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第2章~試験と赤髪と海上ギルド~
17 赤い旗の行方③
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無情にも“それ”は起きた―。
「よ~し」
「お、何かやる気?」
「このまま一気に先頭に追い付こう!」
何かを思いついたティファ―ナは魔力を練り上げる。
「行くよ皆」
そう言うと、ティファ―ナの魔法によって突如地面から大量の海水が吹き上がった。
「「「――⁉」」」
上空まで吹き出た海水は、まるで生き物の如く上からティファ―ナ達目掛けて急降下すると、そのまま波乗りの様にティファ―ナ達を運んでいった―。
「いっけぇぇぇ!!」
「これは凄い!」
「何だよこの魔力……⁉」
その姿はまるで森を這う巨大な水の大蛇に見えた。激しく散る水飛沫。そのスピードは凄まじく、先頭に追い付くどころかそのまま一気にトップまで躍り出た。
「凄まじい魔法だ。あの子これまでの試験で目立った結果を出していたか?」
「どうでしょう。私もこれといって記憶には残っていませんが……あんな凄い子がいたらもっと早く気付いていると思いますけど」
何をやってるんだティファ―ナは。目立たないどこか注目の的じゃん。やり過ぎだよ。しかもどこまで進むんだよその波!
先頭を追い越しても未だ突き進むその波は、5㎞地点からなんとゴールである谷底のある崖まで行ってしまったではないか。
「しまった。急がなくては」
まさかの事態に試験管さんも慌ててゴールへと向かう。焦るよねこんなの。まさか過ぎるよ。ティファ―ナ達が着いた数秒後に何とか僕達も着くことが出来た。
「いやはや驚いた。まさかあそこから一気にゴールまで辿り着くとはね」
僕と試験管さん達は地面に降り立つ。すると試験管さんはクレイさん達に向かってそう言った。
「ジル!」
僕を見つけたティファ―ナは元気よくこちらに向かって来た。相変わらず可愛いな。だがそういう問題ではない。
「ジル!じゃないよ全く。何してるんだよ!」
「ジル君も来たんだね。まさかティファ―ナ君があんな凄い魔法を使うとは」
「だから何だんだよこの子は。しかも1人増えたぞ」
ゴーキンさんとディオルドさんはやはり訝しい表情で僕とティファ―ナを見ていた。
「何だ?君達知り合いなのか?」
会話する僕達を見て、試験管さんがそう聞いてきた。
やば。また話がややこしくなってしまうぞ。上手く誤魔化さないと。
「い、いえ。実はさっきの討伐試験も見学しようとしていたら、運悪く召喚獣と遭遇してしまって、助けてもらったんです」
「そうだったのか。というか君はいつから見学していたんだ?危ないから次はちゃんと騎士団に連絡を入れてくれよ」
「はい。ご迷惑をお掛けしてすいません。以後気をつけます」
僕は試験管さんに頭を下げ謝った。すると、フワッと僕の顔に風が当たった。
何だろうと頭を上げ横を確認すると、さっきまでそこにいた筈のティファ―ナが何故か急に走り出していた。
今度は何だ?
「旗は私が貰ったー!」
このタイミングで⁉
負けず嫌いと言うか真っ直ぐ過ぎると言うか、もう何て言っていいのか分からない。もう試験は誰がどう見てもクレイさん達のゴールで終わってる空気だぞ。その証拠に、ゴーキンさんもディオルドさんも全く動く気配ないし、勝負してたクレイさんだって……「――はい。僕の勝ち」
気付いた時には、クレイさんはティファ―ナよりも先に、赤い旗の所にいた―。
「え~⁉ 何で⁉」
「惜しかったね。もう少しだったけど」
ティファ―ナは勿論、その場にいた誰もが驚いた。いつ動き出したかも分からない。気付いたらそこにクレイさんがいたんだ。
「いつの間に……」
「全く見えなかったな」
試験管さん達も目を見開いて驚いている。
「ティファ―ナ君。勝負はとても楽しかった。少しは張り合いのある子に出会えていい“退屈しのぎ”になったよ。
でもね、君じゃまだ力不足なんだ。だからもう引っ込んでてくれる?」
次の瞬間、クレイさんがティファ―ナに手を向けると、突如凄まじい突風がティファ―ナを吹っ飛ばした。
「キャッ……⁉⁉」
「ティファ―ナ!」
「危ない!」
吹き飛んだティファ―ナを試験管の2人が受け止めた。
「何をしているんだ貴様!」
「大丈夫かティファ―ナ!」
今起きた事が信じられない。クレイさん、何故ティファ―ナを攻撃したんだ⁉
見た所大きな怪我はない。でも気を失ってる様だ。険しい顔つきになる試験官さんとは対照的に、ニヤリと笑うクレイさんのその雰囲気は今までと一変した。
「ハハハハハ。何をしているだって?可笑しなことを言うもんだ。このサバイバルにルールは無しと言ったのはアンタ達じゃないか!赤い旗を手にしたら合格だとな!よく見ろ。僕はまだ旗を“手にしていない”ぞ」
この状況もクレイさんの発言も理解出来ないのは僕だけじゃない。この場にいる皆が同じことを思っている。だが、不気味に笑いながら言うクレイさんからは微塵も冗談が感じられない。何を考えているか分からないが、言っている事はどうやら本気だ―。
「何を言ってるんだクレイ!この試験は俺達の勝ちだろ」
「俺達?何もしてない筋肉馬鹿が何を言っているんだい?まだ試験は終わっていないよ。僕達はまだ誰も旗を手にしていないんだから」
「いつまで訳分かんねぇ事言ってやがる!だったら俺が取ってもう終わらせてやらぁ!」
ガタイのいいゴーキンさんは、その見た目に反してかなり動きが速い。一瞬にしてクレイさんの元まで距離を詰めると、そのまま赤い旗目掛けて腕を伸ばした。
「これで試験は終わりだ!」
「――残念。まだ終わらせないよ」
「よ~し」
「お、何かやる気?」
「このまま一気に先頭に追い付こう!」
何かを思いついたティファ―ナは魔力を練り上げる。
「行くよ皆」
そう言うと、ティファ―ナの魔法によって突如地面から大量の海水が吹き上がった。
「「「――⁉」」」
上空まで吹き出た海水は、まるで生き物の如く上からティファ―ナ達目掛けて急降下すると、そのまま波乗りの様にティファ―ナ達を運んでいった―。
「いっけぇぇぇ!!」
「これは凄い!」
「何だよこの魔力……⁉」
その姿はまるで森を這う巨大な水の大蛇に見えた。激しく散る水飛沫。そのスピードは凄まじく、先頭に追い付くどころかそのまま一気にトップまで躍り出た。
「凄まじい魔法だ。あの子これまでの試験で目立った結果を出していたか?」
「どうでしょう。私もこれといって記憶には残っていませんが……あんな凄い子がいたらもっと早く気付いていると思いますけど」
何をやってるんだティファ―ナは。目立たないどこか注目の的じゃん。やり過ぎだよ。しかもどこまで進むんだよその波!
先頭を追い越しても未だ突き進むその波は、5㎞地点からなんとゴールである谷底のある崖まで行ってしまったではないか。
「しまった。急がなくては」
まさかの事態に試験管さんも慌ててゴールへと向かう。焦るよねこんなの。まさか過ぎるよ。ティファ―ナ達が着いた数秒後に何とか僕達も着くことが出来た。
「いやはや驚いた。まさかあそこから一気にゴールまで辿り着くとはね」
僕と試験管さん達は地面に降り立つ。すると試験管さんはクレイさん達に向かってそう言った。
「ジル!」
僕を見つけたティファ―ナは元気よくこちらに向かって来た。相変わらず可愛いな。だがそういう問題ではない。
「ジル!じゃないよ全く。何してるんだよ!」
「ジル君も来たんだね。まさかティファ―ナ君があんな凄い魔法を使うとは」
「だから何だんだよこの子は。しかも1人増えたぞ」
ゴーキンさんとディオルドさんはやはり訝しい表情で僕とティファ―ナを見ていた。
「何だ?君達知り合いなのか?」
会話する僕達を見て、試験管さんがそう聞いてきた。
やば。また話がややこしくなってしまうぞ。上手く誤魔化さないと。
「い、いえ。実はさっきの討伐試験も見学しようとしていたら、運悪く召喚獣と遭遇してしまって、助けてもらったんです」
「そうだったのか。というか君はいつから見学していたんだ?危ないから次はちゃんと騎士団に連絡を入れてくれよ」
「はい。ご迷惑をお掛けしてすいません。以後気をつけます」
僕は試験管さんに頭を下げ謝った。すると、フワッと僕の顔に風が当たった。
何だろうと頭を上げ横を確認すると、さっきまでそこにいた筈のティファ―ナが何故か急に走り出していた。
今度は何だ?
「旗は私が貰ったー!」
このタイミングで⁉
負けず嫌いと言うか真っ直ぐ過ぎると言うか、もう何て言っていいのか分からない。もう試験は誰がどう見てもクレイさん達のゴールで終わってる空気だぞ。その証拠に、ゴーキンさんもディオルドさんも全く動く気配ないし、勝負してたクレイさんだって……「――はい。僕の勝ち」
気付いた時には、クレイさんはティファ―ナよりも先に、赤い旗の所にいた―。
「え~⁉ 何で⁉」
「惜しかったね。もう少しだったけど」
ティファ―ナは勿論、その場にいた誰もが驚いた。いつ動き出したかも分からない。気付いたらそこにクレイさんがいたんだ。
「いつの間に……」
「全く見えなかったな」
試験管さん達も目を見開いて驚いている。
「ティファ―ナ君。勝負はとても楽しかった。少しは張り合いのある子に出会えていい“退屈しのぎ”になったよ。
でもね、君じゃまだ力不足なんだ。だからもう引っ込んでてくれる?」
次の瞬間、クレイさんがティファ―ナに手を向けると、突如凄まじい突風がティファ―ナを吹っ飛ばした。
「キャッ……⁉⁉」
「ティファ―ナ!」
「危ない!」
吹き飛んだティファ―ナを試験管の2人が受け止めた。
「何をしているんだ貴様!」
「大丈夫かティファ―ナ!」
今起きた事が信じられない。クレイさん、何故ティファ―ナを攻撃したんだ⁉
見た所大きな怪我はない。でも気を失ってる様だ。険しい顔つきになる試験官さんとは対照的に、ニヤリと笑うクレイさんのその雰囲気は今までと一変した。
「ハハハハハ。何をしているだって?可笑しなことを言うもんだ。このサバイバルにルールは無しと言ったのはアンタ達じゃないか!赤い旗を手にしたら合格だとな!よく見ろ。僕はまだ旗を“手にしていない”ぞ」
この状況もクレイさんの発言も理解出来ないのは僕だけじゃない。この場にいる皆が同じことを思っている。だが、不気味に笑いながら言うクレイさんからは微塵も冗談が感じられない。何を考えているか分からないが、言っている事はどうやら本気だ―。
「何を言ってるんだクレイ!この試験は俺達の勝ちだろ」
「俺達?何もしてない筋肉馬鹿が何を言っているんだい?まだ試験は終わっていないよ。僕達はまだ誰も旗を手にしていないんだから」
「いつまで訳分かんねぇ事言ってやがる!だったら俺が取ってもう終わらせてやらぁ!」
ガタイのいいゴーキンさんは、その見た目に反してかなり動きが速い。一瞬にしてクレイさんの元まで距離を詰めると、そのまま赤い旗目掛けて腕を伸ばした。
「これで試験は終わりだ!」
「――残念。まだ終わらせないよ」
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