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3杯目~悪酒~

44 旅にタヌキは付きもの

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♢♦♢

「――起きましタ!」

 涙を流していたルルカが落ち着いた頃、リフェルのその言葉で最早忘れていたもう1つの事を思い出した。

 そう。他でもない、ヘクセンリーパーだ。

 あれからずっと揺らしていたらしいリフェルは遂に奴を起こした模様。

 流石のヘクセンリーパーも、満月龍の魔力で攻撃される事など想定もしていなかっただろう。辛うじて起きてはいるが、目も虚ろに意識も朦朧としている。

 そしてそんなヘクセンリーパーに容赦なく、常に圧倒的な効率を求めるリフェルは直ぐに催眠魔法たるものを掛けたらしく、ヘクセンリーパーはいとも簡単に、俺達が喉から手が出る程欲しかった情報を漏らしたのだった。

「……私の……魔術なら……満月龍の所へ……飛ばせる……」

 さっきまでの威勢はまるでない。声も小さく掠れ聞き取りにくかったが……コイツは今確かに言った。

 “満月龍の所へ飛ばせる”と――。

 俺達は皆自然と目を合わせていた。

「遂にきたか」
「まだ俄には信じ難いがな」
「やっと満月龍殺せるのね。そうと分かれば早く行くわよ」
「私も同じ意見でス」

 全く、コイツらときたら……。

「焦るんじゃねぇ。おいヘクセンリーパー、本当に満月龍の所へ俺達を飛ばせるのか?」

 俺は再度確認した。あっさりし過ぎて実感がねぇからな。

「出来る……だが……物必要……」

 ヘクセンリーパー曰く、どうやらその魔術を使う為の素材を7つ集めなければいけないらしい。

 リフェルの魔法で何とか4つは出せたが、残る3つは特殊素材の為、集めに行かなければ手に入らない。

「少し時間は掛かるが、奇跡的に全部揃えられそうだな」
「直ぐに満月龍殺したかったのに」
「急いてもいい結果は出ないぞ。元々見つかるかも分からない幻をオラ達は追っていたんだ。それを思えば、たかが数ヶ月ぐらい問題ないだろう」

 取り敢えず魔術に必要な物は揃えるとして、問題は……。

「全部集めるまでの間、“コイツ”どうする?」

 そう。今はリフェルの催眠魔法に掛かっているが、流石にこのまま何か月も放置は無理だろ。しかもまだ肝心な魔術を使ってもらわないといけねぇ。でもだからと言って連れて行くのもな……。 

「良かったら“コレ”使う? 旦那」

 ルルカはそう言って1つの魔具を取り出した。

「本当は殺そうと思ってたんだけどね……。万が一勝てなかった時の保険で用意しておいたんよ。
この魔具を使えばコイツを異空間に閉じ込めておける。1度きりしか使えないし、使うには魔力が必要。そしてその魔力によって閉じ込められる時間が変わるって言う魔具なんよコレ。
リフェル姉さんのとんでも魔力なら、多分半永久的に閉じ込められるんじゃない?」
「へぇー、そんな物まであるのか。……って、逆に使っていいのか?」
「旦那達ならいいよ。もう使わないだろうし」
「そうか。なら有難く使わせてもらうとするか」

 コレ使えば放置する事も、ましてやこの先同行させる事もしなくて済む。願ったり叶ったりだ。

「ただし! 1つだけ交換条件がある」 

 魔具を渡そうとしたルルカは一瞬その手を引っ込めて言った。

「旦那達の用が済んだら、コイツは俺に渡してもらうよ」
「別に構わねぇが……どうするつもりだ?」
「まぁ殺そうと思えば何時でも殺せるけど、よく考えたらそれじゃあ割に合わないんよ。コイツには、せめて死よりももっと苦しい思いをしてもらわないと、死んでいった奴らが浮かばれない。俺個人的にも許せないしね。それに何よりも先ず、このふざけた呪いを解いてもらわなきゃ」

 ルルカは真っ直ぐ俺の目を見て言ってきた。

 コイツが後にヘクセンリーパーに何をするつもりなのかは知らねぇ。つか考えたくもねぇ。

 こう言っちゃアレだが……この2人の出来事について俺達は微塵も関係ない。どっちかが何時どこで死のうが正直
興味はない。ルルカがしようとしている事もな。

「分かった。俺達はコイツに魔術を使ってもらえさえすればそれでいい。後はお前の好きにしろ」
「よっしゃ、取引成立! じゃあさっさとコレに閉じ込めて、“俺達”も残りの素材集めと行こうかね」

 ……ん?

 今コイツ……“俺達”って言った……? 

「ちょっと待て。お前……もしかして一緒に来る気か?」
「何言ってるんよ旦那。そんなの当たり前でしょ! ヘクセンリーパー持ち逃げされたら困るからね」
「そんな事する訳ねぇだろ! 用済んだらいらねぇっつうのこんな危ない奴」
「いやいや、出すとこ出せばかなりの代物になるって。売り飛ばすなら分け前はキッチリ貰わないと」
「だからしねぇってそんな事」
「まぁそう言う事だから俺が見張ってないとね。それに俺もうする事なくて暇だし、まさかマジで満月龍探してる人なんてこの先一生出会えないと思うからさ。絶対面白くなるでしょ」
「お前の暇つぶしなんか付き合ってられるか。しかも1ミリも面白くねぇ。死ぬぞ」
「それはそれで構わないんよ。こっちはとっくに生きる希望なんて無くしてるからね。ヒャハハ」

 笑いながら、まるで呼吸をするかの如くそう言ったルルカ。

 俺はその言葉が到底他人事とは思えなかった。

「……死んでもいいなら好きにしろ。タヌキの面倒なんか見られねぇからな」
「OK、了解。それじゃあ改めて宜しくね“ジンの旦那”。楽しい旅にタヌキは付き物なんよ! 他の皆さんもどうぞ宜しく。 早速まずは自己紹介からでもしようか!」

 はぁ……もう付き合い切れん。

「私達の旅にタヌキを連れて行くメリットは1つもありませんヨ」
「厳しいねリフェル姉さん」
「私はアナタの姉ではありませン」
「ヒャハハ、やっぱ面白い。そっちのお嬢ちゃんと俺を助けてくれた大きなアンタの名前は?」

 賑やかと言うか五月蠅いと言うか。その後もルルカは他愛もない話を、愉快にただただ喋り続けているのであった。




 そして、残りの素材集めをする事“6か月”――。


 俺達は遂に、魔術に必要な素材を7つ全て集めたのだった――。
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