マイペースな最強禁術使い~命より大事な本を燃やされたので、記憶喪失の妖精少女とのんびり復讐旅に出る~

きょろ

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第17話 証拠不足

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 異端者狩りを一人ずつ結界から引きずり出す。

「はい、次」とアッシュ。

 収納魔法から取り出した墨と筆で、異端者狩りの額に鳥の足跡マークを描く。背中を蹴り飛ばし、歩かせる。異端者狩りは糸が切れた人形の如く、その場に倒れ込んで意識を失った。

「はいはい、次の方」

 鉤杖をくるりと回して異端者狩りの首に引っ掛け、結界から引きずり出しては、先程と同じ処理を施す。流れ作業。
 中には反撃の機会を狙っている異端者狩りもいたが、作業を続けるアッシュの真横には、攻城魔法でお手玉をする危ない少女ヴェロニカ。誰も迂闊に手が出せない。

「それにしても、いろいろと面倒なことになっておるねぇ」
「それな」

 異端者狩り達に口を割らせた結果、いくつかの情報が手に入った。

「まさか、貴様が禁書庫番だったと――ぐえっ」
「黙ってような」

 口を挟んできた異端者狩りの首を、鉤杖の角度を変えて巧みに締め上げるアッシュ。
 なんとこの異端者狩り達は、アッシュとヴェロニカを禁書庫の関係者として襲った訳ではなかった。
 アッシュが町で商業ギルドに提出した、あの調査書を見た教会関係者が指示したものらしい。

「そんなに教会や魔物の異変を知られたくないんだな」とアッシュ。

「これはいわゆる暗殺じゃろう?」とヴェロニカが零す。

「冒険者としてこれからも活動して良いものか、これは悩みどころだねぇ」
「コイツらを送り返して、俺達が大人しくしていれば大丈夫だろ。敵対しないって意思表示になるしな」
「敵対せんのか?」
「今は、な。それにまた襲いに来られても、それはそれで構わん。こうして情報提供してくれればな。キャッチ&リリースの精神だ。経験豊富な奴をどんどん送ってもらえれば寧ろ嬉しい。敵はただの冒険者だと思って舐めてるみたいだし」

 ニヤり、と悪い笑みを浮かべるアッシュ。最後の異端者狩りに魔法を施し、徐に収納魔法から水筒を取り出した。

「今度は何をする気だい?」

 ヴェロニカが眉を顰めた。

「このままだと額のマークで魔法を使ったのがバレる。消しておくんだよ」

 アッシュは異端者狩りの額に書いたマークを、濡らした布で拭き取る。

「後始末が面倒な魔法じゃな」
「因みにこれは頭の高さを保ったまま三歩後ろに下がると記憶が戻るが、まぁそんな動きをする機会はなかなかないと思う」
「完璧に消す訳ではないんだねぇ」

 後始末を終えたアッシュは、ヴェロニカと共に異端者狩り達から離れた。ヴェロニカが背後を振り返り、アッシュの服を摘まむ。

「のう、この森は魔物が大量発生しておる。意識のない連中を放置して良いのか?」
「別にいいんじゃないか? 全滅するまで意識が戻らないってこともないだろう」

 そもそも自分を襲ってきた相手の安否なんてどうでもいい、とアッシュは我関せず。

「とりあえず情報を整理しよう。まず、俺達はこの森の異変に廃教会が絡んでいると気付いたから、暗殺されかけた」
「町のリッパー教会から派遣された、と言うておったな。報告書の削除要請は教会からのものだと確定したの」
「町ぐるみで隠蔽している訳じゃない、あくまでも教会。もっと言えばリッパー教会の独断だな」

 町中で襲われなかったのも、教会の単独犯だからだろう。
 リッパー教会は廃教会絡みで何かを隠しているとみて質問もしたが、異端者狩り達は詳しい事情を知らなかった。対象を殺すのが仕事なのだから、殺す理由は教える意味がないとの判断だろう。口を割らされる可能性も考えれば、デメリットしかない。

 ヴェロニカが木に擬態していた魔物を魔法で狙撃する。魔物だけでなく、周辺の草木が吹き飛んだが、許容範囲だろう。

「リッパー教会は何を隠しておるのじゃろうな」と首を傾げるヴェロニカ。

 魔物の死骸の横を素通りする。
 アッシュは周囲を警戒しながら、口を開いた。

「廃教会を中心に魔物が増え、強力になっているこの状況を隠しておきたいリッパー教会。さて、質問だ。魔物が増えるとどうなる?」
「ふむ、氾濫が起こるのじゃ」
「起こるとどうなる」
「村や町が滅ぶ」
「つまり、怪我人が増えるな」
「何が言いたいんだい?」
「リッパー教会の権能魔法は治癒効果だ」
「衆目のあるところで口にすると袋叩きにされるの」
「そうだな。商業ギルドでさえ、口を噤むように冒険者へ要請しないといけないくらいにな」

 リッパー教会が意図的に魔物を増やし、怪我人を増やし、自らの権能魔法で商売を行っている。そんな悪徳商法の可能性を示唆するアッシュだったが、如何せん、状況証拠しかない。

「だが八十年前に起きた魔物の大氾濫で、快癒の神リッパーの教会が大きく成長したのは確かだ。バヤジット王国内にも、リッパー派なんて呼ばれる貴族の一派がある」

「きな臭い話だねぇ、これをどう証明するつもりだい?」

「そこだよ問題は」とアッシュ。

「あれこれと考えを巡らせてはいる。だが、廃教会と魔物については関係が見えない。廃教会が魔力の溜まり場になっているのも不思議だ。本来、教会は魔物に襲われない場所に建てるから、魔力の溜まりに場なったのは教会が建った後だと思う」

 まだ情報が不足している、とアッシュは見落としがないかを振り返る。すると、考え込んでいたヴェロニカがポツリと呟いた。

「ガランドウワームの紋章」
「何者かに破壊されていたやつ、か」
「それに神の在処──じゃな」

 禁書庫を燃やした異端者狩りが口にしていた単語が、僅かに廃教会と繋がった。アッシュがまた考え込んだ。

「神の在処を知っているか、だな。知らないが」

 アッシュがぼやいた。

「我は知っている」とヴェロニカ。

「何?」

「気がするんだがの」とヴェロニカが続けた。

 途端にあやふやになったヴェロニカの言葉に、アッシュは大げさに脱力した。
 ヴェロニカが誤魔化すように笑う。

「アッシュに問うくらいなのじゃから、本にまつわる何かじゃろうて」
「確かに妥当な推察だが、それだけでは何も分からないのと一緒だ。聖典の類だと題名も分からないモノもあるからな」
「アッシュにも知らない本があるんだねぇ」
「だから人生は楽しい」
「意見の分かれどころじゃの」

 推理なのか、考察なのか、相談なのか、世間話か。
 話しながらも二人は道中の魔物をサクサク処理して進む。それは草むしりにも似た大雑把な作業。雑にまみれる虐殺風景だ。

 鎧袖一触に蹴散らしていく二人だったが、異端者狩りの尋問で時間を取られた為か、他の冒険者との合流地点である廃教会に着いたのは最後だった。


「お、帰ってきたな」
「遅いから探しに行こうかって話していたところだ、怪我はないか?」

 心配してくる冒険者達にアッシュは両手を挙げて、そしてヴェロニカはくるりと一回転をした。怪我がないことの証明だ。

「死者はなし、上等だ。町に引き上げるぞお前ら」と副ギルド長。

 作戦の終了を告げ、冒険者達はぞろぞろと帰路に着いた。
 最後尾を歩くアッシュとヴェロニカ。森を出た直後に、医療団からジロりと睨まれた。

「わお、おっかないねぇ」

 猿芝居のアッシュが言う。

「声が笑っとるぞ」

 ヴェロニカが脇腹に肘打ちをし、アッシュは笑いを嚙み殺した。
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