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第6章:灼炎の祠と銀狼獣人編

第16話:女神との交信・オルガ編

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 翌朝——。
 チュンチュンチュン……。
「スカー……スカー……スカー……」
 俺の隣にはバンザイ姿で眠るオルガがいる。
『いやー……『また』お姉さんに食べられちゃいましたね♪ レオさん♪』
 いつも通り、女神様が話しかけてくる。
「もはや、言い返す気にもならないよ。この世界の女性はみんな逞しいな……。にしても、貴族といい魔導士といい、悪人が多くないか?」
 頭を掻く俺に、メルヴィーナは続ける。
『悪い人間というのはどこにでもいますからねー。魔法や権力なんかの過剰な力を得た人間は悪い方に流されやすいんですよ。レオさんの元居た世界では過剰な力も限度がありましたが、アルティナでは求めようと思えばいくらでも力が得られちゃいますしね』
「その言い分だと、力を得やすい俺みたいな『異界人』は悪いやつになりやすいのか?」
『前にも少し言いましたが、そういう人も確かにいますね。でも、転生させる時にある程度選別はするのですよ? この人なら正しい道を歩んでくれるだろうって』
「なるほどな。まあ、人は時間が経つと変わるしな」
『そういうことですね』
 しみじみとした空気が流れる中、俺は切り出した。
「そうだ。この世界の悪人たちの間に『邪竜』や『魔王』なんかを信仰する風潮があるみたいだが、それって何なんだ? 最近、その手の輩に出会うことが多くてな」
「あー、それですかー……」
 俺の言葉に女神は呆れ気味に答える。
『いわゆる『魔物信仰』の果ての姿ですよ。私たち神が作った世界に何かしらの穢れが生じることで絶対悪である『魔物』が生まれる。その『魔物』が巨大な力を持てば『魔王』になり、さらに大きな力を持てば『邪竜』や『邪神』と呼ばれる存在になる。そんな魔物の王様たちを偉いと信じ込んじゃう風潮ですね』
「なるほど……じゃあ『邪神』とかは、メルヴィーナのような女神たちとは全然関係のない存在ということなんだな」
『ええ……広く言えば、それらは私たちの創造物です。でも、目に見えないものより、見えるものを信じ込んじゃうのが人間です。少なくとも『魔王』や『邪竜』『邪神』は実体がありますからね。信仰対象になりやすいのでしょう。宗教というよりは、一種の文化といった方が正しいかもしれません』
「ふーむ、なるほど……」
 なかなか深い話のようで、なんだか、しんみりしてしまった。
 少なくとも、俺がいた地球の宗教とはかなり違うみたいだ。
『ところで、随分と魔獣の森に苦戦されていたようですね』
「見ていたのか……正直、日に日に敵の強さを感じるようになってはきている。仲間の補充や、ジョブチェンジなど手は尽くしているんだがな」
 ばつの悪そうな俺の声を聴いて、女神が「うーん」と少し考えて言う。
『やはり、戦いの際に切れる手札が少ない気がしますね。前に話した技術書や、新しい魔導書なんかを得て新しいスキルを増やすべきだと思います』
「そうか……でも、高いんだよな。宿暮らしから脱出したいから、お金はなるべく貯めるようにしていたんだけど」
『レオさん……金は天下の回り物! ですよ! そして、命あっての物種です! 家を手に入れる前に死んじゃったら意味ないじゃないですか』
 至極、もっともだ。
 だが、早く家を手に入れて落ち着きたい気持ちも大きい。
 最悪借家でも構わないのだが、今は購入を念頭に置いているため資金の流出はなるべくしたくないのが本音だ。
 うんうんと唸る俺を見かねたようにメルヴィーナが言う。
『そんなに値段が気になるなら古本屋に行けばいいじゃないですか』
 ……古本屋?
「ま、待て待て。古本屋なんてあるのか?」
『ええ。技術書や魔導書は、複数回読んだら魔力が尽きて何も書かれてない本になっちゃいますけど、それまでは複数人が読めます。その為、まだ読めるけど不要になったものは売りに出されるのですよ。そういう技術書や魔導書を売っているのが『古本屋』です』
「そんな場所があるなんて知らなかった……」
『そりゃあ、ある程度大きな街にしかないですからね。それに少々特殊というか……まあ、行ってみればわかります。ルクシアでは知られてないと思いますけど、エルゼリアにはあるはずですよ?』
「そうか、分かった。早速行ってみるよ」
 冒険者にとって、単純な戦闘能力の弱さは死活問題だ。
 メルヴィーナの言う通り、志を達成する前に魔物に殺されたら元も子もない。
 俺は、とりあえず古本屋とやらにも顔を出すことを決める。
「よし、とりあえずルクシアの奴隷商館で前衛の確保、その後、エルゼリアの古本屋でパーティの魔法やスキルを習得、そして、いよいよ『灼炎の祠』攻略だな」
『うんうん。道筋がちゃんと見えたようですね♪』
「ああ。ありがとう、メルヴィーナ。古本屋の存在を知らなければこの先の冒険で全滅していたかもしれない」
『いえいえ、私にはこのくらいしかできないですからね。転生者がなるべく危険にさらされないようにガイドするくらいしか……』
「それで充分だ。自分の道は自分で切り開くものだからな。神も仏も手助けくらいはしてくれるかもしれんが、歩みを進めるのは本人だ」
 弱気になるメルヴィーナに本音をぶつけると、彼女は感嘆に似たため息をつく。
 そして、すぐに可愛らしい笑い声をあげる。
『ふふふ、確かにそうですね。……頑張ってください、レオさん。期待しています』
「ああ。頑張るよ」
『はい♪ おっと。それでは、隣の彼女さんが起きそうなので、この辺で。ハブアナイスライフ』
 女神の声が消えていく。

 それと同時に、隣で寝ていたオルガがもぞもぞと動き出す。
「ん……あれ? ここ、どこ……? っていうか、頭痛っ……!? って……ひゃっひいぃっ!? れ、レオオオッ!?」
 起き上がり際に俺を見つけて、素っ頓狂な声を上げるオルガ。
「な、なななな、なんで一緒に寝てるんだ……あ、あああああっ!! 昨日、あたし、酔いつぶれて……ぎゃああ、なんてことをぉぉ!?」
「お、おう、おはようオルガ。とりあえず、落ち着こう……な」
 あたふたと喚き散らす彼女を何とかなだめる。
 そして、五分後——。
 服を着て、ベッドの上で互いに正座して向き直る。
「こ、コホン……き、昨日はあたしが酔い過ぎて、大変失礼しました」
 土下座してくるオルガ。
「いやいや、気にしないでくれ。ああいうことも結構あるものなんじゃないか?」
「そ、そう言ってもらえると助かる……。はぁぁ……あたしはなんてことを……」
 俺の言葉にオルガは深くため息を吐く。
 そして、キッと俺を見つめて言う。
「そ、その、昨日の夜のことは忘れよう。れ、レオも、あたしなんて嫌だろ? こんな、ダメ男に引っかかった挙句、慰められて襲っちまう女なんて……」
「……いや、忘れられない。それに嫌じゃない」
「え、えっ?」
 俺の言葉に戸惑うオルガ。
「俺は、半端な気持ちで女の子とああいうことはしない。一緒になると決めたなら、責任をちゃんと持つと決めている。オルガがどうしても俺のことが嫌だというなら身を引くが、そうじゃないなら、順番は逆になってしまったが俺の彼女になってほしい。ダメか?」
「レオ……」
 俺の言葉に、目を丸くして見開くオルガ。
 そして、俺の手をとってギュッと両手で握ってくる。
「だ、ダメじゃない……そ、その、こんなバカな女でよかったら……よろしくお願いします……」
 顔を真っ赤にして視線を逸らしながら、告白を了承してくれた。
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