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第2章~試験と赤髪と海上ギルド~

11 スライム討伐デート

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~冒険者ギルド~

「……どれにしようかな?」

 着くや否や、ティファ―ナはクエストを探そうとカウンターに設置されたシステム画面を操作し、ポチポチとクエストを見始めた。

 若干低めのカウンターに肘を付いているティファ―ナは、同時に、自然とお尻を突き出す形になっている。

 触ってみたい―。

 服の上からでも分かる、弾力のありそうな魅惑のヒップ。無意識に、彼女のそのお尻へと右手が引き寄せられていったが、間一髪の所で理性を保った僕の左手が僕の右手を止めた。

 待て待て。そもそも僕達は今どういう関係なんだ?
 婚約は結婚は先延ばしになったけど、お互いに好感を持っているし、将来を見据えた関係も築いている。そしてこの後デートも行くよな。

 それでもお触りはダメなのだろうか……?

「ダメよ!」
「わっ⁉ ど、どうしたの……⁉」

 画面を見ていた筈のティファ―ナがいつの間にか僕の目の前に。しかも珍しく何か怒っている。もしかして今の僕の心の声が漏れていたか?

「ダメなのよ。何かギルドのシステムがエラーになったみたいで、クエストが探せなくなっちゃったの」
「え?そうなの?」

 辺りを見渡すと、受け付けの人達が慌ただしく動いていた。

「申し訳ありません!システムの不具合で一時クエストの処理が出来ませんので、少しだけお待ちください!」

 システムの不具合じゃ仕方ない。大変そうだな。

「しょうがないね。じゃあご飯でも食べに行こうよ」

 何気なく言ってから気付いたけど、一緒に食べに行くってこれがもうデート?そうなるの?

「何言ってるの?」

 …………君がね。

「ご飯はまだ後よ。先にクエスト終わらせないと」
「クエストって……システムが不具合だから出来ないよ」
「大丈夫!何かシステムが止まる直前に、画面がフリーズしたから適当にボタン押しまくってたら1つだけ受注出来てたの!」
「マジで?」

 そんなこんなで、デートではなくて少し残念だが、僕達は久しぶりに2人でクエストを受けることになった。

 ティファ―ナが適当に受注したクエストは討伐だった。
 Eランククエストでしかも最下級モンスター『スライム』の討伐。場所も直ぐ近くにある森だ。

 僅か200Gのクエストだが、散歩のついでには丁度いい。目まぐるしい数日だったから今日はのんびり行こう。
2人で一緒に出掛けるのだから、広い視野で見ればスライム討伐もデートみたいなものだ。

 ♢♦♢

~近くの森~

「いい気持ち~」
「そうだね」

 晴れやかな空。木漏れ日が差し込み、どこからか小鳥のさえずりも聞こえてくる。平和だ。時間の流れがとても緩やかに感じられる。

「やっぱり陸歩くのって新鮮。今までは直ぐ疲れちゃってたから」
「僕達が泳いで疲れるのと似た感じなのかな?」
「どうだろう。私はそれが分からないからね。フフフ」

 そう言ってにっこり微笑むティファ―ナ。

 ああ~。なんて素敵な日だ。これが幸せというものか。リヴァイアサンに食べられそうになった日がもう遠い昔の様だ。こんな時間が永遠に続いたらどれだけ幸せなんッ――「出た!スライム!」

 ティファ―ナが前方を指差した。僕の幸せな時間を邪魔しないでくれよスライム。

「スライムを倒せばクエストクリアね」

 ティファ―ナは魔力を練り上げる。スライム相手でそこまでやる気出さなくても……って、えぇぇぇ⁉ 何してんの! 僕は目を疑った。

「ティファ―ナ!スライム相手に何でそんな魔力を高めてるんだよ!」
「大丈夫。これでも十分抑えてるから!」

 へ?
 答えになってないよ。多分君は気付いていないけどね。
 魔力を抑えてって、余裕で中級魔法以上の魔力だと思うけど!それ放つ気⁉ スライム1匹に⁉

「ちょっとティファ……「“海水の珠ラメール”!」

 ――シュバンッ!
 ティファ―ナから放たれた手のひらサイズの水の弾。
 勢いよく飛んでいったその弾は見事スライムに命中し、衝突したスライムと水の弾は一瞬で地面に散った。

 もうどこからがスライムでどこからが水か判別不可。次第にやられたスライムも消滅し、水も地面へと吸われていった。

「これでクエストは終わり!後は予定通りデートしましょ」
「うん。そうしようか。でもね、もう少し力を抑えよう」
「やっぱり?あれでもかなり抑えたんだけどな……」

 未だに僕の与えた魔力が何故これほどまでに効果を発揮しているのか分からない。
 ティファ―ナがクエストをこなしている間、ギルドにいた他の冒険者数人に試してみたが、結果はいつも通りだった。下級魔法が撃てるか撃てないか程度の魔力。ティファ―ナの時の様に、大量の魔力を出そうと思っても全然出ない。

 ……………ッ………!!

「ねぇ、何か遠くから声が聞こえない?」
「声?」

 ティファ―ナが徐にそう言い出し、手を耳に当てながら音を確認しようとしている。僕もそれに釣られ静かに耳を澄ませた。

 ………ハ…………ッ…!!

「ホントだ。確かに森の奥の方から聞こえる。しかも1人じゃなさそうだ」
「でしょ。こんな所で何してるんだろう?行ってみようよ!」
「行くの?僕達みたいにクエストとか散歩じゃないかなきっと」
「ううん。それにしては聞こえる“人数が多い”と思う。気になるから行こう」

 ティファ―ナの勢いに押され、僕達は声のする森の奥へと向かってみた。

 ♢♦♢


「――僕達も行こうか」
「急ごう。この“試験”はシンプルに実力だ。他の奴に先越されちまう」
「別に大丈夫だろ」
「“戦えない”お前が言うんじゃねぇ」
「あぁ?」
「やめろよ2人共!」

 暫く歩くと、僕とティファ―ナは奥から歩いてくる3人組の男の人達を見つけた。会話をしながら歩いている。やっぱりクエストか何かかな? 皆腰や背中に“剣”を提げているし。

「あれ?3人だけ?もっと声がした筈だけどな」

 ティファ―ナが言った事は当たっていた。突如、前を歩く3人組とは別に、奥の方から声が響いてきた。

「――出たぞぉぉ!」
「確実に仕留めるんだ!」

 何だか騒々しいな。しかも出たって、何が出たんだよ……ん?
 3人組の男の人達も急に森の奥へと走って行ったぞ。

「行くよジル!」

 何の躊躇も無く決断する君の姿は格好いいよ。僕とは大違いだ。
 またもティファ―ナの勢いに押され、男の人達に続く様に僕達も更に奥へと向かって走った。

 ここまで来たら流石に少し気になるしね。何が起こっているのか。
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