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第13話 なんだトカゲか

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 次の階層は天井が非常に高く、凄まじく広い空間となっていた。
 飛行タイプの魔物が縦横無尽に空を飛び回り、隙あらば遠距離攻撃を仕掛けてくる。
 俺達は頭上から炎や雷を浴びつつ、作戦会議を行っていた。

「攻撃自体は大した事ないが、鬱陶しい事この上ないな。おい鳥、空を飛んで奴らを皆殺しにしろ!」
「申し訳ありません、某はは空を飛べません……」

 おっと、確かに言われてみればコイツには羽がない。あるのは筋骨隆々なボディだけ。しかも全裸だからただの変態である。

「今思うと、我らには遠距離を攻撃する手段がないのだな」
「魔法を使って良いのなら、ワシと骨で殺りますが……」
「それはならぬ。いかなる状況においても、我らに許されるのは己の拳のみ。それを今一度しっかりと心得よ」
「はっ! ……ぐえッ!?」

 いかつい極太の雷がどアホの頭に落ちた。

「ク、クソがっ!」

 ブチ切れたどアホが石を放った。一匹のワイバーンが墜落した。それを見て俺はピンときた。

「ふむ、今の様に氣を飛ばして攻撃出来ないものかな」
「氣は体外に放出されると直ぐに散ってしまいます。それは難しいのでは?」
「いや、出来ると思えば何でも出来るのが氣の真骨頂。やってみるぞ」
「はっ!」

 百年後。

「感謝の極み砲!」
「愛羅武勇殺砲!
「チュンチュン波!」

 弟子達の手の平から、細い氣のエネルギー波が発射され、頭上の魔物が撃ち落とされた。

「ふむ、まあまあだな」
「「ありがとうございます!」」
「どれ、では手本を見せてやろう。はあぁぁッ、超エネルギー波!」

 構えた両手を勢いよく押し出す。手の平から修練の賜物と言える、超極太のエネルギー波が発射される。更に俺はそのまま両手を動かし、氣を発射したまま辺り一帯の魔物を焼き尽くしてやった。

「ふう、まぁこんなものか。中級魔法レベルの威力には達したかな」
「「は……はは……」」

 弟子達の表情は引きつっていた。
 やってしまった、流石に自惚れ過ぎてしまった様だ。

「なんてな、今のは冗談だ」
「で、ですよねー!」

 その一言で、弟子達は一気に安堵の表情を浮かべた。

「ああ、まだ初級魔法レベルだ」
「「ぶへっ――!」」

**

~地下400階~

 階層の守護者の間では、闇竜王ティアマトが、メスのドラゴン達に囲まれながらくつろいでいる。そこへ一匹のレッドドラゴンが、猛烈な速度で駆け込んで来た。

「ティ、ティアマト様、大変です……! 妙な一団が、手からビームを撃ちながらこちら向かって来ております!」
「なに? それは久しぶりに骨がありそうな奴が来たではないか。ファフニールとニーズヘッグはどうした」
「はっ! 現在お二人共が、二千のドラゴン軍団を率いて奴ら迎え撃っています!」

 その次の瞬間、ブルードラゴンが守護者の間へと飛んで来た。彼の翼は片方が失われていた。

「お伝えします……ファフニール様、ニーズヘッグ様、お二人共がお討ち死に……二千のドラゴン軍団は……全……滅……」

 ブルードラゴンは皆まで言うと、場に崩れ落ち、眠る様に息を引き取った。

「クハハハ、愉快、これは実に愉快になってきた!」

 闇竜王ティアマトが笑う。ようやく本気で戦える日が来たからだ。
 ティアマトは異世界に跳躍出来る力を持つ最強のドラゴン。その力を駆使し、これまで実に十三の世界を滅ぼした。
 弱者を嬲る事に飽きたティアマトは、こうして地獄で強者を待ち続けていたのだ。

「“星滅の咆哮”を吐けるのは、何百万年振りになるのだろうか」

 星滅の咆哮――。
 その名の通り、闇竜王ティアマトの咆哮は、一つの星を破壊する。余りにも強過ぎて味気ない為、本人ですらその力を長らく封印していた。
 だが、ファフニールとニーズヘッグが殺されたとなった今、その相手であれば、容赦なく星滅の咆哮を使う事が出来よう。

「血肉が湧き踊って来た! メス共、景気づけに交尾だ! さぁ、全員尻を向けよ!」

 七匹のメスドラゴンが、一斉にティアマトに尻を差し出す。
 ティアマトは興奮した様子で、白いメスドラゴンに覆いかぶさった。

「ふん、ふん、ふん、ふん、ふん、んほおおぉぉ……イクぜぇぇ!」

 ティアマトが絶頂を迎えそうになった、まさにその瞬間、強烈な閃光が壁を貫き、彼の目前に迫った。

「は……?」 

 そして強烈な閃光は、闇竜王ティアマトを一瞬で飲み込んだ。
 もうそこに、ドラゴン達の姿は一匹として存在していなかった。

「あれ、その星を破壊出来るとかいう闇竜王、いなくないか?」

 超エネルギー波で守護の間の壁をぶち破り、たった今闇竜王とやらがいる守護の間に入った。だが肝心のそれらしきドラゴンがいない。

「あのぉ、恐らく今の大王様の超エネルギー波で消し飛んだのかと……」

 なんだその肩透かしは。他の階層の守護者でも手に負えない程の荒くれ者、と聞いていたのに、まさか流れ弾に当たったくらいで死んだというのか。

「いやはや、どいつもこいつも弱いが過ぎるぞ。そもそも、本当にここにいたのはドラゴンなのか? ドラゴンとは、一匹で小さな街を簡単に滅ぼせると聞いていたのだが」
「は、はい……! 特に地獄のドラゴンは、ドラゴン中でも上位種なので、街どころか一つの国を滅ぼせる筈なのですが……」

 ふう、もう溜息しか出ん。
 呪いのせいとは分かっていても、コイツらの嘘にはどうしてもうんざりしてしまう。

「実際はただのオオトカゲか何かだろう。初級冒険者が最初によく狩るやつだ。あれと同等ぐらいだな」
「え、いや、その……」

 弟子達は毎度お決まりと言わんばかりの困り顔で、お互いを見やる。

「よいよい、行くぞ」

 こうして、俺達は次の階層へと向かった。
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