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第八章【旅の果て】

第百四十話 夕食会

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 や、やばい、緊張して心臓が出そうだ。急に身を硬くした俺の背中を、エリオネルがさすってくれる。

「マリヤ、大丈夫だよ。父上と母上は、優しい人たちだから」

 エリオネルの呼び方に、余計に緊張が高まった。大丈夫、大丈夫。なるようになる。

 大きな扉が、ギィィと音を立てて開いた。

 王座の間は、とても広い。壁際には、柱が何本も立っており、柱と柱の間にはシャンデリアがぶら下がっている。床は琥珀色に輝いていて、奥の数段上がった王座に、男性二人が座っていた。

 緊張しながら、二人の前まで進んでいく。頭を下げて挨拶をすると、面を上げよという言葉が聞こえてきた。

「エリオネル、良くやったな」

 そこには、エリオネルに似た渋いおじさまが居た。めちゃくちゃイケメンである。豪奢な衣装に身を包み、威厳があった。もう一人は華奢で、すごく美人だ。

「はい、父上。ありがとうございます」

「聖者殿も良く参られた」

「拝謁いたします、陛下」

「そう畏まらずともよい。家族になるのだろう」

 陛下は、優しく笑ってくれて、隣に座っている王妃さまも微笑んでくれていた。

「はい、ありがとうございます」

「エリオネル、良く頑張りましたね」

「ありがとうございます、母上」

「エリオネルから聞いてはいるが、聖者殿は本当にエリオネルとしか結婚しないのか?」

「はい。エリオネル以外と結婚するつもりはないです」

「エリオネル、解ってはいると思うが、聖者殿を繋ぎ止めておくのは大変だぞ」

「覚悟しております」

「聖者殿、名前で呼んでもいいかな?」

「はい、陛下」

 すると、陛下が王座から降りてきた。そのまま両手を取られる。

「マリヤ殿、本当にエリオネルを選んでくれてありがとう」

 こんなに歓迎してくれるとは思わなくて、涙が出てくる。そっと、二人の手を細い手が覆う。王妃さまだ。

「マリヤさん、エリオネルをよろしくね」

 そう言われた時には、もう涙がぼろぼろ出て、止まらなくなっていた。

 涙が止まった頃に、二人は席に戻って、エリオネルの王太子任命に移る。そういえば、第一王子も居るのに、第三王子のエリオネルでいいんだろうか?

 王さまと王妃さまの御前を辞して、部屋に戻り幾分かカジュアルな服装に着替えた。今から夕食会だ。

「マリヤ、兄上が居るけど大丈夫?」

「キリッシュさん?襲って来ないなら、一応大丈夫かな」

「無理そうなら、行かなくてもいいんだよ」

「ううん、大丈夫」

 そう言ったものの、不安でいっぱいだった。

 夕食会が開かれる食堂に入って行くと、コの字の奥側に王さまと王妃さま、入り口の近い方の席にキリッシュさんが座っていた。第一王子は居ないようだった。
 キリッシュさんの対面にエリオネルが座り、その隣に俺が座る。

「マリヤ殿、キリッシュが同席しても大丈夫だったかな?」

「あ、はい、大丈夫です」

「キリッシュ」

「マリヤさん、以前のご無礼お許しください」

 キリッシュさんが席を立ち、俺に向けて頭を下げた。

「許すのはちょっと」

「そうですか、出来るだけ近づかないようにします」

 キリッシュさんは言葉とは裏腹に、熱の籠った目で俺を見てくる。すると、彼はそれを振り払うかのように頭を振った。
 それを見て、何だかもう大丈夫なんじゃないかと思った。

 夕食会は何事もなく終わり、部屋に帰ってきた。ここは、俺に割り当てられた部屋なんだけど、当然のようにエリオネルが居る。

「つかれた~」

「お疲れ、マリヤ」

「ちょっと今日は元気ない」

「わかった」

 明らかにしょんぼりしたエリオネルが可笑しくて、笑ってしまった。

「着替えもお風呂もエリオネルがしてくれるならいいよ」

「する!」

 間髪入れずに元気よく答えたのも面白くて、笑いが止まらない。

 エリオネルも疲れてるだろうに、俺をお風呂まで運んで、全部洗ってくれた。お風呂を出たら香油まで塗ってくれて、全身ピカピカになる。
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