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1杯目~誤飲酒~
17 再出発③
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意外だったのだろう。
急な俺の申し出に、フリーデン様とバレス国王、そしてエドもまるで察しがついていない様子。
まぁ無理もねぇ。俺だって“今”気が変わった所だからな。
「先ずはバレス国王。都合がいいと思われるでしょうが、今までの度重なる失礼お詫び申し上げます」
「……良い。まだ両国の関係が完全に修復された訳でもない。それにお互い様であろう。満月龍の力を向けられている分不利ではあるがな」
「ありがとうございます。では結論から単刀直入に……私、ジンフリー・ドミナトルは、正式に“満月龍の討伐”を目的に旅に出ようと思います」
「「――⁉」」
さっきまでの殺伐とした空気が噓であったかの様に、場が何とも言えない静寂な空気に包まれる。そしてそんな空気を打破したのはエドだ。
「お前……突然何言ってるんだ……⁉」
「全ての事の始まりは満月龍――。
今回の様に、奴がもたらした終焉の火は思いがけない所で多くの命を危険に晒しています。以前フリーデン様が仰られた通り、満月龍は到底人では太刀打ちが出来ない自然災害。コレが幸か不幸か、今は恐らくこの世界で唯一、満月龍と対等になれる力を我々は持っています。
千載一遇のチャンス……我々はコレを争いではなく、世界中に希望をもたらす、満月龍という脅威を無くす本当の終焉として使うのが正しいのではないでしょうか」
今日何度目だ?
俺の発言にこの場にいる者全員が言葉を失っていた。驚愕で言葉が出ないのか俺の発言がアホ過ぎて言葉が出ないのかは分からない。当然後者の確率が高いと思う。言った俺でもそう思うからな。だがこれは冗談じゃねぇ。
「満月龍の存在が消えれば、我々リューテンブルグ王国がこの力を所持する意味も無くなります。だから私とこのアンドロイドが満月龍を討伐した後、アンドロイドの中の魔力も消滅させてしまえば、今回の件に関しても今後についても全てが収まるかと」
これが極論。
満月龍という強大な力がきっかけで今後争いが起こりそうならば、それを排除してしまえばいい。
「ジンフリー……。其方本気で言っておるのか?」
「はい」
俺は一切の迷いなくフリーデン様にそう返事をした。
「そんな馬鹿な……。いくら満月龍の力を手にしているからと言って、それは余りに無謀な話ではないか? もし本当にそれが可能であれば、確かに全ての問題が解決するだろう。だがやはり、満月龍を討伐する等とても現実的だとは思えん……」
「バレス国王の言う通りだジン。アンドロイドがいるからと言って、満月龍を倒すなんて自殺行為だ……。俺達は奴の恐ろしさを嫌と言う程思い知らされただろ」
「だからこそさ」
そう。これは俺自身の問題でもある。
突如全てを奪われた5年前。あれから俺は抜け殻の日々を送ってきた。来る日も来る日も酒を飲み、多くの人達が少しずつ前に進んでいるにも関わらず、俺は今日まで未だに塞ぎ込んだまま。
「エド。俺はやっと歩み始める希望が生まれた」
「……!」
「決して投げやりになった訳じゃない。バレス国王の姿を見て不意に気付かされたんだ……。本当の辛さや悲しみは本人しか分からない。暗闇の中で、どれだけの人達が手を貸してくれようと、結局最後はそこから這い上がれるかどうか自分の問題。そして俺にとっての暗闇は間違いなく満月龍。
だったら俺は……自分の力でその暗闇を払いのけなければ、何時までも前に進めねぇ」
「ジン……」
「勿論、奴を討伐なんて言い切ったがそもそも見つけられるかも分からねぇ。何て言ったって幻のドラゴンだからな。探しに出ても会えずに寿命が来る可能性だって十分にある。寧ろその確率の方が高い。
でも、再び会う事が出来れば最早運命だ。その時は俺が奴に終焉を訪れさせてやる。
……と言ってまぁ格好つけても俺1人じゃ無理だから、当然このアンドロイドは借りていく。それにしても、コイツが奴と同じ魔力を持っているからと言って、どこまでこっちの力が通じるか見当も付かねぇよな。ハハハ」
「そういう問題じゃないだろジン。いくらアンドロイドがいるからって1人で行くなんて無茶苦茶だ……」
「満月龍の存在自体が無茶苦茶みたいなもんだろ? 心配してくれるのは有難いけどよ、俺はもう決めた。ここで動かねぇと俺は一生後悔する気がする。別にいつ死んでも構わねぇけど、このまま死んだら天国にいる家族に本当に合わす顔がねぇんだよ……。
前に言ったよな、死は俺の“最後の希望”でもあるって。
勘違いしてもらっちゃ困るが、俺は何もみすみす死ぬ為に旅に出る訳じゃねぇ。もし本当に満月龍と対峙する日が来たとして、そこで仮に自分が死ぬ結果になったとしても後悔はねぇって事だ。
死は俺にとって家族に会える最後の希望。それを口に出来るなら俺は喜んで受け入れる。
ただ問題なのは、そのつまみを口に入れる時に、果たして俺は何の後悔や負い目もなく純粋にそれを味わえるかとどうかだ。
答えはその時になってみないと分からねぇ。でもな、今のままじゃ間違いなくダメなんだ。それだけはハッキリしている。だからこそ行かなきゃならないんだ。
エド。これは、俺の人生をやり直す再出発でもあるんだ――」
俺がそう話し終えた時には、もう誰も意見を口にしようとする者はいなかった――。
急な俺の申し出に、フリーデン様とバレス国王、そしてエドもまるで察しがついていない様子。
まぁ無理もねぇ。俺だって“今”気が変わった所だからな。
「先ずはバレス国王。都合がいいと思われるでしょうが、今までの度重なる失礼お詫び申し上げます」
「……良い。まだ両国の関係が完全に修復された訳でもない。それにお互い様であろう。満月龍の力を向けられている分不利ではあるがな」
「ありがとうございます。では結論から単刀直入に……私、ジンフリー・ドミナトルは、正式に“満月龍の討伐”を目的に旅に出ようと思います」
「「――⁉」」
さっきまでの殺伐とした空気が噓であったかの様に、場が何とも言えない静寂な空気に包まれる。そしてそんな空気を打破したのはエドだ。
「お前……突然何言ってるんだ……⁉」
「全ての事の始まりは満月龍――。
今回の様に、奴がもたらした終焉の火は思いがけない所で多くの命を危険に晒しています。以前フリーデン様が仰られた通り、満月龍は到底人では太刀打ちが出来ない自然災害。コレが幸か不幸か、今は恐らくこの世界で唯一、満月龍と対等になれる力を我々は持っています。
千載一遇のチャンス……我々はコレを争いではなく、世界中に希望をもたらす、満月龍という脅威を無くす本当の終焉として使うのが正しいのではないでしょうか」
今日何度目だ?
俺の発言にこの場にいる者全員が言葉を失っていた。驚愕で言葉が出ないのか俺の発言がアホ過ぎて言葉が出ないのかは分からない。当然後者の確率が高いと思う。言った俺でもそう思うからな。だがこれは冗談じゃねぇ。
「満月龍の存在が消えれば、我々リューテンブルグ王国がこの力を所持する意味も無くなります。だから私とこのアンドロイドが満月龍を討伐した後、アンドロイドの中の魔力も消滅させてしまえば、今回の件に関しても今後についても全てが収まるかと」
これが極論。
満月龍という強大な力がきっかけで今後争いが起こりそうならば、それを排除してしまえばいい。
「ジンフリー……。其方本気で言っておるのか?」
「はい」
俺は一切の迷いなくフリーデン様にそう返事をした。
「そんな馬鹿な……。いくら満月龍の力を手にしているからと言って、それは余りに無謀な話ではないか? もし本当にそれが可能であれば、確かに全ての問題が解決するだろう。だがやはり、満月龍を討伐する等とても現実的だとは思えん……」
「バレス国王の言う通りだジン。アンドロイドがいるからと言って、満月龍を倒すなんて自殺行為だ……。俺達は奴の恐ろしさを嫌と言う程思い知らされただろ」
「だからこそさ」
そう。これは俺自身の問題でもある。
突如全てを奪われた5年前。あれから俺は抜け殻の日々を送ってきた。来る日も来る日も酒を飲み、多くの人達が少しずつ前に進んでいるにも関わらず、俺は今日まで未だに塞ぎ込んだまま。
「エド。俺はやっと歩み始める希望が生まれた」
「……!」
「決して投げやりになった訳じゃない。バレス国王の姿を見て不意に気付かされたんだ……。本当の辛さや悲しみは本人しか分からない。暗闇の中で、どれだけの人達が手を貸してくれようと、結局最後はそこから這い上がれるかどうか自分の問題。そして俺にとっての暗闇は間違いなく満月龍。
だったら俺は……自分の力でその暗闇を払いのけなければ、何時までも前に進めねぇ」
「ジン……」
「勿論、奴を討伐なんて言い切ったがそもそも見つけられるかも分からねぇ。何て言ったって幻のドラゴンだからな。探しに出ても会えずに寿命が来る可能性だって十分にある。寧ろその確率の方が高い。
でも、再び会う事が出来れば最早運命だ。その時は俺が奴に終焉を訪れさせてやる。
……と言ってまぁ格好つけても俺1人じゃ無理だから、当然このアンドロイドは借りていく。それにしても、コイツが奴と同じ魔力を持っているからと言って、どこまでこっちの力が通じるか見当も付かねぇよな。ハハハ」
「そういう問題じゃないだろジン。いくらアンドロイドがいるからって1人で行くなんて無茶苦茶だ……」
「満月龍の存在自体が無茶苦茶みたいなもんだろ? 心配してくれるのは有難いけどよ、俺はもう決めた。ここで動かねぇと俺は一生後悔する気がする。別にいつ死んでも構わねぇけど、このまま死んだら天国にいる家族に本当に合わす顔がねぇんだよ……。
前に言ったよな、死は俺の“最後の希望”でもあるって。
勘違いしてもらっちゃ困るが、俺は何もみすみす死ぬ為に旅に出る訳じゃねぇ。もし本当に満月龍と対峙する日が来たとして、そこで仮に自分が死ぬ結果になったとしても後悔はねぇって事だ。
死は俺にとって家族に会える最後の希望。それを口に出来るなら俺は喜んで受け入れる。
ただ問題なのは、そのつまみを口に入れる時に、果たして俺は何の後悔や負い目もなく純粋にそれを味わえるかとどうかだ。
答えはその時になってみないと分からねぇ。でもな、今のままじゃ間違いなくダメなんだ。それだけはハッキリしている。だからこそ行かなきゃならないんだ。
エド。これは、俺の人生をやり直す再出発でもあるんだ――」
俺がそう話し終えた時には、もう誰も意見を口にしようとする者はいなかった――。
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