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24 ラドット渓谷に夜叉がいる
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~関所~
「どうぞ、お進み下さい――」
騎士団員がそう言い、俺達が乗った馬車はいとも簡単に関所を突破した。
「おいおい、マジかよ」
「凄い」
「フフフ。これで少しは信用頂けたでしょうかね」
ユリマと名乗った女性のお陰で、本当に関所を抜ける事が出来た。しかも他の人達は念入りにチェックされているにも関わらずユリマさんだけはほぼ顔パス。荷物も調べなければ同乗している俺達の事も一切確かめてこなかった。
俺は改めて王家という力の大きさを思い知った。それと同時に、権力というものの恐ろしさも改めて体感してしまった。
「何はともあれ、本当に関所は通してもらいました。なのでこちらも約束通りノーバディの討伐依頼を受けさせてもらいます」
「そうですか。一先ずお礼を申し上げたい所ですが、これまでにも関所を通れない冒険者を同じように同乗させ、その大半がフィンスターに着くまでに逃走しています。
なのでお礼はフィンスターに無事着く事が出来たらまた言わせて頂きますね」
「確かに。正直その選択をする人は多いかと思いますよ。俺が言うのも変ですけど、元々関所を通れない訳アリって事ですからね。まともに口約束だけを守るとは思えない」
「フフフ。貴方達は大丈夫でしょう。それに何度も言いますが、私は王家の者でありますから“それなりの力”を持っています故、約束を破った方々には相応の対応を取らせて頂いています――」
そう語るユリマさんの笑みが一瞬怖く見えた。これは冗談では済まないらしい。まぁ元々約束破るつもりなんてないけどな。関所を抜けられた上に王都の直ぐ側まで行けるんだから。
「そう言えばユリマさん。ここから馬車だとフィンスターまでどれぐらい掛かりますか?」
「そうですね、ここからフィンスターまでの道のりで1番険しいのが“ラドット渓谷”。それさえ越してしまえば数時間で着きますから、約2日程でしょうかね」
2日か。やはり馬車ともなると歩くより早いな。正直俺1人ならもっと早く動けるが、流石にハクとエミリアを抱えては無謀だ。
「へぇ~、ラドット渓谷か。あそこって凄い長く渓谷が続いていて、200m近い断崖になってるんですよね?」
「エミリアさんお詳しいですね。ラドット渓谷はリューティス王国だけでなく、世界から見ても有名な渓谷です。その理由はエミリアさんの申し上げた通り、とても高い断崖が50㎞以上も続いている珍しくて綺麗な渓谷だからなのです」
「そうなんだ。俺行った事ないな」
「私も1回しか行った事ないけど、凄い迫力だった。もう岩、岩、岩って感じ」
エミリアなりに必死に伝え様としてくれたが、悪いけどさっぱり分からない。そして、エミリアは続けてちょっと気になる事を口にした。
「それにラドット渓谷って、確か昔から魔力に近いエネルギーみたいなものが大地から溢れているって言われてるらしいよ。お父さんが前に少しそんな話をしていた記憶があるの」
「へぇ……。俺は本当に何も知らないな」
「フフフ。グリムさんが知らなくても可笑しくありませんよ。エミリアさんが普通の方よりお詳しいのです。
ラドット渓谷は大昔から“古のモンスター”が眠りについていて、そのモンスターの魔力が溢れ出ていると語り継がれているのですよ」
俺が知らなくても普通だと言ってくれたが、どうやらユリマさんもかなり知識があるらしい。エミリアとユリマさんの会話が普通に成り立ちすぎていて、やはり俺が無知だと痛感させられる。
そんな事を思いながら2人の話を聞いていると、話題が少し変わった。
「ここ数年の話しですが、ラドット渓谷には“夜叉”がいるとも噂されていますがご存じですか?」
「あ、それ私も聞いた事があります。ラドット渓谷には夜叉の様な鬼の様な人外がいると」
「なんだそれ。モンスターとかノーバディとはまた違うのか?」
「私も詳しくは分からないんだよね」
俺が森にいる間に外は物騒になっているものだ。なんだよ夜叉って。
「ラドット渓谷を通った方々がこの夜叉とやらに襲われたと、何軒も被害が出ているのです。何でもその夜叉は人の様な姿をしており、背に一杯の荷物を背負いながら手には武器を持っているとか」
「なんだソイツ。そんな被害が出てるのに騎士団は何もしていないのか」
「そうですね。ノーバディが出てからはもうその対応で手一杯ですから。一応ラドット渓谷にも新たに関所が完備される様になり、通るには特別な通行証やそれなりの実力を証明出来る冒険者でしか通れない様になっております。
もうその関所が見えてきましたよ――」
ユリマさんがそう言うと、馬車の窓から大きな岩が聳え立つラドット渓谷と関所が確認出来た。
「デカいなぁ」
「ね! 凄い迫力でしょ!」
エミリアが俺に伝えようとしていた事が今やっと分かった。確かにデカい岩がずっと続いている。断崖もほぼ垂直の角度だ。窓から岩を見上げていると、関所の騎士団員に止められた。
「――ご苦労様です。失礼ですが、ここを通るには通行証が必要となります」
「コレで宜しいでしょうか」
「コレは……! 王家の御方でしたか。失礼致しました」
「いえいえ。ご苦労様です」
「ありがとうございます。ですが……王家の御方に無礼かと思いますが、ラドット渓谷はご覧の通り夜叉やら鬼と呼ばれる存在のせいで規制を掛けている状況でして、確かに通行証は確認させて頂きましたが……大丈夫でしょうか? 万が一が起こる可能性も十分にありますので」
「親切にご心配して頂きありがとうございます騎士団員さん。ですが安心なさって下さい。実力ある冒険者を雇っておりますので」
そう言いながらユリマさんは俺達を見た。そして騎士団員もユリマさんの言葉に全く疑う余地もなく、関所を取った俺達はラドット渓谷へと入り込んだ――。
「どうぞ、お進み下さい――」
騎士団員がそう言い、俺達が乗った馬車はいとも簡単に関所を突破した。
「おいおい、マジかよ」
「凄い」
「フフフ。これで少しは信用頂けたでしょうかね」
ユリマと名乗った女性のお陰で、本当に関所を抜ける事が出来た。しかも他の人達は念入りにチェックされているにも関わらずユリマさんだけはほぼ顔パス。荷物も調べなければ同乗している俺達の事も一切確かめてこなかった。
俺は改めて王家という力の大きさを思い知った。それと同時に、権力というものの恐ろしさも改めて体感してしまった。
「何はともあれ、本当に関所は通してもらいました。なのでこちらも約束通りノーバディの討伐依頼を受けさせてもらいます」
「そうですか。一先ずお礼を申し上げたい所ですが、これまでにも関所を通れない冒険者を同じように同乗させ、その大半がフィンスターに着くまでに逃走しています。
なのでお礼はフィンスターに無事着く事が出来たらまた言わせて頂きますね」
「確かに。正直その選択をする人は多いかと思いますよ。俺が言うのも変ですけど、元々関所を通れない訳アリって事ですからね。まともに口約束だけを守るとは思えない」
「フフフ。貴方達は大丈夫でしょう。それに何度も言いますが、私は王家の者でありますから“それなりの力”を持っています故、約束を破った方々には相応の対応を取らせて頂いています――」
そう語るユリマさんの笑みが一瞬怖く見えた。これは冗談では済まないらしい。まぁ元々約束破るつもりなんてないけどな。関所を抜けられた上に王都の直ぐ側まで行けるんだから。
「そう言えばユリマさん。ここから馬車だとフィンスターまでどれぐらい掛かりますか?」
「そうですね、ここからフィンスターまでの道のりで1番険しいのが“ラドット渓谷”。それさえ越してしまえば数時間で着きますから、約2日程でしょうかね」
2日か。やはり馬車ともなると歩くより早いな。正直俺1人ならもっと早く動けるが、流石にハクとエミリアを抱えては無謀だ。
「へぇ~、ラドット渓谷か。あそこって凄い長く渓谷が続いていて、200m近い断崖になってるんですよね?」
「エミリアさんお詳しいですね。ラドット渓谷はリューティス王国だけでなく、世界から見ても有名な渓谷です。その理由はエミリアさんの申し上げた通り、とても高い断崖が50㎞以上も続いている珍しくて綺麗な渓谷だからなのです」
「そうなんだ。俺行った事ないな」
「私も1回しか行った事ないけど、凄い迫力だった。もう岩、岩、岩って感じ」
エミリアなりに必死に伝え様としてくれたが、悪いけどさっぱり分からない。そして、エミリアは続けてちょっと気になる事を口にした。
「それにラドット渓谷って、確か昔から魔力に近いエネルギーみたいなものが大地から溢れているって言われてるらしいよ。お父さんが前に少しそんな話をしていた記憶があるの」
「へぇ……。俺は本当に何も知らないな」
「フフフ。グリムさんが知らなくても可笑しくありませんよ。エミリアさんが普通の方よりお詳しいのです。
ラドット渓谷は大昔から“古のモンスター”が眠りについていて、そのモンスターの魔力が溢れ出ていると語り継がれているのですよ」
俺が知らなくても普通だと言ってくれたが、どうやらユリマさんもかなり知識があるらしい。エミリアとユリマさんの会話が普通に成り立ちすぎていて、やはり俺が無知だと痛感させられる。
そんな事を思いながら2人の話を聞いていると、話題が少し変わった。
「ここ数年の話しですが、ラドット渓谷には“夜叉”がいるとも噂されていますがご存じですか?」
「あ、それ私も聞いた事があります。ラドット渓谷には夜叉の様な鬼の様な人外がいると」
「なんだそれ。モンスターとかノーバディとはまた違うのか?」
「私も詳しくは分からないんだよね」
俺が森にいる間に外は物騒になっているものだ。なんだよ夜叉って。
「ラドット渓谷を通った方々がこの夜叉とやらに襲われたと、何軒も被害が出ているのです。何でもその夜叉は人の様な姿をしており、背に一杯の荷物を背負いながら手には武器を持っているとか」
「なんだソイツ。そんな被害が出てるのに騎士団は何もしていないのか」
「そうですね。ノーバディが出てからはもうその対応で手一杯ですから。一応ラドット渓谷にも新たに関所が完備される様になり、通るには特別な通行証やそれなりの実力を証明出来る冒険者でしか通れない様になっております。
もうその関所が見えてきましたよ――」
ユリマさんがそう言うと、馬車の窓から大きな岩が聳え立つラドット渓谷と関所が確認出来た。
「デカいなぁ」
「ね! 凄い迫力でしょ!」
エミリアが俺に伝えようとしていた事が今やっと分かった。確かにデカい岩がずっと続いている。断崖もほぼ垂直の角度だ。窓から岩を見上げていると、関所の騎士団員に止められた。
「――ご苦労様です。失礼ですが、ここを通るには通行証が必要となります」
「コレで宜しいでしょうか」
「コレは……! 王家の御方でしたか。失礼致しました」
「いえいえ。ご苦労様です」
「ありがとうございます。ですが……王家の御方に無礼かと思いますが、ラドット渓谷はご覧の通り夜叉やら鬼と呼ばれる存在のせいで規制を掛けている状況でして、確かに通行証は確認させて頂きましたが……大丈夫でしょうか? 万が一が起こる可能性も十分にありますので」
「親切にご心配して頂きありがとうございます騎士団員さん。ですが安心なさって下さい。実力ある冒険者を雇っておりますので」
そう言いながらユリマさんは俺達を見た。そして騎士団員もユリマさんの言葉に全く疑う余地もなく、関所を取った俺達はラドット渓谷へと入り込んだ――。
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