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憧れとミスコネクト
憧れとのミスコネクト④
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「平井さん、学祭ライブの曲ってどうなってます? そろそろオリジナルを一曲は入れたい思うんですけどどうです?」
2年生のバンド、「zenith mujica(ゼニスムジカ)」のベース、岡崎舞星は軽音楽部の練習の時間にバンドリーダーである副部長の平井に問うた。
「オリジナルなぁ。学祭やし、ウチらが作る知らん曲よりみんなが盛り上がる曲の方がええんやないかと思うよ」
「でも、私らも結成して一年経つし……」
「舞星、俺は副部長やねん。部が関わるイベントは盛り上げんといかん責任があるんや。まあ心配すんな、オリジナルやらん訳やない。もうちょい待ってくれな」
「私、もうコピーやらやりたないんですけど」
平井は詰め寄る舞星の肩をポンと叩く。
「俺は軽音の活動で外部のイベント行ってたからわかるんやけどな。ネットとかで活動しとる自称ミュージシャンにしろCD出しとるプロにしろ小さいイベントやショッピングモールレベルは半分以上カバー曲やで。アウェーのイベントでオリジナルなんて演っても誰も聴いてくれへんのや」
「でもそれやったらいつになってもオリジナル出来ひんってことやないですか。それに学祭ライブはアウェーやないと思いますけど」
食い下がる舞星。しかし平井は意に介さず、面倒臭そうに大袈裟にため息を吐くと「トイレ行ってくるわ」と教室を出て行ってしまう。やれやれといった風にギターの谷川が舞星に声を掛ける。
「舞星もさ、オリジナルやりたいんやったら外部でバンド入ったら?」
谷川は軽音楽部の他にも活動していて、特定のバンドに所属している訳ではないが、サポートとして声が掛かればどんなバンドでも参加していた。
「私、谷川くんみたいに上手くないし」
大きくしょげる舞星。
「そうか? 舞星はムラはあるけどハマった時はええ音出すと思うけどな」
谷川がそう言うと、ドラムの田中ライトも「そうそう」と頷いて舞星に「それに舞星のベースはホンマやりやすいしな。俺走るクセあるから舞星いると安心」と告げる。
舞星が「そうかな? えへへ」とまんざらでもない笑みを浮かべると、キーボードの西田真理央が「相変わらずチョロいな」と横槍を入れた。
「うっさいわ、もう」
照れ隠しか舞星はベースのリフを弾き始める。と、併せるようにドラムが入り、ギター、キーボードと即興が始まった。なんだかんだ言って舞星はこのバンドが好きだった。今はカバーしかやらないコピバンだけど、京都で一番のバンドになるって言う平井の言葉に誘われて集まったメンバーだし平井も先を見て行動してるはずだからきっと大丈夫と思う事にしよう。舞星がそう思っていたところに平井が教室に戻ってくる。
「さすが俺が選んだメンツだけあってええ音鳴らすなァ」
「そらどうも」
褒められているんだろうが、さっきまでの流れから素直に受け止められない舞星はカチンときて平井に言った。
「舞星、俺らは軽音で最高のバンドや。そやさかい今はヘタ打つ訳には行かんのや」
舞星のまだ納得行かない顔を見て平井は続ける。
「俺やて軽音の中で満足してる訳やあらへん。ただ、行く時は一気に行く。その為にずっとかったるい仕事してんのや」
かったるい仕事とは幹部の雑務の事だろうと言うのは舞星にもわかった。
「ハッキリ言って軽音の中でなんぼ上手くても井の中の蛙や。なあ舞星、俺らがなんでRADの『おしゃかしゃま』をライブアンセムにしとるかわかるか?」
ライブアンセムとはライブでやる定番曲の事で、「zenith mujica(ゼニスムジカ)」ではRADWIMPSの「おしゃかしゃま」を毎回演奏に組み込むよう平井が決めていた。それも舞星は気に食わなかった一因だった。
「俺は初めて『おしゃかしゃま』を聴いた時に電流が走るような衝撃受けたんや。邦ロックって受けの良さそなメロコアかて思いかけとった時にいきなり全く新しいサウンドがガツンと来たんや。似たような曲はある。そやけど調べたらこの曲から始まったんや。邦ロックの歴史を変えた曲なんよ。その志しを俺らも持ち続けなきゃあかんと思てやってるんや。軽音の中で偉そうに言う井の中の蛙かも知れへんけど、俺らは大海を知らずとも志しっちゅう空の青さは知っとる」
『めんどくさッ』、舞星は顔に出ないように目を閉じた。平井はこういうポエムと言うか自分語りをよく言う。ライブのMCでもそうだ。たかだか高校の軽音のライブで、「僕は音楽に救われたから、自分も音楽で誰かの力になりたい」とか言うヤツは周りにはいない。しかしこういうのが好きな層はいるようで、平井さん好き好きみたいな連中がいるから否定は出来ない。でも「空の青さを知る」は2次創作みたいなものだけどな。舞星は心の中で悪態を切った。
「全く新しい事をやるのには敵わんけど、俺らは演奏の力で衝撃を与えて一気に行こうと思っとる。だから今はコピーで力を付ける時期やねん」
めちゃくちゃだ。
「コピーならプロが作った一流の曲がある。オリジナルはどうや? 作詞は? 作曲は誰がする?」
「作曲は私が……」
「曲なんか出来てもみんなが演奏するパートはどないすん? あんたらがいつも遊んどる即興とは訳ちゃうで。それともそう言うの得意なヤツでも知ってるって言うんか?」
ギターの谷川が遠慮がちに手を挙げる。
「そういうんは伊藤が詳しいよ。音楽知識も凄く知っとるし」
「あいつか」
ののかの名前を聞いて平井が舌打ちをする。環のバンドに入ったのをよく思ってないのもそうだが、平井はののかとそりが合わない。いつも見下してくるような態度が気に食わないのも理由だった。
「伊藤……ののか……」
舞星はその名前を聞くのも嫌だった。自分の中が嫌な感情に包まれていくのを感じる。
「伊藤に頼むくらいならオリジナルはええです」
その言葉に引っかかる平井が舞星の顔を覗き込んで聞いた。
「お前、伊藤ののかとなんか問題でもあるんか? 男か? アイツ性格は最悪やけど顔だけはええからなァ」
イヤミっぽく笑う。
「そうです」
「は?」
「一年の時に付き合うとった彼氏伊藤に取られた。今まで我慢してきたけど、伊藤だけは許さへん。そないなヤツに自分の曲を弄られるなんて耐えられへん」
舞星が今まで見せた事が無いような厳しい表情で俯いている。平井はニヤッと笑うと舞星に聞いた。
「その話、詳しゅう聞かしてくれへん?」
2年生のバンド、「zenith mujica(ゼニスムジカ)」のベース、岡崎舞星は軽音楽部の練習の時間にバンドリーダーである副部長の平井に問うた。
「オリジナルなぁ。学祭やし、ウチらが作る知らん曲よりみんなが盛り上がる曲の方がええんやないかと思うよ」
「でも、私らも結成して一年経つし……」
「舞星、俺は副部長やねん。部が関わるイベントは盛り上げんといかん責任があるんや。まあ心配すんな、オリジナルやらん訳やない。もうちょい待ってくれな」
「私、もうコピーやらやりたないんですけど」
平井は詰め寄る舞星の肩をポンと叩く。
「俺は軽音の活動で外部のイベント行ってたからわかるんやけどな。ネットとかで活動しとる自称ミュージシャンにしろCD出しとるプロにしろ小さいイベントやショッピングモールレベルは半分以上カバー曲やで。アウェーのイベントでオリジナルなんて演っても誰も聴いてくれへんのや」
「でもそれやったらいつになってもオリジナル出来ひんってことやないですか。それに学祭ライブはアウェーやないと思いますけど」
食い下がる舞星。しかし平井は意に介さず、面倒臭そうに大袈裟にため息を吐くと「トイレ行ってくるわ」と教室を出て行ってしまう。やれやれといった風にギターの谷川が舞星に声を掛ける。
「舞星もさ、オリジナルやりたいんやったら外部でバンド入ったら?」
谷川は軽音楽部の他にも活動していて、特定のバンドに所属している訳ではないが、サポートとして声が掛かればどんなバンドでも参加していた。
「私、谷川くんみたいに上手くないし」
大きくしょげる舞星。
「そうか? 舞星はムラはあるけどハマった時はええ音出すと思うけどな」
谷川がそう言うと、ドラムの田中ライトも「そうそう」と頷いて舞星に「それに舞星のベースはホンマやりやすいしな。俺走るクセあるから舞星いると安心」と告げる。
舞星が「そうかな? えへへ」とまんざらでもない笑みを浮かべると、キーボードの西田真理央が「相変わらずチョロいな」と横槍を入れた。
「うっさいわ、もう」
照れ隠しか舞星はベースのリフを弾き始める。と、併せるようにドラムが入り、ギター、キーボードと即興が始まった。なんだかんだ言って舞星はこのバンドが好きだった。今はカバーしかやらないコピバンだけど、京都で一番のバンドになるって言う平井の言葉に誘われて集まったメンバーだし平井も先を見て行動してるはずだからきっと大丈夫と思う事にしよう。舞星がそう思っていたところに平井が教室に戻ってくる。
「さすが俺が選んだメンツだけあってええ音鳴らすなァ」
「そらどうも」
褒められているんだろうが、さっきまでの流れから素直に受け止められない舞星はカチンときて平井に言った。
「舞星、俺らは軽音で最高のバンドや。そやさかい今はヘタ打つ訳には行かんのや」
舞星のまだ納得行かない顔を見て平井は続ける。
「俺やて軽音の中で満足してる訳やあらへん。ただ、行く時は一気に行く。その為にずっとかったるい仕事してんのや」
かったるい仕事とは幹部の雑務の事だろうと言うのは舞星にもわかった。
「ハッキリ言って軽音の中でなんぼ上手くても井の中の蛙や。なあ舞星、俺らがなんでRADの『おしゃかしゃま』をライブアンセムにしとるかわかるか?」
ライブアンセムとはライブでやる定番曲の事で、「zenith mujica(ゼニスムジカ)」ではRADWIMPSの「おしゃかしゃま」を毎回演奏に組み込むよう平井が決めていた。それも舞星は気に食わなかった一因だった。
「俺は初めて『おしゃかしゃま』を聴いた時に電流が走るような衝撃受けたんや。邦ロックって受けの良さそなメロコアかて思いかけとった時にいきなり全く新しいサウンドがガツンと来たんや。似たような曲はある。そやけど調べたらこの曲から始まったんや。邦ロックの歴史を変えた曲なんよ。その志しを俺らも持ち続けなきゃあかんと思てやってるんや。軽音の中で偉そうに言う井の中の蛙かも知れへんけど、俺らは大海を知らずとも志しっちゅう空の青さは知っとる」
『めんどくさッ』、舞星は顔に出ないように目を閉じた。平井はこういうポエムと言うか自分語りをよく言う。ライブのMCでもそうだ。たかだか高校の軽音のライブで、「僕は音楽に救われたから、自分も音楽で誰かの力になりたい」とか言うヤツは周りにはいない。しかしこういうのが好きな層はいるようで、平井さん好き好きみたいな連中がいるから否定は出来ない。でも「空の青さを知る」は2次創作みたいなものだけどな。舞星は心の中で悪態を切った。
「全く新しい事をやるのには敵わんけど、俺らは演奏の力で衝撃を与えて一気に行こうと思っとる。だから今はコピーで力を付ける時期やねん」
めちゃくちゃだ。
「コピーならプロが作った一流の曲がある。オリジナルはどうや? 作詞は? 作曲は誰がする?」
「作曲は私が……」
「曲なんか出来てもみんなが演奏するパートはどないすん? あんたらがいつも遊んどる即興とは訳ちゃうで。それともそう言うの得意なヤツでも知ってるって言うんか?」
ギターの谷川が遠慮がちに手を挙げる。
「そういうんは伊藤が詳しいよ。音楽知識も凄く知っとるし」
「あいつか」
ののかの名前を聞いて平井が舌打ちをする。環のバンドに入ったのをよく思ってないのもそうだが、平井はののかとそりが合わない。いつも見下してくるような態度が気に食わないのも理由だった。
「伊藤……ののか……」
舞星はその名前を聞くのも嫌だった。自分の中が嫌な感情に包まれていくのを感じる。
「伊藤に頼むくらいならオリジナルはええです」
その言葉に引っかかる平井が舞星の顔を覗き込んで聞いた。
「お前、伊藤ののかとなんか問題でもあるんか? 男か? アイツ性格は最悪やけど顔だけはええからなァ」
イヤミっぽく笑う。
「そうです」
「は?」
「一年の時に付き合うとった彼氏伊藤に取られた。今まで我慢してきたけど、伊藤だけは許さへん。そないなヤツに自分の曲を弄られるなんて耐えられへん」
舞星が今まで見せた事が無いような厳しい表情で俯いている。平井はニヤッと笑うと舞星に聞いた。
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