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第31話 本来は死刑

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 ヘルサターンデスの小城、会議室。

「主様、我が王国は未だレオナルド王国の貨幣を使用しています。そろそろ独自の貨幣を製造するべきではないでしょうか」
「ワシも賛成です、大王様! こんな汚い髭面のお爺の貨幣など、崇高なる邪神王国には相応しくありませぬ!」

 どアホは、国王が刻印された金貨を手に取って吠える。どう見てもお前の方が汚い髭面なのだが。

「私もそう思いますわ! ルシフェル様のお美しい顔が彫られた金貨を作りますのよ! 銀貨は私、銅貨はチャン・クリス様に致しましょう!」
「なんでどエロが銀貨なの?」
「蠅様、ご存じありませんの? 銀貨に刻印されるのは大抵王妃ですのよ」
「どエロ! いつ貴方が王妃になったのですか!」

 骨が怒りを飛ばす。彼女は元人間なので、弟子の中では比較的まともだ。助かる。

「会議中、失礼致します」

 傭兵団から助けた新米騎兵が会議室に入って来た。

「邪神王陛下、我らに投降してきた魔術師がおります。お会いになられますか?」

 投降……。誰とも戦闘などしていない筈だが。

「うむ、連れて来てくれ」

 斥候は一人の死霊術師を連れてきた。
 彼は巡回していたスケルトンキングを見て感動し、邪神王国で真の死霊術を極めたいと申し出た。

「いや、死霊術はゴミだから。それより己の心と肉体を鍛えるが良い」
「えええ!?」

 その後いくつかの問答があり、死霊術師が邪神王国民に加わった。そして彼から、今回の行商人襲撃が例の保護団体の犯行だと語られる。
 小城の前に戦闘員を集合させ、俺はバルコニーから彼らに声を掛けた。

「奴らは超えてはいけない一線を越えた。邪神王国民に命ずる! 徹底的に殺せ! 恐怖を与えろ! 我が国に手を出すとどうなるのか知らしめるのだ――!」
「「万歳ぁぁぁい!!」」

 俺達は隣町にある、保護団体の本部へと進軍を開始した。

**

 魔物保護団体本部。リーダーの部屋。

「いやぁ、儲かっちゃうわねぇ」

 リーダーは満足げな顔で、積まれた金貨の山を眺める。

「本当、馬鹿貴族の相手は楽でいいわ!」

 リーダーは魔物の命を守ろうなどという気持ちなど、これっぽっちもない。魔物保護の活動は、ただの寄付金集めである。
 上っ面の活動をしていれば、勘違いした意識高い系の金持ちが、しこたま寄付してくれる。本当馬鹿な奴らである。

 今回の行商人襲撃は“太客”達に大好評で、更に寄付金を積んでくれた。傭兵への報酬を差し引いても、一生遊んでいける金額だ。笑いが止まらない程に。

ドアがノックされる。

「どうぞー」
「失礼します。リーダー、ちょっと来てください。変な連中が街を練り歩いているんですが」
「え?」

 リーダーは部下に言われるがまま、大通りに面した窓に向かう。既にメンバー達全員が集まっている。窓から外を眺めた。そこには、二百人を超える集団が、列を作って大通りを行進していた。

 全裸の鳥に、小柄なローブを着た者。とんでもない髭面の大男。そして、チャン・クリスに乗った少年。

「あ、あれはルルカ邪神王!? まさか、私に仕返しを……! アイム、急いでバビヨン達に救援の要請をして!」
「わ、分かりました!」

 アイムが本部を飛び出して、バビヨンの屋敷へと向かう。彼女の力なら、百名近い兵士を動員出来る。数では劣るが、戦闘能力では圧倒的に上だ。簡単に制圧出来る筈
 邪神王達は本部を取り囲む。中に入って来るつもりはない様だ。きっとあそこから、私達みたいに抗議声明を発表するつもりなのだろう。
 リーダーは窓を開けた。

「そこの虐待者、何の用かしら」

 虐待者の王は、チャン・クリスに乗ったままこちらを見上げた。

「最後のチャンスをやろう。傭兵を雇って行商人を襲った事、詫びれば命は助けてやる」

 リーダーとメンバーは大爆笑した。

「きゃははは、アンタ達みたいな奴ら何が出来るっていうのよ! もうすぐ私達のバビヨン様の兵が、ここにやって来るのよ」
「そうか、よく分かった。では遠慮なくいこう――」

 そのタイミングで、リーダーは大通りに向かって来る、兵士の一団を見てニヤリと笑った。

「そこの不審者共、一体何しに来た!」

 兵士長と思われる男が、虐待王に向けて叫ぶ。

「俺の名はルルカ。邪神王国国王だ。貴様らは傭兵団を雇い、我が国と取引関係にある行商人を襲撃した。我らはその報復に参った!」
「邪神王国? そんなありもしない国の名を出して報復とは。イカれた狂人達め。捕らえよ!」

 兵士達が一斉に、虐待王に攻撃を仕掛けた。

「兵士達は殺すな」
「では、私が無力化しますわ!」

 ピンク髪の女が何か魔法を唱えた。あの女は魔術師なのか。これはちょっと危険だわ。
 女の周囲にピンクのオーラが漂い始めると、兵士達が男同士で熱いキスを交わしだす。彼らは完全に無力化された。

「あぁん、堪らないですわぁ!」

 ピンク髪の女はプルプルと震える。

 まさか、あれだけの人数の精神を支配したというのか。こいつ等はヤバい。
 リーダーは反対側の窓に向かう。

「あ、リーダー!」

 メンバーが声を掛けてきたが、振り返らない。コイツらは囮に使う。リーダーは窓を開けた。
 裏口の上には、僅かな出っ張りがある。そこを利用すれば、怪我する事なく外に出られる。
 リーダーは窓を跨いで乗り越え、真下にある足場に飛び降りようと、手を放した。

「……あれ?」

 落下しない。何か引っ掛かってるのかしら。

「逃がさない」
「ひいっ!」

 リーダーの背後には、黒髪の美女がいた。彼女は後ろからリーダーを抱きかかえて、頬をペロリと舐めた。

「おいしい、私の子供達を生み付けたいなぁ」

 女は恐ろしく邪悪な笑みを浮かべた。

「ひいいいっ!」

**

 チュロス伯爵の館。

 紅茶を飲んでいた伯爵夫人の元に、執事がやって来た。

「伯爵夫人、仰せの通りに兵士長を向かわせはしましたが……」
「ご苦労。何か言いたい事でも?」

 執事は困った表情を見せる。

「あの保護団体を支援するのは、もうお止めになられた方が良いかと……」

 次の瞬間、伯爵夫人は執事に紅茶をぶっ掛けた。

「あの方々の崇高な思いが分からないのですか! お前の様な下賤の者は、私の元で働くには相応しくありません、追放です」
「も、申し訳ありません……! それだけは、どうかご容赦を!」

 執事は何度も深く頭を下げる。

「黙りなさい、護衛兵! この男を外に放り出しなさい」

 二人の護衛兵が、執事の両脇を掴み玄関まで引きずって行く。彼らは勢いよくドアを開け、執事を外に放り投げた。そして、執事と護衛兵が氷の様に固まった。

「……! お前達、どうしたのです?」

 伯爵夫人は三人のただならぬ様子に、不安げに声を掛けた。

「あ、あ、悪魔の所業だ……!」

 護衛兵が恐怖で震えている。伯爵夫人は階段を駆け下り、玄関へと急いだ。
 そして、彼女は見た。

「ひやぁぁっ!」

 庭には何本も杭が打ち付けられており、そこにはゾンビが串刺しにされていた。

「ま、まさかあの方は……!」

 ゾンビの一人には見覚えがある。伯爵夫人が尊敬すべき、悪と戦う強き正義の女。保護団体のリーダーの姿がそこにあった。

「きやあああぁぁ……!」

伯爵夫人は気を失った。

「ナビーゼ、ナビーゼはどこだ!?」

 夫であるチュロス伯爵が、夫人を探している。

「あ、あなた! ここでございます!」

 チュロス伯爵が、玄関まで急いでやって来た。

「あ、ぁ、あなや、見て下さいまし……! あの崇高なるお方がこんな目に、仇を必ず討って……」
「黙れ、この馬鹿女がぁぁ!」
「ぴぎゃぉぉ!」
 
 伯爵の鉄拳が、伯爵夫人の顔面にめり込んだ。

「私の金を、胡散臭い連中に勝手に貢いだ挙句、邪教徒達から恨みを買いそうになるとは!」
「う、恨み!? 一体何の事か分かりませんわ!」

 伯爵夫人は鼻血を拭いながら訴える。

「馬鹿女め、これは警告だ! 『今回は許すが、本来は死刑に処す』という意味が込められている! 全く余計な事をしおって、お前は追放だ!」
「そ、そんな……どうか、どうかお許しを!」
「お前達! この女を敷地外に放り出せ!」
「は、放しなさい! 許しませんよ!」

 暴れる夫人を無視し、兵達は全力で伯爵夫人を放り投げた。

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