青い薔薇と金色の牡丹【BL】

水月 花音

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第六章【獣人の国】

第九十二話 白亜の宮殿

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 あれから1か月過ぎた。

 逃げた所で、捕まるのは目に見えていたので抵抗はしていない。扱い自体は酷くないものの、手錠をされての生活は苦でしかなかった。

 食べて寝て、移動する。話し相手もいない。気が狂いそうだった。


 周りがガヤガヤし始める。1か月囚われの身になって、ここまで周りが賑やかになったのは初めてだった。

「着きましたよ」

 黒装束だった人が、白を基調にした制服に着替えていた。制服だと思うが、お腹が見えている。

 視線を後ろにやると、白亜の宮殿がそびえ立っていた。丸く大きな天井に、周りに何本も立つ尖塔。

「すごい……」

「世界で1番美しい宮殿と誉れ高いんです」

 猫の獣人が笑う。最初に声をかけてくれた人だった。この人以外とは話していない。食事もこの人が持ってきてくれていた。

 いくら美しい宮殿を見ても、心にぽっかり穴が空いたみたいに感情が置いていかれる。

 エリオネルが居たら、きっとすごく綺麗だったんだろうな。

 宮殿内部に連れて行かれて、お風呂に入れられる。何人もの人が来て、ピカピカに磨かれた。この時、手錠を外してもらった。

「マジでこの衣装、誰の趣味」

 ベリーダンスの衣装に似てる。透けてて、ヒラヒラしている生地に心許ない思いをした。

 かしずかれて、ある部屋に連れて来られる。

 そこは、明らかに豪奢で、位の高い人の寝室だった。蝋燭が何本も立っているが、光量が少ないのか部屋自体は仄暗い。

 ベッドしかないので、仕方なくベッドに腰を降ろす。

 これって、夜伽しろってことかな。俺、聖者になったはずなのに、この扱いって酷くない?

 あれこれ考えていると、扉が開いた。

 丸い耳に長い尻尾。多分、虎の獣人だ。逆光だが、すごくガタイが良い。
 こんな人に組み敷かれたら、ひとたまりもないなと思った。

「お前が聖者か」

「……はい」

 随分と不遜な態度だ。人を拐って来させただけある。

「帰してください」

「ハッ、帰すわけなかろう」

 鼻で笑われた。そりゃ、そうですよね。

「名前はマリヤだったか」

 ベッドがギシッと軋んだ。体重も重たいらしい。
 赤い髪にワイルドな雰囲気。今まで見たことない感じのイケメンだ。

「貴方は、誰ですか?」

「バルカス・ヘールハイラ・ハルームだ」

 ハルームって……、王族ってことかな。これは詰んだかもしれない。

「俺をどうしたいんですか?」

「どうしたいと思う?」

 ドサッと押し倒された。

「どうしたくても、言いなりにはならない」

 キッと睨むとバルカスは、クックッと面白そうに笑った。

「そうでなくてはな」

 つ、と胸を触られる。

「やめろ!」

「そんな言葉遣いをするのはお前だけだ」

 え、雑な言葉遣い好きな感じ?

「やめてください」

「お前は惹きつけられるくらい綺麗だな」

 あー!貴方に綺麗だと思ってもらわなくて結構です!

 じとっとした視線を送ると、バルカスはまた面白そうに微笑んだ。
 何をしても無理そう。

「無理矢理手籠めにするのも面白そうだが、お前が自分から体を開くのはもっと面白そうだな、マリヤ」

「絶対ない」

 半眼で睨んでやると、バルカスにキスされた。

「んー!!」

 ぬる、と舌を入れられて気持ちが悪い。
 思いっきり突き飛ばすけど、バルカスは離れてくれなかった。

「最悪!!死ね!」

「ははっ、口が悪いな」

 無理矢理キスするなんて最悪。拐ったことで好感度ドン底のはずなのに、まだ下げてくるのはマジでヤバい。

「大嫌い」

「俺は好きだぞ」

「は!?」

 何言ってんだコイツ。頭が沸いてるとしか思えない。じーっと見てると、抱きしめられた。
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