上 下
14 / 70
第2章~試験と赤髪と海上ギルド~

12 騎士団入団試験

しおりを挟む
「――うわ!何だあれ⁉」

 思わずそう声が出た。だって、スライムぐらいしか出ない静かなこの森に、人が大勢いる! 数百人は優にいるぞ。しかも皆何かと戦っているっぽい。何のモンスターだアレは……見た事ないな。ってか、人もそのモンスターも凄い数入れ乱れてるなぁおい! なになに⁉ 何が起こってるのコレは。

「うわ~盛り上がってるね!楽しそう!お祭りかな?」

 絶対にそれは違うよティファ―ナ!

 逆にコレを見てよくその発想が出て来たな。何か分からないけど、コレはそんなお祝いとか和やかな祭りの雰囲気じゃなくて、もっと禍々しい生気に満ちた決闘の様な雰囲気を感じるぞ。

「うらぁぁ!!」
「狩って狩って狩りまくれ!」
「そっちにも行ったぞ!」
「遅れをとるな!」
「まとめて倒せ!」

 こんな森の奥で何をやっているんだこの人達は。さっきの男の人達もそうだったけど、皆やっぱり剣や武器を持っているな。

それにあっちにいる2人、あの人達だけは動いていないし、1人は何か魔法を出してる? ひょっとしてアレは召喚魔法か?って事は、この見た事ないモンスターはあの人の召喚獣だ。

「やべぇ出遅れた」
「大丈夫!こういう時こそ冷静に行こう」
「何甘ったれた事言ってんだ。さっさと倒すぞ」

 さっきの3人組の人達だ。あの人達もやっぱりコレの参加者?なのかな。

「戦えない奴が“騎士団”など笑わせる」
「テメェ目ん玉付いてんのか?十分戦ってるだろうがよ」
「だからこんな時に揉めるなって!」

 騎士団……?
 そっか。ひょっとしてコレ、騎士団の“入団試験”なのか?

 だとすれば色々辻褄が合うぞ。皆が武器を持っているのも、こんな森の奥で戦っているのも全部。

あそこで動いていないのは現役の騎士団員だ。この入団試験の担当者だから何も動いていないんだ。大量にいるモンスターも騎士団員の人が試験用に出していたのか。納得だ。

 じゃあこの3人組の人達も騎士団への入団希望者達か。何故さっきから険悪なムードかは分からないけど、さっきからの話を察するに、皆今だけそれそれグループ分けでもされているのかな。それであのモンスターを多く討伐する為に、遅れをとるなとか他の人よりも早く倒そうとしているんだきっと。

 仲裁に入ってる男の人が言う様に、今は喧嘩なんかしてる場合じゃないと僕も思うよ。余計なお世話だけど、少し心配になっちゃう。

 だけど入団試験を行っていると分かった以上、僕達も撤退だ。危なすぎる。こんなのいつ巻き込まれても可笑しくないからね。

「ティファ―ナ!危ないから僕達はもう行こう」
「えー。何か凄い盛り上がってるのに」
「これは騎士団の入団試験だよきっと。僕達がいたら邪魔になって迷惑だよ」
「そっか~残念。私も参加したいな……してもいいかな?あのモンスター私も倒せるよ!」
「ダメだってば!帰るよもう」

 好奇心旺盛過ぎて困るなホントに。

 自分も参加しようなんて何ともまぁアグレッシブな性格だ。今更だけどね。兎に角、皆の邪魔にならない様に帰らなく……「ジル危ない!」

 ――え?
 僕が振り向くと、そこにはこれまた獰猛そうな召喚獣がいましたとさ。

 めでたしめでたし。

『グゥゥゥッ!』

 ……とはいかないだろッ!! 何がめでたしめでたしだッ!! 滅茶苦茶僕の事睨んで威嚇してるじゃん!どーすんのもう!

「ジルから離れなさい!」

 ティファ―ナが魔力を練り上げ、攻撃魔法を繰り出そうとしている。

 ありがとうティファ―ナ。早く助けて下さい。急な事に僕は腰を抜かして動けません。情けない話です。

 ――ボゴォン!!!
「まず1匹……」

 僕の目の前にいる召喚獣を倒したのはティファ―ナ……ではなく、3人組の中の1人の男の人だった。

「あ、ありがとうございます」
「大丈夫か?お前入団希望者じゃないよな。こんな所にいると危ねぇぞ」

 鋭い眼光。だが、どこか優しくもあり強さも感じられる、安心感のある目つき。目にかかるぐらいの髪の長さに深紅の赤髪を靡かせながら、その人は僕に言った。

 手には召喚獣を倒したと思われる剣が握られている。よく見ると、その剣は鞘に収まったままだった。

「おい!急にどこ行くんだよお前!やる気あんのか?」

 3人組の1人。先程からこの赤髪の人と揉めていた人が僕達の方に向かって言った。かなりガタイが良い。それに加え、無造作に伸びた髪と髭が一層ワイルドさを醸し出している。

「もういい加減にしろ!今はそんな事よりも試験に集中するんだ!このままだと3人共受からないぞ!」

 止めに入ったのは3人組の最後の1人。黒髪に爽やかな顔が印象的な人。誰にでも受けそうな和やかな雰囲気で如何にも誠実そうだ。

 こんな状況にも関わらず他の人の喧嘩を止め、まとめようとしている。周りから頼りにされそうな彼は、リーダーに向いているタイプだと思う。

「ああ。お前より遥かにな」
「いちいち癇に障る野郎だな」
「俺に突っかかる暇がるならさっさと倒せよデカブツ」
「あ"ぁ?どこまで舐めてんだこのガキ!召喚獣の前にテメェを葬ってやらぁ‼」

 一触即発。試験を無視して、赤髪の人とワイルドな人は今にもやり合いそうだ。

「――何度言えば分かるんだ」

 ゾゾッ……!!

「「――⁉」」

 え、何だこの背筋が凍るような冷たい空気は……。この人、雰囲気が明らかに一変したぞ。威勢の良かったワイルドな人も急に大人しくなってる。

「“ディオルド”、“ゴーキン”。僕も別に仲良しごっこをしろとは言っている訳じゃない。この組み合わせも今だけだ。これはあらゆる事態を想定し、柔軟に対応出来るかどうかというただのテスト。
ただ召喚獣を多く倒すだけならスリーマンセルを組ます意味がない。少しは冷静に考えたらどうだ」

 やっぱりこの人は自然と人をまとめる事が出来る人なんだな。ディオルドとゴーキンと呼ばれた2人も落ち着いたみたいだし。

「確かにそうだな。すまなかった“クレイ”」
「分かってくれたならいい。ディオルドもいいよな?」
「……ああ」
「よし。そうと決まれば僕達も早く倒しまくろう!大分出遅れたぞ」
「おいおい!今さっきスリーマンセルがどうとかうんちく垂れたくせに結局数かよ」
「スリーマンセルを組ませたのは、きっと連携や協調性といった部分も見る為だろう。しかし、召喚獣を倒しまくって試験に落ちる事は絶対に無い。
もっとシンプルに言うなら、どんな勝負でも負けたくない!僕が1番多く倒す!」
「なッ⁉ 何て勝手な奴だ!しかもホントに行っちまった……クソッ!俺も負けてられねぇ!」

 黒髪の爽やかな人はどうやらクレイと言う名前らしい。そしてガタイのいいワイルドな人がゴーキンで、赤髪の人がディオルド。

 よく分からないけど、何か話はまとまったみたいだから僕達もこの場を離れよう。

「ティファ―ナ行くよ!」
「OK!」
しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい。

みみっく
ファンタジー
女神様の手違いで通勤途中に気を失い、気が付くと見知らぬ場所だった。目の前には知らない少女が居て、彼女が言うには・・・手違いで俺は死んでしまったらしい。手違いなので新たな世界に転生をさせてくれると言うがモンスターが居る世界だと言うので、バリアとアイテム生成スキルと無限収納を付けてもらえる事になった。幸せに暮らすために行動をしてみる・・・

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

神に異世界へ転生させられたので……自由に生きていく

霜月 祈叶 (霜月藍)
ファンタジー
小説漫画アニメではお馴染みの神の失敗で死んだ。 だから異世界で自由に生きていこうと決めた鈴村茉莉。 どう足掻いても異世界のせいかテンプレ発生。ゴブリン、オーク……盗賊。 でも目立ちたくない。目指せフリーダムライフ!

処理中です...