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第7章:海竜の洞窟と美人漁師編

第11話:マーマンの恐怖

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 サハギンの素材を回収し、洞窟の奥へと進む。
 珍味と言われる肝を、シレイドはもちろん嬉々として剥ぎ取っていた。
「リズ、この洞窟の広さ、どれくらいか感じれるか?」
「うーん……『探査』を使った感じだと、地下や上の階は無いかも。多分、横に広いダンジョンなんだと思う。広さ的には……うーん、反響が強くて分からないなぁ」
「そうか。じゃあ、とりあえず時間内に進めるところまでを目標とするか。どのみち、疲れが溜まったら、ワープで帰れるしな」
 リズの言葉に、そう答える。

「ん……ご主人様……新しい魔物……?」
 シレイドの言葉を受け、前方を見ると、フヨフヨと浮遊するアメーバのようなものが現れる。
「あれは……魔物か?」
 鑑定を行う。

名前:ウォーターエレメント
危険度:B
説明:水に瘴気が加わり魔物化したもの。顔を包み込まれると、窒息する。
素材:『水魔石』

 俺と、キアラ、ロウナは顔を見合わせて突撃する。
「はっ!!」
 勢いよく斬りはらう……と!
 グニョン……ブルン!
 二つに分裂した!
「ご主人様……! 多分、そいつ……斬撃が効かない!」
 シレイドが後方から叫ぶ。
 なるほどな。実体のない水は斬れないか。
 ならば!!
「エルブラスト!!」
 中級風魔法を放つと、ウォーターエレメントは勢いよく弾け飛んだ。
「ふむ……槍でも分裂されるな……魔法が効くなら、これを試してみよう」
 それを見て、キアラも戦法を変える。
 槍を仕舞い、両手をウォーターエレメントに突き出す。
「精霊魔法『シルフ・アタック』!!」
 前方に無数の風の礫が飛び交う。
 一つ一つは小さい礫だが、複数個がウォーターエレメントに当たることで、弾けるように倒していく。
 倒している数は俺よりも多い。
 そして、ロウナは……。
「おらぁ!!」
 バァアアン!!
 繰り出した拳の圧で触れることなくウォーターエレメントを消滅させている。
 規格外だな。
 残るエレメントはセーラの光魔法が射抜いて、倒した。
「なるほど。なかなか面倒な敵だな」
「斬撃が効かないとなると、あたしの矢や、シレイドちゃんの投げナイフも効かなそうだしねー」
「だろうな、下手すれば分裂して数が増えるかもしれない……それに、水魔法を撃ってきたぞ、あいつ」
 俺の言葉にリズとキアラが応える。
 実体がない分、顔なんかに纏わりつかれたら引き剝がせなくて窒息するってことか。
 なかなか、えげつない魔物だ。
 不覚を取らないように気を付けなければ。

 また少し進むと、大きめの水場がある空間に出る。
「わー、綺麗だね」
「うむ、洞窟内の青色と合わさって、透明な水が綺麗に色づいている」
 リズとキアラが感激している。
 だが、何か奇妙さを感じる。
 ダンジョン内だというのに静かすぎるのだ。
 この空間には、魔物が見当たらない。
 かといって、他の場所に比べて瘴気が薄いわけでもない。
「みんな、何か変だ。気を抜かないでくれ」
「ん……気配を感じる……シレイドが確かめる……」
「大丈夫か?」
「ん……大丈夫」
 俺の心配をよそに、シレイドが率先して水場に近づく。
 その後ろでいつでも対応できるように俺たちは態勢を整える。
 シレイドが水場を覗き込んだ瞬間——!!
「ギャバオオオオ!!」
 全身青い鱗を持つ、半魚人のような化け物が飛び出してくる!
「シレイド!!」
「ん……!! 大丈夫……!!」
 半魚人がシレイドの足を掴もうとするが、シレイドは素早く避けて後方に跳ぶ。
 水場から離れると、不気味な半魚人たちは次々と水場から陸へと上がってくる。
 おそらく、水場に近づく冒険者の足を掴んで、水中へ引きずり込む算段だったのだろう。
 陸に上がった半魚人は、作戦が失敗して立腹しているらしく、こちらを激しく威嚇している。
 鑑定を行う。

名前:マーマン
危険度:B+
説明:普段水中に潜んでいる上半身が人、下半身が魚の魔物。鋭い爪と狡猾な知能で冒険者を襲う。群れで行動しており、囲まれると危険。
素材:『マーマンの鱗』
レア素材:『マーマンの毒ヒレ』

「やっぱり、魔物がいたのね……」
「ご主人様、いつも通りやっちまおうぜ……!」
 セーラとロウナが構える。
「よし、前衛は突撃。後衛は援護を頼む! 数が多い、油断するな!」
 俺の言葉にみんなは首肯し、動いていく。
「はああああっ!!」
「おらああああっ!!」
 キアラとロウナは早速、複数のマーマンを相手取り接近戦を始める。
 当然、俺もだ。
 幸い、攻撃は通るものの、鋭い爪で剣を上手く受けられたりする。
 なかなかやるな。さすがは危険度B+か。
 俺は、剣をわざと受け止めさせて、もう一方の手でエルウインドなどの魔法を叩きこんで屠っていく。
 時折、後ろから、矢や投げナイフ、光魔法が飛んできて援護してくれるので、キツイということは無い。
 キアラもロウナも、援護のお陰もあり問題なく戦えているようだ。
 そうして、五分もかからないうちに、陸に上がったマーマンは一匹残らず倒した。
「ふう……倒せたな」
「だいぶ、数が多かったけどな」
 俺の言葉にロウナが応える。
「エネミーカウン……」
 リズが、残敵がいないか最終確認を行おうとした瞬間——!!
 ザバアアアン!!
 後方の小さな水たまりからマーマンが飛び出してきた!!
「まだいたのか!?」
 キアラが叫ぶのとほぼ同時に、リズの足を掴んで水の中に引きずり込んでしまう。
「きゃあっ!? た、たすけ……ぶぐぶぐぶぐ……」
「リズ!!」
 俺は、気付けば無意識に水中に飛び込んでいた。
 彼女の危機に身体が反応したようだ。
 マーマンに引きずり込まれ、必死にもがくリズ。
 どうする……。
 水中じゃあ、剣は振れない。
 とすると……。
『エルウインド!!』
 俺は必死に魔法を放っていた。
 V字型の風の斬撃がリズを引っ張るマーマンの手を両断する。
「ギャババババ!?」
 俺は、マーマンが慌てている隙に、リズを抱きかかえて水場から上がる。
「くはっ!! げほっ!! げほっ!!」
 リズが激しく咳き込み、水を吐き出す。
 俺も乱れる呼吸を必死に整える。
「良かった……本当に……! 助けられて……!!」
 あのままリズが引き込まれていたと思うとぞっとする。
「リズ!!」
「すぐに治療します!」
 キアラとセーラがリズの介護を行う。
「ん……大丈夫……!? ご主人様……!!」
「ああ……なんとかな」
 シレイドが駆け寄ってくる。
「まだ残党がいるかもしれない……ちょっと、追い打ちをかけといた方が良いな……『ギガントインパクト』!!」
 ロウナは水場に近づき、水中に向かい衝撃波を放った。
 すると、ぷかりぷかりと斃れたマーマンが複数体浮かんでくる。
 まだ、こんなに潜んでいたのか。

 しばらく休み、ようやくリズが落ち着いてきた。
「リズ、大丈夫か?」
「うん、怖かったぁ……ありがと、レオぉ」
 リズがしがみついてくる。
 俺はその細い身体をそっと抱きしめる。
「それと……ごめん……クロスボウ……落としちゃったぁ」
 めそめそと泣き出してしまうリズ。
 なるほど、引きずり込まれたときにクロスボウを手放してしまったのか。
「大丈夫だ。武器ならまた作ってもらえばいい。リズの方が全然大事だ」
 俺は、彼女を慰めるように頭を撫でてやる。
「レオ様、今日はこの辺りで帰りましょう?」
「リズの武器のことも考えないといけないしな」
 セーラとキアラが提案してくる。
「ああ、そうするか。冒険はいつでもできるしな」
 急ぐわけでもない。
「ご主人様……マーマン全部、剥ぎ取った……」
「憎きマーマン共、残らず素材にしてやったぜ」
 いつの間にか、シレイドとロウナが剥ぎ取り作業をやってくれていた。
 優秀な仲間に恵まれた幸運を感じつつ、冒険を切り上げポートルートに帰るのだった。
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