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第八章【旅の果て】
第百二十九話 賢者
しおりを挟む船が出航して18日経った時、事件が起こる。それは、1枚の手紙で。
それは、ビオルナさんの訃報だった。
手紙には、シズルの村が全滅し、生存者は居ないとの記載がされていた。たまに送っていた手紙の返事だった。
息が急にできなくなり、倒れる。
近くに居たエリオネルが抱き起こしてくれた。冷たくなった手を握って、揉んでくれる。
「エリオネル、これ……」
エリオネルに手紙を渡す。彼はさっと目を通した後、もう一度よく読んで、そして首を振った。
手紙には、魔族による全滅と書かれていた。
俺が、もっと早く決心していれば、結末は変わっていたのだろうか。元々、グリードを殺すのは賢者に会ってからという話だった。賢者に会えるまで、あと8日ある。決心したとして、グリードが同意してくれなければ、意味がない。
グリードの元へ行って、尋ねてみたい。でも、どちらの答えでもビオルナさんは帰ってこない。
エリオネルとグリードの間の往復で、元気が無くなっていた俺は、もっと塞ぎ込むようになった。元気の無くなった俺を心配してか、エリオネルとはしなくなった。
そんな俺を見て、グリードはもう一緒に居てくれなくてもいいと言ったが、俺が拒否した。
残りの8日は、地獄のようだった。
「マリヤ、着いたよ」
エリオネルとグリード、ユリアーノさんと一緒に、賢者の居る塔に入った。
エリオネルに支えられる形で、塔の中に入る。塔は、森から抜けても頂上が見えなくて、すごく大きいのがわかった。小さな窓が所々にあるが、開くのかは謎である。
扉は、叩く前に勝手に開いた。一階は、沢山の本が壁一面に置かれており、薄暗い。階段を上がる壁面も本棚になっていて、所々にランプが置いてあった。
何の苦行なのだろうか。上がっても上がっても辿り着く気配がない。
休み休み階段を上がると、やっと扉が見えてきた。
部屋に入ると、椅子に帽子が座っていた。
もくもくと緑色の煙が帽子と椅子の間から上がり、少年の形になる。
「賢者様、お初にお目にかかります」
エリオネルが優雅に一礼をした。どう見ても小学生くらいの少年にしか見えないが、この人が賢者らしい。
「エリオネルだね。いいよ、顔を上げて」
薄暗かった部屋にぶわっと明かりが点く。階下と違い、そこにはポーションらしき沢山の瓶や薬草などがあった。よく分からない物も沢山置かれている。
「聖者と魔王か、久しぶりだね」
久しぶりという言葉に引っかかるが、多分聖者と魔王という肩書きの人に会うのは久しぶりだという意味だろう。
「沢山、聞きたいことがあるよね。そこへ掛けて」
人数分の椅子が、大釜を囲んで輪になっていた。何故ピッタリ5席なのか、不思議に思ったものの、促されるままに座る。
「答えられないこともあるけど、いいかな?不文律を破ることは、言えないことになってる。例えば、グリードのマリヤと一緒になれるかという問いには答えられない。わかるね?」
賢者は、グリードの目を見て言った。何故その問いが不文律を破ることになるのかはわからなかったが、グリードは納得したみたいだった。
「まず、エリオネルからいこうか。君は、自国の王になりたいが、傍らにマリヤが居なければ諦めようと思っているね」
「はい」
「安心するといい。君は次代の王になるし、二人は老衰するまでずっと一緒だよ」
エリオネルが椅子から立ち上がって、俺に抱きついてきた。
「ちょっと、エリオネル」
嬉しいのはわかるし、俺も嬉しいけど!え、待って、泣いてるの?しばらく抱きついていたエリオネルは、賢者に座るよう促されて席に戻った。
「次にユリアーノ、君には先に答えを言ってしまったね。マリヤとは一緒になれない。でも、生涯の伴侶には出会えるよ」
「わかってました。ずっと脈なしだったので」
ユリアーノさんが泣きそうな顔をして、こちらを見ると寂しそうに微笑む。それに胸がギュッとしたけど、俺にはどうすることもできなかった。
「次はグリード。大丈夫、次回の魔王復活は無い。マリヤに《永眠》を掛けてもらいなさい」
そう言うと、賢者はグリードの方へ向かって行って、耳元で何かを囁く。囁き終わると、賢者は席に戻った。
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