正夢【BL】

水月 花音

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「今日も退屈…」




 長い手足を投げ出して、今年四年生になる朝霧紅葉あさぎりくれははため息をついた。

 睫毛は黒檀のように色濃く、緑がかった瞳をより妖しく見せている。

 色っぽい目元が好きだと、学園一のイケメンと謳われる上城先輩に告白されたが、何だか乗り気がしない。



 勉学は楽しいし、忍術の修行も人一倍やっている。

 けれど、いつも何かが足りないのだった。







「紅葉くん。今日も飛び切り美人だね」


 そう言って微笑んで来た上城は、良い男オーラを存分に発揮している。

 そんな上城を見て、紅葉は自分と同類だなと感じていた。

 いや、向こうが惚れている分こちらの方が有利か……

「ふふ、ありがとうございます。次の授業がありますので、また」

 にっこりと微笑んでかわす。

 微笑んだ後に流し目をしてやれば、大概の男は動けなくなる。

 上城でさえ、頬を上気させて紅葉に魅入っているくらいなのだから。




「紅葉~。お前何がしたいわけ?」

 上城と分かれて建物に入ると、紅葉と同じくらいの身長の少年が伸びをしながら隣に並んだ。

「何って?」

 反応から、二人はいつも一緒に行動しているのだと解る。

 紅葉に比べ、少年は驚くほど平凡だ。

「男を虜にしまくってるじゃん」

しもべは多い方が良いでしょう?」

「こわっ」

「怖くないよ。冗談だし」

 紅葉はふふ、と笑うが、その様子は妖艶で周りの視線を多分に集めていた。

「お前が言うと、本当にしか聞こえねー」

「何それ、ひどいな」

 睨むような表情を見せた紅葉に、周りが沸いた。

『か…かわいい!』

『萌えー』

 忍びの装束をまとった上級生が、廊下にたまっている。

 必要最低限の光しか入ってこない廊下で、口元を覆った黒い集団は大層気味が悪い。


「………」


「何かさ、萌えとか聞こえたんだけど……」

「聞こえたな」

「俺、男だよね」

「確かな」

「男にばっかり告白されんのは、何で?」

「それはお前、エロ神様だからだろう」

「………」

 初めて聞かされた自分の扱いに、しばし呆然とする。

 同級生、下級生、上級生問わず告白されてきたが、まさか友人にこんなことを言われるとは……

「勇二郎も……そんな風に思うの?」

 眉が下がった紅葉に、勇二郎の庇護欲が掻き立てられた。

 もう、なんというか襲ってしまいたい気持ちを抑えて、紅葉の頬を両手で掴む。

「ひょっ、ひょっひょなにふる」

「うるさい!」

 紅葉が面白い顔になったおかげで、勇二郎の気持ちは幾分か治まった。

 まだ、ドキドキする胸を押さえ、勇二郎は紅葉から距離を取る。

「ひどーい」

 涙目で勇二郎を睨む紅葉は、凶悪だ。

 友人の勇二郎でさえ、時々意識が飛んでしまうほどの色気。

 匂い立つような色香が、無意識に発せられているのだから扱いに困る。


 本人は、男に自分の色気が通じることを解っているが、普段の生活でもフェロモンが出ているとは、露ほども思っていないのであった。



「はい、君たち教室に入りなさいね」


 廊下に溜まっていた生徒たちを教室へ促しながら、冴えない男が歩いてきた。

 黒ぶち眼鏡に、ボサボサの頭。

 服装は黒装束であるのにも関わらず、色あせてみすぼらしい。

「チッ」

「五月蠅いんだよ」

 教科は薬草学。いかにも勉強が好きですと言わんばかりの容姿に、眠たい授業をするものだから生徒には評判がよろしくない。

「君たちもだよ」

 紅葉と勇二郎も促されて、教室へ足を向ける。

 その時、紅葉の表情が硬くなった。


 いつも一緒に居る勇二郎はまたかと思う。

 薬草学の教師、柚木尋高ゆずきひろたかが近づくと、紅葉は決まって何かを我慢するような硬い顔になる。

 人をあまり嫌いにならない紅葉が、どうして柚木を嫌っているのかは分からないが、何か理由があるのだろう。

 訊ねたことはあるが、上手くはぐらかされてしまった。

 言いたくないことを無理に聞き出しても仕方ない。勇二郎は、軽くため息をつくと紅葉に続いて教室に入った。
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