邪神降臨~言い伝えの最凶の邪神が現れたので世界は終わり。え、その邪神俺なの…?~

きょろ

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第28話 マッチョの気配り

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「親方様ー、犯人を捕らえました」
「くそっ、放せ!」

 蠅が一人の少年を抱きかかえて飛んで来た。

「この人間が、その岩竜の封印を解いた奴です」
「じゃあコイツのせいで村は壊滅したのか」

 俺は少年の顔を上げさせる。

「……グレイ!?」
「に、兄さん!? え、もしかして兄さんが、コイツらのボス?」

 弟子達がピクリと反応する。グレイが俺の弟と知って、驚いたのだろう。

「ああ、そうだ」
「まさかとは思うけど、岩竜イワドラゴを……」
「俺だ」
「う、嘘だ……! 無能な兄さんに、できる訳がない……!」

 弟子達から強烈な殺気が放たれる。

「お前達、落ち着け」

 俺は怒りを抑えるよう、弟子達に言う。

「まさかお前が犯人とはな。お前のせいで、村人達は家を失ったのだぞ。しっかりと謝罪しろ」

 グレイは黙っている。
 そういえば、コイツが誰かに謝っているところは見た事がないな。俺は軽くビンタしてやった。

「な、殴ったな!? パパにだって殴られた事ないのに……!」
「兄として当然の事をしたまでだ」
「無能のお前が、兄貴面すっ……」

 俺は弟子達を手で制しながら、グレイをビンタする。こうしなければ、グレイは殺されていただろう。

「またぶったな!」
「何度でもやってやるさ」

 俺はグレイが村人に謝罪するまで、殴り続ける事にした。

「誰がクズ共なんかに謝るかあぁ!」
「これは教育しがいがあるなあぁ!」

 ナイスガッツだグレイ。 こんなに根性がねじ曲がっているのは、どアホ以来だろうか。

「親方様、弟君に殺されたと思われる死体が三つ見つかりました」

 俺の手がピタリと止まる。

「グレイ、お前人を殺したのか……?」
「しょ、しょうがないじゃないか、僕がやったってバレたら輝かしい未来が失われちゃうだろ……!」

 グレイの表情には罪悪感が微塵もない。コイツはとんでもない化け物になってしまった様だ。
 幼少の頃から天才ともてはやされ、ろくに叱られる事がなかったせいなのだろう。下手に魔法の才能なんかがなければ、もっとマシな人生を送られただろうに。

「グレイ、お前をレオナルド王国の衛兵に引き渡す。そこで正直に罪を告白し、裁きを受けろ。お前に残された道はもうそれしかない」
「そ、そんな……見逃してよ、兄さん! 家族は助け合うものだろ、なあ!」
「家族……か。お前が俺に何をしてきたのか、忘れたとは言わせないぞ」
「へへへ、あ、あの時はごめんよぉ。僕もまだ子供だったからさ、は反省してるって……」

 グレイが猫撫で声を出す。非常に不愉快だ。

「俺はもうルシフェル家から絶縁されているんだ。お前とはもう家族じゃない。さぁ、街まで向かうぞ」
「お、おい、待ってよ! 見逃してくれれば、またルシフェル家に戻れる様に、パパに頼むからさ!」

 俺は溜息をつく。

「あの家に未練などない」
「うわぁぁぁん! お兄ちゃんが僕を虐めるよぉぉぉ!」

 次男のラッセルに叱られた時、コイツはいつもこうやって逃げていた。
 見た目が可愛らしいグレイを両親は溺愛しているので、問答無用でラッセルが悪人とされるのだ。
 グレイは嘘泣きをしながら、チラチラと周りを見る。だが誰もが冷たい目でグレイを見ていた。

「残念だったな。お前の姑息な手は通じない」
「畜生め、おいお前達! 可愛い少年が虐められているんだぞ、助けろよ!」

 グレイは醜悪な顔を晒す。そこには可愛げなどか一欠けらもない。

「あのぉ、親方様、良ければ私が処刑しますよ」
「いや、こいつの犯した罪を、そしてルシフェル家の醜態を、レオナルド王国民に知らせる必要がある。国できちんとした裁判を受けさせる」
「何がルシフェル家の醜態だ! お前が生まれた事が一番の醜態なんだよ、この無能が!」

 俺は弟子達を手で制する。一番温厚なチャン・クリスですら、凄まじい殺気を放っている。

「そうだな、俺は無能だ。だが無能だったからこそ、見つけられたものもある。お前にも、それが分かる日が来る事を願っている」

 グレイが俺に唾を吐いた。

「出来損ないの分際で、このグレイ様に偉そうな口を……おごごぼっ!」

 グレイの目、鼻、口から虫が山の様に湧いて来る。ズボンの裾からも漏れ出てくる所を見ると、下の穴からも湧いている様だ。グレイは地面に崩れ落ちる。

「止めよ、蠅。はっ!」

 俺はグレイに氣を込める。だが、愚かな弟が動く事はなかった。

「申し訳ありません、親方様。命を破りました。どうぞ私をお殺し下さい」

 蠅は俺の前に跪き、首を差し出した。鳥とチャン・クリスが、それを悲痛な面持ちで見つめる。

「蠅よ、立て」

 俺は彼女の顔を上げ、立たせた。

「親方様……?」
「お前のとった行動、俺への忠義の証と受けった。よって不問とする」
「し、しかし……!」

 俺は蠅の頭を優しく撫でた。

「俺はお前達弟子を愛しているのだ。そう簡単に殺せるものか。だが、次からは我慢するのだぞ」
「あ、ありがとうございまゔゔっ……」

 蠅は涙を流した。よく見ると、鳥とチャン・クリス、村人達も涙を流している。
 グレイをきちんと法の下で裁きたかったが、これはこれで悪くない結果だろう。
 死体の焼却を終え、荷物一式を持った村人達が広場に集まる。

「さぁ皆、岩竜に乗って帰ろう」
「はっ!」

 俺達は全員、岩竜に乗り込んだ。
 帰りは丸太を使って飛ぶ事が出来ない。どこに落ちるか分からないので、下手すると大惨事になるからだ。

「すまんな、チャン・クリス。お前の出番がなくなってしまった」

 チャン・クリスはブンブン、と首を振った。
 異次元の世界に石材を送り込み、ヘルサターンデスに到着後、それを吐き出させるつもりだった。
 だが岩竜を確保した今、わざわざ街から遠い岩山で作業をする必要はない。

「御師様はご多忙の身でしょうから、蠅氏と共に先にご帰還されては如何で?」
「いや、そうでもない。心配するな」

 鳥と蠅が顔を見合わせる。

「骨さん、とっても忙しそうでしたよ。親方様のご助力が必要だと思います」
「うーむ……」
「蠅氏は最近ウ〇コを触ってないし、手洗いうがいもちゃんとして、お風呂にも入ってます!」
「はい、歯磨きも毎日してます!」

 そうなのか。じゃあ、いいか。

「分かった。では宜しく頼むぞ蠅」
「お任せ下さい! 鳥さん、ありがとうです!」

 蠅は俺の前に立ち、抱きしめてきた。そして勢いよく上空へと羽ばたく。

「おい蠅、後ろから抱きかかえるんじゃないのか」
「この方が早く飛べます」
「いや、絶対嘘だろ」
「ごめんなさい、嘘です。親方様にどうしても伝えたい言葉があるので、こうしました」

 何となく分かって来たぞ。
 鳥は、蠅と俺を二人きりにする為に、気を利かせたという事か。脳筋のアイツにそんな気配りが出来るとは思わなかった。

「親方様、愛していると言ってくれて嬉しかったです。私、嫌われていると思ってたので。あの、私も御屋形様を愛してます」

 蠅の顔が真っ赤になる。
 ああ、やっぱり。人生初めて告白された相手が、蠅の悪魔とは。だがまぁ、相手が誰であれ、愛されるというのは悪くない。

「お前の気持ち、ありがたく受け取ろう」
「えへへ、嬉しいです!」

 俺は彼女の笑顔を眺めながら、ヘルサターンデスまでの空の旅を楽しんだ。
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