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4杯目~導き酒~

46 終焉の光~序曲~

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♢♦♢

 
 その輝きは月光の如し――。

 誰もが目を奪わてしまう程に美しく神々しい光を放つは……古よりこの世界に伝わる幻の龍、ラー・ドゥアン・ファンフィーネ・ルア・ラグナレク――。

 またの名を『満月龍ラムーンドラゴン

 満月龍の訪れは終焉を生む。

 古からの言い伝え通り……俺の目の前には忘れもしない、1つの終焉が舞い降りてきた――。

「満月龍ゥゥゥゥゥッ!!」

『ヴオ″ォォォォォォッ!!』

 俺の雄叫びに呼応するかの如く、6年という歳月を経て俺は再び満月龍と対峙した。

「魔力100%一致。私達が追い求めていた満月龍で間違いありません」
「こ、これが満月龍ッ⁉」
「やはり想像以上だな……」
「噓……」

 思う事それぞれに、俺達全員の目には確かに満月龍の姿が映っていた。

「――危ないッ!」
「「……⁉」」

 本能と本能と戦いに、丁寧な始まりの合図など存在しない。

 互いが出くわした瞬間から命の奪い合いは始まっているのだ――。

『ギヴァァァ!』

 何十メートルという満月龍の尻尾が凄まじい速さでリフェル、アクル、エマ、ルルカの4人を襲った。

 ――ズガァァン!……バリンッ……!
 咄嗟にリフェルは魔法壁で満月龍の攻撃を防いだ。

 だが、出会った頃にアクルが話していた事が現実となった。

 辛うじて満月龍の一撃は防いだものの、リフェルの力の根源は満月龍の魔力。リフェルの魔法は満月龍に対して相殺されてしまったのだ。

「やはり私の魔法が」
「危っぶねッ、 助かったぜリフェル姉さん!」
「 そんな……こんなの勝てる訳ない……」
「また来るぞッ! 全員距離を取るんだ!」

 初めて満月龍と遭遇した4人は、やはりどこか現実離れした感覚だろう。その思いは俺にもよく分かる。

 そしてよく分かっているからこそ、俺は誰よりも覚悟を持ち、“この瞬間”を1日たりとも忘れずにイメージしていたんだ。

 それが“今の差”に繋がっただけ――。

「会いたかったぜ……クソドラゴンッ……!」

 奴の最初の一撃に反応していた俺は尻尾を掻い潜り、そのまま無防備となっていた背後を斬りつけた。

 ――シュバァァンッ!
『ギイィィ……ッ!』
「まぁまぁだな」

 傷は浅いが確かに攻撃が通じた。ほんの僅かではあるが切り口から一筋の血が流れている。

 流石満月龍。
 この超巨体でこの速さは驚かされるぜ。でも、何も知らなかった前とは違う。お前も俺の攻撃に反応して躱した様だが今は6年前には無かった自信と手応えを感じてるぜ。

 再度攻撃を仕掛けようとしていた満月龍であったが、今の俺の一撃で態勢を立て直した。

「よく動けたなジンの旦那……」
「アイツの覚悟は計り知れん。オラ達が満月龍を甘く見過ぎていたんだ。本気でいかないと次の瞬間には死ぬぞ」
「ヒャハハ、確かにそうみたいね。真面目にいこうか」

 アクルとルルカは現状を飲み込み一瞬で魔力を練り上げた。

 アクルは勿論、普段へらへらしているルルカも、タヌキから人間の姿へとシフトチェンジ。この上なく真剣な表情へと変わっていた。

 こんな顔1度も見た事がねぇ。

「大丈夫ですか?エマ」
「え、ええ……」

 瞬時に魔法を出せたリフェルは大丈夫。問題はエマか……。

 エマは体が小刻みに震えていた。

 世界一の暗殺一家だろうが最高傑作だろうが、エマは紛れもない1人の少女だ。感情を無にし、幾度となく暗殺を
行ってきたとは言え、満月龍から発せられる“絶望感”は全てを凌駕する。

 しかし正直……エマが動けなくなるとはな……。

「リフェルッ! エマ連れて離れてろ!」
「こっちですエマ」
「大丈夫よ……私だって……」
『ヴバァァァッ!』

 チッ。生憎俺も余裕はねぇ。コイツだけに集中しねぇと一瞬で殺られちまう。

 攻撃しまくって奴の注意を俺だけに向かせるんだ――。

「来い満月龍ッ!」

 俺は更に魂力を練り上げ身体強化を施し、奴目掛けて剣を振るいまくった。

 ――ガキィン! ガキィン! ズバァン! ザシュンッ!
『ギガァァッッッ!』
「オラオラオラぁッ!」

 コイツの攻撃ははとてつもなく重い。一撃防いだだけで全身が震える程の衝撃が襲ってくる。しかもこのデカさで動きが速いとなりゃ、こっちはそれ以上に間髪入れず攻撃を繰り出すしかねぇ。

 機動力と手数でまずはダメージを与え続けてやる。

「オラ達もやるぞ」
「ああ」

 一瞬たりとも気も抜けない攻防戦。

 6年前のあの日と違うのは、己自身の覚悟とシンプルな実力。

 加えて……。

 奇妙な巡り会いで何故か旅を共にしてきた……摩訶不思議な“仲間達”がいる事――。

「……“獄炎の隕石メテオフレイガ”!」
「“風鉤爪エアルド”!」

 アクルの魔法によって繰り出された巨大な隕石。メラメラと豪炎を纏い、そのまま空から一直線に満月龍目掛けて落下。

 それと同時、風で体を浮かせたルルカは突風の如き速さで満月龍の頭部まで詰め寄ると、繰り出した風の鉤爪が奴の顔面を捉えた。

 ――ゴオォォン! シュバババン!
『ヴオォォォォ……ッ!』
「俺達の攻撃じゃ致命傷は与えられないけど、アクルちゃんの隕石の“重さ”や鱗に覆われていない“目や体内”なら、ちょっとはダメージ通るでしょ」
「油断するなルルカ! 攻撃したら必ず距離を取れ。一瞬で食われるぞ。それとその呼び方はやはり納得いかん!」

 計算通りか……。
 やはり奴に致命傷を与えられるのは、このベニフリートを持つ俺のみ。アクルとルルカにはダメ元で策を練ってもらっていたが、どうやら上手くダメージになってるみてぇだ。こりゃかなり心強い。

 下らん言い争いを除いてはな……。

「今更何言ってるんよ。もう半年も呼んでるのにまだ恥ずかしッ……『――ギヴォォ!』
「避けろルルカ!」

 ――ボオォォォォッ!
 満月龍は自身に直撃した隕石を振り払い、目の前にいたルルカ目掛け黒煙の咆哮を放った。
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