上 下
48 / 70
第4章~賢者と聖女と新たな門出~

46 聖女は突然に

しおりを挟む
「――ホント目障り!」
「視界に入らないでくれる?」

 正面に向かおうとしていた僕達に聞こえてきた声。

 聞き間違いでない限り、桜の木の向こう側から聞こえたその声は、その美しいブロッサム大聖堂とは余りにかけ離れた印象の言葉だった。

「何? 誰か喧嘩でもしてるの?」
「うわ、ティファ―ナ! そんな所から覗き込んじゃダメだってば」
 
 ティファ―ナは、ブロッサム大聖堂を囲っている柵の間から、覗き込む様に顔を出した。

 柵の直ぐ向こう側に桜の木が連なり、大聖堂はそこからもう少し奥の位置。そしてその大聖堂の近くに人影が確認出来た。ここからだと約20mぐらいかな。人数は4人。見た感じ全員女の人だと思う。しかも観光とかじゃなくて、あれは恐らく大聖堂にいる聖女とかシスターと呼ばれる人達だきっと。4人とも同じ修道服を着ているし。

 それにしても、今さっき聞こえて声はどうやら聴き間違いではないらしい。ここからでも明らかに揉めているのが分かる。いや、あれは揉めているというより、一方的なイジメというのが正しいだろう。

「そんな……私はその様なつもりは……」
「うるさい。そんな言い訳聞き飽きたわ」
「そのおどおどした態度も鬱陶しいのよね!」
「その様なつもりは……ですって。キャハハ」

 見た感じ構図は3対1。如何にも控え目で大人しそうな眼鏡を掛けた人が、残りの気の強そうな3人に何やらキツイ言葉を吐き捨てられている。これは良い事なのか悪い事なのかは分からないが、桜の木が沢山植えられている大聖堂
の敷地。そのせい? そのお陰? どちらか分からないが、僕達のいる外からでは確かに敷地の中は見えづらい。

 ブロッサム大聖堂にいる修道服を着た人達は、勿論自分達の生活や役割が合ってここにいる。少なくとも観光の事まで考えられているだろうから、お互いにとって見えづらい方がメリットは大きいと思う。大聖堂の人達は外からの目線が気になってしまうだろうし、ずっと見られていたら気が休まらないもんね。

 当然、それが理由でここまで桜の木が植えられている訳じゃないけど、程よいブラインドになっているとは思う。

 その証拠に、今僕とティファ―ナが“している”様に、中を見ようと思って覗き込まない限り確認する事は出来ない。

「最低。ジル、あの人達イジメてるよアレ。助けないと」
「いや、確かにそうだとは思うけどさ、だからと言って僕達が口を挟む立場でもなッ……って、おいおい! 何してるの君は⁉」

  今の今まで真横にいた筈のティファ―ナが、いつの間にか高い柵を超えて彼女達の方へ歩いて行ってるじゃないか! 何故⁉ いつの間に!

「ちょ、ちょっと待ったティファ―ナッ! あ。ヤバいぞ。何か大事になりそうだコレは。マズいマズいマズいマズい――」

 僕にこの高い柵を超えるのは無理。出来ない事は諦めて、猛烈ダッシュで大聖堂の正面に向かって回り込むしかない。急げ!

「――ねぇ。イジメなんて止めなよ」
「……この子誰?」
「え? 知らないわよ私」
「私も……。何なのよアンタ。ここは私達“聖女”以外立ち入り禁止よ!」
「そんな事言われてももう入っちゃってるし。行こう、眼鏡のお姉さん」
「え、ちょ……ちょっと」
「待ちなさい! 勝手に何処行く気よアンタ!」
「そもそもどっから湧いて出たのよこの子。どう見ても年下よね?」
「ちょっと見た目が可愛いからって出しゃばってんじゃないわよ」
「あ、あの……」
「こういう人達は無視無視! 魚人族でもいるんだから、こういう嫌な人達」
「ちょっと! 待ちなさいって言ってんでしょアンタッ!」
「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 よしよしよし。明らかに一触即発の雰囲気だったけどギリ間に合ったぞ。

「ジル」
「今度は誰? 何あの子……」
「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………っと。ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……」

 疲れた。めちゃくちゃしんどい。でも何とか止められたよね。間に合わないと思って遠くから大声出した甲斐があった。丁度良い事に、桜の木が外からの視線を遮ってくれている。この桜が無かったら、一体僕はどれだけの人に変質者のレッテルを貼られていただろうか。もしもを考えただけでゾッとするよ。

「ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……」
「マジで何なの? この子疲れすぎて話せなそうだけど」
「そんな事どうでもいいわよ! それよりアンタこっち来なさいよ!」
「ちょっと待った!」

 とは言ったものの、どうしよう。明らかに関係ないのは僕達だ。何を言われても僕達が不利だ。

「いいわよ。気に入らないなら勝負するしかないわね!」

 やたらと好戦的だなティファーナ。どうしたんだよ君まで。兎に角魔力を高めるのを今すぐ止めるんだ。ほら。冒険者でもない彼女達にそんな魔力見せつけたら……ね。怖がって逃げちゃったじゃん。そんな脅し方しなくても良かったんじゃない? まぁ一先ずまとまったから結果オーライという事にしておこう。

「あ、あの~、あなた達は……?」

 逃げていった3人とは別に、眼鏡を掛けた女の人が僕とティファ―ナに問いかけてきた。

「私はティファーナ! 宜しくね」
「僕の名前はジルです。突然すいません。全く関係ないのに割って入ってしまって。ティファ―ナも先に謝りなよ」
「どうして? 悪いのはさっきの人達だよ」
「いやそれはさ……」

 僕が返答に困っていると、眼鏡の女の人が口を開いた。

「貴方達のお陰で助かりました。ティファーちゃん、ジル君」

 そう言って優しく微笑みかけてくれた眼鏡の女の人は、良く見るととても端正な顔立ちで、修道服の上からでもわかるぐらい、胸が大きかったとさ――。

 舞い散るピンク色の花びらが、僕達の運命的な出会いを演出するかの様に、彼女のそのはち切れそうなバストの上へと静かに舞い降りた――。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~

イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」   どごおおおぉっ!! 5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略) ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。 …だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。 それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。 泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ… 旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは? 更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!? ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか? 困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語! ※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください… ※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください… ※小説家になろう様でも掲載しております ※イラストは湶リク様に描いていただきました

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

転生幼女の異世界冒険記〜自重?なにそれおいしいの?〜

MINAMI
ファンタジー
神の喧嘩に巻き込まれて死んでしまった お詫びということで沢山の チートをつけてもらってチートの塊になってしまう。 自重を知らない幼女は持ち前のハイスペックさで二度目の人生を謳歌する。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ

雑木林
ファンタジー
 現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。  第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。  この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。  そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。  畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。  斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。

神の使いでのんびり異世界旅行〜チート能力は、あくまで自由に生きる為に〜

和玄
ファンタジー
連日遅くまで働いていた男は、転倒事故によりあっけなくその一生を終えた。しかし死後、ある女神からの誘いで使徒として異世界で旅をすることになる。 与えられたのは並外れた身体能力を備えた体と、卓越した魔法の才能。 だが骨の髄まで小市民である彼は思った。とにかく自由を第一に異世界を楽しもうと。 地道に進む予定です。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

処理中です...