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第八章【旅の果て】

第百三十五話 あーん

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 次に来たのは、雑貨のお店だった。今度はグリードが頭に浮かんで、ゆっくり頭を振る。

「どうしたの?」

「何でもない」

「そう?」

 わかっていて、聞いてきたのだろう、少し寂しそうな横顔に胸が痛くなった。

 雑貨屋には、色んな物が置いてある。黒曜国で見た我楽多市よりは、グラム・ヘブンで見た雑貨屋の方が品揃えは近かった。
 色んな思い出が蘇る。ビオルナさんを思い出して、またグリードの顔が浮かんで、今度は胸がツキンと痛んだ。

 こうやって、エリオネルと周って思い出を塗り替えていくのもいいかもしれない。

「エリオネル?何か楽しいのあった?」

 エリオネルの視線の先を見て、訝しむ。そこは、布で目隠しされた空間で、すごく怪しかった。

「何ここ?」

「入ってみる?」

「ん?入っていいの?」

「やっぱり辞めよう」

「え、何で?入ってみたい」

「後悔しない?」

「……後悔するようなとこなの?」

 ますます怪しい。エリオネルは知っているようだった。

 バッと入って行くと、なるほど。怪しさに納得がいった。そこは薄暗くて、コスプレ衣装などが並んでいた。色んな種類のケモ耳と尻尾も売っている。
 へー、エリオネルこういうとこで買ってるんだー。
 じーっとエリオネルを見ると、彼はこちらが吃驚するほど真っ赤になった。

「で?俺に着てほしいのあるんだよね?」

 エリオネルの胸元を指でぐりぐりすると、彼はゆっくりと頷く。
 手に取ったのは、兎のケモ耳だった。カチューシャになっていて、クオリティが高い。

「いいよ」

 まあ、カチューシャつけるくらいエリオネル以外に見られるわけでもなし。

「あの、他のも買っていい?」

「エリオネルのエッチ」

 俺の前じゃ買いにくいかなと思って、出てくると、品物を山盛りに手にしたエリオネルが出てきて吃驚した。
 あー、面白っ。クスクス笑っていると、お会計終わったエリオネルが戻ってきた。服屋と同じように配達してもらうようだった。

「何でこんな所知ってるの?」

「友人に教えてもらった」

「わかった!フレッドさんでしょ!」

「うん。最初はドン引きしてたし、まさか自分が買うようになるとは思ってなかったけど……」

「フレッドさん知ったら吃驚するんじゃないの?」

「絶対言わない」

「ははっ、エリオネル面白すぎ」

 俺が大きな声で笑うと、エリオネルが相好を崩す。俺が面白がるのをわかっていて、わざと話してくれた気がした。

「ケーキでも食べに行く?」

「うん。ちょっとお腹空いた」

 カフェは煌びやかな服装の人たちばかりで、まさか高いとは思わなくて驚いた。
 あーんとかしたいけどなぁ。ま、もう来ないだろうしいっか。

「エリオネル、一口ちょうだい」

「え、マリヤ!!」

「早く」

 ほろ苦いビターのチョコレートケーキが口の中に広がる。

「はい、エリオネル、あーん」

 今度は、エリオネルに俺が食べていたフルーツタルトをフォークに乗せて差し出した。

「これは何かの試練なの?」

 顔を赤くしたエリオネルが可愛い。

「あーん」

「……ん」

 もぐもぐしてるエリオネルも可愛い。

「めちゃくちゃ恥ずかしい」

「知ってる」

「マリヤ!わかっててやったの?」

「うん。だって、エリオネルとイチャイチャしたかったんだもん」

 首を傾げて言うと、エリオネルは何も言わなくなった。恥ずかしがってるの可愛すぎるから、帰ったら覚悟しておいてほしい。

「早く帰ろ?」

 エリオネルの手に手を重ねて、ゆっくりと撫でる。指を絡めると、彼がビクリと揺れた。
 ふと、視線を感じて隣のテーブルを見ると、一部始終を見ていたのか、男性二人がこちらをぽかんと口を開けて見つめている。

「ふふ、しー」

 悪戯心が湧き上がって、笑って、口元に人差し指を充てると、二人は真っ赤になって首を縦に振った。ぐいっと、重ねた手をエリオネルの方に引っ張られる。

「落としてどうするの?」

「ごめん」

 悪戯しすぎたか。素直に謝ると、俺の手を引っ張ってエリオネルが席を立つ。

「怒った?」

「怒ってる。私のマリヤなのに」

「エリオネルのだよ?」

「ぐっ、ホント……!」

「二人になりたい」

 カフェを出たエリオネルは足早に俺をぐいぐい押しながら、宿屋まで来た。
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