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第4章~賢者と聖女と新たな門出~

56 旅は道連れ

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「ちょ、ちょッ……ちょ~~といいですかッ⁉」

 僕は混乱する思考回路を必死で正常に保ち、話を止めた。

 落ち着け……。
 今確かにシスターに言ったよね……?

 “大賢者”って――。

「ねぇオジさん! 本当に大賢者なの⁉」

 まさに僕達が今聞きたい事を、ティファーナがどストレートに聞いた。

「ん? あ~、まぁ何と言うか……勝手にそう呼ばれているみたいではあるね。勿論自分から名乗った事はないが……」
「「――いたッ!!」」

 僕達は声を揃えて言った。

「マジで? オジさんが噂の大賢者なのかよ!」
「本物ゲロか⁉ メイリーン山の山頂にあったあの家は……」
「ほぉ~こりゃ珍しい。別の世界から転生してきたカエル人間とは驚いた。初めて見たよ。 それに君達メイリーン山に登ったのかい? “私の家”を知っているなんて」

 やっぱり本物だ――。

「本当にいた! あの大賢者が!」
「やったねジル!」

 僕達は喜んでいるが、当然シスター達は事情を知らない。

「何やら喜んでくれている様だが……私に何か用かね?」
「あ、はい! 実は丁度今話していたSランクの事で……」

 僕は大賢者のオジさん……改め、イェルメスさんに事の経緯を話した。

 すると……。

「――アッハッハッハッ! まさかジル坊がそんな面白い冒険をしているとはねぇ。いいだろう! アンタ達全員がSランクになれる様に、このジジイからドラゴンの居場所を聞くといいさ!」

 僕の話に対する返答はまさかのイェルメスさんじゃなくてシスターだった。

「私ではなく何故お前が答える、アグネス」
「何を言ってるんだいイェルメス。お前だって既にジル坊の話が“気になっている”んだろう?私には分かるよ」
「やったー!って事はやっぱりドラゴンの居場所知ってるんだねイェルメスは」
「まぁそれはね」

 凄い。イェルメスさんはやはりドラゴンの居場所が分かるのか……。って、相変わらずティファーナの人との距離の詰め方が異常だ。もうイェルメスさんと友達の様に話しているじゃないか。

「まぁそういう事だからねジル坊、アンタのギルドでロセリーヌとこのジジイを“預かって”おくれ」
「え……⁉ 僕達のギルドで?」
「シスター?」

 また驚きの発言をしたシスター。皆シスターの勢いに戸惑っているよ。ロセリーヌさんもね。

「人として成長する為に、旅に出たいんだろうロセリーヌ」
「うん。自分がなりたいシスターになる為に」
「旅をするのは勿論構わないが、実力のないアンタは直ぐ死ぬのがオチだ。だったらこの子達と一緒に行きな。まだ私より全然弱いが、アンタ1人よりは100倍安全だよ。それにこんな面白い旅は中々経験出来ないからねぇ」
「シスター……」
「うん、それがいい。絶対それがいいよロセリーヌ! 私もロセリーヌと一緒に冒険したいからさ、おいでよ。私達のギルドに!」
「そ、そんな突然……! 私なんかがいたら皆の迷惑になってしまいますよティファーナちゃん……!」
「そんな事無いよ。ね、ジル!」
「うん、勿論さ!ロセリーヌさんが嫌じゃなければ僕達は全然大丈夫!」

 寧ろウェルカムです。こんな綺麗で優しい女神の様な聖女なんて……。溜まりません。 

「え、 本当に私が宜しいのですか……?皆さんのところにお邪魔しちゃって……」
「だから良いって言ってるでしょ」
「ディオルドもバレンもいいよね?」
「勿論ゲロ。カエルが嫌いじゃなければ」
「俺も別に構わねぇぞ。つうかお頭のギルドなんだから好きにしろよ。いちいち許可なんか取るなよ面倒くせぇ」
「ありがとう。って事で、僕達は是非ロセリーヌさんを迎え入れたいんですけど、どうですか?」
「あのなぁお頭。どう見てもこの子控え目タイプだろうがよ。そういう時は“どうですか?”なんて聞かずに、一緒に来いって言えばいいんだ。話が終わらねぇだろ」
「アッハッハッ!赤髪坊やの言う通りさジル坊。アンタそんなんじゃ一生女にモテないよ!」
「大丈夫!ジルには私がいるから」

 それはフォローになっていないよティファーナ。

「ジル君、ティファーナちゃん。それから赤髪の方とカエルさんも……。突然で迷惑かと思うけど、情けない話……私1人では心細かったの。だから、皆さんの仲間に入れて頂いて宜しいでしょうか……?」
「「勿論!」」

 ロセリーヌさんの申し出に、僕達は皆喜んで答えた。

「――まだ終わってないよジル坊!」
「え……シスター?」
「ずっと勢いある婆さんだな」

 まだ何かあるのか……? 色んな意味でやっぱ凄いなこの人……。

「ロセリーヌとついでに……“イェルメス”も連れて行きな」
「「……⁉」」
「え? 何で俺?」

 僕達が驚くのは当たり前だが、イェルメスさんも当然の如く驚いている。と言うより不思議そうだ。

 確かにドラゴンの居場所を知りたいんだけどさ……。それってわざわざ僕達と一緒に来る必要あるのか?

 シスター以外の全員が何故?と言った顔つきだったが、その疑問は直ぐに氷解した。

「イェルメス、アンタは私にまだ借りが1つ残っていたね」
「そうだったか? 仮にあったとしても何時の話だよ……」
「ハッハッハッ。男ってのは都合の悪い事は忘れるからね。でも私はちゃんと覚えているよ。60年前のスマイルベットでの事さ、グリフォンを討伐した」
「あー……。そういやそんな事あったかもな……」

 またさらっと凄い会話だった。
 グリフォンって、滅多に見つけられない珍しいモンスターじゃないか。しかも当然の如く強いらしいし。

「だからその借りを今返してくれ」
「それは別に構わないが、何故私まで一緒に行く必要があるのだ」
「そりゃあ勿論ロセリーヌの成長見届け係としてさ」
「なんだそれは……」
「ロセリーヌは大切な次期シスターだ。万が一の事がない様に、アンタが責任もって守りな」
「無茶苦茶な事言ってるぞアグネス」

 ハハハ、これはイェルメスさんが困るのも無理ないや。

「それに、この子達はドラゴンの居場所も知りたいみたいだが……それ以上にもっと面白い事があるだろう、なぁイェルメス。アンタもジル坊の“力”が気になっている筈さ。それはまたジル坊本人もね」

 僕の力……? それってまさか――。

「え、イェルメスさん! もしかして僕のこの力の事何か知っているんですか⁉」

 そう。
 イェルメスさんを探していたのはドラゴンの情報ともう1つ……。僕達に起こっているこの不思議な力の正体。

「どうなんだいイェルメス。私はアンタみたいに本を読むのが好きじゃないから知らないが、今のジル坊の話と“よく似た話”を昔にしていなかったかねぇ?」
「ああ……確かにしたな。正直私もかなり気になっているし、もし君のその力が私の知るものだとすれば……」

 今まで優しくて温和な感じだったイェルメスさんの雰囲気が、何処となく重くなった気がした。



「この世界が“滅びる”危険性にある――」


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