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第七章【鬼の国】

第百十話 紫炎

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 久しぶりの布団で、何だか不思議な感じがする。
 朝起きて微睡んでいると、エリオネルが隣でこちらを見ていた。

「おはよう」

「お、おはよ」

 キラキラしてる。

 甚平姿もイイ!はだけた襟から見える筋肉を無意識に触っていると、手で止められた。

「エッチな触り方だね?マリヤ」

「あ、ご、ごめん」

「いいんだけど、夜ね?」

 壮絶な色気に当てられて、目眩がする。分厚い胸筋に顔を埋めてしまいたかったが、夜と言われて思い止まる。
 これは、今日もすることになりそうだ。毎日はムリとか言っときながら、自分から誘ってしまったことになる。

 着替えていると、エリオネルが肩口を触ってきた。そのまま肩にキスされる。

「んっ、なに?」

「マリヤが着替えてるのが、セクシーだったから」

「夜じゃなかったの?」

「そうだね。楽しみにしてる」

 着替えは黒曜国側が用意してくれていた物を着た。エリオネルは洋顔だが、髪の毛が藍色だからか、黒曜国の服もとてもよく似合っている。
 黒曜国の服は、中国の釦のようになっていて、腰布があった。ズボンは裾に少し膨らみがあって、それ以外はストンとしている。

「エリオネル、カッコいい」

「マリヤも、綺麗だよ」

 エリオネルの服は黒を基調としていて、俺は何故か白基調だった。嘉伯くんたちの服を見ても、皆黒基調だったのに、何故俺だけ白基調なのか教えてほしい。
 朝ご飯は、エリオネルと一緒に泊まった部屋から移動して、別の部屋で食べることになった。その部屋には、アリアムさんとユリアーノさんが居た。

 畳の上にお膳が置いてあり、どう見ても和食のような雰囲気が漂っている。
 お椀を開けると、案の定白ご飯と味噌汁だった。ちょっとうるっとする。


「俺、ここに住みたい」


「マリヤ様!?何かご不満が!?」

 アリアムさんが慌てたように青ざめていた。

「違う違う!地球と同じ食べ物が出てきて嬉しかっただけです」

「マリヤの言ってた和食だもんね。味噌とか醤油買って行こうか」

「ありがとう」

 アリアムさんには、もうこちらの世界で住むことを伝えている。その喜びようといったら凄かった。泣いてたもんな。

「アリアムさん、大丈夫です。俺、ちゃんとエリオネルの側に居ますから」

「マリヤ様~!!」

「だから、あまり心配しないでいてください」

「マリヤ」

 隣に居たエリオネルが、膝の上に置いていた俺の手に、自分の手を重ねてきた。
 しばし見つめ合ってしまう。

 直ぐに我に返って、アリアムさんとユリアーノさんを見た。アリアムさんはニコニコと、ユリアーノさんはげんなりしている。それでも、俺が視線をやるとユリアーノさんはニコリと笑ってくれた。

 視線をお膳に戻して、和食に舌鼓を打つ。しばらく振りの和食は、染み渡るほど美味しかった。




 午前中に王様に会うとのことで、俺も同席することになった。王様に会うのはバルカス含めて二人目だ。
 嘉伯くんのお父さんなんだよね。どんな人なんだろう。

 エリオネルと二人で、案内してくれる人について行く。

 黒い柱に、木で模様の作られた障子が沢山ある部屋に入って行くと、奥に王様らしき人が居た。
 その左手前には、嘉伯くんが座っている。嘉伯くんを見て、ビクッとしてしまった。

 エリオネルが座ったのを真似して、彼の左に座る。できたら右側に座りたかったんだけど、左側を歩いてきてしまったので、わざわざ右側に行くのも何だかなと思ったのだ。

「良く参った、久しいな」

「お久しぶりです、陛下」

 王様はまだ若く、腰まで伸びた髪を三つ編みに結えている。その髪は黒くて、白髪も混じっていない。
 相貌は鋭く、男らしい顔付きで、嘉伯くんには似ていなかった。

「聖者殿は初めてだな、シエンと申す」

「シエン陛下、マリヤと申します。漢字を頂戴してもよろしいですか?」

 そう、黒曜国では漢字があるのだ。初めて黒曜国のことを聞いた時に、エリオネルが漢字を教えてくれた。

「紫に火炎の炎だ」

「素敵なお名前ですね」

「マリヤは何と書く?」

「毛に求めるで毬、池の右側で也です」

「毬のように美しい其方に似合いの名前だな」

「ありがとうございます」

 黒曜国にも毬ってあるんだ。本当にここは日本を思い出させる。

「して、マリヤよ。済まなかったな」

「何がでしょう?」

「魔力酔いを起こした其方に、愚息が無体を働いたそうだな」

「いえ、あの……はい」

 顔が赤くなるのを感じた。紫炎陛下にまで話がいってるんだ。大事になっちゃったな。

「償いに、一つ願いを何でも聞いてやろう」

 え、困ったな。隣のエリオネルを見るとマリヤは何か願いはないの?と言われた。願いと言われても何もない。

「あの、保留にしてもらってもいいですか?」

「わかった。願いが決まり次第教えてくれ」

「はい」
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