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黒の捜査線
03 動き出した捜査線②
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♢♦♢
~特殊捜査課~
翌日。
あれから俺は、何とか溜まった報告書を全て片付け家に帰る事が出来た。遅くなったけどな。でもまぁこれで藍沢さんを怒らせなくて済んだ。あの人は怒るとヤバい。何がヤバいかって? 何か色々とヤバいんだよ。思い出そうとしただけで恐ろしい。背筋が凍るわ。
「――OK。ちゃんとまとめたみたいね! これに懲りたら、溜めずにその都度しっかり処理する事ね。明日香ちゃんを見習いなさい」
「朝から怒られてるのか黒野」
藍沢さんに報告書を出しているだけで何故説教されてると思ったんだ灰谷さんは。まぁ珍しくいい線ついてますけどね。
「灰谷さんにしては察しがいいですね」
「お、じゃあ当たってたのか。それにしては手厳しいな水越。喜べんぞ」
やっぱ水越さんも同じ様な事思っていたか。
「で? 分かったの黒野君は」
「あ、はい、重々承知致しました」
「全く反省してないわね」
「黒野さんよくそんな感じで刑事になれましたね」
ゔッ……!
「アッ~ハッハッハッ! 言われてますよ黒野先輩! 可愛い可愛い後輩ちゃんに」
「笑い過ぎっすよ」
碧木はこれまた見た目に反してハッキリ物言うタイプ。当然本人に悪気はない。
「黒野さんはどうして刑事になったんですか?」
「何だよ急に。別に理由なんてねぇぞ。成り行きだ」
「この天パと一緒で、人生モジャモジャあっちこっち定まってないのね」
「藍沢さん上手い」
そう言ってゲラゲラ笑っているこの2人。仲が良いのは勝手だが、人の頭ネタにして意気投合しているのを見ると無性に腹が立つ。明らかに見た目の悪口だ。いつか何かのハラスメントで訴えてやろう。
午前中から気分が悪いが今日も普段通りの日常。全然使わない俺のデスクは常に綺麗に保たれている。これも普段通りの日常だ。まぁそれが良いか悪いかはさておき、俺は自分のデスクに腰を掛けた。
ふぅ。何とか藍沢さんの逆鱗に触れず済んだ。良かった良かった。これで今日も丸1日安泰だっ……「――おい!コレを見ろ!」
突如発せられた誰かの声。それは、特殊捜査課の人の者ではなかった。俺達のいる部屋の外。特殊捜査課と同じ階だが別の部署だ。そこから聞こえた声だった。何やら慌ただしい様子。何故だかどんどん署内の人達が“そこ”に集まって来る。何だ? こんな光景を見るのは初めてだ。
「何? 騒々しいわね」
「物々しい雰囲気だな」
皆が吸い寄せられる様に集まっていく場所。その視線の先には、1台のパソコンがあった。
すると次の瞬間、普段大声を出す事なんてない……いや、俺の知る限り今までにない。その水越さんが初めて大声を出した。しかも俺の名前を呼んで――。
「黒野! コレ見ろッ!」
血相を変えた水越さんの表情。その視線の先は、横で集まっている他の人達と同じ様に、パソコンに向けられていた。
さっきから何だ? 一体何が起きている? そこに一体何が映っているんだ――?
俺は勿論、部屋にいた灰谷さん、藍沢さん、そして碧木も。全員が水越さんの見るパソコンの前に集まった。
――ドクンッ……。
その画面を見た刹那、俺の心臓が大きく高鳴った。
「これは……」
「嘘だろ……」
――ドクンッ……ドクンッ……!
勘違いでもなければ錯覚でも見間違いでもない。何故なら、俺は“コレ”を誰よりも見返した。何十回、何百回、何千回と……何日も寝ずにただひたすら見続けた。“お前ら”を捕まえる事だけを考えて、ただただ“お前ら”だけが憎くて。
あれ程自分の無力さに腹が立ったことはねぇ。何も出来なかった自分を殺してやりたいぐらいにな。お前らを捕まえたい一心で、こっちは未だに情報を集めているんだ。俺はあの日の事を1日足りとも忘れた事はない。今でもお前らに対するこの気持ちは変わってねぇんだよ。
だから絶対に見間違える筈がねぇ。
お前らの“その姿”をよ――。
「ソサエティ……」
目の前のパソコンに映し出された奴らの姿。それは“6年前”と全く同じだった。
顔が特定されない様に被っているふざけたマスク。テロを気取ってただ持ってるだけのお飾り銃。統率の取れた組織だと言わんばかりの揃いの装い。
ガキの遊びじゃねぇんだよッ……!
見れば見る程、思い返せば思い消す程、腸が煮えくり返る程の苛立ちがこみ上げてくる――。
「何ですかこれ?」
「……」
「皆何を見ているんだ」
「おいおい、コレって……」
横で集まっている他の部署の刑事や警察官達も、皆パソコンの画面を見ていた。
言葉を詰まらす者。首を傾げている者。訝しい表情で見つめる者。何が起こっているか全く分からない者。そこに映し出された奴らの姿を見た反応は人それぞれだった。
恐らくこの姿自体は、大勢の人間が目にしているであろう。当時のニュースで毎日の様に取り上げられていたからな。ただ、その出来事がその人にとって重要であるか否かは全くの別物。事件や事故のニュースを見た時は誰でも同情する。これは誰にも当てはまるが、いくら可哀想、悲しい、酷いと同情しても所詮は他人事。
悲しいかな。結局当事者でもない限り、ニュースの後の次のCMの頃にはもう忘れているんだ。だがそれは決して悪い事ではない。それが自然。そういうものなんだ。だからこそ、きっと今コレを見て反応している人は、どこかでこの事件を覚えている人達だろう。
もしくは――。
俺や“碧木と同じ”、忘れたくても到底忘れる事など出来ない、自分達がその事件の被害者かだ――。
~特殊捜査課~
翌日。
あれから俺は、何とか溜まった報告書を全て片付け家に帰る事が出来た。遅くなったけどな。でもまぁこれで藍沢さんを怒らせなくて済んだ。あの人は怒るとヤバい。何がヤバいかって? 何か色々とヤバいんだよ。思い出そうとしただけで恐ろしい。背筋が凍るわ。
「――OK。ちゃんとまとめたみたいね! これに懲りたら、溜めずにその都度しっかり処理する事ね。明日香ちゃんを見習いなさい」
「朝から怒られてるのか黒野」
藍沢さんに報告書を出しているだけで何故説教されてると思ったんだ灰谷さんは。まぁ珍しくいい線ついてますけどね。
「灰谷さんにしては察しがいいですね」
「お、じゃあ当たってたのか。それにしては手厳しいな水越。喜べんぞ」
やっぱ水越さんも同じ様な事思っていたか。
「で? 分かったの黒野君は」
「あ、はい、重々承知致しました」
「全く反省してないわね」
「黒野さんよくそんな感じで刑事になれましたね」
ゔッ……!
「アッ~ハッハッハッ! 言われてますよ黒野先輩! 可愛い可愛い後輩ちゃんに」
「笑い過ぎっすよ」
碧木はこれまた見た目に反してハッキリ物言うタイプ。当然本人に悪気はない。
「黒野さんはどうして刑事になったんですか?」
「何だよ急に。別に理由なんてねぇぞ。成り行きだ」
「この天パと一緒で、人生モジャモジャあっちこっち定まってないのね」
「藍沢さん上手い」
そう言ってゲラゲラ笑っているこの2人。仲が良いのは勝手だが、人の頭ネタにして意気投合しているのを見ると無性に腹が立つ。明らかに見た目の悪口だ。いつか何かのハラスメントで訴えてやろう。
午前中から気分が悪いが今日も普段通りの日常。全然使わない俺のデスクは常に綺麗に保たれている。これも普段通りの日常だ。まぁそれが良いか悪いかはさておき、俺は自分のデスクに腰を掛けた。
ふぅ。何とか藍沢さんの逆鱗に触れず済んだ。良かった良かった。これで今日も丸1日安泰だっ……「――おい!コレを見ろ!」
突如発せられた誰かの声。それは、特殊捜査課の人の者ではなかった。俺達のいる部屋の外。特殊捜査課と同じ階だが別の部署だ。そこから聞こえた声だった。何やら慌ただしい様子。何故だかどんどん署内の人達が“そこ”に集まって来る。何だ? こんな光景を見るのは初めてだ。
「何? 騒々しいわね」
「物々しい雰囲気だな」
皆が吸い寄せられる様に集まっていく場所。その視線の先には、1台のパソコンがあった。
すると次の瞬間、普段大声を出す事なんてない……いや、俺の知る限り今までにない。その水越さんが初めて大声を出した。しかも俺の名前を呼んで――。
「黒野! コレ見ろッ!」
血相を変えた水越さんの表情。その視線の先は、横で集まっている他の人達と同じ様に、パソコンに向けられていた。
さっきから何だ? 一体何が起きている? そこに一体何が映っているんだ――?
俺は勿論、部屋にいた灰谷さん、藍沢さん、そして碧木も。全員が水越さんの見るパソコンの前に集まった。
――ドクンッ……。
その画面を見た刹那、俺の心臓が大きく高鳴った。
「これは……」
「嘘だろ……」
――ドクンッ……ドクンッ……!
勘違いでもなければ錯覚でも見間違いでもない。何故なら、俺は“コレ”を誰よりも見返した。何十回、何百回、何千回と……何日も寝ずにただひたすら見続けた。“お前ら”を捕まえる事だけを考えて、ただただ“お前ら”だけが憎くて。
あれ程自分の無力さに腹が立ったことはねぇ。何も出来なかった自分を殺してやりたいぐらいにな。お前らを捕まえたい一心で、こっちは未だに情報を集めているんだ。俺はあの日の事を1日足りとも忘れた事はない。今でもお前らに対するこの気持ちは変わってねぇんだよ。
だから絶対に見間違える筈がねぇ。
お前らの“その姿”をよ――。
「ソサエティ……」
目の前のパソコンに映し出された奴らの姿。それは“6年前”と全く同じだった。
顔が特定されない様に被っているふざけたマスク。テロを気取ってただ持ってるだけのお飾り銃。統率の取れた組織だと言わんばかりの揃いの装い。
ガキの遊びじゃねぇんだよッ……!
見れば見る程、思い返せば思い消す程、腸が煮えくり返る程の苛立ちがこみ上げてくる――。
「何ですかこれ?」
「……」
「皆何を見ているんだ」
「おいおい、コレって……」
横で集まっている他の部署の刑事や警察官達も、皆パソコンの画面を見ていた。
言葉を詰まらす者。首を傾げている者。訝しい表情で見つめる者。何が起こっているか全く分からない者。そこに映し出された奴らの姿を見た反応は人それぞれだった。
恐らくこの姿自体は、大勢の人間が目にしているであろう。当時のニュースで毎日の様に取り上げられていたからな。ただ、その出来事がその人にとって重要であるか否かは全くの別物。事件や事故のニュースを見た時は誰でも同情する。これは誰にも当てはまるが、いくら可哀想、悲しい、酷いと同情しても所詮は他人事。
悲しいかな。結局当事者でもない限り、ニュースの後の次のCMの頃にはもう忘れているんだ。だがそれは決して悪い事ではない。それが自然。そういうものなんだ。だからこそ、きっと今コレを見て反応している人は、どこかでこの事件を覚えている人達だろう。
もしくは――。
俺や“碧木と同じ”、忘れたくても到底忘れる事など出来ない、自分達がその事件の被害者かだ――。
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