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第二章【旅立ち】

第十七話 魔獣

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「フッ……」

 隣から、笑ったような音が聞こえる。

「エリオネルさん?」

「だって、ラブラド、そんな顔したの初めて……」

 はははっとエリオネルさんが笑い始める。それにつられてアリアムさんも笑って、ラブラドさんって実はあまり表情を顔に出さない人なのかな、と思った。

 エリオネルさんも貴族だって構えていたけど、優しくて、こんな風に笑ったり、普通の人なんだな。

「エリオネル様」

 ラブラドさんが少し赤くなっている。キツい見た目なのに、何だか可愛い。

 そ・し・て!俺は見逃さなかった!リチアさんが、ちょっと唇を歪ませたのを!
 あれは、絶対笑いそうになってた。

「すまない、あまりにも珍しくて。マリヤさん、リチアと仲良くしてあげてください」

「はい」

 そういえば、今はエリオネルさんの奴隷ってことになってるんだろうか?
 両手両足の枷も外れているし、従者の皆さんと何ら変わりない。

 ラブラドさんが庇ったことからも、大事にされてることがわかったし。

 この一行に加われて、心から良かったと思った。


 野営を皆さんが撤去しているうちに、ビオルナさんと二人で貰った物の確認や、携帯しておいた方がいいものなどの整理をした。
 持っていたポーションと、何枚かの着替えと学生服やローファー、スマホなどを木箱に入れる。鍵がついていて、その鍵は皆首から下げているようだ。俺もそれにならう。

 準備が終わると、ずっと気になっていた馬を見にきた。


 馬と言っても茶色ではなく、緑色で綺麗な色をしている。
 たてがみは、白色が螺旋らせん状に入っており、とても綺麗だ。

「どうかしましたか?」

 気づくと隣に居るな、この人。

「俺の国の馬は、茶色なので、綺麗だなと思って」

「触りますか?」

 エリオネルさんは、俺が触り易いように、自分が馬側に立ってくれた。

「すごい……」

 毛並みは、サラサラで、緑色が光に透けてとても綺麗だ。

 緑色の毛は真っ直ぐなのに対して、白色の毛はゆるく螺旋を描いている。
 顔やお腹周りの毛は、白色をしていて、瞳は青い。

 馬特有の筋肉などは、割りと控えめで地球の馬よりはほっそりして見えた。



 異世界の馬を堪能した俺は、エリオネルさんに促されるまま、馬車に乗った。

 馬車には、大きな背を預けられるシートがあり、机と座席があった。シートは二人くらい余裕の広さで、座席は壁側に並んでいて、四人くらいは座れそうだ。
 御者側には簡易のキッチンまである。

 さながら、キャンピングカーのような内装に驚く。

「気に入りましたか?」

「すごいですね……」

「私も馬で行きたいと言ったんですが、猛反対に合いまして……。マリヤさんと一緒だったら、この馬車にしてよかったです」

 エリオネルさんの、端正な顔に色気を感じて戸惑う。
 日本に居て、もちろんカッコいいと思う人はいたが、エリオネルさんに対する感想というか、感情は今まで感じたことがなくて困惑する。

 大きなシートの窓側を勧められて、そこに座る。

 と、エリオネルさんがさも当然のように隣に座った。

「えっ……エリオネルさん、隣……」

「エリオネル」

「エリオネルさん?」

「エリオネル」

 これは、呼び捨てにしろということだろうか?

「じゃあ、俺もマリヤで」

「わかったよ、マリヤ」

 いきなり砕けてきたエリオネルに動揺する。
 これが素なんだろうか?

 キィと軽い音を立て、馬車が出発する。
 いよいよ出発かぁ。街外れで野営をしていたからか、外に出るのは早かった。

 街の外は草原になっていて、所々木が生えている。
 壁の外には、民家や家屋は全然ない。
 道は舗装されておらず、わだちが続いているばかりである。

「家はあまりないの?」

「獣や魔獣が出るから、柵や塀に囲われていない所には、家はあまりないよ」

「魔獣?獣と何が違うの?」

「魔力を持つかどうかで違うよ。馬は風属性を基本的に持っているから、魔獣」

「馬って魔獣なの?!」

 それで、あんなに緑色なのか。人間も髪の毛の色で魔力がわかるから、動物もそうなのかも。

「マリヤの世界では、魔獣は居ないの?」

「いないよ、魔力も魔法もない」

「えっ……でも」

 サラッと、髪をすくわれる。自分の髪の毛が水色なのを思い出した。

「あ!なんか、準属性は使えるみたいなんだけど、本当に魔力があるかどうかは謎」

「そうか……」

 エリオネルは少し悩むと、こちらを向いて真面目な顔をする。

「王都の神殿で、測ってみる?」

「魔力?いいの?」

「ああ、私も気になるし、リチアの魔力も測る予定だから」

「ありがとう、楽しみにしてる」

 エリオネルは、俺に向けて何とも言えない表情をした。
 悲しそうな、本当に何とも言えない表情に俺は黙って窓の外を眺めた。
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