正夢【BL】

水月 花音

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「紅葉さん……」



 愛しい人の名前を呼んでみる。

 それに応えてくれる可能性は、少しも存在しない。


 何故なら、俺は冴えない教師である上に、彼に嫌われているらしいからだ。

 何故嫌われているのか、検討も付かない。


 今日も可愛かったな、と廊下で見た彼を思い出して愛しい気持ちが溢れる。

 同時に悲しくなった。


 何で教師になんかなったんだろうか……

 でも、だからこそ紅葉さんに会えたのだ。


 何も変わらない日々に、嫌気が差しそうだった。









 誰かの気配に、微睡まどろみから目を覚ます。

 明日の授業の準備をして、布団に潜ったのがついさっきだ。


 教員寮はだだっ広く、最盛期に建てられたものだから、今は三分の一しか使われていない。

 静かなのが好きだから、誰も住んでいない区画に居るはずなのに……



 さっと、人の動く気配がする。

 薬草学を担当しているといっても、この学校自体がレベルの高い教師しか居ない。

 そんな所に忍んで来るとは……


 生徒が悪戯目的で来たかと当たりを付ける。

 しばらく様子を見ようとジッとしていると、近付いて来るのが分かった。

 なかなか、気配を消すのが上手い。

 俺が侵入を許している時点で、上忍ほどの実力がある。今、学校でその実力を持っているのは、五人くらいだったか。

 その中に紅葉さんも居るが、こんな何も無いところに用事なんてないはず。


 知らずため息が出そうになった。



「先生」



 ドキュンっと胸が高鳴った。

(紅葉さんだ!!!な、何でこんな所に?!!)

 憧れの人の、突然の訪問に体が硬直する。


 そっと胸に手を置かれる。



 キャーーーーー!!

 く、紅葉さん!胸に手が!!!


「先生?寝てる?」


 寝てます寝てます。

 起きると紅葉さんが帰ってしまうような気がして、必死で寝たフリをした。



 柔らかい感触がする。



 @§☆◎◆#£!??



 ちゅ、ちゅと何度も唇が触れる感触がして、天に昇る気持ちになった。

 気持ちが良すぎて、目がチカチカする。

 月明かりしかないような部屋なのに、頭の中は凄い光量に侵された。


 う……うあ。

 紅葉さん、あの…すいません。気持ち良すぎて愚息が……



「!!!!!????」



 紅葉さんの柔らかい手が、竿に触れる。


「う……」

 これは、我慢できない!




「やっぱり起きてた」


 月明かりだけでも美しい、紅葉さんが妖しく微笑む。

「な、何で……」

 いや、本当に何で!!?

 紅葉さんには浮ついた噂は無いのに、この行動はどういうことだろうか?

 いや、何でも良いです。ありがとうございます。



「先生と、えっちなことがしたいだけ」



 プシューッと頭から煙が出た。

 艶やかな赤い唇が、弧を描く。



 その唇に捕らわれて、動けなくなる。
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