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第21話 イリーガル傭兵団
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ゴロック侯爵は喜びに溢れていた。ようやく、あの疫病神共を追い払う事が出来たのだ。
イリーガル傭兵団――。
領主でその名を知らぬ者はいないだろう。卓越した追跡能力と、確実に標的を始末する戦闘能力。非常に優れた傭兵団だ。
だが、奴等を有名にしているのは他にある。強盗、殺人、暴行。行く先々で、奴らは悪逆の限りを尽くしていた。その悪名が、イリーガル傭兵団の名を轟かせているのだ。
ゴロックの人生で最も大きな過ちは、彼らを雇ってしまった事だろう。
あの時の状況を考えれば仕方なかった、と言えるかもしれないが、その代償はあまりにも大き過ぎた。
奴等はたった一度の契約の筈なのに、今後も雇い続ける様ゴロックを脅した。
たった八十人の小規模な傭兵団だが、その強さと残虐さを考えると、五百人の傭兵団よりも恐ろしい。実際、奴らを追放した事で報復され、家族諸共無残に殺された貴族もいる。
その話を聞いていたゴロックは、連中の要求を呑むしかなかった。
彼の統治する領内では、イリーガル傭兵団の仕業と思える事件が頻発する。彼らが犯人である事は明白だったが、報復が恐ろしく、きちんとした捜査は出来ずにいた。
しかし、今回ルートガー伯爵より助力の要請があった事で、事態は一気に好転を見せた。
ベルックスの街を不法占拠した町長は、相当な手練れであるらしい。ルートガー伯爵は強力な部隊を求めてきた為、ゴロックは、リーガル傭兵団に新しい雇用主を紹介した。
「フフフ、 私は伯爵の要求に従ったまでだ。何も悪い事はしていないぞ。ああ、善良な行いというやつさ」
城のバルコニーから、悪名高い傭兵団が城門を潜るのを見届けると、ゴロックはお祝い用に用意していたワインを開けた。
明日のベルックス奪回作戦に向け、ルートガー伯爵率いる百の騎兵は、東の村に、イリーガル傭兵団は西の村に宿泊する事となった。二手に分かれたのは、小さな村では両軍を抱えきれなかったからである。
「あー、嫌だなぁ。アイツら柄悪いし」
「これも仕事の内だ。文句言うな」
ルートガー配下の新米騎兵は、先輩騎兵と共に西の村へと向かっていた。明日の集合時間を変更する必要が生じた為、それを伝えに行くのだ。
「な、何をやっているのだ……」
彼らは村に着くと、その悲惨な光景に戦慄した。
村の男が地面に打ち付けられた丸太に磔にされ、投げナイフの的にされていたのだ。
「おら、いくぜ」
「うぐああっ!」
男の足にナイフが刺さる。
「何だよ、足かよ!」
「次は俺な。うら!」
「がああっ!」
その時、一人の村の女が男の前に立つ。
「お、お願いです、やめて下さい!」
「ダメだダメだ。そいつを殺した方が、奥さんを好きに出来るってルールなんだから」
村の女は頭を地面に擦り付ける。
「言う事なら何でも聞きます! だから夫の命は助けて下さい!」
「ダメだって。それだとつまらないだろ」
「そうそう、ゲームだから燃える訳よ。それっ!」
傭兵はナイフを男に向けて放った。
「あなた……! ぐっ!」
「ミ、ミラ!」
身を挺して夫をかばった女の腕に、ナイフが突き刺さった。
「何をやっているか貴様らぁぁ!」
先輩騎兵が、傭兵達に怒声を発した。
「なんだ、伯爵様の騎士じゃないですかい。退屈凌ぎに遊んでるだけですよ、怒る事でもないでしょう」
直後、如何にも凶悪そうな大男が先輩騎兵の前に立った。こいつがイリーガル傭兵団団長。聞いた話では、凄まじい馬鹿力で、素手でトロールを殺した事があるらしい。
「遊びだと? お前達がやっているのは、ただの犯罪だ! この事は報告させてもらう!」
「そいつは困りやしたなぁ」
傭兵団団長は気怠そうに頭を掻いた。
「直ちにその卑劣な行為を止めッ……!?」
ドスドスドス。
先輩騎兵の体に、何本ものナイフが突き刺さった。
「うがっ……」
「せ、先輩!?」
「親分、殺っちゃって良かったっすよね?」
「そうだな。お二人さんは“ここに来なかった”、って事で」
「新米……逃げろ……」
「で、ですが……!」
「いいから早く行けッ!」
先輩騎兵は、新米騎兵の馬の腹を蹴った。新米の馬は即座に走り出す。新米は泣きながら後ろを振り返ったが、先輩は既に地面に倒れていた。
「親分、行かせて良かったんですか?」
「何やってんのお前ら?」
団長に話しかけた団員の頭が、軽く握り潰された。
「早く追いかけて殺せぇぇ!」
「「は、はい……ッ!」」
団員たちは、馬に乗り込む。
「くそ、一体どうすればいいんだ!」
このまま戻ったら、今度は東の村も危ない。伯爵の身にも危険が及ぶ。
その時、新米騎兵の頭に浮かんだのは、斥候から聞いたベルックスの街、邪神の存在だった。
「邪神なんてものがいるとは思えないけど、今はそれにすがるしかない……!」
新米騎兵は方向転換し、ベルックスの街に向けて全力で馬を走らせた。野を、丘を、そして川を越え、ベルックスの街までもう一歩。しかし次の瞬間、背後から怒号が聞こえた。
「見つけたぞぉぉ! 殺せぇぇ!」
「ひゃひゃひゃ、俺達から逃げられると思うな!」
七の騎兵が新米騎兵の直ぐ後ろに迫っていた。
イリーガル傭兵団は追跡のスペシャリストでもある。そう簡単には逃げられない。
「畜生、あともう少しなのに……!」
直後、クロスボウの矢が脇をかすめていく。
「ヒヒーンッ!」
矢が刺さってしまったのだろう。馬が派手に転び、新米騎兵は地面に投げ出された。
「クソ、こうなったら一人でもいいから道連れにしてやる!」
新米騎兵は覚悟を決めて剣を抜き、構えた。
「お、殺る気か、いいねぇ!」
傭兵達は近接武器に持ち替え、そのまま突っ込む。新米騎兵は先頭の傭兵に斬り掛かった。
「ぐあっ!」
向こうは、いくつもの修羅場をくぐり抜けた戦闘のベテラン。対し、こちらは実戦経験のない新米。その実力差は歴然だった。
新米騎兵の斬撃は空振りに終わり、且つ脇の下を深く斬られてしまった。
「ぐっ、ここまでか……。すみません、先輩」
もう剣を握る力さえ入らない。新米騎士は諦めた。
「はあっ――!」
刹那、どこからか掛け声が響くと、新米騎兵は不思議と力が漲ってきた。よく見ると、斬られた筈の傷が完全に癒えていた。
「ヒヒーンッ!」
「なんだ、馬が怯えて走らなくなっちまったぞ!?」
傭兵団の連中が困惑している。新米騎兵がふと後ろを振り返ると、そこには五人の人間が立っていた。
十五歳くらいの少年、とんでもない大男、十歳くらいの少女、中年の男女。
「鳥の報告通りだな。良い感じの野盗だ」
「はっ、童貞を捨てるには、もってこいの相手でございますな」
彼らは一体何を言っているんだ、と素直に思った新米騎兵。
「では、早速訓練の成果を試してみろ」
「はっ! ではお前達、良いな?」
大男が、後ろに控えていた三名に声を掛ける。
「はいっ! 邪神王陛下の敵は皆殺し!」
か弱そうな十歳の少女が、ヤバい目つきでとんでもない言葉を口にした。
「邪神王陛下の敵は蠅のエサに!」
「容赦なく抉れ!」
ヤバい表情の中年の男女が叫ぶ。意味不明な恐怖に、新米騎兵は震えた。
「なんだコイツら、まとめて殺すか」
傭兵団は馬から降りて武器を構える。
「うむ、悪人で間違いない。殺せ」
「「はっ!」」
少年の一声で、三人が傭兵団の元へと飛び込む。
「ミルミルミルミルミルクぅっ!」
「ダルいダルいダルいダルいっ!」
「死ね死ね死ね死ね死ね死ねっ!」
三人は目にも留まらぬ速さで、拳の連打を叩き込んだ。傭兵団は一瞬で肉塊となった。
「うむ、見事だお前達。これなら幾らか街を守れよう」
「「お褒めの言葉、光栄でございます! 邪神王陛下!」」
三人は深々と少年に頭を下げた。
「どアホ、お前の指導力は中々の様だな。お前を氣道の師範代とする」
「あ、あ、ありがたき幸せですっ! ゔゔゔっ!」
大男が突然、男泣きをし始めた。
この少年が邪神……なんてあり得ない。頭ではそう考えていた新米騎兵だったが、自然と口が動いていた。
「じゃ、邪神王陛下……! どうか、ご助力をお願い致します――!」
イリーガル傭兵団――。
領主でその名を知らぬ者はいないだろう。卓越した追跡能力と、確実に標的を始末する戦闘能力。非常に優れた傭兵団だ。
だが、奴等を有名にしているのは他にある。強盗、殺人、暴行。行く先々で、奴らは悪逆の限りを尽くしていた。その悪名が、イリーガル傭兵団の名を轟かせているのだ。
ゴロックの人生で最も大きな過ちは、彼らを雇ってしまった事だろう。
あの時の状況を考えれば仕方なかった、と言えるかもしれないが、その代償はあまりにも大き過ぎた。
奴等はたった一度の契約の筈なのに、今後も雇い続ける様ゴロックを脅した。
たった八十人の小規模な傭兵団だが、その強さと残虐さを考えると、五百人の傭兵団よりも恐ろしい。実際、奴らを追放した事で報復され、家族諸共無残に殺された貴族もいる。
その話を聞いていたゴロックは、連中の要求を呑むしかなかった。
彼の統治する領内では、イリーガル傭兵団の仕業と思える事件が頻発する。彼らが犯人である事は明白だったが、報復が恐ろしく、きちんとした捜査は出来ずにいた。
しかし、今回ルートガー伯爵より助力の要請があった事で、事態は一気に好転を見せた。
ベルックスの街を不法占拠した町長は、相当な手練れであるらしい。ルートガー伯爵は強力な部隊を求めてきた為、ゴロックは、リーガル傭兵団に新しい雇用主を紹介した。
「フフフ、 私は伯爵の要求に従ったまでだ。何も悪い事はしていないぞ。ああ、善良な行いというやつさ」
城のバルコニーから、悪名高い傭兵団が城門を潜るのを見届けると、ゴロックはお祝い用に用意していたワインを開けた。
明日のベルックス奪回作戦に向け、ルートガー伯爵率いる百の騎兵は、東の村に、イリーガル傭兵団は西の村に宿泊する事となった。二手に分かれたのは、小さな村では両軍を抱えきれなかったからである。
「あー、嫌だなぁ。アイツら柄悪いし」
「これも仕事の内だ。文句言うな」
ルートガー配下の新米騎兵は、先輩騎兵と共に西の村へと向かっていた。明日の集合時間を変更する必要が生じた為、それを伝えに行くのだ。
「な、何をやっているのだ……」
彼らは村に着くと、その悲惨な光景に戦慄した。
村の男が地面に打ち付けられた丸太に磔にされ、投げナイフの的にされていたのだ。
「おら、いくぜ」
「うぐああっ!」
男の足にナイフが刺さる。
「何だよ、足かよ!」
「次は俺な。うら!」
「がああっ!」
その時、一人の村の女が男の前に立つ。
「お、お願いです、やめて下さい!」
「ダメだダメだ。そいつを殺した方が、奥さんを好きに出来るってルールなんだから」
村の女は頭を地面に擦り付ける。
「言う事なら何でも聞きます! だから夫の命は助けて下さい!」
「ダメだって。それだとつまらないだろ」
「そうそう、ゲームだから燃える訳よ。それっ!」
傭兵はナイフを男に向けて放った。
「あなた……! ぐっ!」
「ミ、ミラ!」
身を挺して夫をかばった女の腕に、ナイフが突き刺さった。
「何をやっているか貴様らぁぁ!」
先輩騎兵が、傭兵達に怒声を発した。
「なんだ、伯爵様の騎士じゃないですかい。退屈凌ぎに遊んでるだけですよ、怒る事でもないでしょう」
直後、如何にも凶悪そうな大男が先輩騎兵の前に立った。こいつがイリーガル傭兵団団長。聞いた話では、凄まじい馬鹿力で、素手でトロールを殺した事があるらしい。
「遊びだと? お前達がやっているのは、ただの犯罪だ! この事は報告させてもらう!」
「そいつは困りやしたなぁ」
傭兵団団長は気怠そうに頭を掻いた。
「直ちにその卑劣な行為を止めッ……!?」
ドスドスドス。
先輩騎兵の体に、何本ものナイフが突き刺さった。
「うがっ……」
「せ、先輩!?」
「親分、殺っちゃって良かったっすよね?」
「そうだな。お二人さんは“ここに来なかった”、って事で」
「新米……逃げろ……」
「で、ですが……!」
「いいから早く行けッ!」
先輩騎兵は、新米騎兵の馬の腹を蹴った。新米の馬は即座に走り出す。新米は泣きながら後ろを振り返ったが、先輩は既に地面に倒れていた。
「親分、行かせて良かったんですか?」
「何やってんのお前ら?」
団長に話しかけた団員の頭が、軽く握り潰された。
「早く追いかけて殺せぇぇ!」
「「は、はい……ッ!」」
団員たちは、馬に乗り込む。
「くそ、一体どうすればいいんだ!」
このまま戻ったら、今度は東の村も危ない。伯爵の身にも危険が及ぶ。
その時、新米騎兵の頭に浮かんだのは、斥候から聞いたベルックスの街、邪神の存在だった。
「邪神なんてものがいるとは思えないけど、今はそれにすがるしかない……!」
新米騎兵は方向転換し、ベルックスの街に向けて全力で馬を走らせた。野を、丘を、そして川を越え、ベルックスの街までもう一歩。しかし次の瞬間、背後から怒号が聞こえた。
「見つけたぞぉぉ! 殺せぇぇ!」
「ひゃひゃひゃ、俺達から逃げられると思うな!」
七の騎兵が新米騎兵の直ぐ後ろに迫っていた。
イリーガル傭兵団は追跡のスペシャリストでもある。そう簡単には逃げられない。
「畜生、あともう少しなのに……!」
直後、クロスボウの矢が脇をかすめていく。
「ヒヒーンッ!」
矢が刺さってしまったのだろう。馬が派手に転び、新米騎兵は地面に投げ出された。
「クソ、こうなったら一人でもいいから道連れにしてやる!」
新米騎兵は覚悟を決めて剣を抜き、構えた。
「お、殺る気か、いいねぇ!」
傭兵達は近接武器に持ち替え、そのまま突っ込む。新米騎兵は先頭の傭兵に斬り掛かった。
「ぐあっ!」
向こうは、いくつもの修羅場をくぐり抜けた戦闘のベテラン。対し、こちらは実戦経験のない新米。その実力差は歴然だった。
新米騎兵の斬撃は空振りに終わり、且つ脇の下を深く斬られてしまった。
「ぐっ、ここまでか……。すみません、先輩」
もう剣を握る力さえ入らない。新米騎士は諦めた。
「はあっ――!」
刹那、どこからか掛け声が響くと、新米騎兵は不思議と力が漲ってきた。よく見ると、斬られた筈の傷が完全に癒えていた。
「ヒヒーンッ!」
「なんだ、馬が怯えて走らなくなっちまったぞ!?」
傭兵団の連中が困惑している。新米騎兵がふと後ろを振り返ると、そこには五人の人間が立っていた。
十五歳くらいの少年、とんでもない大男、十歳くらいの少女、中年の男女。
「鳥の報告通りだな。良い感じの野盗だ」
「はっ、童貞を捨てるには、もってこいの相手でございますな」
彼らは一体何を言っているんだ、と素直に思った新米騎兵。
「では、早速訓練の成果を試してみろ」
「はっ! ではお前達、良いな?」
大男が、後ろに控えていた三名に声を掛ける。
「はいっ! 邪神王陛下の敵は皆殺し!」
か弱そうな十歳の少女が、ヤバい目つきでとんでもない言葉を口にした。
「邪神王陛下の敵は蠅のエサに!」
「容赦なく抉れ!」
ヤバい表情の中年の男女が叫ぶ。意味不明な恐怖に、新米騎兵は震えた。
「なんだコイツら、まとめて殺すか」
傭兵団は馬から降りて武器を構える。
「うむ、悪人で間違いない。殺せ」
「「はっ!」」
少年の一声で、三人が傭兵団の元へと飛び込む。
「ミルミルミルミルミルクぅっ!」
「ダルいダルいダルいダルいっ!」
「死ね死ね死ね死ね死ね死ねっ!」
三人は目にも留まらぬ速さで、拳の連打を叩き込んだ。傭兵団は一瞬で肉塊となった。
「うむ、見事だお前達。これなら幾らか街を守れよう」
「「お褒めの言葉、光栄でございます! 邪神王陛下!」」
三人は深々と少年に頭を下げた。
「どアホ、お前の指導力は中々の様だな。お前を氣道の師範代とする」
「あ、あ、ありがたき幸せですっ! ゔゔゔっ!」
大男が突然、男泣きをし始めた。
この少年が邪神……なんてあり得ない。頭ではそう考えていた新米騎兵だったが、自然と口が動いていた。
「じゃ、邪神王陛下……! どうか、ご助力をお願い致します――!」
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