黒の捜査線 ~猟奇テロと白のコード~

きょろ

文字の大きさ
上 下
6 / 27
黒の捜査線

05 過去と始まり①

しおりを挟む
 
 ♢♦♢

~特殊捜査課~

 再びソサエティからの犯行声明が届く3ヶ月前。

 碧木明日香が特殊捜査課に配属してきた日――。


「あ、私は……実は、6の犯人を捕まえたくてここに来ました――」

 その言葉で俺達は固まった。
 固まったというより、余りの想定外の発言に、返す言葉が直ぐに出てこなかった。変な沈黙が少し流れたが、それを打破したのは灰谷さんだった。

「碧木さん……は、何歳だ?」
「今年23になります!」
「若っ! 明日香ちゃんそんな若いの? 同性だから余計歳感じちゃうじゃない私」
「そこそこの歳だろ」
「あ″ぁ? 何か言ったか水越」

 流石水越さんだ。よくサラッとそんな爆弾発言を……って、そうだ。爆弾は爆弾でも今確かにこの子――。

「6年前の爆破テロ追ってるってどういう事だ?」

 その事件だけは聞き逃す筈がねぇ。何でこんな子がその事件を追ってやがる。

「落ち着け黒野。何で新入りの女の子いきなり睨んでるんだお前は! すまんな碧木さん」
「い、いえ大丈夫です」
「答えになってないだろ」
「ちょっと! いい加減にしなよ黒野君」

 自分でも分かってる。配属したばかりのこの子に何で俺はムキになって突っかかっているんだ。初日にこんな先輩が絡んでくるなんて最悪な部署だと思われただろう。自分でも少しヤバいなと分かってる。でも、今この子が口に出した“それ”だけは抑えられない。

「あなたが黒野さんですよね?」
「――⁉」

 緊張か遠慮か。控え目で大人しそうだと思っていた彼女は、俺の顔を見て表情が変わった。
 真っ直ぐと俺を見つめるその瞳はとても力強く、揺るぎない信念を感じさせるものだった。

「2度目になりますが、私の名前は碧木明日香! 私がここの特殊捜査課を志願したのは、今言った通り、6年前の猟奇爆破テロの犯人を捕まえたいからです! 」
「だから何でお前がそいつらをッ……「その爆破テロで母が亡くなりました」

 俺の言葉を遮ってそう言った彼女は、ほんの少しだけ涙を滲ませていた様に俺は見えた。

「まさか……明日香ちゃんのお母さんがあそこに……?」
「はい。6年前に爆弾が仕掛けられた“亀山町ランドタワー”、“天馬町センターホテル”、“有兎楽町合楽ビルディング”。その3つのうち、爆破されたランドタワーとセンターホテル。当時、私の母はランドタワーに入っている会社で働いていました」

 話を聞いて驚いた。まさかあの事件の被害者家族が目の前に現れるなんて思いもしなかったから。しかも刑事として。面接の志望動機を聞いてるかの様な会話だったが、彼女が刑事としてここまで来て、犯人を捕まえると口にしているその覚悟は誰が見ても一目瞭然だった。

「悪い……」

 先輩として、人として。ちゃんと謝るべきなのに、その一言が俺の中で精一杯の返事だった。情けねぇ。

「いえ、全然気にしていませんので。あの、それよりも……黒野さん」
 
 彼女は、また真っ直ぐと俺の目を見て言った。

「6年前のこの事件、当時ランドタワーと合楽ビルディングでのが、黒野さんと殉職された『白石 一真しらいし かずま』刑事なんですよね?」
「――!」

 はっきりと“その名”を聞いたのは何年ぶりだろうか。

 不思議だ。名前を聞いただけで、アイツとの思い出が走馬灯の様に頭を駆け巡る。何気なく会話したのがつい昨日の事みたいだ。

 彼女……碧木は、きっと自分なりに色々調べた上で俺に今聞いているんだろう。そりゃそうだよな。“同期”を失った俺でも探し続けてるんだから、自分の親を失ったとなれば何が何でも捕まえたいよな。今更奴らを捕まえたからといっても、当然死んだ人たちは戻ってこない。そんな事は誰もが分かってる。でも、だからこそ唯一俺達に出来る事は、やっぱり犯人を捕まえる事だけなんだ。

「中途半端に追ってる訳じゃなさそうだな」
「勿論です」
「いいよ。何が聞きたいんだ? 本気で捕まえる気があるなら、俺が知ってる事は全部教えるよ。碧木」
「は、はい! ありがとうございます!」

 碧木は嬉しそうな表情をしながら喜んでいた。今の俺に出来る事はそれぐらい。心の底から喜べるのは、アイツらを捕まえた時。それしかないんだ。
 
「黒野が先輩っぽく見えたぞ一瞬」
「この件に関してだけでしょ」
「そうね。それ以外基本適当だから黒野君は。報告書もすぐ溜めるし」

 何故か一瞬にして俺の悪口大会が開かれた。

「では早速いいですか? 黒野さん」

 先輩達も大概だが、この子もこの子だな。確かに教えると言ったけどそんな直ぐ? 今なの? まぁ別にいいけど。そういう奴嫌いじゃないし。

「なぁ~にニヤけてんのよ」
「ニヤけてないですよ別に」
「ふぅん。天パのくせに明日香ちゃんみたいな子タイプなの?意外ね」

 また何を言い出してんだこの人は。いちいち絡み辛ぇしまた微妙に悪口入ってるぞ。

「天パは関係ないしタイプでもねぇ」
「私も黒野さんはタイプじゃないです!」
「アッハッハッハッ! 灰谷さん、黒野君が早くも明日香ちゃんに振られました!」
「お前もうコクったのか!捕まえるのは凶悪犯だけにしとけよ」
「灰谷さん上手い」

 鬱陶しい。もう本当に嫌だぜこの部署。碧木が入ってきたし、そろそろ本気で異動願い出してやろうかな。

「うるさいっすよ。そんな事より、俺に聞きたいんじゃないのか碧木。 “ソサエティ”について――」
「――!」

 俺がそう言うと、碧木が真剣な表情になった。
 どんな些細な事でもいいから全てを教えて下さい、と碧木に言われ、俺はいつの間にか当時の事を話し出していた――。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

カフェ・シュガーパインの事件簿

山いい奈
ミステリー
大阪長居の住宅街に佇むカフェ・シュガーパイン。 個性豊かな兄姉弟が営むこのカフェには穏やかな時間が流れる。 だが兄姉弟それぞれの持ち前の好奇心やちょっとした特殊能力が、巻き込まれる事件を解決に導くのだった。

先生、それ、事件じゃありません

菱沼あゆ
ミステリー
女子高生の夏巳(なつみ)が道で出会ったイケメン探偵、蒲生桂(がもう かつら)。 探偵として実績を上げないとクビになるという桂は、なんでもかんでも事件にしようとするが……。 長閑な萩の町で、桂と夏巳が日常の謎(?)を解決する。 ご当地ミステリー。

夜の動物園の異変 ~見えない来園者~

メイナ
ミステリー
夜の動物園で起こる不可解な事件。 飼育員・えまは「動物の声を聞く力」を持っていた。 ある夜、動物たちが一斉に怯え、こう囁いた—— 「そこに、"何か"がいる……。」 科学者・水原透子と共に、"見えざる来園者"の正体を探る。 これは幽霊なのか、それとも——?

コドク 〜ミドウとクロ〜

藤井ことなり
ミステリー
 刑事課黒田班に配属されて数ヶ月経ったある日、マキこと牧里子巡査は[ミドウ案件]という言葉を知る。  それはTMS探偵事務所のミドウこと、西御堂あずらが関係する事件のことだった。  ミドウはマキの上司であるクロこと黒田誠悟とは元同僚で上司と部下の関係。  警察を辞め探偵になったミドウは事件を掘り起こして、あとは警察に任せるという厄介な人物となっていた。  事件で関わってしまったマキは、その後お目付け役としてミドウと行動を共にする[ミドウ番]となってしまい、黒田班として刑事でありながらミドウのパートナーとして事件に関わっていく。

伏線回収の夏

影山姫子
ミステリー
ある年の夏。俺は15年ぶりにT県N市にある古い屋敷を訪れた。大学時代のクラスメイトだった岡滝利奈の招きだった。屋敷で不審な事件が頻発しているのだという。かつての同級生の事故死。密室から消えた犯人。アトリエにナイフで刻まれた無数のX。利奈はそのなぞを、ミステリー作家であるこの俺に推理してほしいというのだ。俺、利奈、桐山優也、十文字省吾、新山亜沙美、須藤真利亜の6人は大学時代、この屋敷でともに芸術の創作に打ち込んだ仲間だった。6人の中に犯人はいるのか? 脳裏によみがえる青春時代の熱気、裏切り、そして別れ。懐かしくも苦い思い出をたどりながら事件の真相に近づく俺に、衝撃のラストが待ち受けていた。 《あなたはすべての伏線を回収することができますか?》

支配するなにか

結城時朗
ミステリー
ある日突然、乖離性同一性障害を併発した女性・麻衣 麻衣の性格の他に、凶悪な男がいた(カイ)と名乗る別人格。 アイドルグループに所属している麻衣は、仕事を休み始める。 不思議に思ったマネージャーの村尾宏太は気になり 麻衣の家に尋ねるが・・・ 麻衣:とあるアイドルグループの代表とも言える人物。 突然、別の人格が支配しようとしてくる。 病名「解離性同一性障害」 わかっている性格は、 凶悪な男のみ。 西野:元国民的アイドルグループのメンバー。 麻衣とは、プライベートでも親しい仲。 麻衣の別人格をたまたま目撃する 村尾宏太:麻衣のマネージャー 麻衣の別人格である、凶悪な男:カイに 殺されてしまう。 治療に行こうと麻衣を病院へ送る最中だった 西田〇〇:村尾宏太殺害事件の捜査に当たる捜一の刑事。 犯人は、麻衣という所まで突き止めるが 確定的なものに出会わなく、頭を抱えて いる。 カイ :麻衣の中にいる別人格の人 性別は男。一連の事件も全てカイによる犯行。 堀:麻衣の所属するアイドルグループの人気メンバー。 麻衣の様子に怪しさを感じ、事件へと首を突っ込んでいく・・・ ※刑事の西田〇〇は、読者のあなたが演じている気分で読んで頂ければ幸いです。 どうしても浮かばなければ、下記を参照してください。 物語の登場人物のイメージ的なのは 麻衣=白石麻衣さん 西野=西野七瀬さん 村尾宏太=石黒英雄さん 西田〇〇=安田顕さん 管理官=緋田康人さん(半沢直樹で机バンバン叩く人) 名前の後ろに来るアルファベットの意味は以下の通りです。 M=モノローグ (心の声など) N=ナレーション

ハイブリッド・ブレイン

青木ぬかり
ミステリー
「人とアリ、命の永さは同じだよ。……たぶん」  14歳女子の死、その理由に迫る物語です。

迸れ!輝け!!営業マン!!!

飛鳥 進
ミステリー
あらすじ 主人公・金智 京助(かねとも けいすけ)は行く営業先で事件に巻き込まれ解決に導いてきた。 そして、ある事件をきっかけに新米刑事の二条 薫(にじょう かおる)とコンビを組んで事件を解決していく物語である。 第3話 TV局へスポンサー営業の打ち合わせに来た京助。 その帰り、廊下ですれ違った男性アナウンサーが突然死したのだ。 現場に臨場した薫に見つかってしまった京助は当然のように、捜査に参加する事となった。 果たして、この男性アナウンサーの死の真相如何に!? ご期待ください。

処理中です...