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1杯目~誤飲酒~

09 ヒーロー

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 取り敢えずボケ~っと立ち尽くす俺。
 すると、白衣を着た1人の爺さんがこっちに向かって歩いてきた。

「初めまして。ワシはDr.カガク。君がジンフリー君か!」
「ああ、どうも……って、あなたがDr.カガクなんですね……あの有名な」

 医者でも科学者でも研究者でもないが、リューテンブルグ王国に住んでいる者なら誰もが1度は耳にした事のある有名な人。王国の科学技術をここまで発展させたのがこの人らしいからな。とんでもない天才だ。どれぐらい凄いかは分からないが兎に角凄ぇ人に間違いはない。実際に見たのは初めてだ。 

「別に有名なんかじゃないさ。それに私より君の方が有名人だろう。何十年も前から噂は聞いていたよ。王国を……そして我々大勢の命を守ってくれてありがとう!  最年少で騎士団の大団長になった男だと聞いていたから、まさか満月龍の血を飲んだと聞いた時は驚いたぞ。ガハハハ! 笑わせてくれる若造だ」

 ハハハ……。あなただけです笑ってくれたの。1番最初にお会いしたかったぜ。しかも齢40の俺を若造と……。まぁあなたからしたらまだ若いかもしれないが、何と返せばいいのか分からん。

「――カガク博士!」
「コラ、勝手に近づくんじゃない“トーマス”!」

 俺とDr.カガクが話している所へ突如現れた少年。俺の腹ぐらいの背丈に白衣を羽織った彼は12~13歳ぐらいだろうか。眼鏡を掛けて分厚い本を持っているその姿はまさに科学者や研究者と言った感じ。

 勢いよく走ってきたトーマスと呼ばれた少年は、Dr.カガクに注意されるもなんのその。興奮気味に俺へと話しかけてきた。

「あなたがあのジンフリー・ドミナトルさんですね!」
「え……あ、ああ……」
「僕の名前はトーマス! つかぬことをお伺いしますが、魔力が0って本当なんですか?」
「これトーマス! 邪魔だからあっちに行っていなさい。スマンなジンフリー君……この科学馬鹿はワシのひ孫でな。好奇心旺盛過ぎて手に負えんのだよ」

 流石、Dr.カガクの血を受け継いでいると言うか何というか。この歳でもう夢中になっているのか。っていうかひ孫がこの歳って……Dr.カガク何歳なんだ? フリーデン様といい元気な老人達だな。勿論良い事だけど。

「別に構わないですよ。元気がないよりずっとマシです」
「子供だからと甘やかさんでくれ」
「ジンフリーさん! 魔力0は生まれつきですか? 本当に魂力こんりょくのみで、このリューテンブルグ王国の騎士団大団長になったんですか? しかも騎士団創設以来の最年少記録で!」

 確かに凄い勢いだ。しかも個人情報まで。

「誰に聞いたんだそんな情報まで……」
「って事はやっぱり本当なんですね! 凄いな~。何が凄いって全部なんですけど、そもそも生まれつき魔力0の人って、確認されている王国内でも50人に満たない超珍しい人材なんですよ! リューテンブルグの人口は2億人ですからとんでもない確率です。

しかもこの世界のエネルギーの約9割が魔力。ドラゴンやエルフや獣人族と言った種族ごとに種類はあれど、根本は全て魔力と言う調べが付いていますからね。唯一、人間だけが魔力に加えて魂力という力が使えるんです!

魔力と魂力の割合は人それぞれ。魔力が多い人もいれば魂力が多い人もいます。ジンフリーさんみたいにね! とは言ってもやっぱり魂力と魔力の割合が100:0は珍しいです。逆は結構ありますけどね。
それに、魔力と魂力では総合的に見ても魔力の方がエネルギーも強く使用用途もほぼ無限。一方魂力は、言わば人間の生命エネルギーを力にしている感覚です。なので人体の能力を高めるという事に関しては間違いなく効果が1番です。

同じ効果のあるバフ魔法等よりもずっと魂力の方が上なんです。しかし、魂力はあくまで身体強化に特化した力。万物に応用が利く魔力と比べたらその差は歴然です。幾ら身体強化をしても魔法の方が簡単に上をいってしまうのが現実ですから。勿論、それは使い手の人間の実力によりますけどね。

魔力と魂力を上手く掛け合わせる人も多いですし、仮に魔力が高かったとしても使いこなせなければが全く意味がありません。
それでもやはり魔力より劣りやすい、しかも魂力のみであの満月龍と渡り合ったジンフリーさんは只者ではありません! 最早化け物です、はい!」

 この子が何やら凄い子だなと言う事はとてもよく分かった。恐らくこのトーマス少年がいればリューテンブルグの未来は安泰だろう。

 だがしかし、一体この子は何時まで話し続けるんだろうか……。

「もういい加減にするんだトーマス! これは遊びじゃない。あっちへ行っていろ! 直ぐに行かないと研究所への出入りを禁止するぞ!」
「え⁉ そ、それは嫌だよお爺ちゃん! 分かったよ。大人しくしているからこの実験だけは見させて! お願い!」
「全く……。じゃああっちで大人しくしているんだ。もう邪魔するんじゃないぞ」
「うん、分かったよ!」

 Dr.カガクがそう言うと、トーマス少年は体の向きを変えこの場から走り去って行った。

 かと思った矢先、トーマス少年が2,3歩進んだ所で突如「あ!」と何かを思い出したかの様に声を上げ立ち止まり、再び俺の方へと振り返ってきた。

「ジンフリーさん、突然話に割り込んですいませんでした」
「ん、別に構わないよ。熱心なのは良い事だからな」
「ありがとうございます。そう言ってもらえると嬉しいです! 物心ついたときから気になるととことん調べたくなってしまうんです……って、いけない。また話が逸れそうだ……。改めて、ジンフリーさん!」

 トーマス少年は力強い眼差しで俺を見た。
 そしてその真っ直ぐな瞳と、偽りのない純真無垢な言葉が飛んできた。

「――5年前、満月龍からリューテンブルグを守ってくれてありがとうございました! お爺ちゃんとあなたは、僕の中のヒーローです!」

 元気一杯に言い放ったトーマス少年は勢いよく一礼すると、そのままその場から走り去って行った。


 ヒーローね……。 

「とてもしっかりしたお孫さんですねトーマス君は。自分のお爺ちゃんをヒーローだなんて、あの歳で中々言い切れないですよ」
「いやはやお恥ずかしい。あんな事を言われては調子が狂ってしまうわ……。しかし、あの子が君に感謝しているのは紛れもない事実。勿論、このリューテンブルグ全ての人々がな」

 あの日からどれだけ同じよう様な事を言われただろうか。

 皆が俺に掛けてくれる言葉は本心。なのに何時からそれが素直に受け止められなくなったんだ……?

 言われれば言われる程、声を掛けられれば掛けられる程、何処か心の無い社交辞令にさえ思えていた。

 だが、今の彼の言葉は偽りがない。本当に素直な感謝の意。

 久々に“それ”を感じた。

 俺には分かる。

 ミラーナ……ジェイル……。
 生きていればお前達も丁度同じぐらいの歳か。

 純真無垢な彼のその姿が、俺の子供達と全く同じだったから――。
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