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第7話:さっそくのベランダ。

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マンションの公園のブランコで友達になるって約束した夜、僕のスマホの
LINEの音が鳴った。
さっそく紗凪《さな》ちゃんからだった。

《試しにベランダにでてみない?》

《承知つかまつったでござる》

《ぜったい誰かにカブれてるでしょ》

ってことで姫からのお誘いがあったのでサッシのドアを開けて僕は
ベランダに出た。
そのままじゃ隣が見えないのでベランダのフェンスから少し顔を
覗かせてみた。

そしたら紗凪ちゃんもこっちを覗いていた。

「こんばんわ、愛彦《よしひこ》くん」

「あ、こんばんわ・・・あはは、なんだか照れるな~」

「だね・・・」

しばらくの沈黙・・・。

照れ隠しに、へこちゃを向いた僕を見て紗凪ちゃんが笑った。

「でへへ・・・こんな感じなんだね」

「そうだね・・・」

「じゃ~また明日・・・お休み、愛彦さん」

「え?もう?」
「退散するの早くない?」

「じゃ~もう少し・・・」
「ん~っと・・・ああ、あのお侍さんみたいな喋り方、誰に影響受けたの?」

「え~と・・・佐藤くん・・・」

「佐藤くん?・・・クラスに佐藤くんって人っていたっけ?」
「佐藤だれくん?」

「るろうに剣心・・・」

「るろうに?・・・・あはは、あの佐藤くんね、たしかにね」
「あの映画見てカブれちゃったんだ・・・あはは」

「影響受けやすい年頃なんでござるよ、紗凪どの・・・」

「あはは、そう言われてから聞くと面白い」

「そうでござるか?」
「紗凪どのがイヤとかウザいとか思うならやめるでござるが・・・?」

「いいよ別に・・・しつこいのはどうかと思うけど、個性的でいいん
じゃないの?」

「個性的かな~?・・・」

「それって、もうクセになってるから直らないでしょ」

「そうかも・・・それよりさ、見て・・・星が綺麗だよ、明日は晴れるね」
「ほら・・・オリオン座が見える・・・」

「え?どれ?」

「あそこ・・・あそこに星が横三つ並んでるのが見えるだろ?」
「で、全体がリボンを縦にしたのような形をしているんだ?」
「左上の赤いのが1等星(ベテルギウス)、右下の青白いのが1等星(リゲル)だよ」

「ペテルなんとかとかって言われても分かんないよ・・・」
「でも、オリオン座?・・・あれは見たことある」

「正直言って僕も正座は詳しくないんだ、オリオン座くらいしか知らない」
「少し知ってたから、知ったかぶりしてみただけだよ」

「正直なんだね、愛彦くんって・・・」

「そうかな・・・」
「そうだ今度、プラネタリウムとかいいんじゃない?」

「いいね、けど私、100パーセント寝ちゃうと思うけど・・・」

「ああ~・・・紗凪ちゃんはクラシックコンサートとか映画とか絶対
寝ちゃうタイプでしょ?」

「もしさ、愛彦くんと映画見に行くことがあった時のために、さきに
謝っとくね・・・寝ちゃってごめんなさい」

そう言って様ちゃんはペコンとお辞儀をした。

「あはは・・・なにそれ?、そんな告知と謝罪、聞いたことないよ」

「そう言っとかないと「なんだよこいつ寝やがって」って思われたくないでしょ」

「思わないよ、そんなこと・・・でももし勝手に寝ちゃったら・・・」

「ん?寝ちゃったら?・・・勝手に寝ちゃったらなに?」

「なんでもないっす・・・」

もし、寝ちゃったらチューしちゃうぞ、って言いたかったけど、やめた。
恋人でもないのに、そんなこと言って引かれちゃうと困るから・・・。

「教えてくれないならいい、おやすみ・・・愛彦くん」

「え?怒った?」

「怒ってません!!」

「怒ってんじゃん」

「怒ってないってば・・・もう遅いからだよ・・・だから、おやすみ」
「へそ天で寝て風邪ひかないようにね」

「うん、ありがとう・・・じゃあまた明日、おやすみ紗凪ちゃん」

「おやすみ・・・」

おやすみのチューは?・・・って聞いてやっぱり引かれると困るよね。
調子に乗ってるとまじで怒られるからな。
せっかくお友達になれたんだもん、大事にしないと・・・。

でも僕は自分の部屋に引っ込んでガッツポーズした。

そりゃね、可愛い彼女からお友達になってくれませんか?
って言われたら絶対断らないでしょ?、断ったら世界一大バカ者だよね。
しかも、たった今まで好きな彼女とベランダで喋ってたんだよ。
まじ、すごくない?

その夜はベッドに入ってもテンションが下がらないまま目が冴えて
一睡もできなかったよ。

つづく。


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