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第19話 食の生産

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 街は魔物の脅威から守る為、城壁で囲む造りとなっている。その為どうしても狭くなり、畑を街中に作るだけの土地がない。畑は街の外、つまり農村にしかないのが一般的。
 だが農村の周りを囲むのは、貧弱な木の柵。つまり農業とは、常に魔物の脅威にさらされる命懸けの仕事なのである。
 冒険者達の仕事は、農村を荒らす魔物を排除する事が殆どだ。

 ルルカ邪神王国として独立した今、村から食料を提供される事はなくなり、他の街から食料を買いつけるだけの金もない。
 俺達は、自給自足しなくてはいけなくなったのだ。

「この辺りは良い土ですね」
「左様か」

 俺は辺り一帯を見回す。何が良いのか、まるで分からん。
 地獄で十万年は過ごしたが、真の武を目指すばかりで、他の事はまったく学んでこなかった。もっと色々勉強しておくべきだったか。

「うむ、とにかく始めようぞ」
「はっ!」

 男達が桑で土を耕し始める。俺は暫しそれを眺めていた。やり方が分からないから。
 ふむ、成程。ああして耕せばいいのか。そう思い、俺は桑を手に取ったが、ふと思った。

「これ、手でやった方が早くないか? 試してみよう。うらうらうらうらうらッ!」
「うおお、流石は邪神王陛下! 普通なら一か月は掛かる作業を、三十分で!?」

 え、そうなのか。もしかして俺は農業の才能があるのだろうか。だとしたら素直に嬉しい。

「ふふ、ならばもっと早くに農家を目指していれば良かったな」
「邪神王陛下が、我ら農家を認めて下さった! ゔゔッ……!」

 急に男達が泣き出した。やむを得ず、男達が泣き止むのを待ってから話を聞いてみた。すると、どうやら農家とは農奴とも呼ばれ、立場的には奴隷と殆ど変わらない扱いなんだとか。つまり、世間から蔑まれる仕事なのだ。
ふむ、十五歳にもなってそんな一般常識も知らなかったとは、つくづく俺は無能らしい。
 これでも十三歳までは裕福な伯爵家で過ごしていたので、貧しい人達の事など知る由もなかった。この街に来てからは、その日その日を生きるのに必死で、他の事など気にしている余裕などなかった。言い訳としては、そんな感じだ。

「農家が蔑まれる理由が分からぬな。実に立派な仕事ではないか。食は命だ」
「うおぉぉん……!」

 再び男達が泣き出してしまう。

「泣くな泣くな。さあ、種を撒こうではないか」
「は、はいっ!」

 始まった種まき。これは力尽くでは出来ない為、時間が掛かった。

「うむ、やはり種まきはシンプルに人手が必要だな。おい、鳥&蠅!」

 森の方に向かって叫ぶと、腕組をした鳥を抱えた蠅が、こちらへと飛んで来た。アイツは人間形態でも飛べるのだ。

「親方様、何か御用ですか」
「種まきをさっさと終わらせたい」
「では、私の子供達に手伝わせます」
「拙者は小鳥達を呼びます」

 鳥と蠅は、小鳥と蠅の群れを呼び寄せた。

「おい、クソは触ってないだろうな?」
「しっかり手を洗わせています!」

 蠅がムッと怒ってきた。クソを触っている事は否定しなかったな。念の為に消毒もさせておこう。

「よし、じゃあ後は頼む」

 小鳥が土に嘴を突っ込んで穴を掘り、蠅がそこに種を植える。見事な連携プレイだ。

「これで全部終わったか!」
「はい、これで来年の七月には収穫出来ます。しかし、それまではどうしたら良いでしょうか。近くの川で魚は釣れますが、全員を養っていける程の量では……」

 男達は浮かない顔をし始めた。

「心配するでない。氣の力とは生命エネルギー。即ち……はあっ!」

 俺は畑に氣を込めた。
 一気に種から芽が出て、膨らんで、花が咲いて、そして立派な実や穂を実らせた。

「邪神様えげつねぇぇぇ! 神の所業だぁぁぁ!」
「そんなに驚くな。さあ、収穫するぞ」
「はっ!」

 俺は両手を真一文字に振るう。手から放たれた真空の刃が、小麦を一気に刈り取った。

「チャン・クリス!」

 畑の上空に次元の門が出現し、刈り取った小麦を吸い込んでいく。この小麦は、どエロが畑の近くに建てた大きな穀物庫に転送される。

「よし、収穫完了」
「もう終わりぃぃぃ!?」

 いちいちうるさい奴らだ。
 穀物庫の中は巨大な小麦の山。他にも芋や人参、大豆に南瓜。豊富な食料が揃った。

「す、凄い……! こりゃ丸一掛けても食べ切れない量です。それをこの短時間で……!」
「ほう、これでそんなに持つのか。 では売って金にする事も出来るな」

 世の中、何かと金が要る。
 食料は用意出来たが、生きていくには様々な物が必要だ。稼いで困る事はない。

「しかし邪神王陛下。このままでは売れません。稲は最低でも脱穀しないと。出来れば製粉もして、小麦の状態で売りたいところです。その方が高値で売れますので」
「脱穀と製粉か。それはどうやって行っていた?」
「脱穀は手作業で、製粉は村にある水車を用いた製粉機で行っておりました。脱穀を機械で行う村もあります」

 成程。そうなるとこの作業は、俺の氣や弟子達の魔法でも無理か。

「この街には脱穀機と製粉機はあるのか?」
「いえ。脱穀は手作業でも出来ますが、製粉は隣の村か東の村で製粉機を使わしてもらうしかないかと……」
「我らが貸してくれるとは思えぬな」
「はい……恐らくは。しかも、製粉機はルートガー卿の所有物ですので、使用には税が掛かります。これだけの小麦を粉にするとなれば、相当な金額になるかと」

 小麦を食べるには、小麦粉にしないといけない。少量であれば、人力で石臼を使い粉に出来る。だが三百近くの人数を養うとなれば、製粉機の設置はだな。

「どエロ!」

 俺は街の方に向かって叫んだ。暫し待つと、ひょっこり顔を出す。

「お呼びしましたかしら」
「忙しい所にすまんな」
「いえ、公衆浴場を建てていただけでおりますから」
「浴場? まだ住居を建て終えていない筈だが」
「家よりお風呂の方が重要ですもの。ウヒヒヒ」

 また下らぬエロい事を考えている様だ。

「まぁいい、それよりどエロ、水車は作れるか」
「勿論! ふしだら水車を作った事がありますの!」

 なんだその恐ろしそうな水車は。 

「いや、今回は普通の水車で頼む。水を動力とした製粉機を作ってくれ」
「お任せ下さいませ」

 そう言うと、どエロは川の方へと駆けて行った。
 それから少しすると、どエロから完成したと報告が入った。早速見に行こう。

「おおー、これは凄い!」

 男達が驚く。川岸には立派な製粉所が建っていた。特に驚くべきは、その水車の数だ。

「おほほほ、見て下さいまし、この十三連水車を! これによって、同時処理能力を劇的に向上させ、更に使う石臼によって挽き具合を変えられる仕様にしておきました。 後ついでに脱穀も可能ですわよ」
「うおお! こんな製粉機は見た事も聞いた事もないですよ!」
「ほう、大したものだなどエロよ。……ん、あっちに一つだけ違う形の水車があるな。あれは何だ」

 一番奥にある水車の水受けには、毛で作られた塊が取り付けられていた。その両脇には台座もあり、水車の上に跨れる様になっている。

「ぐふふふふ、これはですね……」
「いや、いい。聞きたくない。なんとなく察したからな」

 本当、どうしようもないどエロ女だ。そんな事しか考えていないのかコイツは。
 だがこれで、小麦の問題は解決だ。

「よし、では家を建てるぞ」
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