素直じゃないなぁもう。でも反省はしてるから大丈夫だろう。

 謝るミラーナを横目に、村の人達や町長さんはキョトンとした表情を浮かべて僕に尋ねてきた。

「あのー、ジーク君。彼女は一体……? どういう事かね?」
「実はですね――」

 僕は皆に事の経緯を全て報告した。
 ミラーナがベヒーモスだったという事、彼女が畑を荒らしてしまった事、でも彼女に悪気はなく一応事情があったという事。

 全てをきちんと伝えると、町長さん達は頷いて納得してくれた。

「凄いですよジークさん! ベヒーモスを討伐するだけでなく仲間にしてしまうなんて!」
「え、いや、そういう訳じゃ……」

 なんか受け取り方のニュアンスが若干ズレているサラさんだったが、この一言で完全にそういう事になってしまった。

「ベヒーモスを従えるなんて最早勇者じゃないか!」
「君達はクラフト村のヒーローだ!」
「本当にありがとう! 好きなだけ村に滞在して下さいね!」
「今日は勇者誕生の宴といこうぜ皆ぁ!」
「「おおー!!」」

 思った以上に盛り上がりを見せる村の人々。
 正直こんな盛り上がりをされてしまうと何と言っていいのか全然分からない。

「ヒャハハ。こりゃ今日はいい酒が飲めるんよ。しかも美女付きで」
「流石ジーク様です」

 一件落着……って事でいいのかな、これは。
 どう反応していいか分からない僕は「ハハハ」と苦笑いを浮かべる事しか出来なかった。

 そして皆が盛り上がる中、僕が徐にブロンズの腕輪に視線を落とすと、今のミラーナとの戦闘のせいか、またも新しいスキルが刻まれていた。

 『分解』――。

 勿論これがどういった効果は分からない。
 新たなスキルの事も然ることながら、村は早くも宴モード。皆が外にテーブルやイスを出し、多くの食べ物や飲み物を持ち寄り始めた。

「さあさあ“勇者御一行様”! 好きなだけ召し上がって下さい! これからまだまだ出しますので、遠慮なくくつろいで下さいよッ!」
「あら、それは嬉しいわね。めでたく元に戻れた事だし、遠慮なく貰うとするわ」
「サラさーん! 俺も酒貰える?」
「しょうがないですね。今日は特別ですよ。ジークさんもレベッカさんもどうぞ!」

 どんどん賑わうクラフト村の皆。
 相変わらず感謝の言葉を矢継ぎ早に受け取っている上に、こんな厚いおもてなしをされると本当にどうしていいか戸惑っちゃう。

 皆が喜んでくれているのは当然嬉しいけど勇者なんて褒め過ぎだし、ルルカは百歩譲って分かるとして、事の発端である君が何故真っ先にご飯を頂いているんだミラーナ……。

「私達も行きましょうかジーク様」
「う、うん。そうだね。なんかもう逆に断れない雰囲気だし」

 レベッカに促され、僕達も皆の有り難い好意に甘えさせてもらった。

 何はともあれ皆本当に無事で良かったな。
 レベッカも楽しそうにしているし。

 僕は貰った飲み物をグイっと飲みながら、賑わうクラフト村の人達の笑顔を見てふとある事を思い出した。


 あれ。
 そう言えば僕……。


 ちゃんと冒険者登録してもらったんだっけ――?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

ユニークスキルの名前が禍々しいという理由で国外追放になった侯爵家の嫡男は世界を破壊して創り直します

かにくくり
ファンタジー
エバートン侯爵家の嫡男として生まれたルシフェルトは王国の守護神から【破壊の後の創造】という禍々しい名前のスキルを授かったという理由で王国から危険視され国外追放を言い渡されてしまう。 追放された先は王国と魔界との境にある魔獣の谷。 恐ろしい魔獣が闊歩するこの地に足を踏み入れて無事に帰った者はおらず、事実上の危険分子の排除であった。 それでもルシフェルトはスキル【破壊の後の創造】を駆使して生き延び、その過程で救った魔族の親子に誘われて小さな集落で暮らす事になる。 やがて彼の持つ力に気付いた魔王やエルフ、そして王国の思惑が複雑に絡み大戦乱へと発展していく。 鬱陶しいのでみんなぶっ壊して創り直してやります。 ※小説家になろうにも投稿しています。

自分が作ったSSSランクパーティから追放されたおっさんは、自分の幸せを求めて彷徨い歩く。〜十数年酷使した体は最強になっていたようです〜

ねっとり
ファンタジー
世界一強いと言われているSSSランクの冒険者パーティ。 その一員であるケイド。 スーパーサブとしてずっと同行していたが、パーティメンバーからはただのパシリとして使われていた。 戦闘は役立たず。荷物持ちにしかならないお荷物だと。 それでも彼はこのパーティでやって来ていた。 彼がスカウトしたメンバーと一緒に冒険をしたかったからだ。 ある日仲間のミスをケイドのせいにされ、そのままパーティを追い出される。 途方にくれ、なんの目的も持たずにふらふらする日々。 だが、彼自身が気付いていない能力があった。 ずっと荷物持ちやパシリをして来たケイドは、筋力も敏捷も凄まじく成長していた。 その事実をとあるきっかけで知り、喜んだ。 自分は戦闘もできる。 もう荷物持ちだけではないのだと。 見捨てられたパーティがどうなろうと知ったこっちゃない。 むしろもう自分を卑下する必要もない。 我慢しなくていいのだ。 ケイドは自分の幸せを探すために旅へと出る。 ※小説家になろう様でも連載中

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

『殺す』スキルを授かったけど使えなかったので追放されました。お願いなので静かに暮らさせてください。

晴行
ファンタジー
 ぼっち高校生、冷泉刹華(れいぜい=せつか)は突然クラスごと異世界への召喚に巻き込まれる。スキル付与の儀式で物騒な名前のスキルを授かるも、試したところ大した能力ではないと判明。いじめをするようなクラスメイトに「ビビらせんな」と邪険にされ、そして聖女に「スキル使えないならいらないからどっか行け」と拷問されわずかな金やアイテムすら与えられずに放り出され、着の身着のままで異世界をさまよう羽目になる。しかし路頭に迷う彼はまだ気がついていなかった。自らのスキルのあまりのチートさゆえ、世界のすべてを『殺す』権利を手に入れてしまったことを。不思議なことに自然と集まってくる可愛い女の子たちを襲う、残酷な運命を『殺し』、理不尽に偉ぶった奴らや強大な敵、クラスメイト達を蚊を払うようにあしらう。おかしいな、俺は独りで静かに暮らしたいだけなんだがと思いながら――。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

処理中です...