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2杯目~旅立ち酒~

29 ピノゾディ家

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~フランクゲート・メインオークション会場~

 入り口の扉を抜けると、これまた広い部屋に出た。全体は少し薄暗くなっており、部屋の1番奥には大きなステージが設けられている。ステージはスポットライトが数多く当てられ、それを取り囲む様にオークションの参加者達が座っていた。

<――さぁ、お集まりの皆様! 本日もここ、フランクゲートには豊富なラインナップが取り揃っております! 高価であるなエルフの羽から入手困難な魔草にラビト族の脊髄! そして勿論、使い方自由な人間の子供から珍しいモンスターまで! 皆様の気に入る商品が出てくる事間違いありません!>
「「ワァァァァァ!!」」


 虫唾が走る――。

 ただただこの一言に尽きた。

「正気とは思えねぇ」
「心外ではあるが意見が合う。これが人間だけならまだしも、オラと同類の種族の奴らまでいるとなっては終わりだ」
「何時まで眺めているつもりデスか? 早く潰してアクルとツインマウンテンの問題を解決、そして私達ハ満月龍を探すのデスからさっさと片付けマスよ」

 リフェルの言う通り、少なからず富や名声を持ち合わせた権力者共の集まりなのだろうが、こんなものさっさと潰してしまった方がいい。非常に不愉快だ。

 だが、これがまた闇でもある部分。

 世界中の権力者共が携わっているとなれば、リバース・オークションの存在を公にしたところでどうせ揉み消される始末。一時は話題になるだろうが、それも直ぐに鎮められた挙句に、奴らならそんな事をした者を寧ろ罪人にする事すら出来るだろう。

 “ここ”を潰すのは一瞬だが、そこからの影響の方が問題。それこそ王国が動く程の戦争にもなりかねん。

<そしてなんと、本日は超大目玉商品がオークションに掛けられております!>
「「おおーー!!」」

 俺の思いを他所に、場内は更に盛り上がりを見せている。

<知るものぞ知るその商品の名は……“No.444”! またの名を“ピノキラー”! >

 アナウンスから告げられた名に場内がどよめいた。

<そう! ピノキラーは裏世界で最も有名で冷酷なあの暗殺一族、ピノゾディ家の最高傑作と称される存在! 彼女のその暗殺はあまりに完璧すぎて芸術とまで呼ばれる程。そんなピノキラーをオークションで手にするチャンスは超超超貴重です! 彼女を雇いたいと言う声は常に世界中から生まれており、喉から手が出る程欲しがる者も絶えません!>

 どよめいていた場内は更に異様な熱気に包まれている。

「ピノキラー……? 何だそれ」
「今のアナウンスを聞いていなかったのデスか? ピノキラーは裏で世界最凶と言われる殺人兵器デス。まぁ兵器と言っても、私の様ナ機械ではナク女の獣人族になりマスが。

彼女は生まれた頃からオークションの商品として売りに出され、その素質を見抜いたとされるピノゾディ家が彼女がを買いマシタ。そして物心着イタ時から、ピノゾディ家は彼女にアリとあらゆる暗殺術を習得させ、結果世界最凶と呼ばれるマデの殺人兵器ヲ生み出したのデス。
彼女のソノ天才的な暗殺は芸術とマデ称されているそうデスよ。私もヤレと命じらレレば負けマセンがね」

 アクルの時と同様、Dr.カガク達は一体何処でこんな情報までも手に入れたのだろうか。

 そしてそんな所でも張り合わなくていい。

「オラもピノキラーという名前は聞いたことがある。暗殺が得意なひぐまの獣人族だ」
「へぇ……」
<それでは皆様、長らくお待たせいたしました! 只今より本日のメインオークションを開始致します!>

 終始胸糞悪いアナウンスによって遂にオークションの幕が上がった。
 
「リフェル。オークションに掛けられる奴らは何処にいる?」
「コノ部屋の隣デスね。丁度ステージ裏の真横に位置する部屋二、多くの人間やモンスターの魔力ヲ感知しマシタ」
「その部屋への入り口は?」
「直接ステージへと繋がる出入り口と、反対側にモウ1つ出入り口がありマス」
「よし。そこに行こう。目立つなよお前ら」

 幸いにも場内が薄暗いお陰で動きやすい。変に目立たないからな。まぁ元からここ自体が広過ぎるから、俺達3人がどこを歩いていても誰も気に留めないだろ。

 流石にオークションに掛ける奴らを集めている部屋となると、さっきみたいな警備が絶対配置されているだろうからそこだけ上手くやらないと。

「他のモンスター達を助けたら直ぐに人間共殺すからな」
「別に殺さなくてもいいだろ。このオークション会場を破壊すれば取り敢えずよ」

 そんな会話をしながら俺達は速やかにステージ裏の部屋へと辿り着いた。

「……厳重だな」

 やはりここには警備が多数。
 出入り口どころか部屋の外の廊下にまで多くの警備が配置されていた。

「どうする?」
「何も考えてイナかったのデスか。流石ジンフリー、呆れマス」
「面倒だな。全員始末してその後助け出せばいいだろう」
「馬鹿。それじゃあ一瞬で大騒ぎだろ。せめて中の様子だけでも分かればな……」
「ソレなら“私ヲ”使いなサイ。遠隔で透視する事が出来マスよ。誰にも気づかレズ」

 そっか。
 コイツの便利な魔法をすっかり忘れていた。魔力ねぇから基本的に魔法を使うっていう発想にならないんだよな。

「でもここで魔法発動するのはマズいだろ。例えバレない能力でも、練り上げた魔力を感知されたらアウトだぜ?」
「果てしなくアホですねアナタ。私ガそんな初歩的な事ヲ計算してイナイとでも? そんな事は百も承知デス。だから“私ヲ”使いなサイと言ったのデス。“魔法”ではナク」
「え……どういう事?」
「何万回と言いマスが、私はDr.カガクが造り出した最高のアンドロイドなのデス。魔法を使わなくてもそもそものスペックが高機能。私の眼球は2㎞先までズームが可能であり勿論ピンボケ無し。それドコロかサーモグラフィー機能も備わってイル挙句に、普通の壁や建物程度ナラバ透視する事が出来るのデスよ」

 マジかよ……。
 頼むからそういう大事な事は早く教えてくれ。そんな機能あるならわざわざ来る必要なかったじゃねぇかよ。

「なかなか扱いが難しい機械だな」
「分かってくれて助かるぜ」
「何デスか? まるで言わナカった私が悪いミタイに聞こえマスけど、高機能ノ私を使いコナせていないジンフリーが100%悪いデスからね。当然」
「はいはい……。分かったからその高機能で部屋の様子確かめてくれ早く」
「了解」

 そう言ってリフェルは部屋を透視した。
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