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03 墓を建てることにする
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もう人生を諦めたまさにその瞬間、俺の足に何かが当たった。
足元に転がっていたのは1本の剣。ほとんど錆びていたが形は確かに剣だ。
「今更見つかっても遅いよ。もう剣1本でどうこう出来る状況じゃ……!」
何気なく剣を拾おうとした瞬間、俺の視界に異様な光景が飛び込んできた。
「なんだあれは」
視界に飛び込んできたもの。それは優に数百という数を超えているであろう人の骨だった――。
無造作に積まれた骨の山は4、5mはあるだろうか。それが人の骨だと直ぐに分ったのは、その骨が生きていた頃に身に着けていたであろう錆びた鎧やら剣やらがこれまた無造作に積まれていたからだ。骨と一緒に積み重なっていた光景を見て直感でそう思った。
錆ついて黒くなっていた事に加え、生い茂る雑草や木の根っこに隠れて気が付かなかったが、よく見るとここら辺一帯に剣、槍、杖、書、斧など様々武器が落ちていた。
「こんな所に何でッ……『『――グルルル!』』
おっとそうだ。こんな状況にも関わらず一瞬コイツらの存在を忘れていた。我ながら恐ろしい。向こうの骨程じゃないけど、俺もかなりの数のスカルウルフに狙われていたんだった。
「はぁ、俺があの骨の山に加わるのも直ぐだな」
――ザクッ!
俺は持っていた剣を地面に突き刺した。
もう死ぬからな。せめて自分の墓ぐらい自分で建てておこう。何かここ武器一杯落ちてるし、どうせならこの辺境の森で1番派手に建てててやる。どうにでもなれこんな世界。
――ザクッ! ザクッ! ザクッ! ザクッ!
長剣に槍に斧に杖、それから剣、剣、剣、剣……! 木の剣や錆びた剣に折れた槍。刺せる物は全部突き刺してやろう。
『『グルルル!』』
俺の奇怪な行動を見かねてかは分からないけど、遂に痺れを切らしたスカルウルフの群れが一斉に突撃してきた。
「これが最後かな」
先頭のスカルウルフが来るまでもう10秒もない。
右手には剣が1本。左手でもう1本拾い、その2本を突き刺せば丁度群れに襲われるぐらいだろう。全部で10本ぐらいは刺せたかな? こんな場所だと考えれば十分派手で立派な墓になっただろう。よしよし。
最後に不思議な達成感を感じた俺は、空いていた左手で最後の剣を拾った。すると次の瞬間……。
――ブワァァァンッ!!
「……!?」
『ギャウッ……!?』
剣を拾った次の瞬間。
突如、眩い光が俺の視界一杯に広がった。
「うわッ、何だ!?」
眩い光によって、寸前の所まで迫っていたスカルウルフ達が一斉に退き俺から離れた。
右手には剣。左手にも剣。
光が生じた理由は勿論分からない。だけど、俺はこの時思った。
“スキルが覚醒”したと――。
やはり理由は分からない。でも確かに体が、脳が、本能がそう訴えかけた気がする。それに一瞬であったが、この光り方は紛れもない覚醒時に起こる現象。
この覚醒をずっと待ちわびていたから分かる。実際に弟がスキル覚醒した瞬間もこの光が現れた。
何度も言うが理由が分からない。けれど何だろう? 両手に剣を持っているこの感覚が妙にしっくりきているのは……。
今まで1度としてこんな感覚を感じた事はない。
『片手剣』のスキルを与えられたあの日から全然覚醒が起こらなかった俺を見かねた父さんは、少しでも覚醒のきっかけになればと物凄い種類の剣を俺に使わせた。
今更だけど、俺は自分のスキルに対して、子供心に何処か違和感を抱いていた。感覚的なものだからはっきりとは言えないが、どの剣を手にしても自分に合っていると思えなかったんだ。
勿論武器のせいにする訳じゃない。抱いていたその小さな違和感も、日々の訓練の中で何時しか消えてしまっていた。覚醒しないのは自分の努力が足りないのだと。
でも今俺は、ある1つの“答え”に辿り着いていた。
これまた感覚や本能という話になる。だがその理屈では語れない自身の感覚が、俺の本能が、確かに“そう”だと訴えかけているんだ。
俺の本当のスキルは片手剣ではない。
『双剣』であると――。
「まさかね……。有り得ないでしょ」
『ガルル!』
突然発せられた光に面食らったスカルウルフ達であったが、その光は一瞬。危険はないと察知した1体のスカルウルフが再び飛び掛かってきた。
――シュバン!
無意識に剣を振るっていた俺は、自分でも疑うぐらい簡単にスカルウルフを斬り倒していた。
「気のせいじゃない……。これは勝てるぞ」
スキル覚醒の期限は5年間。これに“例外”はない。女神から与えられた武器を手にした瞬間からそれは始まる。そしてそこから覚醒に至るまでは自ずと個人差が生じてくる。
覚醒が早い者、遅い者。
一概にもそうだとは言い切れないが、一般的にこのスキル覚醒は早ければ早い程自身とスキルの相性が合っており、覚醒の力も大きくなると言われている。実際に覚醒が早ければ早い者ほど騎士団や魔法団で団長になっている者が多い。
勿論、覚醒が遅い者でも早い者より強く、団長になっている様な者も大勢いる。だからスキル覚醒の早い遅いにあまり意味はない。昔からただ早い者の方がより強くなるという漠然としたイメージがあるだけだ。
ただし、覚醒者の中でもほんの僅か一握りの確率で、稀にスキルを与えられてから3日以内にスキル覚醒をする者がいると言う――。
何十年かに1度起こるか起こらないかの確率であり、3日以内の覚醒者は普通の覚醒者よりも遥かに実力が上を行く。そしてこれだけは曖昧な言い伝えなどではなく、はっきりと証明されている。実際に俺の父さんがそうであった。
最強と謳われた剣聖。
当時5歳で洗礼の儀を受けた父さんは、その2日後にスキル覚醒したとの事だ。
「全てに見放されたと諦めたけど、神様だけは見ていてくれたのかなぁ?」
辺境の森に飛ばされてから、俺は今初めてふと上を見上げた。
「空が全く見えないな。どうりでずっと薄暗い訳だ」
『グルルル』
「運が良いのか悪いのか。仮に目の前のスカルウルフを運良く倒せたとしても、もっと強いモンスターが出てきたらどうせ終わりだな。
ひょっとして神様は助けてくれたんじゃなくて、俺を使って暇つぶしでもしているのかもしれない」
『ガルルッ!』
――ズバァン!
再び飛び掛かってきたスカルウルフを俺は斬った。そしてそれが合図かの如く、全てのスカルウルフが一斉に突っ込んできた。
『『ガルルルッ!』』
「畜生。皆して俺を雑に扱いやがって……。急に腹が立ってきた。畜生……畜生畜生畜生畜生ちくしょぉぉぉッ!
前言撤回。こうなったら、何が何でも生き延びてやるからな――!」
こうして、俺はこの辺境の森で必死に生き抜いた。
毎日の様に遭遇するモンスターを討伐し自ら調理。調理と言ってもほぼ切り落として焼くだけだけど。そして自分の寝床も造り、見つけた川で飲み水確保兼水浴び。
自分より強いモンスターと遭遇した時は殺されかけた。その度に命からがら逃げ出しては、傷を癒やす為に日々集めていた薬草を使って自ら治療。
憎くもレオハート家での手厚い訓練体制のお陰で、剣術だけではなく魔法や薬草等の最低限の知識を得ていた。自分でも生きているのが奇跡だと思う。
どのモンスターが美味いか不味いか。
見た事もない木の実は食べれるか否か。
他にも使える薬草やモンスター除けは無いか。
辺境の森は何処まで続いているのか。
毎日魔物と戦い、傷つき、自己回復。ただひたすらそれを毎日繰り返す日々。毎日、毎日、毎日、毎日、毎日。
そして、そんな日々を過ごす事早“8年”――。
気が付けば、俺は剣を僅か一振りするだけであらゆるモンスターを切り滅ぼす“最強の双剣士”になっていた――。
足元に転がっていたのは1本の剣。ほとんど錆びていたが形は確かに剣だ。
「今更見つかっても遅いよ。もう剣1本でどうこう出来る状況じゃ……!」
何気なく剣を拾おうとした瞬間、俺の視界に異様な光景が飛び込んできた。
「なんだあれは」
視界に飛び込んできたもの。それは優に数百という数を超えているであろう人の骨だった――。
無造作に積まれた骨の山は4、5mはあるだろうか。それが人の骨だと直ぐに分ったのは、その骨が生きていた頃に身に着けていたであろう錆びた鎧やら剣やらがこれまた無造作に積まれていたからだ。骨と一緒に積み重なっていた光景を見て直感でそう思った。
錆ついて黒くなっていた事に加え、生い茂る雑草や木の根っこに隠れて気が付かなかったが、よく見るとここら辺一帯に剣、槍、杖、書、斧など様々武器が落ちていた。
「こんな所に何でッ……『『――グルルル!』』
おっとそうだ。こんな状況にも関わらず一瞬コイツらの存在を忘れていた。我ながら恐ろしい。向こうの骨程じゃないけど、俺もかなりの数のスカルウルフに狙われていたんだった。
「はぁ、俺があの骨の山に加わるのも直ぐだな」
――ザクッ!
俺は持っていた剣を地面に突き刺した。
もう死ぬからな。せめて自分の墓ぐらい自分で建てておこう。何かここ武器一杯落ちてるし、どうせならこの辺境の森で1番派手に建てててやる。どうにでもなれこんな世界。
――ザクッ! ザクッ! ザクッ! ザクッ!
長剣に槍に斧に杖、それから剣、剣、剣、剣……! 木の剣や錆びた剣に折れた槍。刺せる物は全部突き刺してやろう。
『『グルルル!』』
俺の奇怪な行動を見かねてかは分からないけど、遂に痺れを切らしたスカルウルフの群れが一斉に突撃してきた。
「これが最後かな」
先頭のスカルウルフが来るまでもう10秒もない。
右手には剣が1本。左手でもう1本拾い、その2本を突き刺せば丁度群れに襲われるぐらいだろう。全部で10本ぐらいは刺せたかな? こんな場所だと考えれば十分派手で立派な墓になっただろう。よしよし。
最後に不思議な達成感を感じた俺は、空いていた左手で最後の剣を拾った。すると次の瞬間……。
――ブワァァァンッ!!
「……!?」
『ギャウッ……!?』
剣を拾った次の瞬間。
突如、眩い光が俺の視界一杯に広がった。
「うわッ、何だ!?」
眩い光によって、寸前の所まで迫っていたスカルウルフ達が一斉に退き俺から離れた。
右手には剣。左手にも剣。
光が生じた理由は勿論分からない。だけど、俺はこの時思った。
“スキルが覚醒”したと――。
やはり理由は分からない。でも確かに体が、脳が、本能がそう訴えかけた気がする。それに一瞬であったが、この光り方は紛れもない覚醒時に起こる現象。
この覚醒をずっと待ちわびていたから分かる。実際に弟がスキル覚醒した瞬間もこの光が現れた。
何度も言うが理由が分からない。けれど何だろう? 両手に剣を持っているこの感覚が妙にしっくりきているのは……。
今まで1度としてこんな感覚を感じた事はない。
『片手剣』のスキルを与えられたあの日から全然覚醒が起こらなかった俺を見かねた父さんは、少しでも覚醒のきっかけになればと物凄い種類の剣を俺に使わせた。
今更だけど、俺は自分のスキルに対して、子供心に何処か違和感を抱いていた。感覚的なものだからはっきりとは言えないが、どの剣を手にしても自分に合っていると思えなかったんだ。
勿論武器のせいにする訳じゃない。抱いていたその小さな違和感も、日々の訓練の中で何時しか消えてしまっていた。覚醒しないのは自分の努力が足りないのだと。
でも今俺は、ある1つの“答え”に辿り着いていた。
これまた感覚や本能という話になる。だがその理屈では語れない自身の感覚が、俺の本能が、確かに“そう”だと訴えかけているんだ。
俺の本当のスキルは片手剣ではない。
『双剣』であると――。
「まさかね……。有り得ないでしょ」
『ガルル!』
突然発せられた光に面食らったスカルウルフ達であったが、その光は一瞬。危険はないと察知した1体のスカルウルフが再び飛び掛かってきた。
――シュバン!
無意識に剣を振るっていた俺は、自分でも疑うぐらい簡単にスカルウルフを斬り倒していた。
「気のせいじゃない……。これは勝てるぞ」
スキル覚醒の期限は5年間。これに“例外”はない。女神から与えられた武器を手にした瞬間からそれは始まる。そしてそこから覚醒に至るまでは自ずと個人差が生じてくる。
覚醒が早い者、遅い者。
一概にもそうだとは言い切れないが、一般的にこのスキル覚醒は早ければ早い程自身とスキルの相性が合っており、覚醒の力も大きくなると言われている。実際に覚醒が早ければ早い者ほど騎士団や魔法団で団長になっている者が多い。
勿論、覚醒が遅い者でも早い者より強く、団長になっている様な者も大勢いる。だからスキル覚醒の早い遅いにあまり意味はない。昔からただ早い者の方がより強くなるという漠然としたイメージがあるだけだ。
ただし、覚醒者の中でもほんの僅か一握りの確率で、稀にスキルを与えられてから3日以内にスキル覚醒をする者がいると言う――。
何十年かに1度起こるか起こらないかの確率であり、3日以内の覚醒者は普通の覚醒者よりも遥かに実力が上を行く。そしてこれだけは曖昧な言い伝えなどではなく、はっきりと証明されている。実際に俺の父さんがそうであった。
最強と謳われた剣聖。
当時5歳で洗礼の儀を受けた父さんは、その2日後にスキル覚醒したとの事だ。
「全てに見放されたと諦めたけど、神様だけは見ていてくれたのかなぁ?」
辺境の森に飛ばされてから、俺は今初めてふと上を見上げた。
「空が全く見えないな。どうりでずっと薄暗い訳だ」
『グルルル』
「運が良いのか悪いのか。仮に目の前のスカルウルフを運良く倒せたとしても、もっと強いモンスターが出てきたらどうせ終わりだな。
ひょっとして神様は助けてくれたんじゃなくて、俺を使って暇つぶしでもしているのかもしれない」
『ガルルッ!』
――ズバァン!
再び飛び掛かってきたスカルウルフを俺は斬った。そしてそれが合図かの如く、全てのスカルウルフが一斉に突っ込んできた。
『『ガルルルッ!』』
「畜生。皆して俺を雑に扱いやがって……。急に腹が立ってきた。畜生……畜生畜生畜生畜生ちくしょぉぉぉッ!
前言撤回。こうなったら、何が何でも生き延びてやるからな――!」
こうして、俺はこの辺境の森で必死に生き抜いた。
毎日の様に遭遇するモンスターを討伐し自ら調理。調理と言ってもほぼ切り落として焼くだけだけど。そして自分の寝床も造り、見つけた川で飲み水確保兼水浴び。
自分より強いモンスターと遭遇した時は殺されかけた。その度に命からがら逃げ出しては、傷を癒やす為に日々集めていた薬草を使って自ら治療。
憎くもレオハート家での手厚い訓練体制のお陰で、剣術だけではなく魔法や薬草等の最低限の知識を得ていた。自分でも生きているのが奇跡だと思う。
どのモンスターが美味いか不味いか。
見た事もない木の実は食べれるか否か。
他にも使える薬草やモンスター除けは無いか。
辺境の森は何処まで続いているのか。
毎日魔物と戦い、傷つき、自己回復。ただひたすらそれを毎日繰り返す日々。毎日、毎日、毎日、毎日、毎日。
そして、そんな日々を過ごす事早“8年”――。
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