上 下
5 / 147
第一章【出会い】

第四話 教会での生活

しおりを挟む
「……わかりました。お連れの方が回復するまで、こちらに居てくださってかまいません」

 アイシャさんの言葉にほっとする。

「ありがとうございます」

「しばらく、この部屋を使ってください。滞在中は、できれば教会の仕事を手伝っていただけると嬉しいです」

「はい……」

 マント被ったままできるかな……
 頭だけ何かで覆うか。

「あの、何かタオルみたいな、長方形の長い布が欲しいんですが……」

「タオル……は解らないですが、お持ちしますね。着替えなども、質素な物ですがお渡しします」

「ありがとうございます。お願いします」


 しばらくしてアイシャさんが、綿素材っぽい長い布と、着替えを持って来てくれた。その時に、内鍵があることに気づき、部屋に鍵をかける。
 何だか夢に居るみたいに現実味がなくて、無意識に着替えをチェストに入れようとして、中に本が入っているのを見つけた。

「………!!」

 本の装丁そうていには、見たこともない文字が並んでいる。
 パラッと開いて、全身が総毛立った。
 今まで、アイシャさんと話していた言葉は、恐らく日本語じゃない。

 なぜ、そんな言葉を話せていたのか……

 これは、現実に酷似こくじした夢なのだろうか。そうだとしても、考えてもしょうがない。後ろ向きにベッドに倒れこむと、睡魔が襲ってきた。
 柔らかい布団の偉大さを噛み締める。

「帰りたいな…」

 自分で何と呟いたのかわからないうちに眠りに入る。走ったし、運んだし、緊張したし……
 この時、自分が大きな歯車の一部だとは一欠片も思っていなかった。


ーーーーーー


 朝起きて思ったことは、やっぱり夢じゃなかったってこと。

「まじかー~!」

 自分の部屋とは違う、簡素な部屋。
 頭を抱えていると、コンコンっと扉がノックされた。

「おはようございます。朝ごはんです」

「はい!すぐ行きます」

 着替えもしてなかったなと、慌てて服を替え、頭に布を巻く。
 髪は見えてないと思うけど、だっせー……
 食べ物の匂いを辿って、下に降りて行くと、ビックリしたようなアイシャさんと神父さまがこちらを見ていた。

「あの…?」

 髪の毛出てる!?何!?

「はっ!…すみません、見とれてしまって」

 あー、頭に巻いてるのダサいですよねー。
 神父さまは、驚いた顔などしてなかったように自然に巻物に目を落としていた。

 朝食は、小さなパンと目玉焼きだった。見たことの無い野菜のサラダもある。二人は目を閉じてお祈りっぽいことをすると、そのまま食べ始めた。

「お姉さんの具合、どうですか?」

 神父さまに聞いてみると、少し難しそうな顔になった。

「今は落ち着いていますが、まだ熱もあるので、喋れるのは3、4日後でしょう」

 そうか……、それまでここでお世話にならなきゃならないのか。

「アイシャ」

 神父さまがアイシャさんに目配せをする。

「はい!あ、お名前聞くの忘れてました!ごめんなさい、何てお呼びすれば…」

「あ、神崎 毬也です。好きに呼んでください」

「マリヤさま…?」

「いやいや!さまとかは無しで!」

「では、マリヤさんとお呼びしますね」

 アイシャさんの癒しオーラに自然と笑顔になる。

「朝食が終わったら、畑仕事があるんですけど……」

「あ、お手伝いしますね。全然解らないので、アイシャさんと一緒だと嬉しいんですが……」

「助かります!」

「マリヤさん。アイシャが買い出ししている間は、私の仕事を手伝ってもらえますか?」

「はい」

 他の人に会うのは避けたいので、有難いことこの上ない。お姉さんと会話できるまでは、不用意に出歩いたりするのはよそう。


 畑に行くと、ピンク色をした野菜とか、いろいろな葉物が植えられていた。
 地球と似通った植物が全然なくて怖い。
 アイシャさんと二人で畑仕事をしていると、子どもたちが物陰からこちらを見ているのに気がついた。

 ぜっんぜん隠れられていなくて可愛い。

「みんなー?緊張してるの?」

 天使の微笑みで子どもたちに近づいていくアイシャさん。子どもたちはアイシャさんを物陰にひっぱると、何やらこそこそ話始めた。

「何日かお手伝いをしてくれることになった、マリヤさんだよ」

 アイシャさんが子どもたちを俺の方にぐいっと押し出す。
 皆顔が赤いんだけど……
 にこっと微笑むと、蜘蛛の子を散らすように子どもたちは居なくなった。

「照れちゃったんですね…」

 と苦笑いするアイシャさんに、俺のダメージは蓄積された。


 畑仕事が終わり、お姉さんの様子を見に行くと、なるほどまだ熱があるようだった。
 アイシャさんと神父さまの手伝いをしながら、お姉さんが喋れるようになるのを待とう。

 教会での生活は、とくに厳しくもなく、子どもたちは相変わらず隠れているけど、なんとかやっていた。

 神父さまは言葉少なで、最初の驚いた顔以来、能面を貫いている。


 お姉さんが喋れるようになったのは、それからほどなくしてだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

勇者の股間触ったらエライことになった

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
勇者さんが町にやってきた。 町の人は道の両脇で壁を作って、通り過ぎる勇者さんに手を振っていた。 オレは何となく勇者さんの股間を触ってみたんだけど、なんかヤバイことになっちゃったみたい。

ようこそ異世界縁結び結婚相談所~神様が導く運命の出会い~

てんつぶ
BL
「異世界……縁結び結婚相談所?」 仕事帰りに力なく見上げたそこには、そんなおかしな看板が出ていた。 フラフラと中に入ると、そこにいた自称「神様」が俺を運命の相手がいるという異世界へと飛ばしたのだ。 銀髪のテイルと赤毛のシヴァン。 愛を司るという神様は、世界を超えた先にある運命の相手と出会わせる。 それにより神の力が高まるのだという。そして彼らの目的の先にあるものは――。 オムニバス形式で進む物語。六組のカップルと神様たちのお話です。 イラスト:imooo様 【二日に一回0時更新】 手元のデータは完結済みです。 ・・・・・・・・・・・・・・ ※以下、各CPのネタバレあらすじです ①竜人✕社畜   異世界へと飛ばされた先では奴隷商人に捕まって――? ②魔人✕学生   日本のようで日本と違う、魔物と魔人が現われるようになった世界で、平凡な「僕」がアイドルにならないと死ぬ!? ③王子・魔王✕平凡学生  召喚された先では王子サマに愛される。魔王を倒すべく王子と旅をするけれど、愛されている喜びと一緒にどこか心に穴が開いているのは何故――? 総愛されの3P。 ④獣人✕社会人 案内された世界にいたのは、ぐうたら亭主の見本のようなライオン獣人のレイ。顔が獣だけど身体は人間と同じ。気の良い町の人たちと、和風ファンタジーな世界を謳歌していると――? ⑤神様✕○○ テイルとシヴァン。この話のナビゲーターであり中心人物。

その男、有能につき……

大和撫子
BL
 俺はその日最高に落ち込んでいた。このまま死んで異世界に転生。チート能力を手に入れて最高にリア充な人生を……なんてことが現実に起こる筈もなく。奇しくもその日は俺の二十歳の誕生日だった。初めて飲む酒はヤケ酒で。簡単に酒に呑まれちまった俺はフラフラと渋谷の繁華街を彷徨い歩いた。ふと気づいたら、全く知らない路地(?)に立っていたんだ。そうだな、辺りの建物や雰囲気でいったら……ビクトリア調時代風? て、まさかなぁ。俺、さっきいつもの道を歩いていた筈だよな? どこだよ、ここ。酔いつぶれて寝ちまったのか? 「君、どうかしたのかい?」  その時、背後にフルートみたいに澄んだ柔らかい声が響いた。突然、そう話しかけてくる声に振り向いた。そこにいたのは……。  黄金の髪、真珠の肌、ピンクサファイアの唇、そして光の加減によって深紅からロイヤルブルーに変化する瞳を持った、まるで全身が宝石で出来ているような超絶美形男子だった。えーと、確か電気の光と太陽光で色が変わって見える宝石、あったような……。後で聞いたら、そんな風に光によって赤から青に変化する宝石は『ベキリーブルーガーネット』と言うらしい。何でも、翠から赤に変化するアレキサンドライトよりも非常に希少な代物だそうだ。  彼は|Radius《ラディウス》~ラテン語で「光源」の意味を持つ、|Eternal《エターナル》王家の次男らしい。何だか分からない内に彼に気に入られた俺は、エターナル王家第二王子の専属侍従として仕える事になっちまったんだ! しかもゆくゆくは執事になって欲しいんだとか。  だけど彼は第二王子。専属についている秘書を始め護衛役や美容師、マッサージ師などなど。数多く王子と密に接する男たちは沢山いる。そんな訳で、まずは見習いから、と彼らの指導のもと、仕事を覚えていく訳だけど……。皆、王子の寵愛を独占しようと日々蹴落としあって熾烈な争いは日常茶飯事だった。そんな中、得体の知れない俺が王子直々で専属侍従にする、なんていうもんだから、そいつらから様々な嫌がらせを受けたりするようになっちまって。それは日増しにエスカレートしていく。  大丈夫か? こんな「ムササビの五能」な俺……果たしてこのまま皇子の寵愛を受け続ける事が出来るんだろうか?  更には、第一王子も登場。まるで第二王子に対抗するかのように俺を引き抜こうとしてみたり、波乱の予感しかしない。どうなる? 俺?!

転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。

みみっく
ファンタジー
どうやら事故で死んでしまって、転生をしたらしい……仕事を頑張り、人間関係も上手くやっていたのにあっけなく死んでしまうなら……だったら、のんびりスローライフで過ごしたい! だけど現状は、幼馴染に巻き込まれて冒険者になる流れになってしまっている……

ヒリスの最後の願い

志子
BL
気付けば小説の中の傲慢な王の子どもに生まれ変わっていた。 どうせ主人公に殺される運命なんだ。少しぐらいわがままを言ってもいいだろ? なぁ?神様よ? BL小説/R-15/流血・暴力・性暴力・欠損表現有 誤字脱字あったらすみません。

処理中です...