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第五章 氷獄に吠ゆ
第11話 孤狼の追憶
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「まだ立ち上がるか、その体力は大したものだ」
「へへ、そりゃどうも……」
ジークと火凛が基地に到着したころ、ヴォルクと銀狼の勝負は銀狼の圧倒的優位な状況だった。
ヴォルクの体にはいくつもの生々しい傷跡が残り、体力もすり減って息を切らしている。
一方の銀狼は傷こそ多少あるものの、どれも致命傷にはなりえないものばかりだ。
息も切らしておらずまだまだその表情には余裕が見て取れる。
「なぜそこまで私に執着する? お主の命に代えてまで達成したい目的があるのか?」
「俺は馬鹿だからよう、正直あんたを捕まえる重要性はそこまでわかんねえ」
「ならば、なぜ?」
銀狼の問いにヴォルクは一切の迷い無く答える。
「信じてるからだよ」
「!!」
「俺は大将を信じている。だから大将がやらなきゃいけないと言ったことはよくわかんなくてもそれに従う。それが俺の忠義だ」
ヴォルクは頭から血を流しながらも背筋を伸ばし堂々とそう宣言する。
「……もしそやつが間違ったことをしたらどうする?」
「そしたら俺もケツを拭くまでさ。なにも難しい話じゃねえ」
それこそがヴォルクの理想とする主従像だった。
どちらかが依存するのではなく、対等。
お互いがお互いの足りない所を補い合い、困ったときはお互いを助け合う。
ヴォルクが心からそうしたいと思えた相手はジークだけだった。
「それに、俺はお前も助けたい」
「お主が私を?」
「ああ、お前のことはよく知らねえがその目はよく知っている。誰も頼りに出来ず、でも強がっている孤独な目だ」
「……!! 貴様になにがわかる!!」
ヴォルクの言葉に牙を剥き激昂する銀狼。
その瞳には怒りと、それに隠れるように寂しさが浮かんでいた。
「わかるさ、俺もそうだったからな。だからこそ救って見せるぜ。あの時あの人がしてくれたみてえによ」
ヴォルクはそう言うと懐より手の平ほどの大きさのメダルを取り出す。月を模した模様が施されたその銀色のメダルは日の光を受け冷たく輝く。
(そういやあの日も今みてえに吹雪の日だったな……)
ヴォルクはその時の事を思い起こす。
全てが終わり、そして始まったあの日の事を……
◆
物心が着いた頃には親はいなかった。
施設に引き取られた俺はロクに学校へもいかず、地元のはぐれ者達と一緒に朝から晩まで馬鹿ばっかやっていた。
小さい頃から同い年より一回り大きく、喧嘩のセンスもあったおかげで地元で俺に敵うやつはいなかった。その力を使って気に入らない奴は片っ端からぶちのめした。
権力をかさにした暴力警官。
若い奴を扱き使う汚い大人。
俺の町に武器を流す外人ども。
全員俺と仲間でぶちのめしてやった。
そんな誰も手が付けられなかった俺だけど一つだけ絶対に守った決まりごとがあった。
それは「悪人以外には手を出さない」というルールだった。
はたから見たら俺は他のクズ共と変わんないんだろう。
でも俺は、俺の中では義賊にでもなったつもりだった。
そしてそれは他の仲間も同じだろうと、愚かにも思い込んでいたんだ。
「やあっと帰ってこれだぜ」
世界が魔法に満たされたあの日から約一月、俺は生まれ育った町に帰って来た。。
たまたま大きな町に出かけていた俺はそこで魔法感染騒動に巻き込まれ、町に帰れなかったのだ。
機械オンチだった俺はケータイを持っておらず、仲間の無事すら確認出来ずにいた。
しかし楽観的な俺はこの力を使い仲間とどんな事が出来るか考えながら、いつも俺と仲間たちが使っているたまり場に向かったのだった。
「くくく、この力があれば今まで手を出せなかった奴らにも手が届くぜ! ワクワクしてきたあ!!」
俺の脳内では既に勧善懲悪劇が展開されていた。
気分はまるで物語の主人公。
人知れず悪を倒すダークヒーロー。あの時の俺は本当に幼稚だったぜ。
「待たせたな! みんないるか!?」
ガチャっと勢いよくドアを開けると、確かにそこにはたくさんの仲間がいた。
しかし、誰一人として返事をすることはなかった。
「は……?」
いや返事が出来なかったと言った方が正しいか。
なぜなら仲間たちはみんな物言えぬ姿、平たく言やあ死体になっていたからだ。
「おい……おい!! どうなってやがんだ!!」
俺は生き残りがいないか溜まり場をくまなく探した。
しかし見つかるのは死体ばかりで生き残りは一人も見つからなかった。
「くそ……くそ……!」
仲間たちは斬られたり刺されたり焼かれたりなど、様々な方法で殺されていた。
まるで、新しいオモチャで遊ぶかのようにいたぶられたみたいだ。
「いったい誰がこんなことを!!」
誰がやったか、正直思い当たるところはあり過ぎた。
四方八方に喧嘩を売ってた俺たちだ。誰が恨みを持っていても不思議ではない。
「生き残りは絶対いるはずだ! 待ってろよみんな!」
生き絶えた仲間の数は全体の約7割ほどだった。
しぶといあいつらのことだ、どこかでまだ生きてると俺は確信を持っていた。
誰がこんな事をやったかは置いといて俺はまず生き残った仲間と合流する事にした。溜まり場は町中にいくつかあるのでしらみつぶせば見つかるだろうと思ったんだ。
そして俺は町中を駆け回った。
こんな事ならとっととケータイ電話を買っとけばよかった何度思ったことか。
「ん? あそこ電気がついてやがる!」
思い当たる場所を訪れること三件目。町外れの廃工場に電気が灯っているのを俺は見つけた。
そこは俺たちの秘密基地であり他の奴らは知らないはず。仲間がいるのは明白だった。
「誰かいるか!」
俺は工場のドアを勢いよく開け中に入る。
するとそこにいたのは……
「ようヴォルク。遅かったじゃねえか」
見慣れた仲間たちだった。
しかも一人や二人ではない。あの場に死体がなかった全員が集まっていた。
「あ、ああ。随分待たせたな。それよりも仲間の事だ! 俺たちの仲間が殺されたのは知ってるよな!? 相手は分かっているのか?」
「おいおい、落ち着けよヴォルク。酒でも飲むか?」
そういいながら仲間の一人がウォッカを手渡してくる。
こんな事態なのにやけに落ち着いている。俺はもう報復が済んでいるのかと思った。
「それよりもヴォルク、お前も目覚めたみたいだな? お前がいれば百人力だぜ!!」
「ん? 話が見えないな。いったい誰が仲間をやったんだ?」
「……分かったよ、話せばいいんだろう。」
俺がしつこく聞くと仲間は観念したのか何が起きたのかを渋々話し始める。
「あの日……魔法が使えるようになったあの日。俺たちは歓喜したさ。自分たちは特別な人間だったってね。でも選ばれる奴がいれば選ばれない奴もいる」
「おい待てよ、何の話をして……」
「あいつらは選ばれなかったのさ、俺たちと違ってな。それなのにあいつらは自分たちもその恩恵に預かりたいとぬかしやがった。選ばれてねえくせによ!!」
「おいおい、それじゃまるで……」
最悪は、想定を超える。
俺はこの時初めて理解したんだ。
「そうさ俺たちが殺したのさ!! これからの時代魔法が使えない奴なんざいらねえんだよ!」
俺は物語の主人公では、ないことに。
「へへ、そりゃどうも……」
ジークと火凛が基地に到着したころ、ヴォルクと銀狼の勝負は銀狼の圧倒的優位な状況だった。
ヴォルクの体にはいくつもの生々しい傷跡が残り、体力もすり減って息を切らしている。
一方の銀狼は傷こそ多少あるものの、どれも致命傷にはなりえないものばかりだ。
息も切らしておらずまだまだその表情には余裕が見て取れる。
「なぜそこまで私に執着する? お主の命に代えてまで達成したい目的があるのか?」
「俺は馬鹿だからよう、正直あんたを捕まえる重要性はそこまでわかんねえ」
「ならば、なぜ?」
銀狼の問いにヴォルクは一切の迷い無く答える。
「信じてるからだよ」
「!!」
「俺は大将を信じている。だから大将がやらなきゃいけないと言ったことはよくわかんなくてもそれに従う。それが俺の忠義だ」
ヴォルクは頭から血を流しながらも背筋を伸ばし堂々とそう宣言する。
「……もしそやつが間違ったことをしたらどうする?」
「そしたら俺もケツを拭くまでさ。なにも難しい話じゃねえ」
それこそがヴォルクの理想とする主従像だった。
どちらかが依存するのではなく、対等。
お互いがお互いの足りない所を補い合い、困ったときはお互いを助け合う。
ヴォルクが心からそうしたいと思えた相手はジークだけだった。
「それに、俺はお前も助けたい」
「お主が私を?」
「ああ、お前のことはよく知らねえがその目はよく知っている。誰も頼りに出来ず、でも強がっている孤独な目だ」
「……!! 貴様になにがわかる!!」
ヴォルクの言葉に牙を剥き激昂する銀狼。
その瞳には怒りと、それに隠れるように寂しさが浮かんでいた。
「わかるさ、俺もそうだったからな。だからこそ救って見せるぜ。あの時あの人がしてくれたみてえによ」
ヴォルクはそう言うと懐より手の平ほどの大きさのメダルを取り出す。月を模した模様が施されたその銀色のメダルは日の光を受け冷たく輝く。
(そういやあの日も今みてえに吹雪の日だったな……)
ヴォルクはその時の事を思い起こす。
全てが終わり、そして始まったあの日の事を……
◆
物心が着いた頃には親はいなかった。
施設に引き取られた俺はロクに学校へもいかず、地元のはぐれ者達と一緒に朝から晩まで馬鹿ばっかやっていた。
小さい頃から同い年より一回り大きく、喧嘩のセンスもあったおかげで地元で俺に敵うやつはいなかった。その力を使って気に入らない奴は片っ端からぶちのめした。
権力をかさにした暴力警官。
若い奴を扱き使う汚い大人。
俺の町に武器を流す外人ども。
全員俺と仲間でぶちのめしてやった。
そんな誰も手が付けられなかった俺だけど一つだけ絶対に守った決まりごとがあった。
それは「悪人以外には手を出さない」というルールだった。
はたから見たら俺は他のクズ共と変わんないんだろう。
でも俺は、俺の中では義賊にでもなったつもりだった。
そしてそれは他の仲間も同じだろうと、愚かにも思い込んでいたんだ。
「やあっと帰ってこれだぜ」
世界が魔法に満たされたあの日から約一月、俺は生まれ育った町に帰って来た。。
たまたま大きな町に出かけていた俺はそこで魔法感染騒動に巻き込まれ、町に帰れなかったのだ。
機械オンチだった俺はケータイを持っておらず、仲間の無事すら確認出来ずにいた。
しかし楽観的な俺はこの力を使い仲間とどんな事が出来るか考えながら、いつも俺と仲間たちが使っているたまり場に向かったのだった。
「くくく、この力があれば今まで手を出せなかった奴らにも手が届くぜ! ワクワクしてきたあ!!」
俺の脳内では既に勧善懲悪劇が展開されていた。
気分はまるで物語の主人公。
人知れず悪を倒すダークヒーロー。あの時の俺は本当に幼稚だったぜ。
「待たせたな! みんないるか!?」
ガチャっと勢いよくドアを開けると、確かにそこにはたくさんの仲間がいた。
しかし、誰一人として返事をすることはなかった。
「は……?」
いや返事が出来なかったと言った方が正しいか。
なぜなら仲間たちはみんな物言えぬ姿、平たく言やあ死体になっていたからだ。
「おい……おい!! どうなってやがんだ!!」
俺は生き残りがいないか溜まり場をくまなく探した。
しかし見つかるのは死体ばかりで生き残りは一人も見つからなかった。
「くそ……くそ……!」
仲間たちは斬られたり刺されたり焼かれたりなど、様々な方法で殺されていた。
まるで、新しいオモチャで遊ぶかのようにいたぶられたみたいだ。
「いったい誰がこんなことを!!」
誰がやったか、正直思い当たるところはあり過ぎた。
四方八方に喧嘩を売ってた俺たちだ。誰が恨みを持っていても不思議ではない。
「生き残りは絶対いるはずだ! 待ってろよみんな!」
生き絶えた仲間の数は全体の約7割ほどだった。
しぶといあいつらのことだ、どこかでまだ生きてると俺は確信を持っていた。
誰がこんな事をやったかは置いといて俺はまず生き残った仲間と合流する事にした。溜まり場は町中にいくつかあるのでしらみつぶせば見つかるだろうと思ったんだ。
そして俺は町中を駆け回った。
こんな事ならとっととケータイ電話を買っとけばよかった何度思ったことか。
「ん? あそこ電気がついてやがる!」
思い当たる場所を訪れること三件目。町外れの廃工場に電気が灯っているのを俺は見つけた。
そこは俺たちの秘密基地であり他の奴らは知らないはず。仲間がいるのは明白だった。
「誰かいるか!」
俺は工場のドアを勢いよく開け中に入る。
するとそこにいたのは……
「ようヴォルク。遅かったじゃねえか」
見慣れた仲間たちだった。
しかも一人や二人ではない。あの場に死体がなかった全員が集まっていた。
「あ、ああ。随分待たせたな。それよりも仲間の事だ! 俺たちの仲間が殺されたのは知ってるよな!? 相手は分かっているのか?」
「おいおい、落ち着けよヴォルク。酒でも飲むか?」
そういいながら仲間の一人がウォッカを手渡してくる。
こんな事態なのにやけに落ち着いている。俺はもう報復が済んでいるのかと思った。
「それよりもヴォルク、お前も目覚めたみたいだな? お前がいれば百人力だぜ!!」
「ん? 話が見えないな。いったい誰が仲間をやったんだ?」
「……分かったよ、話せばいいんだろう。」
俺がしつこく聞くと仲間は観念したのか何が起きたのかを渋々話し始める。
「あの日……魔法が使えるようになったあの日。俺たちは歓喜したさ。自分たちは特別な人間だったってね。でも選ばれる奴がいれば選ばれない奴もいる」
「おい待てよ、何の話をして……」
「あいつらは選ばれなかったのさ、俺たちと違ってな。それなのにあいつらは自分たちもその恩恵に預かりたいとぬかしやがった。選ばれてねえくせによ!!」
「おいおい、それじゃまるで……」
最悪は、想定を超える。
俺はこの時初めて理解したんだ。
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