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47 祖の王国と獣王モロウ

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♢♦♢

~最果ての地・祖の王国~

 大陸の最も端に存在する祖の王国。
 数百年前のリューティス王国との戦争により、彼らは王都と真逆である大陸の端にまで追いやられてしまった。

 勿論リューティス王国の民が獣人族を、祖の王国を大陸の最果てまでと追いやってしまったのだが、その後の数百年でも両国の関係は1度も良好な時を迎える事無かったらしく、それどころか獣人族達もまた人間との関係を断絶すると言わんばかりに一切の部外者を受け入れない鎖国状態と化したそうだ。

 その証拠に、俺達では到底図り知る事の出来ない、両国の根深い歴史の闇が1つの形として現れている――。

「あそこが祖の王国か」

 ユリマから渡された魔法陣の効果によって、俺達はたった今祖の王国の目の前まで転移した。

 眼前には地平線まで続く海が広がり、その先にポツンと島が1つ浮かび草木が豊かに生い茂っている。俺達のいる大陸からその島までは500m以上はあるという長い長い岩の橋が架かっており、言うまでも無くあの島が俺達の目的である祖の王国だ。

 全く歴史を知らなければ、ただの珍しい地形だと思うだけだろう。しかし、ユリマとハクから両国の歴史を聞いた俺にはこれが“人間とは関わらない”という獣人族からの強いメッセージに受け取れた。

 ここに立っているだけで全てを拒絶されている。
 そんな風にさえ感じてしまう程であった。

「私も王都からここまで離れた所に来た事ないし、勿論祖の王国をこの目で見るのも初めてだけど、地図に載っている大陸はこんな形していなかった様な……。それに最果ての地に島なんてあったかな?」

 何か疑問を抱いたのかエミリアが何気なく口から漏らすと、少し前から若干元気の無い様に伺えるハクがエミリアに話し掛けた。

「エミリアが知らないのも無理はないわ。祖の王国が浮かんでいるあの島は、元々私達が今いるこの大地と繋がっていた“同じ大陸”なの」
「「……!?」」
「数百年前の戦争から、獣人族は酷く人間に恨みを抱くようになってしまったわ。彼らはこの大陸の端まで追いやられて尚、自ら達も人間を受け入れないと大地を砕き破壊してしまった。

この1本の岩の橋が唯一大陸と繋がる道……。
本当はこの橋でさえも不必要だと当時戦争を経験していた獣人族の幹部達が抗議したけれど、祖の王国の長である“獣王モロウ”がそれを認めなかった。

だけどモロウも当然人間達を恨んでいたわ。
禁忌に触れたリューティス王国の民達を、そして仲間の獣人族達を傷つけた人間達をね。
でも彼は、この憎しみからは何も生まれないと、人間と獣人族がまた共に共存出来る未来を信じ、望みを託す1つの形としてこの橋を残したのよ――」

 リューティス王国が禁忌の召喚をしてしまったせいで、リューティス王国の民だけでなく全ての人間と獣人族が相容れない関係となってしまった。この話は何度聞いても心が重くなる。こんな事は誰も望んでいなかった筈だ。

「こんな感じで本当に大丈夫なのか? ハクの力を取り戻す為にここまで来たけど、何となくお前1人で行った方がトラブル無く済みそうな気がするけど」
「確かにそうね。でもモロウを始めとして、他にも多くの獣人族がまた人間と仲良く暮らせる事を望んでいるの。
グリム達からすれば関係ない事なのかもしれないけど、世界の未来を救う事は勿論、人間と獣人族がまた共に暮らせる様になるきっかけを生み出せるのも、人間と獣人族の架け橋となれるのもまた貴方達なのよグリム」

 ハクはそう言いながら、そっと俺を見つめてきた。

「そっか……。やっぱ思っていた以上に大変そうだな、俺達が託された運命とやらは」
「運命など関係ないぞグリム。全ては深淵神アビスという強者を倒せばいいだけだからな」
「いや、お前話聞いてたかフーリン。それ以外にもあるんだよ色々」
「確かに私達がこれからやらなくちゃいけない事は困難ばかりかもしれないけど、それでもハクちゃん達が託してくれた期待に私は答えたい!」

 思い方はそれぞれだけど、結果エミリアもフーリンも変わらずやる気みたいだ。

「分かってるよ。なんか俺が急に空気読めない事言い出したみたいじゃないか。俺だって初めから気持ちは変わってないぞ。ただ余計なトラブルは起きない方がいいだろ」
「ハハハ、ありがとう皆。やっぱり貴方達に託して正解だったわ」
「礼を言うのはまだ早過ぎるぞハク。感謝の言葉は全てが終わった時に受け取るよ。何はともあれ、先ずは目の前の祖の王国だ。
どうなるかまるで分からないけど、人間と獣人族がまた共存出来る未来を俺達で開こう」

 覚悟を決めた俺達は祖の王国へ入るべく、目の前の長い岩の橋へと足を踏み出した。









「面白い。ならば其方達の力で新たな時代を築いてみせよ“人間”――」
「「……ッ!?」」

 橋へと1歩踏み出した次の瞬間、微塵の気配も感じさせることなく突如俺達の目の前に“大型の獣”が現れた。

 獣は全長が優に5mを超えており、綺麗な白色の体毛を靡かせながら全身を屈強な筋肉で纏い、筋骨隆々の肉体が更にその存在感を増していた。

 しかも聞き間違いでなければ今喋ったのはコイツ。パッと見の顔立ちや二足歩行で立ち聳える姿はどことなく人間味を感じさせているが、頭から生えている耳や背にある尾はまさに獣そのものであった。

 そう。

 俺達の目の前に突如として現れたこの獣こそが獣人族。

 そして……。

「久しぶりね。“モロウ”――」
「お待ちしておりました。シシガミ様」

 当たり前の様にハクと言葉を交わしたコイツこそが、俺達が今まさに向かおうとしていた祖の王国に住む獣人族の1人であり、この祖の王国を統べるトップの存在。

 “獣王モロウ”であった――。
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