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第2章~試験と赤髪と海上ギルド~

18 抜かない刀

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 ゴーキンさんが旗を掴む寸での所で、クレイさんはそれを阻止。躊躇無く、クレイさんは持っていた剣でゴーキンさんを斬り付けた。

「――グッ……⁉」
「ゴーキンさん!」

 ガタイのいい体が数メートル後ろへと飛ばされてしまう。

「危なかったぜ」

 ゴーキンさんも、持っていた剣で間一髪クレイさんの攻撃を防いだ様だ。スラッとした体格にも関わらず、自分より一回りは大きいゴーキンさんを吹っ飛ばすとは凄いパワーだ。
 
 いやそれよりも、クレイさんは一体何を考えているんだ⁉ 正気じゃないぞ。

「何馬鹿な事をしているんだ!止めろ。試験はもう終わりだ!」
「終わりませんよ。アンタが言い出した事だろ。ルール無用のサバイバル。誰かが赤い旗を手にするまでこの試験は終わらない」
「ふざけてんじゃねぇぞクレイ」
「ふざけてるのはお前達だろ。僕はしっかり試験を受けているだけ。文句を言う暇があるならさっさと旗を取ればいッ……『――ガキィィィィンッ!!!!』

 クレイさんの言葉を遮る様に、彼に向かって剣を振り下ろしたのはディオルドさんだった――。

「“やっと”その気になったか」

 ディオルドさんの攻撃を剣で防いだクレイさんの表情は、より一層不気味な雰囲気を醸し出した。

 やっとその気になったって……何か因縁でもあるのかあの2人。
 しかもディオルドさん剣を抜いていないぞ。鞘に収まったままだ。それによく見ると、クレイさんやゴーキンさんが持っているのと同じ剣というより、あれは“刀”なのか……?

「どういう意味だ」

 互いの剣を振り払うと、クレイさんとディオルドさんは一定の距離を取った。

「僕はね、ずっと君と戦ってみたかったんだよ。この試験の初日に君の実力を見た時からね」
「ストーカーが趣味なのかお前」
「僕は勝負が好きでね、自分より強そうな奴を見ると溜らないんだよ!興奮が抑えられないんだ!ハハハハハッ!」
「狂ってやがるな」

 凄いやべぇ奴だったぁぁぁぁ! 僕が感じていた妙な違和感はコレだったのか⁉⁉
 凄く良い人だと思っていたのに、完全に化けの皮が剥がれたぞ。何だこのサイコパス野郎は! 

 まぁそのサイコパス野郎に1度は助けて頂いたのだけど……。

「さぁ、試験はまだ終わっていない!僕か君か、どちらが旗を手にするかな?」
「もう止めるんだ!」

 試験官の2人が止めに入った。クレイさんを拘束するべく魔法を放つ。

 試験官さんは魔法で出した10発以上の水の弾を、勢いよくクレイさんに飛ばしたが、クレイさんは向かってきた水の弾を軽やかな身のこなしと剣捌きで全弾防いでみせた。

 凄いな。狂ってるけど実力は本物だ。

 何食わぬ顔で攻撃を防いだクレイさんは、「何かしたか?」と言わんばかりの冷たい視線を試験官さんに向けている。確かに今の攻撃に決して威力がある訳ではなかった。

 だが、その攻撃が決して“メイン”ではなかった。

 ――ブァァンッ。
「――⁉」

 クレイさんが攻撃を防ぎ切った直後、背後に召喚獣が現れた。
 足元には魔法陣。淡い光と共に出現したその魔法陣と召喚獣は勿論、もう1人の試験官さんの魔法。

 出てきた召喚獣は、両腕でクレイさん掴もうとしていた。

「貴様を騎士団へ連行する!」

 不意を突かれたクレイさん。冷静ながらも、少し表情が戸惑って見える。
 そして、召喚獣がクレイさんを拘束した――。


 と、誰もが思った瞬間、目にも止まらぬ速さで召喚獣が真っ二つに斬り裂かれた。

「何だとッ!」
「今何が起こった⁉」

 ――シュゥゥゥン……。
 出された召喚獣は瞬く間に消滅。

 攻撃が全く見えなかった。僕だけじゃない。試験官さん達も驚きを隠せなかった。そんな試験官さん達を、クレイさんは更に冷徹な目で睨んだ。まるで虫けら見下す様なその視線。

 クレイさんと試験官さん達は離れた距離にいた筈。しかし、気付いた時にはクレイさんは2人の目の前で剣を振りかぶっていた。

「邪魔をするなよ」
「「――⁉」」

 ヤバい。本気で攻撃する気だ。

「――邪魔はお前だろ」

 その場で唯一クレイさんの動きに反応していたディオルドさんが、間に入って攻撃を受け止めた。

「いいねぇ!流石だよディオルド。だが、まだそんなものじゃないだろ君の力は!」

 攻撃を受け止められたクレイさんはだったが、彼はそこから続けざまに2撃、3撃、4撃と連続で剣を振るう。ディオルドさんもかなり強い。クレイさんの素早い太刀筋を全て受け切っている。

 僕の目では全然追いつけない速さ。戦っているのは分かるが、2人がどのタイミングでどういう攻撃をしているのかさっぱり分からない。僕だったら一瞬で微塵切りにされてるな。

「いつまで力を“出し惜しみ”しているんだ?あまり焦らさないでくれよ」
「お前なんて今のままで十分だろ」
「チッ」

 斬り合っていたクレイさんとディオルドさんだったが、突如クレイさんが距離を取った。

「僕は本気の君と戦いたいんだよ。しつこい男は嫌われるぞディオルド。何故刀を抜かない?」

 同じと思いたくないが、クレイさんと意見が合ってしまった。僕も抱いていたモヤモヤの核心を突くその言葉。

 そう。ディオルドさんは何故か刀を鞘に入れたまま抜いていない。僕が出会った時からずっと鞘のまま攻撃しているんだ。あれでは斬るというより、棒で叩くと表現した方が近い。

 気にはなっていたけど、ああいう武器なのかなとも思っていた。でも、あれはちゃんとした刀で、やっぱり抜刀するのが普通なんだよねきっと。クレイさんもそう言ってるし。

「抜こうが抜くまいが、お前が負けるという事実は変わらねぇ」
「ふ~ん。何故そんなに抜くのを躊躇っているのか知らないが、抜刀しない君じゃ弱すぎて興奮出来ないんだよ。だから力づくでその気にさせてあげようか!」

 クレイさんはそう言うと、膨大な魔力を練り始めた――。

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