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第三章 開戦

第4話 現実

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 地上に降り立った俺たちは出迎えに来た黒蓮教の連中と挨拶もそこそこに、彼らが敵対する連中の元へと向かった。
 こんな所であまり無駄な時間は取れないからな。

 彼らに案内され、到着地より数キロ進んでたどり着いたそこからは遠くに廃村が見えた。
 彼らが言うには最近魔獣に襲われて出来た廃村らしい。そこに連中は潜んでいるようだ。

「我々は何度も奴らと交戦し、やっとの事でここまで追い詰めました」

 劉は俺にそう説明する。
 何度戦っても逃げる彼らをここまで誘導したらしい、中々の手際だ。

「村の周りは開けているため、村から逃げ出しても丸見えです。なのでジーク殿には廃村の外で待機していただき逃げ出てきた物を倒していただきたい」

 てっきり丸投げされるのかと思っていたがあくまでメインで戦闘を行うのは黒蓮教の連中がやるみたいだ。
 俺が敵と接触し寝返るのを恐れているのだろうか。

「倒すというがどこまでやっていいんだ?」
「殺して構いません。連中は国に仇なす害虫です」

  苦虫を噛みつぶしたような表情でそう答える劉。
 どうやらだいぶ辛酸を舐めさせられてるようだ。

「そうか。なら話は早い」
「え?」

 俺は廃村に向け手をかざし魔力を練りこむ。

「範囲指定《エリアセレクト》。効果量指定《パワーセレクト》」

 大規模の魔法は気を付けて使用せねば味方にも害になりかねない。
 俺は魔道具の力を使い演算能力を高め、慎重に魔法を発動する。

「燃えろ、過剰なる焼却オーバーブレイズ

 ボウッ! と村の中心から火の柱が燃え上がると、瞬く間に村を丸ごと飲み込む大きさにまで膨れ上がる。

「何という威力……!」

 膨れ上がった火の柱はその役目を終えると急速にその勢いを落とし、やがて沈下する。
 黒蓮教の連中の目に映ったのは、黒く焦げ付いた大地のみ。生存確認などする意味もない。

「満足いただけたかな?」
「素晴らしい! これで私たちの邪魔をする者はいなくなった! 君は最高だよ!」

 興奮し声を荒げる劉。
 周りの黒蓮教の連中も喜び肩を叩きあっている。

 人がたくさん死んだというのに、度し難い奴らだ。

「喜ぶのもいいが約束を果たしていただけるかな?」
「そうだったな、すまないジーク殿。では我々の勝利の祝杯も兼ねてアジトに招待しよう!」

 話によると魔力歩行《マジック・ムーブ》で1時間も移動した場所にアジトがあるらしい。
 ここに来ている黒蓮教の者は皆戦闘員なので魔力歩行《マジック・ムーブ》が使える様だ。

「テレサと虎鉄は焦げた大地を元に戻してから来てくれ。私とクロムでアジトに向かう」

「御意」
「なんじゃわしはこっち・・・か。つまらんのう」

 ぶーたれるテレサ。
 勘弁してくれ。

「それでは行こうか」

 クロムを連れ俺は移動を始める。

 ここまでは順調。
 後は仕上げを残すのみだ。

「くく、楽しみだぜ」
「楽しそうで何よりです」





 ◇





「入ってくれ、ここが我々のアジトだ。」

 案内されたのは荒野の中に隠されていた地下施設。
 科学と魔法。、その両方の技術でこの施設はたくみに隠されていた。非常に参考になる。
 中はかなりの広さがあり、今も改築と増築を繰り返しているらしい。

 俺とクロム、そして劉と数名の仲間はその施設の中を歩きながら話していた。

「いいのか? こんな重要なところに連れてきて?」
「当たり前さ! ジーク殿は我々の恩人。もう仲間も同じだ!」

 調子のいい奴だ。
 初めて会ったときは胡散臭い目で見ていたクセに。
 他の連中も口々に俺を持ち上げる。そんな薄い言葉で俺が喜ぶとでも思っているのか? 不快にしかならない。

 中に入ってから5分ほど歩くと劉は立ち止まり、ある場所を指さす。

「お、着いたぞ。ここに敵対した魔人を確保しているんだ」

 案内された場所は部屋……と呼べるような場所ではなく牢屋という言葉がピッタリの場所だった。

「どうぞ入ってくれ」

 劉がドアノブを引うと、「キイィィ」と甲高い音を鳴らしながら鉄の扉が開き、俺を招く。

「失礼する」

 中に入った俺がまず感じたのは異臭。
 糞尿と生ゴミが混ざったような臭いに思わず意識が遠くなる。

「申し訳ない。部下たちもここはロクに掃除したがらなくてな」

 全然申し訳なくなさそうに入ってきた劉は部屋の電灯のスイッチを入れる。

「……!!」


 そこにいたのは酷い傷を負いながらも劣悪な環境に放置されている魔人達。
 健康な者などおらず、みな目を虚ろにしている。
 他にも体の一部が異形な形になっている者や既に息絶えた者もいた。

 あまりの光景に俺は言葉に詰まる。
 ある程度予測していた事だが、いざその光景が目の前に広がると心が激しく痛む。

「ジーク様……」

 俺のそんな心情を見抜いたのかクロムが俺の顔を心配そうにのぞき込む。
 こんなナリだが優しい奴なのだ。

「大丈夫だクロム。心配かけたな」

 俺はクロムの頭をポン、と叩くと劉に向き直り説明を求める。

「……ここは普段何をしているんだ?」
「見ればわかるだろ? 実験だよ」

 劉はさも当然といった感じで答える。
 後ろにいる連中も「何が不思議なんだ?」という顔をしている。

「仲間にならない魔人は資源だ。実験道具か魔力を供給する機械にする。常識だろ?」

 そう。
 これが現実。

 魔人を迫害しているのは魔力を持たぬ者だけではない。
 同じ魔人ですら敵対する魔人に対して非人道的行為をしているのだ。

 度し難い、本当に度し難い。

「よかった」
「ん、どうしたジーク殿?」

「これで気兼ねなく貴様らを殺せる」

 もう抑えるのも限界だ。
 この施設に入った時から俺には悲痛な叫びがずっと届いていた。

 もう、いいよな?

「灼熱魔刃《バーンエッジ》」
「へ?」

 間抜けな声をあげ宙を舞う劉の頭部。
 綺麗な曲線を描き俺の広げた手へと落ちてきた劉の頭は、驚愕と苦悶の顔で俺を見つめていた。

「な、何をする!?」

 突然の凶行に慌てふためく黒蓮教。

「決まっているだろ? 粛清だよ」

 もう俺を抑えるものは無い。



 蹂躙が、始まる。
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